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第一章 大いなる海竜種
9 カフェでの出会い
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「ほら、ここですよォ」
細い路地に隠れ家のようにひっそりと構えられた店のドアをワーナーさんが開く。
カランカラン、という軽やかな音と共に、優しいハーブの匂いがふわりと香った。
「いい匂い……‼」
「ここのハーブティーは旨いですからね」
漢方……? いや違うな、こんないい匂いのはずがない。
前の旅で非常にお世話になった薬を思いだす。
ハーブティーが好きらしいワーナーさんが目を細めてメイと話をしていると、先に奥に進んでいたベネディクトがああっと声を上げ、ずかずかと大股で店の奥に座っている青年の前まで歩いていく。
そんな大声を出しては他の客の迷惑になるかと一瞬ハラハラしたが、彼と俺たち以外に客はいないようだった。
「お前どこほっつき歩いてたんだよ、ハルイチ‼」
あれ? その名前、どこかで。
首をかしげていると、その青年が顔を上げ、返す。
「昨日はやることがあるから帰らないと行っただろう。 ……おや、和ノ国の者がいるな?」
心地よい低い声が静かに響き、黒曜石のような目がこちらを射抜く。
その只者ではない雰囲気に俺は思わず姿勢を正した。
……俺ってそんなに出身国分かりやすいですかね?
小声でレヴィさんに聞くと黙って首を横に振られる。
ならなんで彼は俺の出身が分かったのだろうか。
「帰らないって朝帰りどころか昼の今もこうしてこんなとこにいるだろ、それなら明日もいつ帰るか分からないとか言えよ、ったく……。確かにこいつはアカリっていう刀使いの和ノ国出身の旅人。で、この嬢ちゃんがその妹のメイ、魔術師だ」
疑問でいっぱいな俺をよそにベネディクトが彼に俺たちを紹介し、取り敢えずぺこりと頭を下げる。すると彼はくつくつと笑うと口を開いた。
「そんなに和ノ国の霊力を纏っていたらすぐに分かるわ。
我はミザクラハルイチという。先日和ノ国から出てきたところだ」
ぴぇ。
間抜けな声が出そうになる。
ミザクラハルイチ。和ノ国の国家元首である将軍の次男。俺とは住んでる世界が違い過ぎる人。てかお目にかかることすらまずないような人。
そんな人とまさか旅先でお会いしました、なんて普通あるか、いやない。
しかも霊力で和ノ国の人間だって知られてる。
「あの……帰っていいすか……?」
そろりと手を上げて申し出るも、ベネディクトに何言ってるんだ、という目で見られて「あ、やっぱ大丈夫ですすみません」と言い直す。
やめて、ホントに心底分からないって目で見ないで。王子のお前からしたら普通のことでも一般庶民の俺にとっては畏れ多過ぎて倒れそうなんです。
俺が泣きそうになっている間にも話は進んでいく。
「やること、つったって何やってたんだ?」
ベネディクトの問に簡単な事だとそのお人は笑う。
「家出宣言だ」
「「「「「…………は?」」」」」
何言ってんのこの人。
全員の声と心が重なった。
「いやお前……え? ワ、ワンモア」
震える声で聞き返すベネディクト。
うん、俺だって今のは聞き間違いだと信じたい。
だが現実は非常に残酷であった。
「家出宣言だ。まあ、正確には旅立ち宣言だがな」
ろくな説明もせずに飛び出して来たからな。しれっと話す。
レヴィさんがあのう、と聞いた。
「その二つの言葉には大きな違いがあると思うのですがそれは」
「正直、帰る気はないからな。 実質家出名目旅立ちだ」
「…………よし、このバカ和ノ国まで届けるぞ」
「送料あっち持ちでいいですよね?」
「待て待て待て」
ワーナーさんに抱え上げられたハルイチ様は手足をジタバタとさせる。
急に幼くなったようだ。
「ベネットお前好きに生きさせろと言ったら嬉しそうだっただろう‼」
「それとこれとは話が別だ‼ 帰る気はないってどういう事だお前‼」
「そのままの意味だ‼ 家を出て一般人になるんだ我は‼」
「やろうとしてる事が一般人のそれじゃねーよゆくゆくは中央神殿に突っ込もうぜとか言ってる奴が一般人でたまるか‼」
「うるさいうるさい一般人になるったらなるんだなってやる‼」
ギャーギャーと騒がしく言い合う二人にどうしようかと困ってしまう。やっぱり止めた方がいいよな、うん、と一歩踏み出した時、ポン、と肩に手が置かれた。一人ゴーイングマイウェイでケーキを食べていたランだ。
穏やかに微笑む彼に微笑み返すと、彼はその肩に乗っているルリに何やら話す。するとルリは瞬きのうちに五十センチ程の大きさ(おそらく第二段階)になると、口を開き、今なお言い合いをしていた二人の顔に水のブレスをお見舞いした。
あ~、掃除しないとな~。
俺は他人事のように思って現実逃避をするしかなかった。
「頭は冷えましたか?」
「「はい…………」」
濡れた床をモップで拭かされた後、そこに正座したマリテの第三王子と和ノ国将軍の次男はレヴィさんのお説教を受けていた。
立場の高い二人が子供にしか見えない彼の前で小さくなっているのはなかなかにシュールで、思わず頬が緩む。
「で、ハルイチ様は何故またこのような突拍子の無いことを?」
彼の言葉にハルイチ様は渋々といった体で口を開く。
本当に嫌そうだが、仕方がない、と態度でめちゃくちゃ言っている。それにレヴィさんの怒りがまた膨らんだように感じて、彼は姿勢を正した。
ちなみに俺はこの人が殿上人過ぎるのもあって一歩離れてそっとベネディクトの影に隠れている。体格の都合上、完璧には隠れられていないが。
正直言って、関わり合いになりたくねぇ……‼
「…………昔から家に籠もっていたからな。父上がはっきりと兄上を跡継ぎに任命したこの期に一人でも十分やっていけるようになりたかったのだ」
「反対はされなかったのですか?」
横からメイが聞くと大丈夫だ、と首を振る。
メイお前、ほんと肝据わってるよなお兄ちゃんびっくり。
「確かにされはしたが、一晩かけて通信魔術《でんわ》で説得したところ、兄上が感涙を流して許可してくださった」
「それ浮世離れしたはた迷惑な弟を世間に出す申し訳なさの涙じゃね?」
「こら、王子、しっ‼」
ベネディクトに対するレヴィさんの反応を見る限り、事実なのだろう。だが彼はその二人の声を気にも留めずにドヤ顔で続ける。
「よって我は一般人への道を歩み始めた訳だ」
どやぁぁぁ
どうしよう、ぶん殴りたいこのドヤ顔。でも殴っちゃ駄目、殴っちゃ駄目、相手殿上人。と自分の右腕を抑えた。ベネディクトがやっちゃっていいよという目で見てくるがやっちゃ駄目だ。
なんだか右手が疼く系の人になってる気がしないでもないが取り敢えず殴っちゃ駄目だ。
そんな俺の様子がわかっているのかいないのか、ハルイチ様はそして、と話す。
「そこの……アカリ、と言ったな?」
「ア、ハイ」
やだ思いっきりハルイチ様の興味が俺に来てる。
突然回ってきたお鉢に戸惑いつつ返事をすると彼はにっ、と口角を上げて、
「お前、敬語禁止な」
「ふぁっ」
何言ってんのこの人(二回目)
あれ、俺は夢を見ているのかな? どこからが夢だったのかなー。
なんかもう逃げ出したいなー。どういうことかなー。
そう現実逃避を始める俺をよそにそのまま言葉がその形の良い唇から紡がれる。
「もう我は跡を継ぐ可能性はないからな、そこまで敬意を払う必要もあるまい。それにたった今出会ったところだ。良き友としての関係を築こうではないか」
「すみません」
「なんだ」
「ちょっと十秒程待っていただけますか」
「構わんが?」
「ありがとうございます」
うん、理解が追いつかない。
頭がパンクしそうになった俺は取り敢えず待ってもらったところで、ふぅ、と息をつき、そして。
パァン
全力で自分の頬を打った。
「「「「「⁉」」」」」
「いっつ……」
「そりゃ痛いでしょうねめっちゃいい音なったもん‼」
「大丈夫ですかっ、氷もらいましょうか⁉」
「頬に当てる氷よりも突然友達なろう宣言されたのが夢ではなかったとわかって混乱している俺の心に当てる氷をください」
「ほらーっ‼ お前が無茶振りするからパニクってるだろ⁉」
「はははそんなに嬉しいかそうかそうか、ほれ、ハルイチと呼んでみろ、我はアカリと呼ぶぞ」
「追い討ち良くない‼」
肩をがしりと組まれ、ほれ、ほれ、とニヤニヤしながら迫られる。
もうお願いです勘弁してくださいホント何でもしますからーっ‼
泣きたくなって蹲りたくなる。するとゴン、という音と共にハルイチ様が頭を抑えてしゃがみ込んだ。
「年下いじめんな‼」
「っつつ……。年上殴るのもどうかと思うぞ」
「必要悪だ」
ふん、と鼻を鳴らしたベネディクトに感謝の眼差しを送る。ありがとう、本当にありがとう。彼はいいってことよ、と言うようにひらりと手を振った。
ハルイチ様はそれをジト目で見るとよっこいせ、と立ち上がって俺に向き直る。今度はにやにやせずに真面目な表情だ。
「……今は少しふざけてしまったが友人になりたいのは本当だ。まあ、呼び捨てや敬語なしの無理強いは我慢しよう。だが……、殿とか様はとってはもらえないか?」
でもやっぱり敬語なしだったらもっと嬉しい、とちゃっかりと付け加える彼の言葉に嘘や偽りは見えない。
そんな態度で接されたらぴしゃりと言えるものも言えなくなる。
だから俺は
「……じゃあ、これからよろしくな。ハルイチ……さん」
ぱあ、と彼の顔が華やいだ。
細い路地に隠れ家のようにひっそりと構えられた店のドアをワーナーさんが開く。
カランカラン、という軽やかな音と共に、優しいハーブの匂いがふわりと香った。
「いい匂い……‼」
「ここのハーブティーは旨いですからね」
漢方……? いや違うな、こんないい匂いのはずがない。
前の旅で非常にお世話になった薬を思いだす。
ハーブティーが好きらしいワーナーさんが目を細めてメイと話をしていると、先に奥に進んでいたベネディクトがああっと声を上げ、ずかずかと大股で店の奥に座っている青年の前まで歩いていく。
そんな大声を出しては他の客の迷惑になるかと一瞬ハラハラしたが、彼と俺たち以外に客はいないようだった。
「お前どこほっつき歩いてたんだよ、ハルイチ‼」
あれ? その名前、どこかで。
首をかしげていると、その青年が顔を上げ、返す。
「昨日はやることがあるから帰らないと行っただろう。 ……おや、和ノ国の者がいるな?」
心地よい低い声が静かに響き、黒曜石のような目がこちらを射抜く。
その只者ではない雰囲気に俺は思わず姿勢を正した。
……俺ってそんなに出身国分かりやすいですかね?
小声でレヴィさんに聞くと黙って首を横に振られる。
ならなんで彼は俺の出身が分かったのだろうか。
「帰らないって朝帰りどころか昼の今もこうしてこんなとこにいるだろ、それなら明日もいつ帰るか分からないとか言えよ、ったく……。確かにこいつはアカリっていう刀使いの和ノ国出身の旅人。で、この嬢ちゃんがその妹のメイ、魔術師だ」
疑問でいっぱいな俺をよそにベネディクトが彼に俺たちを紹介し、取り敢えずぺこりと頭を下げる。すると彼はくつくつと笑うと口を開いた。
「そんなに和ノ国の霊力を纏っていたらすぐに分かるわ。
我はミザクラハルイチという。先日和ノ国から出てきたところだ」
ぴぇ。
間抜けな声が出そうになる。
ミザクラハルイチ。和ノ国の国家元首である将軍の次男。俺とは住んでる世界が違い過ぎる人。てかお目にかかることすらまずないような人。
そんな人とまさか旅先でお会いしました、なんて普通あるか、いやない。
しかも霊力で和ノ国の人間だって知られてる。
「あの……帰っていいすか……?」
そろりと手を上げて申し出るも、ベネディクトに何言ってるんだ、という目で見られて「あ、やっぱ大丈夫ですすみません」と言い直す。
やめて、ホントに心底分からないって目で見ないで。王子のお前からしたら普通のことでも一般庶民の俺にとっては畏れ多過ぎて倒れそうなんです。
俺が泣きそうになっている間にも話は進んでいく。
「やること、つったって何やってたんだ?」
ベネディクトの問に簡単な事だとそのお人は笑う。
「家出宣言だ」
「「「「「…………は?」」」」」
何言ってんのこの人。
全員の声と心が重なった。
「いやお前……え? ワ、ワンモア」
震える声で聞き返すベネディクト。
うん、俺だって今のは聞き間違いだと信じたい。
だが現実は非常に残酷であった。
「家出宣言だ。まあ、正確には旅立ち宣言だがな」
ろくな説明もせずに飛び出して来たからな。しれっと話す。
レヴィさんがあのう、と聞いた。
「その二つの言葉には大きな違いがあると思うのですがそれは」
「正直、帰る気はないからな。 実質家出名目旅立ちだ」
「…………よし、このバカ和ノ国まで届けるぞ」
「送料あっち持ちでいいですよね?」
「待て待て待て」
ワーナーさんに抱え上げられたハルイチ様は手足をジタバタとさせる。
急に幼くなったようだ。
「ベネットお前好きに生きさせろと言ったら嬉しそうだっただろう‼」
「それとこれとは話が別だ‼ 帰る気はないってどういう事だお前‼」
「そのままの意味だ‼ 家を出て一般人になるんだ我は‼」
「やろうとしてる事が一般人のそれじゃねーよゆくゆくは中央神殿に突っ込もうぜとか言ってる奴が一般人でたまるか‼」
「うるさいうるさい一般人になるったらなるんだなってやる‼」
ギャーギャーと騒がしく言い合う二人にどうしようかと困ってしまう。やっぱり止めた方がいいよな、うん、と一歩踏み出した時、ポン、と肩に手が置かれた。一人ゴーイングマイウェイでケーキを食べていたランだ。
穏やかに微笑む彼に微笑み返すと、彼はその肩に乗っているルリに何やら話す。するとルリは瞬きのうちに五十センチ程の大きさ(おそらく第二段階)になると、口を開き、今なお言い合いをしていた二人の顔に水のブレスをお見舞いした。
あ~、掃除しないとな~。
俺は他人事のように思って現実逃避をするしかなかった。
「頭は冷えましたか?」
「「はい…………」」
濡れた床をモップで拭かされた後、そこに正座したマリテの第三王子と和ノ国将軍の次男はレヴィさんのお説教を受けていた。
立場の高い二人が子供にしか見えない彼の前で小さくなっているのはなかなかにシュールで、思わず頬が緩む。
「で、ハルイチ様は何故またこのような突拍子の無いことを?」
彼の言葉にハルイチ様は渋々といった体で口を開く。
本当に嫌そうだが、仕方がない、と態度でめちゃくちゃ言っている。それにレヴィさんの怒りがまた膨らんだように感じて、彼は姿勢を正した。
ちなみに俺はこの人が殿上人過ぎるのもあって一歩離れてそっとベネディクトの影に隠れている。体格の都合上、完璧には隠れられていないが。
正直言って、関わり合いになりたくねぇ……‼
「…………昔から家に籠もっていたからな。父上がはっきりと兄上を跡継ぎに任命したこの期に一人でも十分やっていけるようになりたかったのだ」
「反対はされなかったのですか?」
横からメイが聞くと大丈夫だ、と首を振る。
メイお前、ほんと肝据わってるよなお兄ちゃんびっくり。
「確かにされはしたが、一晩かけて通信魔術《でんわ》で説得したところ、兄上が感涙を流して許可してくださった」
「それ浮世離れしたはた迷惑な弟を世間に出す申し訳なさの涙じゃね?」
「こら、王子、しっ‼」
ベネディクトに対するレヴィさんの反応を見る限り、事実なのだろう。だが彼はその二人の声を気にも留めずにドヤ顔で続ける。
「よって我は一般人への道を歩み始めた訳だ」
どやぁぁぁ
どうしよう、ぶん殴りたいこのドヤ顔。でも殴っちゃ駄目、殴っちゃ駄目、相手殿上人。と自分の右腕を抑えた。ベネディクトがやっちゃっていいよという目で見てくるがやっちゃ駄目だ。
なんだか右手が疼く系の人になってる気がしないでもないが取り敢えず殴っちゃ駄目だ。
そんな俺の様子がわかっているのかいないのか、ハルイチ様はそして、と話す。
「そこの……アカリ、と言ったな?」
「ア、ハイ」
やだ思いっきりハルイチ様の興味が俺に来てる。
突然回ってきたお鉢に戸惑いつつ返事をすると彼はにっ、と口角を上げて、
「お前、敬語禁止な」
「ふぁっ」
何言ってんのこの人(二回目)
あれ、俺は夢を見ているのかな? どこからが夢だったのかなー。
なんかもう逃げ出したいなー。どういうことかなー。
そう現実逃避を始める俺をよそにそのまま言葉がその形の良い唇から紡がれる。
「もう我は跡を継ぐ可能性はないからな、そこまで敬意を払う必要もあるまい。それにたった今出会ったところだ。良き友としての関係を築こうではないか」
「すみません」
「なんだ」
「ちょっと十秒程待っていただけますか」
「構わんが?」
「ありがとうございます」
うん、理解が追いつかない。
頭がパンクしそうになった俺は取り敢えず待ってもらったところで、ふぅ、と息をつき、そして。
パァン
全力で自分の頬を打った。
「「「「「⁉」」」」」
「いっつ……」
「そりゃ痛いでしょうねめっちゃいい音なったもん‼」
「大丈夫ですかっ、氷もらいましょうか⁉」
「頬に当てる氷よりも突然友達なろう宣言されたのが夢ではなかったとわかって混乱している俺の心に当てる氷をください」
「ほらーっ‼ お前が無茶振りするからパニクってるだろ⁉」
「はははそんなに嬉しいかそうかそうか、ほれ、ハルイチと呼んでみろ、我はアカリと呼ぶぞ」
「追い討ち良くない‼」
肩をがしりと組まれ、ほれ、ほれ、とニヤニヤしながら迫られる。
もうお願いです勘弁してくださいホント何でもしますからーっ‼
泣きたくなって蹲りたくなる。するとゴン、という音と共にハルイチ様が頭を抑えてしゃがみ込んだ。
「年下いじめんな‼」
「っつつ……。年上殴るのもどうかと思うぞ」
「必要悪だ」
ふん、と鼻を鳴らしたベネディクトに感謝の眼差しを送る。ありがとう、本当にありがとう。彼はいいってことよ、と言うようにひらりと手を振った。
ハルイチ様はそれをジト目で見るとよっこいせ、と立ち上がって俺に向き直る。今度はにやにやせずに真面目な表情だ。
「……今は少しふざけてしまったが友人になりたいのは本当だ。まあ、呼び捨てや敬語なしの無理強いは我慢しよう。だが……、殿とか様はとってはもらえないか?」
でもやっぱり敬語なしだったらもっと嬉しい、とちゃっかりと付け加える彼の言葉に嘘や偽りは見えない。
そんな態度で接されたらぴしゃりと言えるものも言えなくなる。
だから俺は
「……じゃあ、これからよろしくな。ハルイチ……さん」
ぱあ、と彼の顔が華やいだ。
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