ドラゴンが最強だなんて誰が言った?

文月 蓮

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第三部

地上へ

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 よかった。
 私がドラゴンでも、みんなの態度はほとんど変わらない。
 そのことにどれほど私が安心したのか、きっとみんなにはわからないだろう。
 これでみんなに秘密にしていることもなくなったし、身体はともかく気分はすっきりとしている。
 ヴィートからの視線が若干熱すぎる気もするけど、気のせいだよね。きっと。ウン。
 クラウディオとヴィートが死骸に近づいて、灰の山を掻き分けている。
 すでに千切れていたためにドラゴンブレスを免れた地長竜ファフニールの前足を、ルフィが回収していた。
 やっぱり討伐がおわったらお宝チェックだよね。
 私は千切れてしまった腰の物入れと背負っていた物入れを拾った。中の荷物は無事だったのは幸いだけれど、これも新しく買いなおさないと……。とほほ。
 私は黙ってみんなの作業を眺めていた。手伝おうと思ったけれど、魔力切れでフラフラなのだ。
 それにしても、なかなか魔石が見つからない。
 素材の回収を終えたルフィも、魔石の捜索に加わった。

「あったー!」

 ルフィが赤々と輝く手のひらほどの大きさの魔石を高く掲げている。
 さすがに迷宮の主のものだけあって、これまで見たこともないほどの大きさと輝きだ。
 ヴィートがひゅうと口笛を吹いた。

「残ったのは、前足とこれだけかぁ……」
「だが、それも命あってこそのことだ。それに、この魔石なら十分対価としてふさわしいだろう」

 不満げなルフィをヴィートがたしなめる。

「これで、大発生も治まったはずなんだよね?」

 手をはたき、灰を落としていたクラウディオに尋ねる。

「ああ。それを、確認する、ためにも、一旦、地上へ、戻ろう」
「そうだな。通例なら向こうに転送陣テレポーターがあるはずだ」

 ヴィートが地長竜ファフニールの背後に隠れていた通路を指した。

「お! 先に行くぞ!」

 迷宮の主がいなくなったおかげで、この層で魔物が発生することがないと知ったルフィは、いそいそと先陣を切って走る。

「待ってよ~!」

 ルフィだって魔力切れで身体がつらいはずなのに、元気に走っている姿を見ると、うらやましくなる。
 こっちはまだフラフラなんですけど……。
 私はルフィのあとに続いて、よろよろと転送陣テレポーターに向かう。

「ルチア、具合が、悪いのか?」

 クラウディオが私の頭をわしゃわしゃと撫でた。

「ただの魔力切れ。休めばなおるよ……」

 基本的に魔力の回復手段は休むことしかない。
 魔力の回復薬は一個しか購入しなかったし、それも使い切ってしまった。

「俺が、運んで、やろうか?」

 クラウディオが腕を差し出してくる。
 確かにクラウディオのような大きな体躯なら、私なんて軽いものだろう。だが、さすがに抱きあげられるのは遠慮したい。
 私は首を横に振った。

「では、私が負ぶってやろう」

 ヴィートがしゃがみこみ、私に背中を向けた。
 抱っこされるのとおんぶではどちらがましかと問われれば、おんぶと答えるほかない。
 疲れていた私は、考えるのも面倒になってきて、無言でヴィートの背中にのしかかった。

「しっかりつかまっているのだぞ?」
「うん……」

 膝の後ろに手を回して身体を固定すると、ヴィートは立ち上がった。
 私は彼の背中に頬をつけ、完全に寄りかかる体勢をとった。
 先に行ってしまったルフィを追って、私を背負ったヴィート、その後ろにクラウディオが続く。
 ゆらゆらと背中に揺られていると、だんだん眠くなってきた。

「ルチア。お前は竜人りゅうじんではなく、本当に、ドラゴンだったのだな……」

 ヴィートの低い声が背中を通して響いてくる。

「そうだよ~」
「お前が人の姿を取っているのは、やはりドラゴンハンターの目を欺くためなのか?」

 さすがドラゴン好きフェチ。よく知っていらっしゃる。

「まあね、……それに、大きな身体で人間の前に現れたら、みんなびっくりしちゃうでしょ?」

 明らかにサイズが違いすぎて、不便なこと間違いなしだ。
 森人しんじんの街のように、ドラゴンが来ることを想定しているところならともかく、すべてが人間サイズの街ではお店にも入れない。
 くくく、とヴィートの笑う声が背中越しに聞こえた。

「ルチア……」

 クラウディオの声に顔を上げると、後ろを歩いていたはずの彼がすぐ隣にいた。ぽんぽんといつものように頭を撫でてくれる。

「……その、お前が、ドラゴンでも、俺の、弟子だ」

 私がドラゴンであろうが、竜人りゅうじんであろうが、クラウディオの態度は変わらない。おそらくクラウディオはそう言いたいのだろう。
 彼の不器用な優しさに、胸の辺りが暖かくなる。

「うん……。そうだね」

 胸が詰まって、なにを言えばいいのかよくわからない。
 私はヴィートの背中に顔をうずめた。

「おーい、早く来いよ!」
「ああ、転送陣テレポーターだな」

 ヴィートの声に顔を上げて、ルフィが手を振っているほうに視線を向ける。
 地面の上に直径五メートルほどのきれいな円が淡く光を放っている。
 円の中には、さらにいくつもの小さな円が描かれていて、複雑怪奇な模様を成していた。
 ヴィートは私を背負ったまま、何のためらいもなく円の中に足を踏み込む。クラウディオも円の中心に立ったところで、ルフィが持っていた地長竜ファフニールの魔石を円の中心あたりに押し付ける。
 とたんに、淡い光を放っていた転送陣テレポーターから、光があふれた。
 目を開けていられないほどのまぶしさに、私は目を閉じる。
 ふわんと宙に浮いたような感覚が一瞬だけした。
 目を開けると、きらきらとした光の残滓が空気に溶けるように消えていく。
 なんとなく見覚えのある景色が目に入る。
 迷宮に入って最初の空間だったような気がする。

「はぁ……。死ぬかと思ったぜ」
「さっさと、出よう」

 大きな息を吐くルフィの背中をクラウディオが軽くたたいた。

「おう」

 私はヴィートに背負われたまま、地上へ続く階段を上る。
 入り口がどんどん近づいてくる。
 ずっと迷宮の中にいたから気付かなかったけど、どうやら地上はもう夜もずいぶんと更けているようだ。
 たいまつを掲げた人影がいくつも見える。
 ああ、本当に帰ってきたんだ。
 私はヴィートの背で揺られながら、うとうとと襲ってくる眠気と必死に戦う。
 私の長い長い一日が、ようやく終わりを告げようとしていた。
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