山蛭様といっしょ。

ちづ

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 合間山あいまやま骸峠むくろとうげには山蛭様やまひるさまがおわします。

 旅人は近隣の集落で必ず忠告される。骸峠にだけは行くなと。その峠を通ると血を抜かれるという言い伝えがある。シカやイノシシ、忠告を聞かなかった旅の行商人がたびたびそういう目にあって、すっかり誰も近寄らなくなった。

 これ幸いと、今日もかじかはごんごろと亡骸を並べて、ぜえぜえと息をつく。どうして死んだ人間はこうも重いのか。

 三日前の骸は半分ほど吸血されていた。身体の右半分が枯れ木のように骨と皮だけになっている。狼や熊が死体を食い散らかした場合はこうはならない。だから、やっぱり山蛭様はいるのだと思う。どうでもいいことだけれど。血抜きされた亡骸は腐敗臭がしない。獣に荒らされると、ただ土に返すのも難しくなる。いちいち埋める体力などないかじかには願ってもないこと。

 今日の亡骸は年若い娘。自分と同じ年の頃だったが、痩せっぽちのかじかと違ってふくよかな娘だった。生きていれば羨ましい肉付きだが、死んでしまえばただの肉。重くて適わない。峠にある大木のイチョウの下に並べて、ほっと息をつく。どん、と幹を蹴っ飛ばし、落ちてきた枯れ葉で亡骸を隠す。早く早く、消えてなくなりますように。祈るような気持ちだった。

「あのう、申し……」

 いきなり声がして、振り向いた。黄昏時の中、ぼんやり光る人影がいた。かじかは胸元から錆びた短刀を握りしめた。落ち延びた野武士か行商人か、どちらにしろ面倒だ。

 けれど、すぐにその異様さに手を止めた。

 つやつやとした貴族のような長い黒髪、立派な着物、まあるい瞳。薄い唇。日焼けを知らない肌。男か女か分からない中性的な顔は、一見すれば、どこぞの姫様か貴公子様か、見惚れるばかりの風体だった。 

 ……その口元が真っ赤な鮮血で濡れていなければ。その細い手が三日前のちぎれた男の腕を大事に抱えていなければ。

 怯えのあまり、声が出ない。山蛭様やまひるさま山蛭様やまひるさま。頭の中で、言い伝えの異形の名が響く。腰を抜かした鰍に、その異形は近づいた。足元がぬるり、と妙な液体に濡れている。

 真っ赤な口元は緩やかに開かれて、

「すみません。もうおなかがいっぱいなのですが」

 信じられないくらい、情けない声を出した。
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