【完結】追放住職の山暮らし~あやかしに愛され過ぎる生臭坊主は隠居して山でスローライフを送る

伊瀬カイト

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最終話 いつまでも

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 どれぐらい寝てた?

「丸一日程度だ」

 そうか。

 目が覚めて瞼を開くと、そこには世にも美しいあやかしの姿があった。
 俺はそいつに膝枕されていて、そいつは朗らかな表情で俺の顔を覗き込む。
 こいつに顔を覗き込まれると、一度も二度も体温が上がったような感覚を覚える。

 昨日、、、いや、丸一日寝てたなら一昨日になるのか。
 手術が終わった後、疲れ切った俺は永空が送ると言うのを振り切って家に戻った。
 俺よりも、愛する妻と子供の傍にいてやれって話だ。
 やっぱりあいつは、親の俺にまで気を使い過ぎる、優しい奴だ。

 昨日の今日で仕事には戻らないよな?

「さてな、あやつの事だからわからんぞ」

 確かにな。別れの挨拶ぐらいはしたかったんだが。

「我が繋いでやる。全く、お主は本当に世話の焼ける男よ」

 すまんな、ありがとう。

「気にするな」

 呼び出し音が鳴って三十秒ぐらいで通話が繋がった。

「親父?どうした?」

「おう」

 少し無理をし過ぎて、もう声を出すのも難しい。

「美香さんは普通に話が出来てるし、娘も順調だってさ。
 ただ娘の瞳の色が金色でさ、すげぇ珍しい色だって言って、ちょっとした話題になってるぜ」

 ああ、金色って事はあいつの影響か。
 もしかしたら、あいつらは消えた訳じゃなくて、孫と同化して今も存在してるのかもしれないな。

「未熟児だから少し時間は掛かるかもしれないけど、今はすこぶる順調だって言ってくれてっからさ。
 親父が初孫を抱く日も近いぜ?」

 初孫を抱くね。それは魅力的な話だな。

「だから親父、まだ、死ぬなよ?」

 永空はその時が来たのを察しているのか、涙声に変わる。

「永、、、空」

「何だよ、そんな弱った声でよぉ。らしくねぇぞ」

「あり、、、がとう。お前の、、、父親、で、、、幸せ、、、だった」

「何縁起でもねぇこと言ってんだ!まだ死ぬな!死ぬなよ親父!」

「じゃあ、、、な」

「親父!今すぐ行くから、まだ、死ぬな!」

 電源を切ってくれ。

「これで良かったのか?」

 ああ、十分だよ。

 もう、俺の体と心を繋ぐ糸は切れかけてるのがわかる。
 今から向かったとして、あいつが着く頃には、俺はもうこの世にはいないと断言出来る。

「やり残した事は無いか?」

 やり残した事か。

 結婚はしなかったが、子育てはしたし、立派に育った息子が結婚して、孫まで出来た。
 よく遊んだし、よく笑ったし、好きなだけ酒を飲んだ。
 最後にはあやかし達とも一緒に遊んで暮らせたし、あるとしたら永空の言った、孫を抱くって事ぐらいだな。

 孫が生まれるまで生きられると思ってなかったからな。
 よくやった方だろう。

「そうか。ならば良いが」

 ふっと微笑み、美しい顔を俺に向ける。
 こいつの美しさは、人外でしか有り得ない美しさだ。

「我が美しいのは当然であろう」

 はいはい、そうですね。

 この世に未練は無い。
 いや、未練なんてものは、いつ死のうが、誰だって残るもんだから、考えたって仕方がない。

 ただ一つ。
 望んでも良いのならば、俺の望みは一つだけ。

「ヨウコ。これ、、、からも。お前、、、の、傍に、、、いさせて、くれ」

 きっとこれが俺の最期の言葉になる。
 ヨウコは俺の顔を覗き込んで、美しい顔で柔らかな微笑みを作った。

「今さら何を言っておる。我とお主はいつまでも一緒だ。
 永海。別れの言葉は、我から皆に伝えてやる」

 ヨウコに手を引かれ、俺の体と心を繋いでいる糸が、プツリと切れる音を聞いた。

 皆が居てくれて、俺は幸せだった。
 本当にありがとう。



 子供の頃、うちの寺には面白いあやかしがわんさかいた。
 俺の母親は、俺を産んですぐに亡くなっていて、父親はあまり子供を構う人じゃなかったから、俺の遊び相手は、寺にいるあやかし達だった。

 ある日、俺の前に現れたのが、真っ白い着物を着た世にも美しいあやかしだった。
 人の姿をしていたが、それが人ではないって事は、瞬時に理解出来た。
 子供ながらに、そいつの美しさに見惚れたのを、今でも鮮明に覚えている。

 小学校も、中学校も、高校も、大学も。
 修行中も、坊主になってからも、永空を引き取ってからも。
 俺の隣には常にヨウコがいてくれた。

 もしもヨウコが望んでくれるのならば、これからはあやかしという同じ存在として。
 いつまでも側にいる事を、ここに誓おう。
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