【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る

伊瀬カイト

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第72話 異変

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「俺はそろそろ帰るとする。後はよろしく頼んだよ」

 明日には帰れると息子からの連絡があった、と聞いて、俺は後の事をヘルプの坊主に任せて、山へと帰る事にした。
 時間は閉門後の午後六時半。
 寺で息子を待ってドッキリに掛けるのも悪くはないが、久しぶりに真面目に働いて、少し疲れちまったからな。

 俺みたいな人気者になると、戻ってきた事が一瞬で広まって、色んな人らが会いに来るんだよ。
 寺に帰って来て、たったの三日間だったが、爺さん婆さんに若いお姉ちゃんと、喋り過ぎて喉が痛い。
 本当に、引退した身でよく頑張ったぜ。

 因みに、息子は俺が病気になって療養してるって設定にしてるから、これから俺はまた具合が悪くなって療養するって話になる。
 さっさと帰って療養しよう。

『顔色が悪いが、大丈夫か?』

「大丈夫だよ。少し疲れただけだろう。
 帰って風呂に入って、酒飲んでゆっくり寝れば、すぐに元通りだ。」

『それならば良いがな』

 化け狐が心配そうにしているが、別に何処かが痛いって訳じゃない。
 ただ少しばかり、体が重たい気がするだけだ。

 境内で走り回っている五子とポチを連れて車に乗り、山へと向かう。
 買い物は、昨日一昨日で済ませておいたので、スーパーに寄る必要も無い。

 爺にベンツの鍵を返して、、、いや、貸して、だな?
 ベンツの鍵を貸したら、俺は化け狐、五子はポチの背に乗って山を上った。
 食材なんかが入ったエコバッグはポチの背に載せて、五子が支えておいてくれた。

「今日は疲れたから、焼いた肉と餅だけで良いか?」

『構わん』

 焼いた豚肉に焼肉のタレを掛けただけの焼肉と、囲炉裏で焼いて醤油を掛けた餅で食事を済ませる。
 五子は寺にいる間は飯を食っていなかったが、今は果物を旨そうに食っている。
 五人姉妹には明日また何か作ってやろうと決めて、寝るには少し早いが囲炉裏の側にゴロンと寝転がって、そのまま眠りに就いた。

 そして翌朝、目を覚ましたのだが、どうにも気分が重い。
 熱があるとか、体が怠いとか、痛みがあるとか、その手の症状ではなくて、心に重りを付けたみたいな感じだ。

 目を開けてボーっと天井を見つめる。
 何だろう、天井の染みを数える、とかそんな気も起きない。
 三大欲求どころか、酒への欲求すらも湧いてこない。

「悪い、今日はこのまま寝かせてくれるか」

『少し休め。しばらくはそのままで、馴染むのを待てば良い』

「ああ、近付いてるのか」

 瞼を閉じて頭の中を空にする。
 眠気なんてものは無いのに、いつまでも微睡の中にいるような、ふわふわした気分だ。
 これほどに無でいられる事なんて、徳の高い坊主でも難しいのではないだろうか。

「まかはんにゃぁはらみったしんぎょぉぅ」

 俺は何となく般若心経を呟いて、深い深い眠りに就いた。
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