紀元7000年の冒険譚

胡桃幸子

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第一章 大いなる海竜種

13 買い物は計画的に

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 「思わず買い込んじゃった……」

別行動をしているメイ達と合流するために宿までの道を歩く。その道すがら、ランは大束になった薬草を抱えてため息をついた。
背は俺と同じ位か少し高いか位だが、なんせ細見なのでその重みで折れてしまいそうに見える程の束の大きさに思わずうわぁ、と声が漏れる。
身体より束が大きいってどういうことだよ。

「少し持とうか、見てるこっちが折れそうで恐い」
「ふふ、大丈夫だよ。流石の僕もそこまで柔じゃないって」
「そう言うわりにはフラフラしてんじゃねえか」

干し薬草もこれだけあればそれなりに重いんだな、と言いながらベネディクトが横からひょいと束の一つを持った。ちょっと、と声を上げるランの頭をぽすぽすと叩いて、いいだろ、と笑う。

ああ、きっとこういうことを自然にできる奴がモテるんだろうなぁ……。顔もいいしなぁ……。

ランは不満そうに唇を尖らせたが、ベネディクトには何を言っても無駄だと思ったのか礼を言って残りの束をしっかりと抱え直した。


 「あ、兄ちゃーん」
「お、メェェェイ?」

手を振る妹を見つけ、振返そうとして首を傾げる。急に立ち止まった俺にランはどうしたの、と声をかけるが、駆けてくるメイを見て、その顔をほころばせる。

「わあ。メイちゃん、可愛いの着けてるね」

そう、それだ。俺が首を傾げたのは、妹の銀髪に藍色の飾りが着いていたからだ。
繊細な装飾が施されているそれは、素人目に見ても高級品であることがうかがえる。

てか昔船長が見せてくれた超高価な装飾品と同じ感じがする。たしかあれ、ゼロ何個付いてたっけ……。

「でしょ、きれいでかわいいでしょ?」
「……うん、綺麗で可愛いな」

取り敢えず下手なことを言って妹の機嫌を悪くするのはごめんなので素直に褒める。
そのままベネディクトとワーナーさんの所に行った彼女がころころと笑うのを横目にハルイチさんとレヴィさんに聞いた。

「あの、メイの髪飾り、どうしたんですか」
「あー……。まあ、気分だ、気分」
「気分で買えるようなモンじゃないですよね、アレ。ゼロが何個も付いてる系のやつですよね俺なんか見たことあるもん‼」

ここまで言うとハルイチさんは言い逃れが面倒になったのか力業に出始めた。

「……あぁ~、もうっ‼ 我らからの好意だ、大人しく取っておけ‼」
「女の子というものはどんなも綺麗で可愛いものが大好きなんですっ‼」

レヴィさんそれ言い訳になってない。

更に言葉を重ねようとすると勢いよく押し切られ、メイの元へと背中を押される。その力の強さに少しよろめくがなんとか踏み留まって抗議の声を上げようとするも目で促され、彼女の傍へと行く。

「ハルイチさんとレヴィさんが買ってくれたの。ほら、兄ちゃんと同じ藍色」

……たしかにその髪飾りは俺の髪と同じ紺青色で、彼女の銀髪によく映えていて、かわいい。

おそろいーと笑うメイの可愛さに思わず抱き締めそうになる。
さっきはああ言ったがハルイチさんとレヴィさんナイス、と二人に向かってサムズアップした。

ハルイチさんのあのドヤ顔は多分一生忘れない。



 「やー、ランさん買い込んでたねぇ」

ベッド腰掛けているメイにそうだな、と返す。
ランにその量の薬草は持てるのか聞くと、薬とかにしてあとは押し込めばなんとかなると言っていたが。
俺は断言しよう。絶対無理だと。

……明日にでもメイに空間魔術と重力魔術をかけさせよう。

明日は明後日の出発に向けて身体を休めろと言われたが、どうせ彼はまた薬草や薬を求めて街へとくりだすのだろう。きっとまたフラフラになるだろうからこっそり付いて行って、丁度いいところで助けてやろうかと思いながら今日の彼の姿を思い出して笑みを零す。

「ま、どうへ明日も懲りずに買いに出るだろうからな。一日何もしないのも暇だし、尾行するか」
「よしきた気配遮断は任せろ」

ノリのいい妹を持つとこういう時本当に楽しいと、身体を休めるということは思考の彼方に忘れ去って思った。



 そして迎えた翌朝。

「こんな朝早くなのにぱっちりおめめで部屋から出てきましたどうぞ」
「了解、そのまま尾行を続けろどうぞ」

俺にも出来るような簡単な通信魔術でメイと連絡を取り合う。道具となるのは手首に巻いたブレスレットに通されている宝石だ。
ランよりある程度距離を取って、メイは魔術で気配遮断をしているためずっと彼の後ろをついていく。

遠目に見ても、日が昇り始めたばかりの時間だというのにランは軽い足取りなのがよくわかる。
ちなみに俺は師匠の元での修行のおかげで朝には強い。特技は三秒で寝ることと時間ピッタリに起きることです。
……この特技はなんかちょっと虚しいな。

「さっそく薬屋に入りましたどうぞ」
「よし待機だ。いいな、大量に買い込んでフラフラしてるところでカッコよく登場だからなどうぞ」
「わかってる、決めポーズ付きでしょどうぞ」
「流石我が妹兄は誇らしいぞ」

メイとそんな会話をしながらターゲットに気付かれないように歩く。

市場の客引きを躱すのももう慣れてきた。
右から左から掛かるお兄さん、坊っちゃん、という声に愛想のいい笑みを浮かべて首を振り、それでいて彼からは目を離さない。
気分は昔読んだ本であった探偵だ。となるとお供のパンか何かが欲しい。
ランが店に入ったすきに傍の店で朝食前の鳴る腹を抑える為にパンを買う。ほんのりと甘くて柔らかい、ミルクパンだ。
メイの分も買い、素早く手渡してもしゃもしゃと食べていると……出て来た。

(こりゃまた大荷物で……)

そろそろか、と口に残りのパンを放り込んで咀嚼する。ごくんと飲み込んだところでメイと頷き合い、ランの目の前に身体を滑り込ませた。
計画通り‼ きっとランはびっくりしてその黄色い目を丸くさせるだろう。ちょっとすましたところのある彼のその様子はきっと見物だ。

ふはは、そんな顔が見たいんだよ俺は‼

「おはようラン。またフラフラしてるけどなんなら俺たちが宿まで運ぶの手伝ってや」
「あーっ、アカリ君‼ おはよう、突然だけどちょっと付き合ってくれない⁉」
「最後まで言わせて⁉」
「え⁉ 何か言った⁉」
「あー……。うん、いいよもう」

俺を見た瞬間に彼が叫んだせいでぐだぐだなってしまった……。
メイなんて中々に酷い顔をしている。うん、頑張って尾行したのにな。けど年頃の女の子がそんな顔したら駄目だとお兄ちゃん思うんだ。
計画が一瞬でおじゃんになり静かに落胆する俺たちをよそにランは興奮して言葉を続ける。

「そこの店主に聞いたんだけどね、あっちの店で薬草詰め放題やってるんだって‼ 一人一種類一袋‼ メイちゃんも手伝って‼」

そう言うなり人の間を縫って駆けていった彼の背中をため息をついて追いかけた。



 「重い……」
「言わんこっちゃない」

だってぇ……とぐずるランの荷物を持ってやる。昨日とは違い、朝から買い物をしていたへいかまた随分と重い。

「こんなに大量に買ってどうするんだよ……」
「……君たちみたいな戦士系の旅人や職業の人たちが大量消費する薬一つ作るのにどんだけ薬草が必要だと思ってんの」
「……すみません」
「もー、兄ちゃんジョーシキなさ過ぎ」

仕方ないだろう、俺にはそっち方面の専門知識なんてないんだから。

ランの真顔の返しに半ば開き直りのような言い訳を脳内で吐くが妹の冷たい目に口を引き結んで活気のある宿への道を歩く。
常夏のマリテの首都は今日も例外なく暑い。

(でもまだ、風通しがいい分和ノ国よりはマシか)

流れる汗を拭って、薬草の束を抱え直した。
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