紀元7000年の冒険譚

胡桃幸子

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第一章 大いなる海竜種

12 道具屋にて

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 アカリ達が鍛冶屋に行っているその頃、メイ、ハルイチ、レヴィは道具屋に来ていた。


 道具屋の中は物が大量に溢れているが、それでもきちんと整理が行き届いており、気を悪くする事はない。多くの魔術師、霊術師らしき人々がそれらを手に取って眺めたりして目当てのものを探している。
道具だけではなく魔術書も並んでいるその店は、まさに魔術、霊術のなんでも屋という風だ。


 その中をメイは目を輝かせて歩く。
喜びと興奮が全身から溢れ出ているのが目に見えてわかる。

「すごいですね。大きな街って、道具屋もこんなに大きいんだ」
「アスターは世界の流通の中心地だからな。この道具屋は世界でも一位、二位を争う大きさと品揃えだ」
「困ったらここに来れば大体なんとかなるって言われてるくらいですからね」

それを聞いたメイはそれなら、とくるりと振り返った。服の裾がふわりと広がる。その様子を眺めていた他の客たちは頬を緩めた。

「一位、二位を争うってことは、他にはどんな道具屋があるんですか?」

丁寧な言葉遣いの裏で、知りたい、と雄弁に語る目にハルイチは苦笑して、そうだなと顎に手をやった。

(大人しそうに見えて存外お転婆なんだな、この娘は)

そう思いつつ言葉を紡ぐ。

「ウラノスの首都、テアンにある道具屋は、品揃えや大きさはここに劣るが、扱う道具がみな貴重で珍しいものばかりだと聞いた事がある。高度な術をしようと思ったらそちらに行った方がいいかもな」
「他には、テッラにも昔はいい道具屋がたくさんあったのですが……。工業化の波に押されて多くが無くなってしまったそうです」
「工業化?」

何それ、わかんない。
頭上にクエスチョンマークを浮かべる少女の問いに、レヴィは答える。

「工業化というのは錬金術ではない、謂わばモノの大量生産です。魔力や霊力を使わず、同じモノを同じクオリティでたくさん作れるので、少ない人数で多くの利益を上げることが可能になります」
「だから、手間暇かかる錬金術のような魔術はお役御免、ということでテッラの大都市では神秘離れが著しいらしい」
「それは……」

なんだか、悲しいです。

そう言ったメイの頭をワシワシと撫でるハルイチ。
見る限り魔術が大好きなのであろうこの娘にとってそれが蔑ろにされるのが悲しいというのは実に素直な感想で、その素直さがハルイチからすると好ましかった。

「まあ魔術の効率が悪いのは確かだからな。だが魔術や霊術でしか出来ないことも多くあるということを覚えていればいい」

はいっと元気よく返事したメイに彼は頬を緩める。今彼の胸を占めているのは父性だ。



 「ああ、あった‼ これです、この本が欲しかったんです」
「お、あったか」
「はいっ‼」

目当ての物を見つけたらしいメイは二人に本の表紙を見せた。
その本は錬金術の古典と名高いものであり、簡単に出来るものから何日もかかるような複雑なものまで、ピンからキリまで書かれている。
その一冊で大体の錬金術は網羅されていると言っても過言ではない。

「噂には聞いていましたが、これまで目にしたことは無かったのです。やはりここにはなんでもあるのですね‼」

花を撒き散らす勢いで喜ぶ彼女に目を細める大人二人。

ああ、若いっていいなあ。
自分たちにも、こんな時期があったんだろうなあ。
あれなんか目の前が霞む……。

胸の内からこみ上げるものを抑えるようにレヴィは言った。

「メイさんは本当に魔術がお好きなんですね」
「ええ、それはもう‼」

ぱあっと笑ってメイは答え、我ながらセンスある方だと思うんですよ私‼ と話す。

「基本的なものはだいたい魔術式や魔法陣がなくても呪文詠唱で発動出来るまでになったんですよ‼」
「呪文詠唱で⁉」
「ほうほう、これはなかなかだな」


 魔術というものは、基本的に発動には魔術式や魔法陣を必要とする。
しかし、それは元々は呪文詠唱で発動するものを簡略化し、発動しやすくしたものだ。その分効果は薄まるが簡単で消費魔力も少ない。
それを呪文詠唱で行う事が出来るというのは、その人物の知識と技術、そして魔力量の高さを表していた。


それをたった十四歳の少女がしているのだから、驚くのも無理はない。

メイは頑張ったんですよ‼ と誇らしげに話す。

「私は拾われっ子ですからね、人に誇れるものが一つでいいから欲しかったんです‼」

その言葉にハルイチとレヴィは動きを止めた。

「拾われっ子……?」
「あれ、言ってませんでしたっけ?」
「いや聞いてない……。というかさらりとそんなこと話しても大丈夫なのか……?」

ハルイチの問いにメイは全然大丈夫ですよ~と笑う。

「赤ちゃんの頃、町の裏手の山に捨てられていたらしくて。そのことでからかわれるのが多かったので拾われっ子でも胸を張っていけるようにしたかったんです。
……兄にもそれで迷惑は掛けたくありませんでしたし。
なので兄が旅に飛び出して行った時は寂しいというよりチャンスだって思いましたね。帰ってきたら妹がめちゃくちゃ凄くなってたってびっくりさせてやろうと思いまして」

いじめっ子に崇められるまでいったんですよーと小さな胸を張るメイ。

(ちなみに、その当の兄はナイフ一本で旅に飛び出したせいで旅初日に故郷に帰れることなく死にかけている。)

しかし、ドヤ顔で二人に向き直った彼女は全力で困った。

「ど、どうしたんですか胸を抑えて這いつくばって‼ どこか悪いんですかっ、て、店員さーんっ‼」
「ち、違う、体は問題ない……。ただ、心がちょっと……」
「突然の身の上話地雷です……。心の準備が……」

床に転がる成人男性二人とそのそばでオロオロする少女。何も知らない人が見たら即刻街の警備をしている軍警に通報するだろう。
だが幸い、近くに人はいなかった。

後で何か買ってあげよう。

ハルイチとレヴィの心が一つになった瞬間だった。
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