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 エントランスから外に出た駐車場で、髪を金髪に染めたスーツ姿の男性が車にもたれている。ふと見た事がある人だなと思うと、隣人であった。
「大丈夫ですか?」
 
 肩を軽く叩き、反応を見る。
 もし病気の類なら危険なので、本当に軽くと言った程度である。

「ゔっ~~ だいじょうぶだ」
 
 男性の体からアルコールの匂いが夕の鼻を刺激する。

「酔っ払いなのか…… 社会人は大変だな。起きなさそうだし、このまま放置しておくのも危ないよな」
 
 少し考え、夕は泥酔している男性を背中に担ぐと、そのままマンションの中に戻り、男性の部屋のインターホンを押す。
 しばらく鳴らしても誰も出てこない事に頭を悩ます。
 4月と言え朝方は冷え込み、外に放置しておくのも申し訳ないと思い夕は自分の部屋に男性を連れ込みベッドに寝かす。
 冷蔵庫から水のペットボトルをテーブルに置き、飲んでくださいと書置きを残す。
 もちろん晶が来る可能性を考え晶用の書置きも残して部屋を出る。
 
 再びマンションから出た夕は日課であるランニングを開始する。
 男性を運んだ事もそうだが、この体になり、成人男性を持ってもあまり重く感じる事が無い。
 ランニングをしていても、ずっと走れるのではないかと思うほど体力が付いている。
 朝日が昇り、早朝ゴミ出しをする主婦や、仕事に向かうサラリーマンが家を出る時間帯に夕は自分の部屋に戻って来る。
 泥酔していた隣人は目を覚めたのかと思いながら部屋を開けると、部屋の中から香ばしい匂いが漂う。
 晶が朝ご飯を作りに来ている。
 
 部屋の中に入ると、台所で朝食を作り終えた晶が、おかえりと言ってくる。

「ただいま~」
  
 軽く汗を掻いた夕は顔や髪を拭きながらリビングに向かうと、泥酔をしていた男性がテレビを見ながら座っていた。

「お酒はぬけました?」
「浅井さんだっけ? 本当に申し訳ない。飲みすぎたと言え、女性に迷惑をかけてしまった」

 夕の方に向くと胡坐をかいている状態で両手を足の皿に乗せて深々と頭を下げる。
 堂々とした雰囲気に少しかっこいいなと思ってしまう夕であった。

「大丈夫ですよ。困った時はお互い様です」
「そう言って貰えると助かります。このお礼は後日致しますので、今日はこの辺で失礼させて頂きます」
 
 部屋を出る時もう一度頭を下げ、夕と晶にお礼を言って自分の部屋に戻っていく。

「社会人って大変だな」
「あの人みたいなのは稀じゃない? まぁ私のお父さんは玄関で良く寝ていたけど……」
「そっか~ まぁ無事で何よりという事で、少しシャワーを浴びてくる」
 
 シャワーを浴び終えた夕は外行きの服に着替え、晶の料理を頬張る。

「今日は何をする?」
 
 何をするか暫く考え始めると、何かを閃きポンっと手の平を叩く。

「そうだな。あっ、委員長の家に遊びに行こう!」
「綾子の家を夕は知っているの? 連絡先なんて、私知らないよ?」
「あぁ、それなら大丈夫だ。ランニングをしている最中にたまたま見つけたから」
「それって、連絡しないで家に遊びに行くって事だよね。迷惑じゃない?」
「大丈夫、大丈夫委員長ならきっと怒らないよ」
 
 そういう問題では無いと思うが、すでに遊ぶに行く気になっている夕を止める事は出来ない。
 心の中で委員長に謝る晶であった。
 
 その頃、伊藤家の一室。
 パソコンでゲームの配信をしている綾子はリスナーと楽しく会話をしながらゲームをプレイしている。
 配信ゲームはマイナーと言う訳では無いが、大戦時代に活躍をしていた船が登場するゲームであり、バトルシップと言われるタイトルで、プレイヤー対プレイヤーに分かれて対戦するものである。
 当時の能力や再現度が高く、多くのマニアを魅了する品物である。
 そのマニアの一人でもある。

「と言う訳で本日はランク戦をします。今日でまで准将に上がれるように頑張ります」
 
 ランクと言うのは自分の強さを表すモノであり、兵曹から元帥までの称号があり、
 綾子は大佐の称号持ちで、もう少し勝てば准将に上がれる。
 ちなみに綾子の言っている将官と言うのは対戦するレベル帯の事を意味する。
 兵卒が一番低く、初心者対であり、下級士官、上級士官、将官と別れている。

「初戦は日本の軍艦である長門を操作していこうと思います」
『がんばれ!』
『応援しているよ』 
「リスナーさんの応援にこたえる様に頑張っていきますね!」
 
 カウントダウンが0になると、味方と敵は一斉に船を操作する。
 最初は敵の位置がわからないので、小回りの利く、駆逐艦や空母の戦闘機を使い索敵する。
 味方と敵の戦闘機が開戦開幕で空戦をはじめ、次々に双方の戦闘機が落とされる。
 敵機を確認すると、いたる場所から砲撃が始まる。
 開戦である。
 『委員長! 敵機から魚雷が発射されました!』
『委員長! 前方から砲撃が飛んできます!』
「委員長、委員長って言うなぁ! 私は綾だ!」
 
 夕が委員長と言った配信以降はリスナーからも委員長と言う名前が浸透し始めて、今では委員長と言われ始めている。
 呼ばれるのが嫌いでは無いが、なぜか言い方にムカッとしてしまうのだ。
 まぁ、面白半分に使われる事が嫌なのだろう。
 そんなやり取りで、集中を崩した綾子は魚雷と砲撃の餌食になる。

「あぁあぁぁ! うぐっ」
『委員長! 左舷に魚雷被弾! バラストに海水が入り浸水し始めました! 角度維持の為に右舷のバラストに海水を張り艦の平衡を保ちます!』
『委員長! さらに砲撃の被弾で、機関室に海水が入り込み、出力が出ません!』
 
リスナーによる被害報告を目に絶望する綾子であった。
 開戦早々、出力が出なくなった船は敵の砲撃を浴び始める。
 戦艦故に耐久力があり、ある程度は耐えれるが、的になれば結果は変わらない。
 必死にカチカチと船を動かそうとする綾子の姿は一部始終リスナーに見られており、ドンマイなどと言った慰めの言葉が流れ始める。

「まだ終わってないわよ!」
 
 と言う言葉を最後に綾子が操作している長門は轟沈する。

「うっ……」
『委員長は長門と一緒に運命を共に……』 
『生き残っている同胞よ。健闘を祈る!』
「次こそは!」
 余程悔しかったのか、薄っすら涙目を浮かべている。
 
 次の試合に参加しようとした時に、外から聞き覚えのある声が聞こえ始める。

「委員長! あそびましょう!」
 
 小学生以来である家の外で名前を呼ばれる事などは。

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