【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る

伊瀬カイト

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第87話 妊娠の報告

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 ここ何年かの日本の暑さってのは異常だな。
 今日なんて七月上旬だってのに、関東でも最高気温が三十度を超えるらしい。
 うちには暑さ対策に特化したあやかしがいるから、暑かろうと大した影響は無いんだけどな。
 暑さ対策に特化していると言うか、暑いとぶっ倒れる冷やしたがりなんだけれども。

 お陰で夏でも家の中は涼し過ぎるぐらいで、俺は囲炉裏の傍が定位置になっている。
 今日も囲炉裏の傍に腰を下ろして、北海道産かと錯覚する程に甘くて旨い赤肉メロンを食っていると、スマホに通知が入った。

『親父、ちょっと話があるんだけど通話して良いか?』

『おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為かかりません』

 スマホから陽気な音楽が鳴る。
 あの野郎、俺の小粋なボケを無視して発信押しやがったな。

「おかけになった電話は電波の届かない場所にあるか、電源が入っていない為かかりません」

「親父、暇だよな?ちょっと報告があるんだよ」

「お前、もう離婚すんのか?」

「しねぇよ!縁起でも無いこと言ってんじゃねぇ!」

 思ってたのと違った、とかでスピード離婚なんて話は結構聞くからな。
 どうやら、うちの息子は今のところ上手くやってるらしい。

「遂に銭ゲババァが逝ったか?」

「逝ってねぇよ!銭ゲバとババァを組み合わせた流行らねぇ造語を言ってんじゃねぇ!
 親父、確かに給料上げろ上げろってうるせぇけど、佐藤さんがいないと大変なの知ってんだろ」

 確かに、後進が育ってくれないと辞めさせられないぐらいには優秀だからな、あのパートは。

「本尊が窃盗団に盗まれたのか?」

「それ聞くなぁ。偽物と取り替えるから発見が遅れて、気付いた時には海外に持ち出されてるってやつだろ?
 対岸の火事だなんて言ってられねぇんだよなぁ。うちもホームセキュリティ入れっかなぁ」

「んな事はどうでも良いから、さっさと本題に戻れよ」

「親父から始めたんだろうが!まあ、いいや。
 話ってのはさ、実はうちのカミさんが妊娠したんだ」

 ははぁん、話が読めたぞ。

「二次元の嫁だな?」

「現実のだよ!先月俺と仏前結婚式を上げた美香さんの妊娠が発覚したんだよ!
 親父が念珠を渡したんだから、覚えてねぇとは言わせねぇぞ!」

 なんだ、そっちの嫁の話か。

「へぇ」

「おい!もっと、なんかこう、あるだろ!
 もっと驚くとか、なんかあるだろ!」

 驚きはもちろんあるんだけどな。

「いつだ?」

「いつって、、、えぇと、あれだよあれ。
 あのーな、、、、婚前旅行の時だよ、多分」

「俺は出産予定日を聞いたんだぜ?」

「このぉ、騙しやがったなこの野郎!三月だよ!」

 別に騙してなんかないんだけどな、引っ掛けただけで。

「まあ、うん、なんだ。
 親父にも孫が出来るんだからさ、酒は控えて、健康には気を付けてくれよ。
 そういう事だからよ!またな!」

 そこまで言って、一方的に通話が切れた。

「何だあいつ」

『お主の心配をしているのだろう。
 それより、どんな気分だ?嬉しいか?』

「ああ、まあ」

 俺の素直な気持ちを言葉にするとしたら。

「嬉しいよな、そりゃ。泣けてくるぜ」

 年を取ると涙もろくなっていけねぇな。

「美香さんかい。永空から聞いたよ。
 おめでとう。それから、ありがとう。くれぐれも体には気を付けて。
 何かあったら、あいつを扱き使って無理はしないようにな。それじゃあ」

 永空から妊娠の報告を受けたので、息子の嫁に直接連絡を入れた。
 声を聞いたら元気そうだし、嬉しそうでもあった。
 寺には経験豊富な従業員がいるから、心配しなくても大丈夫だろう。

 俺と違って真面目そうな、あちらさんの両親ともやりとりをしておく。
 これは、お互いに“おめでとうございます”“ありがとうございます”の応酬だ。
 北海道からだと何かあってもすぐには駆け付けられないと言って、何かあったらよろしくお願いしますとお願いされたので、出来る限りの事はすると返しておいた。
 俺もこの先、体調がどうなっていくかはわからないからな。

 めでたいな、ああ、めでたい。

 そうだ、永空に一つ伝えておきたい事があるから、メッセージを送っておこう。

『お前も子を持つ親の大変さを理解しやがれ』

 愛しい息子からの返信は無かった。
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