アオハル・リープ

おもち

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友達

retry21:束の間の楽しさ

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 その後もひとしきり遊び、休憩がてら一息つこうという話になる。

「ほな僕ら飲み物、買うてくるわ」

「ありがとうございます!」

 吉田と丸井で自販機に飲み物を買いに行き、ミカとリイと望杏は待つことにした。

「あ、ミカさん。あそこの猫ちゃんもとっても可愛いですね」

「確かにあのフォルムがなんともいえないな」

「はい!しかもあの色もシックで素敵です」

 リイとミカがクレーンゲームの景品について語っているのを、少し離れたところから望杏は見ていた。そこへ他校生3人組がやってくる。

「ねぇーねぇー、きみさーちょっとお金貸してくんない?」

「誰?お金は貸さないけど、もしかして……カツアゲ?」

 普通なら少しは怯えたり警戒するところを望杏は無表情でさらっと返す。もちろん本人に悪気は一切ない。しかし他校生達は面白くないようで、望杏を囲むようにして詰め寄った。

「うっわ、何にもびびんないじゃん」

「つか中学生?ちびじゃん」

「ガキからお恵み貰おうとする俺ら最低ーぎゃはははは!」

「ねぇ、お金貸してよ。俺ら困ってんだよねー?」

 望杏は相手にどう反応したらいいのか思い悩む。それが他校生達は面白くないらしく、1人が望杏の肩を強く押した。

「っ……」

「お?泣く?」

 望杏が泣くわけないのだが、相手はそんなこと知らないので、下品に笑うだけ。

「何をしている」

 そこへミカとリイがやってきた。冷たいミカの声の後ろでリイが望杏に駆け寄る。

「望杏くん大丈夫ですか?」

「ん、へーき」

「かなり強く押されたみたいですが……」

「それはオレが無反応なのが悪いし、何ともないよ。ちょっと肩痛かっただけだし」

 肩をさすりながら望杏が答える。リイとミカはホッとして望杏を連れて絡んできた他校生から離れようとした。

「おーっと、どこいくのー?」

 しかし目の前に腕を出されて行く手を挟まれる。

「こんな可愛い子たちと一緒とか羨ましいー。俺らとも遊んでよー」

「俺こっちのクールそうな黒髪の子がいいな」

「俺は断然こっちのショートの子」

 一人がリイの腕を掴む。驚いたリイは眉を下げつつも強くは言えずに困ったように笑っていた。

「あの、やめてくださいっ……」

「うわっ、その見た目で敬語とかギャップ萌え。ますます可愛いな」

「ホントだ。なんか虐めたくなる」

 リイが嫌がると、それを面白がって相手はますます調子に乗る。ミカは相手を睨みつけた。

「その手を離せ。嫌がってる」

「えー?何いやなのー?」

「いいじゃん、一緒に遊ぼうよー」

「だからっ……」

 ミカが言い返そうとしたその時「あれー?」と聞き慣れた声が響いた。

「3人とも何しとるん?こちらさん、知り合いか何かなん?」

「誰だお前」

 吉田と丸井が両手に缶ジュースを持って戻ってきたのである。吉田はいつもの笑みを浮かべているが、丸井は無表情で他校生を睨んでいた。吉田と丸井はこの状況を冷静に分析する。腕を掴まれるリイ。肩をさする望杏。相手を睨みつけるミカ。これらの情報でおおよそ検討はつく。

「あ?なんだ?この子らの知り合い?悪いけどもう今から俺らとお楽しみだからー」

「ああ、そこのチビはいらねぇから。そいつはやるよ」

 ギャハハとまた笑い声を上げて他校生はリイを引っ張りミカの肩を掴もうとする。吉田と丸井の動きは早かった。まるで打ち合わせでもしたかのように、吉田はリイの方へ行き相手の手首を捻り上げてリイから引き剥がす。
 そして丸井は他校生の手を払いのけてミカに触れないようにした。

「いててててっ!!?おいっ、離せよ!」

「かわええ夏実ちゃんに気安く触んなやボケが」

 吉田がぼそっと呟くと他校生はサッと顔を青くした。その行動を見てやりすぎてないか?とミカも呆れるが、その言葉は今目の前で自分を守ろうとしている丸井にも言える。丸井が手を払いのけた為に、わざとらしく痛がる他校生。その姿に丸井は眉根を寄せているだけ。

「いったー!これ折れたわ折れた!」

「……じゃあお望み通りに折ってやるよ」

 そう言い相手の肩を外そうとして本気で痛がるのを見て見ぬふりをする。本格的に肩を外す前にミカが止めに入った。

「秋斗、それくらいで」

「ガチギレやん。おー怖」

「お前もだろ」

「僕のは正当防衛ですうー」

 吉田がわざとらしいセリフを棒読みで言うと丸井は舌打ちをしてから手を離す。ミカに視線で咎められた吉田も捻り上げていた相手の手を離した。

「もう2度と私達に絡むなよ」

「じゃねーお兄さん達」

 淡々と言うミカに続いて望杏が一言告げると他校生は一目散に逃げ出した。

「ほな、とりあえず買ってきたジュース飲も?」

 吉田がわざと明るく言うが望杏は淡々と謝罪の言葉を口にした。

「あの……ごめんね。オレのせいで」

「それは違う」

 ミカがきっぱりと言うと望杏は目を丸くした。その様子を見てミカは言葉を続ける。

「私とリイも望杏を守れなかったし、秋斗と冬吾がいなきゃどうにもできなかった。それに、そもそも悪いのはアイツらだ」

「せやでー?望杏が悪いわけちゃうやん。肩さすっとったけど、平気なん?」

「うん、それはもう大丈夫」

 無表情といっても少しずつ感情が表に出てきた望杏は、若干眉を下げて申し訳なさそうな顔をした。それを見て丸井が深いため息を吐くと、望杏の頭をガシガシと乱暴に撫でた。

「マルマル痛いよー」

「うっせ。ほら、もうそろそろ帰んだろ?最後はお前がやりたいの決めろよ」

「そうですね!望杏くん何にしましょう?」

 渡された缶ジュースを飲みながら、望杏は周りを見回す。そこで目についた場所を指差して口を開いた。

「じゃあ、オレあれやりたい」

 それはプリクラだった。

「オレ今まで友達とかいなかったし。なんか記念に残るもの、欲しいなって」

 望杏から出てくる言葉は裏表のない本心。だからこそ、ミカは望杏が口にしたことは叶えてあげたくなる。

「ああ。撮ろうか」

 ミカの言葉を皮切りに残りの3人も頷いた。

「僕プリクラなんか久々やなぁ。ラクガキめっちゃしたろ」

「俺もやったことねー」

「すっごい楽しいですよ。可愛いポーズとか指定されるんです」

「猫のポーズが出たらガチでやるぞ」

「マジかよ」

 ワイワイするみんなをーー友達を見て望杏は小さく口の端を上げた。



「はぁー!今日はとっても楽しかったですね!」

 5人がゲームセンターを出ると辺りはすっかり暗くなっていた。ミカはリイの心の杭を確認する。もうすっかり消え失せており、彼女の笑顔もいつも以上に輝いていた。

「こんな時間まで遊ぶとは思わなかったな」

「ね、でもオレもすっごく楽しかった。プリクラもゲットできたし」

 呟くミカに返すのは、先程撮り5人で分けたプリクラをさっそくスマホケースに貼った望杏。それを眺めて口元に弧を描く。

「今日は楽しいがたくさんわかったよ」

「そりゃよかったな」

「僕もこのメンツでこない盛り上がると思わんかったわ。海やお祭りも一緒なら楽しいかもな」

「そうですね。みんなで行きたいですね」

「……まあ、いいんじゃね?」

「素直やないなぁ」

「うるせーよ」

「ちょっとー2人ともーまた喧嘩したら、なっちゃんが悲しむじゃん」

「いえ、もう平気です。丸井さんのは照れ隠しのツンデレですもんね」

「誰がツンデレだ!」

 こんなどうでもいいやり取りでさえ、ミカは大切に思えてくる。1人だった時には考えもしなかった光景。

「じゃあ、そろそろ帰ろうか」

「ああ、もう遅いし送るで?四季さんも夏実ちゃんも女の子やねんから、夜道は危ないやん」

 ミカの言葉に吉田がそう提案すると、リイは「ありがとうございます」と笑顔で返すがミカは少し眉を顰める。

「いや、それは……」

「あ?なんだよ、俺らじゃ不服か?」

「そうじゃないけど……。でもいいのか?」

「何がだよ?」

「その……私達が送られたら、望杏や秋斗や冬吾が帰り道一人にならないか?」

 少し言いづらそうに言うミカに男3人は少し顔を見合わせて、小さく吹き出した。

「そんなこと気にしなくていいんだよ。黙ってありがたく送られてろ」

「帰るの心配してくれるなら、ミカちゃんの家にお泊まりしよっかな」

「それはさすがにアカンやろ。まぁでも、ここはスマートに送らせて欲しいところやな。可愛いくありがとうって言うてくれたら、それでええねん」

 三者三様の返しだが、それぞれが思いやりをもって言葉にしてくれているのがミカにはわかった。そんな大切な心を向けられて少し戸惑うとミカの手をリイが優しく握る。

「ミカさん、ここは一つ一緒に笑顔で言いましょうよ!」

「なにを……」

「それはもちろん、とびっきりの感謝ですよ!」

 リイが笑顔でミカを導き、2人は男3人にお礼を伝える。ミカの顔は穏やかに微笑んでいた。

 5人は並んで帰路に着き、無事にミカとリイを家の近くまで送り届けて、望杏と丸井と吉田もそれぞれ帰った。


 ミカはベッドの上で、今日の出来事を思い出す。初めてといえる友人との楽しい時間はあっという間で、また遊んでみたいと思えた。

 ーー本当に、みんないい奴らだ。

 ミカは優しい4人の思いに心地よさを感じる。それと同時に、自分だけは隠し事をしていることに後ろめたさを覚えた。望杏もリイも秋斗も冬吾も……心の杭を暴いて今の関係が成り立っている。人の後悔が見えるから、仲良くなれたその事実がミカの心に陰を落とす。

 ーー4人に隠し事をしたくない。でもっ……こればっかりは……


 ミカは眉根を寄せて、布団を頭まで被った。この胸の中の葛藤する想いを全てぐちゃぐちゃに丸めて捨ててしまいたいとさえ思えていた。
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