山蛭様といっしょ。

ちづ

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 あくる日。

 今日も今日とて肉肉肉。
 多いです! と文句を言いつつも山蛭様やまひるさまはちゅうちゅう吸う。かじかはやることもないので、隣でその様子を眺めていた。肝や心臓などはおろしたてのほうが美味らしい。特に若い女の心臓は絶品らしく、満腹でもかじりついていた。滴り落ちる血をごくごく飲み下し、ぺろりと、長い舌が唇を舐める。恍惚した姿は色気があるほど。ざくろのように色鮮やか。

「あ、いけません私ばかり。鰍も一緒に食べますか? 美味しいですよ」
「山蛭様といっしょにしないでよ。食べないよ」

 鰍の言った言葉に山蛭様は、ぱちぱちと大きな目を瞬かせた。

「──ああ、そうか。そうですね。人間が人間を食べるのは非常識ですね。失礼しました」

 謎の気遣いを見せて、うーんなにかいるかな? と、山蛭様は草むらに手を伸ばした。素早い手さばきでなにかを捕らえる。その手には生きた鼠がわたわたと蠢いていた。

「鼠がいました。食べますか?」
「……いらない」

 がっくし。そうしょんぼり山蛭様は肩を下げた。鰍はおかしくなってしまう。気にかけてもらえるのは、単純に嬉しかった。

「山蛭様は本当にあやかしなの? 神様じゃなくて?」

 きょとん、と山蛭様は首を傾げた。

「それはないでしょう。だって、血を吸いますから」

 何が違うのか、鰍は首を傾げる。

「清浄な神々は絶対に血なんて吸いません。性質上、うっかり人間を殺すこともありますが、それは嵐や洪水が人間の命を奪うも同じ。あのひとたちは、命を言祝ことほぐのが本質なので」

 でも、あやかしは違います、と山蛭様は鼠の尻尾を掴み、ぷらぷら遊ばせていた。

「まごうことなき、血を吸う行為は、その生命に直接手を下すもの。だから、やっぱり私の本質は妖しい者。あやかしなのです」

 ふぅん、と鰍は興味もなく頷いた。血と死に触れないですむなんて、ずいぶん高潔で贅沢な生活をしているに違いない。命が生まれるのなら、血も死も同様に、人間は内包している。

「命を言祝ぐくせに、死や血は汚いから、怖いから、目をそらすんだ。見たくないものを、誰かが目に入らないようにしてくれてるだけじゃない」

 今の鰍が行っていることのように。隠したり、見えなくしたところで、勝手に消えてなくなったりなんかしないのに。神様も村人も大差はない。目をそらす神様より、手を貸してくれるあやかしのほうが、ずっと好ましい。

「でも、山蛭様はあやかしのくせに怖くないね」
「ひ、ひどいですよー」
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