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プロローグ
閑話 招木猫と東雲鈴音①
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日本時間12時。
全世界でNOT THE GAMEをきっかけとした大量死が起こった頃、東雲鈴音と招木猫は水族館のイルカショーを見物していた。
東京は品川にある人気の水族館は、日本、海外からの観光客、友達と遊びに来た学生や、デートに来たカップルで賑わう。
イルカが泳ぐプールを囲む形に配置された観客席は、30分も前から席が埋まり、最前列に座った東雲鈴音と招木猫は、見上げる程に高く飛んだイルカが着水する時の水飛沫でえげつなくびしょ濡れになっていた。
これがあると初めからわかっていたから、招木猫は後ろの席に座りたいと提案したのだ。
どうしても最前列で観たいと言う東雲鈴音の熱意に負けて、最終的には了承する流れとなったのだが。
2人の関係性は、幼い頃から変わっていない。
傍から見れば、100人中100人が東雲鈴音をお姉さんポジ、招木猫を妹ポジと思うだろうが。
現実は真逆も真逆の正反対なのである。
そんな2人が…正確に言うならば招木猫が異変に気付いたのは、きっかり12時の事であった。
イルカの背中に乗っていたイルカショーのスタッフが一人、突然落っこちてプカプカと浮かんだのだ。
ショーを見守る誰も『これは拙いのではないか』と感じたが、大混乱が起こったのは、それから数秒後。
水面に浮かぶスタッフを中心に、プールの水が赤く染まって広がり始めたのだ。
異変はそれだけではない。
注目はプールに集まっていたが、観客席でも点々と人が倒れ、ある者は体から血を噴き出し、ある者は皮膚が溶け、そのまま跡形もなく消えてしまった。
会場は大混乱。
会場から少しでも離れようと、多くの観客が立ち上がって、一部では危険なドミノ倒しにまで発展した。
イルカショーのスタッフも、突然の事態に唖然として、マニュアル通りの指示が出せない。
行動が起こせない。
そんな異常事態の中、落ち着き払って顎を抓み、会場をくまなく観察している者がいた。
最前列で頭から爪先までびっしょりと濡れている、濡れ髪のいい女こと招木猫だ。
『何が起きたにゃ?ってのは愚問にゃ。十中八九NOT THE GAMEだにゃ。まずは成木原君に連絡して、状況を確認するにゃ』
招木猫は猫が主人公のアニメグッズである、等身大猫リュックからスマートフォンを取り出して、成木原裕哉にメッセージを送った。
『水族館で何人も死んだにゃ
そっちはどうにゃ?』
成木原とメッセージのやり取りをしていた東雲鈴音から、成木原が今学校にいる事は確認している。
目に水が入ったと言って悶絶している幼馴染の事は一旦放置して、成木原からの返事を待つ。
すぐさま既読は付いた。
普段の慎重な成木原は返事に最低でも5分は掛けるが、今回は直ぐに返ってくるだろうと確信して待つ。
『目の前で鮫島が死んだ
ノザゲと同じ死に方だ』
ノザゲとは、SNSから広まったNOT THE GAMEの略称である。
普段の成木原は、面倒でも絶対に略称を使わない。
NOT THE GAMEはNOT THE GAMEと口にし、文字にするのが成木原のポリシー。
そんな成木原が、早さを重視してノザゲと使ったのに、少なからずの動揺を感じた招木猫。
状況的に通話を選択した方がスムーズ。
にも関わらず、メッセージを使ったのは、通話が使えない理由があるのだろうと、招木猫は推察した。
『電車は動いてるか?』
『時間差無しで同時って事ならタクシーは安全か』
『交通機関は動かないかもな』
『徒歩はきつそうだな』
『レンタサイクルなら少しはマシか?』
『ヒッチハイクするなら子供連れの女性か夫婦にしとけ』
『自分がいつ死ぬかわからんって状況で男に隙を見せるのは危険だ』
『お前ら見てくれが良過ぎるからな』
立て続けにメッセージが入って、招木猫は思わず苦笑する。
これだけ早く打てるのなら、普段からもっと早く返せば良いのにと思ったが、その思いは打ち消した。
招木猫も返事は遅いタイプだからだ。
招木猫の場合は気紛れで、気分が乗らなければ永遠に返事しないってだけなのだが。
それにしても、成木原の危機意識はどうなっているのだろうと、招木猫は関心する。
目の前で人が死んで、それも良く知る同級生で、まともでいられる筈のない状況下で。
それでも自分と東雲鈴音が取るべき選択肢をつらつらと並べてみせるのだ。
場面場面での状況判断というよりも、幾つもの可能性から、この場合はこう動くと想像して準備をしている印象。
招木猫が、この異常事態の中でも冷静でいられるのは、偏に成木原裕哉という存在が大きかった。
決して口には出さなかったが、この状況は成木原にとっての想定内。
恐らく最悪中の最悪だろうが、成木原にとっては想定内だと、招木猫は確信しているのだ。
何故なら成木原の出してくれたヒントを紐解き、招木猫もこの結論には達していたから。
自分一人だったらば、NOT THE GAMEという【謎の現象】を、もっと気安く捉えていただろう。
成木原という異常なまでに想定と妄想に執着する人間がいたからこそ、招木猫もNOT THE GAMEを異常なものとして考えたのだ。
招木猫にとって、成木原裕哉ほど平凡で想定外な存在は他にいない。
故に途轍もなく愉快で楽しく、招木猫を飽きさせない存在なのだ。
真逆も真逆だが、ある意味で東雲鈴音と似た印象でもある。
『今後するべきは取捨選択だな』
『家族は大丈夫か?』
『東雲さんの家はどうだ?』
よくもまあ、そこまで気が回るなと関心する招木猫。
『あたしもリンリンも家族は大丈夫にゃ』
『そうか』
『それなら良かった』
『良くはないけどな』
成木原は困った時に行動の指針になってくれる存在。
そんな実感を強めて、招木猫はこんなメッセージを送る。
『家にはどうにかして帰るにゃ
ナルナルは【これから】を考えといて欲しいにゃ
信頼してるからにゃ
リーダー』
このメッセージへの成木原の返事が届いたのは5分後だった。
『リーダーって俺の事か?
柄じゃないから止めてくれよ
そんな事よりくれぐれも気を付けて帰ってこいよ』
招木猫は既読だけしてスマートフォンをしまった。
まずは未だに悶絶している東雲鈴音の目を拭いてあげて、さっさと家に帰ろう。
その後の事は、多分成木原がどうにかしてくれるだろう。
「信頼してるにゃ。リーダー」
招木猫は小さく一つ呟いて、自宅までの移動手段を画策する。
全世界でNOT THE GAMEをきっかけとした大量死が起こった頃、東雲鈴音と招木猫は水族館のイルカショーを見物していた。
東京は品川にある人気の水族館は、日本、海外からの観光客、友達と遊びに来た学生や、デートに来たカップルで賑わう。
イルカが泳ぐプールを囲む形に配置された観客席は、30分も前から席が埋まり、最前列に座った東雲鈴音と招木猫は、見上げる程に高く飛んだイルカが着水する時の水飛沫でえげつなくびしょ濡れになっていた。
これがあると初めからわかっていたから、招木猫は後ろの席に座りたいと提案したのだ。
どうしても最前列で観たいと言う東雲鈴音の熱意に負けて、最終的には了承する流れとなったのだが。
2人の関係性は、幼い頃から変わっていない。
傍から見れば、100人中100人が東雲鈴音をお姉さんポジ、招木猫を妹ポジと思うだろうが。
現実は真逆も真逆の正反対なのである。
そんな2人が…正確に言うならば招木猫が異変に気付いたのは、きっかり12時の事であった。
イルカの背中に乗っていたイルカショーのスタッフが一人、突然落っこちてプカプカと浮かんだのだ。
ショーを見守る誰も『これは拙いのではないか』と感じたが、大混乱が起こったのは、それから数秒後。
水面に浮かぶスタッフを中心に、プールの水が赤く染まって広がり始めたのだ。
異変はそれだけではない。
注目はプールに集まっていたが、観客席でも点々と人が倒れ、ある者は体から血を噴き出し、ある者は皮膚が溶け、そのまま跡形もなく消えてしまった。
会場は大混乱。
会場から少しでも離れようと、多くの観客が立ち上がって、一部では危険なドミノ倒しにまで発展した。
イルカショーのスタッフも、突然の事態に唖然として、マニュアル通りの指示が出せない。
行動が起こせない。
そんな異常事態の中、落ち着き払って顎を抓み、会場をくまなく観察している者がいた。
最前列で頭から爪先までびっしょりと濡れている、濡れ髪のいい女こと招木猫だ。
『何が起きたにゃ?ってのは愚問にゃ。十中八九NOT THE GAMEだにゃ。まずは成木原君に連絡して、状況を確認するにゃ』
招木猫は猫が主人公のアニメグッズである、等身大猫リュックからスマートフォンを取り出して、成木原裕哉にメッセージを送った。
『水族館で何人も死んだにゃ
そっちはどうにゃ?』
成木原とメッセージのやり取りをしていた東雲鈴音から、成木原が今学校にいる事は確認している。
目に水が入ったと言って悶絶している幼馴染の事は一旦放置して、成木原からの返事を待つ。
すぐさま既読は付いた。
普段の慎重な成木原は返事に最低でも5分は掛けるが、今回は直ぐに返ってくるだろうと確信して待つ。
『目の前で鮫島が死んだ
ノザゲと同じ死に方だ』
ノザゲとは、SNSから広まったNOT THE GAMEの略称である。
普段の成木原は、面倒でも絶対に略称を使わない。
NOT THE GAMEはNOT THE GAMEと口にし、文字にするのが成木原のポリシー。
そんな成木原が、早さを重視してノザゲと使ったのに、少なからずの動揺を感じた招木猫。
状況的に通話を選択した方がスムーズ。
にも関わらず、メッセージを使ったのは、通話が使えない理由があるのだろうと、招木猫は推察した。
『電車は動いてるか?』
『時間差無しで同時って事ならタクシーは安全か』
『交通機関は動かないかもな』
『徒歩はきつそうだな』
『レンタサイクルなら少しはマシか?』
『ヒッチハイクするなら子供連れの女性か夫婦にしとけ』
『自分がいつ死ぬかわからんって状況で男に隙を見せるのは危険だ』
『お前ら見てくれが良過ぎるからな』
立て続けにメッセージが入って、招木猫は思わず苦笑する。
これだけ早く打てるのなら、普段からもっと早く返せば良いのにと思ったが、その思いは打ち消した。
招木猫も返事は遅いタイプだからだ。
招木猫の場合は気紛れで、気分が乗らなければ永遠に返事しないってだけなのだが。
それにしても、成木原の危機意識はどうなっているのだろうと、招木猫は関心する。
目の前で人が死んで、それも良く知る同級生で、まともでいられる筈のない状況下で。
それでも自分と東雲鈴音が取るべき選択肢をつらつらと並べてみせるのだ。
場面場面での状況判断というよりも、幾つもの可能性から、この場合はこう動くと想像して準備をしている印象。
招木猫が、この異常事態の中でも冷静でいられるのは、偏に成木原裕哉という存在が大きかった。
決して口には出さなかったが、この状況は成木原にとっての想定内。
恐らく最悪中の最悪だろうが、成木原にとっては想定内だと、招木猫は確信しているのだ。
何故なら成木原の出してくれたヒントを紐解き、招木猫もこの結論には達していたから。
自分一人だったらば、NOT THE GAMEという【謎の現象】を、もっと気安く捉えていただろう。
成木原という異常なまでに想定と妄想に執着する人間がいたからこそ、招木猫もNOT THE GAMEを異常なものとして考えたのだ。
招木猫にとって、成木原裕哉ほど平凡で想定外な存在は他にいない。
故に途轍もなく愉快で楽しく、招木猫を飽きさせない存在なのだ。
真逆も真逆だが、ある意味で東雲鈴音と似た印象でもある。
『今後するべきは取捨選択だな』
『家族は大丈夫か?』
『東雲さんの家はどうだ?』
よくもまあ、そこまで気が回るなと関心する招木猫。
『あたしもリンリンも家族は大丈夫にゃ』
『そうか』
『それなら良かった』
『良くはないけどな』
成木原は困った時に行動の指針になってくれる存在。
そんな実感を強めて、招木猫はこんなメッセージを送る。
『家にはどうにかして帰るにゃ
ナルナルは【これから】を考えといて欲しいにゃ
信頼してるからにゃ
リーダー』
このメッセージへの成木原の返事が届いたのは5分後だった。
『リーダーって俺の事か?
柄じゃないから止めてくれよ
そんな事よりくれぐれも気を付けて帰ってこいよ』
招木猫は既読だけしてスマートフォンをしまった。
まずは未だに悶絶している東雲鈴音の目を拭いてあげて、さっさと家に帰ろう。
その後の事は、多分成木原がどうにかしてくれるだろう。
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