【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る

伊瀬カイト

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第90話 クコリ来訪

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 ある晩のこと。

 トントンと戸を叩く音が聞こえて、珍しく誰かが訪ねて来たのかと戸を開けたら、随分と綺麗なお姉ちゃんが立っていた。
 艶のある長い黒髪とパッチリとした二重瞼の大きな黒目に、白粉を塗った様に白い肌。
 長身でパッと目を引く花柄の、上質な着物を着ていて、芸能界にいれば女神だなんて讃えられるぐらいに整った見た目をしている。

 そのお姉ちゃんを見て、化け狐は随分と機嫌が悪そうだ。

「よう、今日は正面から来たんだな」

 俺がそう言って声を掛けると、お姉ちゃんは綺麗な顔の口元を隠して、ほほほと笑う。

「つまらんのぅ。其方、少しは妾の美しさに騙されてはどうだ?
 きっと、その方が楽しいぞ」

 そんな言葉を吐きながら、お姉ちゃんはボフンと二足で立つ狸の姿に変わった。
 先程までと同じ着物を着ていて、スタイルは変わらないのだが、顔や手足は狸のそれだ。
 こいつは二度、俺の夢に現れた化け狸のクコリ。
 化け狐とは仲が悪く、狐と狸なのに犬猿の仲って感じだ。

『さっさと去れ!狸め!』

「ほほほ。今日の妾は招かれ人よ。
 この男に酒を飲みに来いと熱心に誘われてのぅ」

 クコリは俺に近付くと、片手を胸に置き、頬を寄せた。

『貴様!離れろ!』

 化け狐が噛み付きにいくが、クコリは袖を振ってひらりと避ける。
 まるで闘牛士のような身のこなしだな。

「ほほほ。ほれ、さっさと客を家に招き入れろ。
 妾は旨い酒を所望する」

『貴様なんぞに我の酒を一滴たりとも飲ませるか!』

 クコリに背中を押されて、家の中へと押し込まれる。

「ほう、なるほどのぅ」

 何に納得したのかはわからないが、そう呟いたクコリは囲炉裏の傍に腰を下ろした。
 あそこはいつも化け狐がいるポジションだな。
 これは少々荒れそうだ。

『貴様!そこは我の場所だ!退け!』

「ほほほ。妾は客よ。この場所は妾に譲るが良い」

『ふざけるな!さっさと退け!』

 いつもはあんまり語気を強めない化け狐が、賑やかな事で。

「喧嘩するなよ。化け狐は俺の隣で良いだろ?
 それとも膝の上にでも座るか?」

『むぅ。お主がそう言うなら、別に良いが。
 膝の上は、今日は止めておく』

「ほほほ。仲が良くて羨ましいのぅ。
 それでは、妾が其方の膝の上に座るとしよう」

『貴様!それだけは許さんぞ!』

 うん、賑やか過ぎるぐらいに賑やかだな。
 二人のテンションに影響されて五人姉妹が追い掛けっこを始めたし、家鳴がバンバン家を叩くし。
 河童はキュウリ持ったまま入って来て、パリッと齧って出て行ったし。
 お前らは本当に何しに来たの?

 さっさと酒出して、二人を鎮めるとするかな。
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