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スライム大氾濫
②取捨選択
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制限時間が終わり、NOT THE GAMEは動き出す。
すぐ近くに東雲鈴音とオイラが現れ、招木猫からの音声通話を着信した。
『もしもしにゃ。皆20時30分にログイン出来たかにゃ?』
「俺とオイラはは問題ないよ。寧ろふたりは?」
「私達はどうにかって感じだったね」
どうやら無事家に着いたみたいで安心した。
恐らくだが恐ろしい事に、現実世界はパラレルワールドになっている。
一早くそれに気付けた俺達は、ズレが大きくなる前に対処出来たが、それでも多少のズレは存在している。
俺の世界の2人が無事だったからといって、各自の世界の2人が無事とは限らないのだ。
それに俺の世界でも帰宅の連絡を受けたのは、NOT THE GAMEにログインする直前だった。
一応22時ギリギリまで待つつもりではいたが、間に合っていたのなら何よりだな。
時間がズレていた場合には、直ぐにログアウトして時間調整をするつもりでいたが、その必要がなくて良かった。
「因みにどうやって帰ったんだ?交通機関が止まってて大変だっただろう」
日本時間の正午以降、日本では全国的に鉄道がストップした。
運転手や車内にいる乗客、駅員や駅にいる客がバタバタと倒れ、NOT THE GAMEに起因した死亡事件は、当初はテロ事件として扱われていた。
テロ事件であるならば、当然犠牲者の出た交通機関を動かせるはずがない。
その後テロ事件ではないと判明したが、自動運転システムがあるとは言え、いつ人が死ぬかもわからない状況で、鉄道を動かすのはリスクが大き過ぎた。
更にはバスもストップした。
こちらは運転手の死亡もあるが、それ以上に問題となったのが、車の運転手が突然死した事による事故の多発だった。
NOT THE GAMEに起因する死亡者は、他国に比べたら少ないものの、日本でもかなりの数に上るらしい。
当然その中には、正午時点で車を運転する者も含まれていて、コントロールを失った車が事故を起こして、物理的に道路が塞がった。
そんな状況では、当然レッカー車の数も足りないし、そもそもレッカー車を運転出来る人間も減っている。
兎にも角にも、交通は大混乱だって話だ。
東雲鈴音と招木猫は今日、品川の水族館で遊んでいた。
我々の住まう地は東京に隣接しているとは言え、埼玉は埼玉。
レンタサイクルを借りたとしても、かなりの労力を使うのは、想像に難くないのだが。
『品川までツーリングに来てた夫婦を捕まえたにゃ。時間は掛かったけれど、後ろに乗ってただけだったから楽だったにゃ。途中でアイスも奢って貰ったにゃ』
「そうなのだ。とても気の良い方達だった」
「ガチでにゃんにゃんのコミュ力どうなってんの…?」
「おいらにも姉さんの武勇伝を聞かせるんだぞ」
招木猫に詳細を聞きつつ、オイラに内容を説明していく。
どうやら招木猫にしては非常に苦労したみたいだが、最後は運の力でどうにか件の夫婦を引き当てたらしい。
都合良く隣り街の夫婦を見付ける運も凄いが、その夫婦に取り入ってアイスまで奢らせるコミュ力は驚嘆に値する。
それにしても、あんなショッキングな出来事を目撃したのに、案外と精神的に参っていないのも安心した。
普通目の前で人が死んだら、精神的に参ってしまってもおかしくはない。
うちの母親なんかはニュースを目にして、「あらまあ、怖いわねぇ」程度で済ませていたけれど。
あれはNOT THE GAMEをよく理解していないから、実感が湧いていないだけだろう。
プレイヤーとして関わり、事情を知っている方が、寧ろ精神的なダメージは大きくなる場合も大いにあり得ると思うのだが…。
東雲鈴音も招木猫も柔なメンタルしてなさそうだからなあ…。
オイラも人間がどれだけ死のうが無関心だし、気を張っていた俺が馬鹿みたいで拍子抜けだ。
普通に世間話が出来ちゃうぐらいだから、今の所何の問題もないだろう。
「さて、まずは魔物狩りよりも作戦会議を優先したいんだが、安全に話し合いが出来る場所は…」
NOT THE GAMEの仕様を思い浮かべて、絶対に安全な場所を探してみる。
思い当たる場所と言えば、あそこかな。
「自宅だな。NOT THE GAMEは現実世界にある建築物や物品について、プレイヤーによる現状変更を許さない。ってことは、戸締りさえしっかりしてしまえば、家の中にプレイヤーが入り込む余地は無いって訳だ。今の所は魔物も現状変更をしてこないし、不確定要素が家族だけの家は相当安全性が高いと思うんだけど、どうだろう?」
「私はそれで構わないよ。友達である成木原君が決めた事に異論はないよ」
『あたしもリーダーに賛成にゃ。こんな状況だし、PvPに走るプレイヤーも出るかもしれないからにゃあ』
「おいらは反対なんだぞ。自由を愛する野良犬は、広い空の下で過ごすのがあるべき姿なんだぞ」
東雲鈴音と招木猫は賛成。
オイラだけが反対を示した。
こういう場合、多数決で決めてしまうのが手っ取り早いが、それではオイラが納得しないかもしれない。
ならば、俺は取る手はこうだ。
「お前暑いからって絶対外に出ようとしないじゃん。無理矢理外に連れ出しても2秒で家に帰る奴が野良犬を語るなよ」
オイラは納得して仮想空間の我が家へ帰宅した。
『あたしも家に着いたにゃ。それで、どんな話をするのにゃ?』
「ああ、それなんだけどな。実はかなり難しい話になる」
「難しい話…。正直言って私はついていける自信がないよ」
「難しいと言っても、内容自体は簡単だから大丈夫だよ」
「興味無いから、おいらは骨を齧っているんだぞ。おいらの骨を出すんだぞ」
腰にある小さなポーチから硬い骨を出してやると、夢中でガジガジしはじめたオイラ。
これで暫くは大人しくしているだろう。
「さて、まずは今日のログイン時にイベントの情報を目にしたと思うんだけど、間違いないよな?」
「ああ、確かに出ていたね」
『あたしも見たにゃ』
「イベントは明日から。スライム大氾濫って名前からして、戦う魔物にそこまでの脅威は感じない。スライムキングとスライムクイーンを除けばって話だが、初めてのイベントで攻略不可能な難易度には設定して来ないだろう。ってのが俺の読みなんだけれど、ここまでは良いかな?」
「まだ、私にも理解出来ているよ」
『そうだにゃあ。難易度とかは始まってみなきゃわからないからにゃ』
ここまでは問題無さそうなので、話を続ける。
「イベントについては本当に、始まってみなきゃわからない。最悪の想定はしておくが、ある程度行き当たりばったりになるのは仕方がない。こればっかりは、本当にそうなると思うんだ」
「うん、私もそう思うよ。MMOの新イベントみたいなものだろうからね」
『同意見にゃ』
「そうなると、重要になるのは情報収集になるんだけれど…」
『SNSで情報を集めるにゃ?』
招木猫はすぐさま一つの結論に辿り着いた。
SNSを利用して、先んじてNOT THE GAMEにログインした人達が出した情報をイベントの前に集めてしまう。
これは普通のオンラインゲームであれば、鉄板で有効な手段になり得るのだが…。
「そこが少し未知数なんだが、個人的には不可解なまでの情報統制が行われるんじゃないかと思っている」
「そうなのか?」
『あー、ありそうだにゃ…』
NOT THE GAMEの管理者?は現実世界の時間軸をずらして、現実世界をパラレルワールドにするような存在だ。
少し時間軸を弄るなり何なりして、イベント情報が出回らないようにするぐらいは訳ないだろう。
管理者の目的が何であれ、非常に悪趣味な存在であるのは確か。
先に情報を集めればイージーにイベントを進められるだなんて、そんなズルを許すとは、どうしても思えない。
「そこも明日になってから、だな。情報が集められるなら、ログインは最大限遅くして明後日の10時にするのが理想だろうな」
「10時では学校の時間じゃないのかい?」
「学校は暫く休校だと思うよ。明日ぐらいは集会をするかもしれないけれど、明後日から早めの夏休みに突入ってのが固い気がする」
『学校なんて行ってる場合じゃないからにゃ。生徒だけじゃなくて、先生たちも一緒にゃ』
「そんな…。私の友達作りの機会が減ってしまう…」
東雲鈴音が心底落ち込んでいるんだが、それこそそれどころじゃないだろうと言ってやりたい。
招木猫が言うには、正午時点の東雲鈴音は、イルカが弾いた水が目に入って悶絶していたらしい。
何ておもしれー女なんだ。
そんなの、絶対に見たかったぞ。
「ええっと、新しい友達ってのは、俺じゃ駄目か?俺1人じゃ不足かな?」
東雲鈴音の気持ちをあげようとして、そんな言葉を掛けたのだが。
「ふ、ふふふ、不足だなんて、全然、ないよ。な、ななな、成木原君だけで、十分、です」
『リーダーはあたしの事言えない人たらしだと思うにゃ。人たらしというか、女たらしにゃ』
「不名誉な称号を与えるのは、お止め下さる?女たらしは単なる悪口だからな?」
何故だか顔が真っ赤な東雲鈴音と、呆れた声の招木猫。
どうしてこんな状況になっているのか、俺には少しも理解が出来ない。
居心地の悪さは、非常に感じてはいる。
「コホン。それで、本題に移りたいんだけど」
「う、うん。何だい?」
『話の逸らし方が下手くそにゃ。けど今回は見逃してあげるにゃ』
「そいつは有難い。今回のイベントも普段からもそうなんだけど、俺達には難しい取捨選択が必要になると思うんだ」
「取捨選択?」
『何を選択するにゃ?』
取るものと捨てるもの。
それは勿論、こういう事だ。
「プレイヤーでもNPCでも良い。誰を守って、誰を見捨てるのか。誰を優先して、誰を優先しないのか。自己犠牲してまで守るのか。自己犠牲まではしないのか。先に決めておかなければ、行動指針は立てられない」
NOT THE GAMEで命を落とせば、現実世界でも命を落とす。
NOT THE GAMEはゲームであっても、死だけは現実世界とリンクする。
NOT THE GAMEでの戦いは、正しく命懸けの戦いとなる。
そんな命懸けの戦いの中でも、守りたいものを決めなければならない。
それは人でも、心でも良い。
家族、親戚、友達、親友、恋人、顔見知り、顔も名前も知らない誰か。
どこまで守り、どこから守らないのか。
明確な指針は行動の幅を狭めるが、反応速度は研ぎ澄まされる。
これは一瞬の命取りを回避するのに必要になるだろう。
「俺が守りたいのは、パーティーの仲間と家族と隣に住む幼馴染だ。他は積極的に守りに行くつもりはない」
決して長くない俺の腕では、守れる範囲は限られる。
エリア外にいる妹は別にして、NPCの父親と母親。
NPCの幼馴染、柊。
現実的に俺が守れる範囲なんて、そんなものだろう。
『あたしは特にいないにゃ。家族は自分達で何とかするからにゃ。薄情と思われても自分の命が一番にゃ』
招木猫の考え方も、これはありだ。
ゲームで死ねば現実でも死ぬという異常事態。
他人の命なんて気にしている余裕はないってのは、少しぽっちも薄情だなんて思わない。
「私は、守れるならば全員を守りたいと思うよ」
東雲鈴音の考え方は、はっきり言って理想論でしかないが。
実を言うと、東雲鈴音ならそういうだろうなと考えてはいた。
実際に出来る出来ないは別にして、手が届く範囲なら全員を守るって考え方は、東雲鈴音の強さに繋がると思う。
だから否定する気は少しもないし、考え方が異なるからと言って、決別する気も全くない。
「わかった。俺は自分の行動指針を優先しながら、東雲さんの行動指針をサポートするよ。にゃんにゃんもそれで良いか?」
『構わないにゃ。リンリンは最初っからそう言うと思ってたにゃ』
やはり招木猫も同じように考えていたみたいだな。
まだ招木猫は合流出来ていないが、このパーティーの軸は東雲鈴音になる。
危険となれば全力で止めるつもりだが、深く考えずにある程度の自由を与えた方が、東雲鈴音という人間は活きるだろう。
「これで行動指針の共有は完了したかな。あとは狩りをしながら、細かな話を詰める方向で…」
俺が話を切り上げようとしたところ、一匹の犬が足に頭をぶつけて待ったを掛けた。
「おいらはサリーを守りたいんだぞ」
サリー。
なるほどね、サリーか…。
えっと、オイラさん?
サリーって誰…?
すぐ近くに東雲鈴音とオイラが現れ、招木猫からの音声通話を着信した。
『もしもしにゃ。皆20時30分にログイン出来たかにゃ?』
「俺とオイラはは問題ないよ。寧ろふたりは?」
「私達はどうにかって感じだったね」
どうやら無事家に着いたみたいで安心した。
恐らくだが恐ろしい事に、現実世界はパラレルワールドになっている。
一早くそれに気付けた俺達は、ズレが大きくなる前に対処出来たが、それでも多少のズレは存在している。
俺の世界の2人が無事だったからといって、各自の世界の2人が無事とは限らないのだ。
それに俺の世界でも帰宅の連絡を受けたのは、NOT THE GAMEにログインする直前だった。
一応22時ギリギリまで待つつもりではいたが、間に合っていたのなら何よりだな。
時間がズレていた場合には、直ぐにログアウトして時間調整をするつもりでいたが、その必要がなくて良かった。
「因みにどうやって帰ったんだ?交通機関が止まってて大変だっただろう」
日本時間の正午以降、日本では全国的に鉄道がストップした。
運転手や車内にいる乗客、駅員や駅にいる客がバタバタと倒れ、NOT THE GAMEに起因した死亡事件は、当初はテロ事件として扱われていた。
テロ事件であるならば、当然犠牲者の出た交通機関を動かせるはずがない。
その後テロ事件ではないと判明したが、自動運転システムがあるとは言え、いつ人が死ぬかもわからない状況で、鉄道を動かすのはリスクが大き過ぎた。
更にはバスもストップした。
こちらは運転手の死亡もあるが、それ以上に問題となったのが、車の運転手が突然死した事による事故の多発だった。
NOT THE GAMEに起因する死亡者は、他国に比べたら少ないものの、日本でもかなりの数に上るらしい。
当然その中には、正午時点で車を運転する者も含まれていて、コントロールを失った車が事故を起こして、物理的に道路が塞がった。
そんな状況では、当然レッカー車の数も足りないし、そもそもレッカー車を運転出来る人間も減っている。
兎にも角にも、交通は大混乱だって話だ。
東雲鈴音と招木猫は今日、品川の水族館で遊んでいた。
我々の住まう地は東京に隣接しているとは言え、埼玉は埼玉。
レンタサイクルを借りたとしても、かなりの労力を使うのは、想像に難くないのだが。
『品川までツーリングに来てた夫婦を捕まえたにゃ。時間は掛かったけれど、後ろに乗ってただけだったから楽だったにゃ。途中でアイスも奢って貰ったにゃ』
「そうなのだ。とても気の良い方達だった」
「ガチでにゃんにゃんのコミュ力どうなってんの…?」
「おいらにも姉さんの武勇伝を聞かせるんだぞ」
招木猫に詳細を聞きつつ、オイラに内容を説明していく。
どうやら招木猫にしては非常に苦労したみたいだが、最後は運の力でどうにか件の夫婦を引き当てたらしい。
都合良く隣り街の夫婦を見付ける運も凄いが、その夫婦に取り入ってアイスまで奢らせるコミュ力は驚嘆に値する。
それにしても、あんなショッキングな出来事を目撃したのに、案外と精神的に参っていないのも安心した。
普通目の前で人が死んだら、精神的に参ってしまってもおかしくはない。
うちの母親なんかはニュースを目にして、「あらまあ、怖いわねぇ」程度で済ませていたけれど。
あれはNOT THE GAMEをよく理解していないから、実感が湧いていないだけだろう。
プレイヤーとして関わり、事情を知っている方が、寧ろ精神的なダメージは大きくなる場合も大いにあり得ると思うのだが…。
東雲鈴音も招木猫も柔なメンタルしてなさそうだからなあ…。
オイラも人間がどれだけ死のうが無関心だし、気を張っていた俺が馬鹿みたいで拍子抜けだ。
普通に世間話が出来ちゃうぐらいだから、今の所何の問題もないだろう。
「さて、まずは魔物狩りよりも作戦会議を優先したいんだが、安全に話し合いが出来る場所は…」
NOT THE GAMEの仕様を思い浮かべて、絶対に安全な場所を探してみる。
思い当たる場所と言えば、あそこかな。
「自宅だな。NOT THE GAMEは現実世界にある建築物や物品について、プレイヤーによる現状変更を許さない。ってことは、戸締りさえしっかりしてしまえば、家の中にプレイヤーが入り込む余地は無いって訳だ。今の所は魔物も現状変更をしてこないし、不確定要素が家族だけの家は相当安全性が高いと思うんだけど、どうだろう?」
「私はそれで構わないよ。友達である成木原君が決めた事に異論はないよ」
『あたしもリーダーに賛成にゃ。こんな状況だし、PvPに走るプレイヤーも出るかもしれないからにゃあ』
「おいらは反対なんだぞ。自由を愛する野良犬は、広い空の下で過ごすのがあるべき姿なんだぞ」
東雲鈴音と招木猫は賛成。
オイラだけが反対を示した。
こういう場合、多数決で決めてしまうのが手っ取り早いが、それではオイラが納得しないかもしれない。
ならば、俺は取る手はこうだ。
「お前暑いからって絶対外に出ようとしないじゃん。無理矢理外に連れ出しても2秒で家に帰る奴が野良犬を語るなよ」
オイラは納得して仮想空間の我が家へ帰宅した。
『あたしも家に着いたにゃ。それで、どんな話をするのにゃ?』
「ああ、それなんだけどな。実はかなり難しい話になる」
「難しい話…。正直言って私はついていける自信がないよ」
「難しいと言っても、内容自体は簡単だから大丈夫だよ」
「興味無いから、おいらは骨を齧っているんだぞ。おいらの骨を出すんだぞ」
腰にある小さなポーチから硬い骨を出してやると、夢中でガジガジしはじめたオイラ。
これで暫くは大人しくしているだろう。
「さて、まずは今日のログイン時にイベントの情報を目にしたと思うんだけど、間違いないよな?」
「ああ、確かに出ていたね」
『あたしも見たにゃ』
「イベントは明日から。スライム大氾濫って名前からして、戦う魔物にそこまでの脅威は感じない。スライムキングとスライムクイーンを除けばって話だが、初めてのイベントで攻略不可能な難易度には設定して来ないだろう。ってのが俺の読みなんだけれど、ここまでは良いかな?」
「まだ、私にも理解出来ているよ」
『そうだにゃあ。難易度とかは始まってみなきゃわからないからにゃ』
ここまでは問題無さそうなので、話を続ける。
「イベントについては本当に、始まってみなきゃわからない。最悪の想定はしておくが、ある程度行き当たりばったりになるのは仕方がない。こればっかりは、本当にそうなると思うんだ」
「うん、私もそう思うよ。MMOの新イベントみたいなものだろうからね」
『同意見にゃ』
「そうなると、重要になるのは情報収集になるんだけれど…」
『SNSで情報を集めるにゃ?』
招木猫はすぐさま一つの結論に辿り着いた。
SNSを利用して、先んじてNOT THE GAMEにログインした人達が出した情報をイベントの前に集めてしまう。
これは普通のオンラインゲームであれば、鉄板で有効な手段になり得るのだが…。
「そこが少し未知数なんだが、個人的には不可解なまでの情報統制が行われるんじゃないかと思っている」
「そうなのか?」
『あー、ありそうだにゃ…』
NOT THE GAMEの管理者?は現実世界の時間軸をずらして、現実世界をパラレルワールドにするような存在だ。
少し時間軸を弄るなり何なりして、イベント情報が出回らないようにするぐらいは訳ないだろう。
管理者の目的が何であれ、非常に悪趣味な存在であるのは確か。
先に情報を集めればイージーにイベントを進められるだなんて、そんなズルを許すとは、どうしても思えない。
「そこも明日になってから、だな。情報が集められるなら、ログインは最大限遅くして明後日の10時にするのが理想だろうな」
「10時では学校の時間じゃないのかい?」
「学校は暫く休校だと思うよ。明日ぐらいは集会をするかもしれないけれど、明後日から早めの夏休みに突入ってのが固い気がする」
『学校なんて行ってる場合じゃないからにゃ。生徒だけじゃなくて、先生たちも一緒にゃ』
「そんな…。私の友達作りの機会が減ってしまう…」
東雲鈴音が心底落ち込んでいるんだが、それこそそれどころじゃないだろうと言ってやりたい。
招木猫が言うには、正午時点の東雲鈴音は、イルカが弾いた水が目に入って悶絶していたらしい。
何ておもしれー女なんだ。
そんなの、絶対に見たかったぞ。
「ええっと、新しい友達ってのは、俺じゃ駄目か?俺1人じゃ不足かな?」
東雲鈴音の気持ちをあげようとして、そんな言葉を掛けたのだが。
「ふ、ふふふ、不足だなんて、全然、ないよ。な、ななな、成木原君だけで、十分、です」
『リーダーはあたしの事言えない人たらしだと思うにゃ。人たらしというか、女たらしにゃ』
「不名誉な称号を与えるのは、お止め下さる?女たらしは単なる悪口だからな?」
何故だか顔が真っ赤な東雲鈴音と、呆れた声の招木猫。
どうしてこんな状況になっているのか、俺には少しも理解が出来ない。
居心地の悪さは、非常に感じてはいる。
「コホン。それで、本題に移りたいんだけど」
「う、うん。何だい?」
『話の逸らし方が下手くそにゃ。けど今回は見逃してあげるにゃ』
「そいつは有難い。今回のイベントも普段からもそうなんだけど、俺達には難しい取捨選択が必要になると思うんだ」
「取捨選択?」
『何を選択するにゃ?』
取るものと捨てるもの。
それは勿論、こういう事だ。
「プレイヤーでもNPCでも良い。誰を守って、誰を見捨てるのか。誰を優先して、誰を優先しないのか。自己犠牲してまで守るのか。自己犠牲まではしないのか。先に決めておかなければ、行動指針は立てられない」
NOT THE GAMEで命を落とせば、現実世界でも命を落とす。
NOT THE GAMEはゲームであっても、死だけは現実世界とリンクする。
NOT THE GAMEでの戦いは、正しく命懸けの戦いとなる。
そんな命懸けの戦いの中でも、守りたいものを決めなければならない。
それは人でも、心でも良い。
家族、親戚、友達、親友、恋人、顔見知り、顔も名前も知らない誰か。
どこまで守り、どこから守らないのか。
明確な指針は行動の幅を狭めるが、反応速度は研ぎ澄まされる。
これは一瞬の命取りを回避するのに必要になるだろう。
「俺が守りたいのは、パーティーの仲間と家族と隣に住む幼馴染だ。他は積極的に守りに行くつもりはない」
決して長くない俺の腕では、守れる範囲は限られる。
エリア外にいる妹は別にして、NPCの父親と母親。
NPCの幼馴染、柊。
現実的に俺が守れる範囲なんて、そんなものだろう。
『あたしは特にいないにゃ。家族は自分達で何とかするからにゃ。薄情と思われても自分の命が一番にゃ』
招木猫の考え方も、これはありだ。
ゲームで死ねば現実でも死ぬという異常事態。
他人の命なんて気にしている余裕はないってのは、少しぽっちも薄情だなんて思わない。
「私は、守れるならば全員を守りたいと思うよ」
東雲鈴音の考え方は、はっきり言って理想論でしかないが。
実を言うと、東雲鈴音ならそういうだろうなと考えてはいた。
実際に出来る出来ないは別にして、手が届く範囲なら全員を守るって考え方は、東雲鈴音の強さに繋がると思う。
だから否定する気は少しもないし、考え方が異なるからと言って、決別する気も全くない。
「わかった。俺は自分の行動指針を優先しながら、東雲さんの行動指針をサポートするよ。にゃんにゃんもそれで良いか?」
『構わないにゃ。リンリンは最初っからそう言うと思ってたにゃ』
やはり招木猫も同じように考えていたみたいだな。
まだ招木猫は合流出来ていないが、このパーティーの軸は東雲鈴音になる。
危険となれば全力で止めるつもりだが、深く考えずにある程度の自由を与えた方が、東雲鈴音という人間は活きるだろう。
「これで行動指針の共有は完了したかな。あとは狩りをしながら、細かな話を詰める方向で…」
俺が話を切り上げようとしたところ、一匹の犬が足に頭をぶつけて待ったを掛けた。
「おいらはサリーを守りたいんだぞ」
サリー。
なるほどね、サリーか…。
えっと、オイラさん?
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