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第一章 大いなる海竜種
15 穢された竜玉
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手が離せないランの代わりにドアを開けて一声。
「……王子って暇なのか?」
「ああ暇だな、俺は‼」
思わず溢れた悪態にベネディクトは輝かんばかりの笑顔で答える。
なんでお前がこんなとこに来てるんだよ明日の出発の準備がどうたらって言ってただろという俺の眼差しに後ろに控えていたワーナーさんが申し訳無さそうに視線を下に落とした。
ワーナーさん、貴方は何も悪くない。だからそんな顔しないで。
「今朝調査隊が帰ってきてさ。お前達に知らせなきゃと思って準備アンディーに押し付けて出て来たんだ」
「暇じゃねーじゃねーか他にもっと方法あったろ⁉」
反射的にツッコミを入れた俺をメイがどうどう、と宥めた。
てかどうどうって牛とか馬相手に使うやつだろ⁉ 俺は暴れ牛かっ‼ それとも馬かっ‼
「落ち着いて、兄ちゃん」
「落ち着いていらいでか‼」
「そうです、もっとこの猪突猛進王子に言ってやってください」
「レニー酷い‼」
ギャーギャーと騒ぎ立てる俺たちのうちの誰かの身体がガン、と何かにぶつかる。
「「「「あ」」」」
見ると、床に広げられていた器具のうちの一つが固定している金具から外れ、真っ直ぐに自由落下中だった。
やっべ、落ちる‼
と思うのも束の間、ぱしりと横から伸びた手がそれを受け止めていた。
勿論、言わずもがな彼である。
「……あのさぁ」
地を這うようなその声にピシリと固まった俺たちはさっとベネディクトを盾にするように姿勢を正す。
俺一人を犠牲にしないでとか何とか聞こえた気もするが無視だ無視。
てか一番の原因お前だろ。
「騒ぐのはさ、いちんだよ別に」
「「「「うぃっす」」」」
「でもね、暴れていいなんて、誰も言ってないよね……?」
「「「「すいまっせんっでしたーっ‼」」」」
ランの後ろにドラゴンが見えた。いやマジで本気で。
「で、知らせたいことって?」
ちゃんと座ってベネディクトを見やる。ランは話を聞きながらも精油を作る為の器具を片付け、今度はなにやら薬を煎じているようだ。
話を聞きながらそんな細かい作業をするなんて、けっこうランって器用なんだな。
ベネディクトはそうそれ、と言うと話し始める。
「ほら、海竜種の巣に何かあるみたいだって話したろ? それの詳しい事がわかったんだが、どうやら巣の一番奥にある竜玉が異常をきたしているらしい」
「竜玉って……あれか、確か竜の魔力の源ってやつか」
「ああ。それが何故か穢されて、それで竜たちは苦しんでいるとの事だ。港を襲ったのもおそらく、苦し紛れだな」
「そうか……」
それを聞いて、あの竜たちには悪いことをしたな、と少し後悔する。
彼は仕方がない、と困ったような顔で肩を竦めた。
「あそこで何とかしなきゃ、今頃街は瓦礫の山だ」
竜玉とは、竜の魔力、いわば力の源であり命だ。それぞれの巣に必ず一つはあると言われ、その巣の竜たちは魔力でその竜玉と繋がっている。
竜の卵はその魔力によって生み出され、そしてその生まれた竜は竜玉の力によって魔法を操る。ブレスなどがその代表だ。
竜玉は常に竜たちに影響を及ぼし、それが穢されれば当然その魔力も穢される。本来清らかな生物である竜からしてみれば強力な毒だ。
しかし、魔力の繋がりを断ってしまえば竜玉によって生かされている彼らは死んでしまう。
それくらい、竜玉と竜の繋がりは強いのだ。
「どうして穢されたのか、何か原因っぽいのはあったのかい?」
ランが動かす手と視線はそのままに、実に冷静な質問をする。
やはり医者なだけあって、かなり頭の良さが見てとれる。……俺の頭? 聞いてくれるな。
「うーん……。生まれて間もない子供の竜はあまり竜玉の影響を受けていないから比較的友好的だったって聞いたが……。
竜たちも何が起こったのかよく分からないらしい。訳が分からないままに突然竜玉が穢れて、近付く事すら出来なくなってしまったって言っていた、と」
「……その巣の竜は、子供でも人間と念話が出来るのですか?」
メイが問を投げる。
竜は知能が高く、人間の言葉を理解する。しかし、人間と直接言葉を交わすとなるとある程度大きく成長し、なおかつ魔力も強いものによる念話しか手段は無い。
子供の竜とでもそれが出来たのなら、図鑑を書き換えなくてはならなくなるだろう。
……俺でもこれくらい分かるぞ一般常識だからな‼
いや、とベネディクトが首を振った。
「かつて群れの長だった老竜がほとんど竜玉との繋がりが切れていて無事だったから事情を聞くことが出来た、と報告にはあった。
その竜は俺たちがしようとしていることを歓迎して、協力もしてくれるそうだ。
マリテ王室の名を出したら一発だったと。ネームバリューってデカイな、ご先祖様に感謝だ」
竜は生まれた時は竜玉との繋がりは弱い。そこから大人になるにつれてそれはどんどん強くなり、老いると共にまた弱くなる。その分魔力は弱くなるが、そこまで生き残ってきたということはかなりの手練だ。
人望、いやこの場合は竜望か? とにかくそういうものもある。そんな竜の協力が得られたという野はかなり心強い。
ベネディクトが言っていた正気に戻った竜も、他の竜に比べて老いていたか幼かったのだろう。
「とは言っても竜玉の近くまでの案内しかできないらしいけどな。まあ竜の巣は複雑だから、それだけでも十分ありがたい」
そりゃそうだろう。案内さえいれば危険なルートを回避しやすくなる分、竜玉にも辿り着きやすくなる。
そこまで言うと、今度はワーナーさんが口を開く。
「巣の中及びその周辺はその竜玉の影響かかなり瘴気が強いそうです。休めるうちにしっかり休んで、大事な時にブッ倒れないようにしてくださいよォ。運ぶのとか面倒なんで」
「こら、レニー」
「いや、事実だからなぁ。わかりました、気を付けます」
彼の言葉をベネディクトが咎めるが、実際倒れたりとかしたら面倒だし足手まといになるので素直に頷く。
それに満足したらしいワーナーさんは目を細めた。
それを見て小さくため息をついたベネディクトはよしっ、と立ち上がる。
「この事を伝えたかっただけだからな、そろそろ帰らないとアンディーにキレられる」
「飛び出した時点で半ギレでしたけどねェ」
もう手遅れデショ。と言うワーナーさんにベネディクトは希望を持とう‼ と返してニッと笑った。
彼のポジティブさは素直に称賛にあたると思う。取り敢えず心の中で拍手喝采を贈ろう。
「明日の出発は日の出と同時だ。それまでに東の港の一番北の桟橋に来てほしい」
「了解、何かいる物は?」
「そうだなぁ、お前たちの身一つと得物」
それ以外は自由‼ と言うなりじゃあ明日な、と彼は部屋から出て行く。ワーナーさんもよろしくお願いしますよォ、と言ってその後を追っていった。
「……王子って暇なのか?」
「ああ暇だな、俺は‼」
思わず溢れた悪態にベネディクトは輝かんばかりの笑顔で答える。
なんでお前がこんなとこに来てるんだよ明日の出発の準備がどうたらって言ってただろという俺の眼差しに後ろに控えていたワーナーさんが申し訳無さそうに視線を下に落とした。
ワーナーさん、貴方は何も悪くない。だからそんな顔しないで。
「今朝調査隊が帰ってきてさ。お前達に知らせなきゃと思って準備アンディーに押し付けて出て来たんだ」
「暇じゃねーじゃねーか他にもっと方法あったろ⁉」
反射的にツッコミを入れた俺をメイがどうどう、と宥めた。
てかどうどうって牛とか馬相手に使うやつだろ⁉ 俺は暴れ牛かっ‼ それとも馬かっ‼
「落ち着いて、兄ちゃん」
「落ち着いていらいでか‼」
「そうです、もっとこの猪突猛進王子に言ってやってください」
「レニー酷い‼」
ギャーギャーと騒ぎ立てる俺たちのうちの誰かの身体がガン、と何かにぶつかる。
「「「「あ」」」」
見ると、床に広げられていた器具のうちの一つが固定している金具から外れ、真っ直ぐに自由落下中だった。
やっべ、落ちる‼
と思うのも束の間、ぱしりと横から伸びた手がそれを受け止めていた。
勿論、言わずもがな彼である。
「……あのさぁ」
地を這うようなその声にピシリと固まった俺たちはさっとベネディクトを盾にするように姿勢を正す。
俺一人を犠牲にしないでとか何とか聞こえた気もするが無視だ無視。
てか一番の原因お前だろ。
「騒ぐのはさ、いちんだよ別に」
「「「「うぃっす」」」」
「でもね、暴れていいなんて、誰も言ってないよね……?」
「「「「すいまっせんっでしたーっ‼」」」」
ランの後ろにドラゴンが見えた。いやマジで本気で。
「で、知らせたいことって?」
ちゃんと座ってベネディクトを見やる。ランは話を聞きながらも精油を作る為の器具を片付け、今度はなにやら薬を煎じているようだ。
話を聞きながらそんな細かい作業をするなんて、けっこうランって器用なんだな。
ベネディクトはそうそれ、と言うと話し始める。
「ほら、海竜種の巣に何かあるみたいだって話したろ? それの詳しい事がわかったんだが、どうやら巣の一番奥にある竜玉が異常をきたしているらしい」
「竜玉って……あれか、確か竜の魔力の源ってやつか」
「ああ。それが何故か穢されて、それで竜たちは苦しんでいるとの事だ。港を襲ったのもおそらく、苦し紛れだな」
「そうか……」
それを聞いて、あの竜たちには悪いことをしたな、と少し後悔する。
彼は仕方がない、と困ったような顔で肩を竦めた。
「あそこで何とかしなきゃ、今頃街は瓦礫の山だ」
竜玉とは、竜の魔力、いわば力の源であり命だ。それぞれの巣に必ず一つはあると言われ、その巣の竜たちは魔力でその竜玉と繋がっている。
竜の卵はその魔力によって生み出され、そしてその生まれた竜は竜玉の力によって魔法を操る。ブレスなどがその代表だ。
竜玉は常に竜たちに影響を及ぼし、それが穢されれば当然その魔力も穢される。本来清らかな生物である竜からしてみれば強力な毒だ。
しかし、魔力の繋がりを断ってしまえば竜玉によって生かされている彼らは死んでしまう。
それくらい、竜玉と竜の繋がりは強いのだ。
「どうして穢されたのか、何か原因っぽいのはあったのかい?」
ランが動かす手と視線はそのままに、実に冷静な質問をする。
やはり医者なだけあって、かなり頭の良さが見てとれる。……俺の頭? 聞いてくれるな。
「うーん……。生まれて間もない子供の竜はあまり竜玉の影響を受けていないから比較的友好的だったって聞いたが……。
竜たちも何が起こったのかよく分からないらしい。訳が分からないままに突然竜玉が穢れて、近付く事すら出来なくなってしまったって言っていた、と」
「……その巣の竜は、子供でも人間と念話が出来るのですか?」
メイが問を投げる。
竜は知能が高く、人間の言葉を理解する。しかし、人間と直接言葉を交わすとなるとある程度大きく成長し、なおかつ魔力も強いものによる念話しか手段は無い。
子供の竜とでもそれが出来たのなら、図鑑を書き換えなくてはならなくなるだろう。
……俺でもこれくらい分かるぞ一般常識だからな‼
いや、とベネディクトが首を振った。
「かつて群れの長だった老竜がほとんど竜玉との繋がりが切れていて無事だったから事情を聞くことが出来た、と報告にはあった。
その竜は俺たちがしようとしていることを歓迎して、協力もしてくれるそうだ。
マリテ王室の名を出したら一発だったと。ネームバリューってデカイな、ご先祖様に感謝だ」
竜は生まれた時は竜玉との繋がりは弱い。そこから大人になるにつれてそれはどんどん強くなり、老いると共にまた弱くなる。その分魔力は弱くなるが、そこまで生き残ってきたということはかなりの手練だ。
人望、いやこの場合は竜望か? とにかくそういうものもある。そんな竜の協力が得られたという野はかなり心強い。
ベネディクトが言っていた正気に戻った竜も、他の竜に比べて老いていたか幼かったのだろう。
「とは言っても竜玉の近くまでの案内しかできないらしいけどな。まあ竜の巣は複雑だから、それだけでも十分ありがたい」
そりゃそうだろう。案内さえいれば危険なルートを回避しやすくなる分、竜玉にも辿り着きやすくなる。
そこまで言うと、今度はワーナーさんが口を開く。
「巣の中及びその周辺はその竜玉の影響かかなり瘴気が強いそうです。休めるうちにしっかり休んで、大事な時にブッ倒れないようにしてくださいよォ。運ぶのとか面倒なんで」
「こら、レニー」
「いや、事実だからなぁ。わかりました、気を付けます」
彼の言葉をベネディクトが咎めるが、実際倒れたりとかしたら面倒だし足手まといになるので素直に頷く。
それに満足したらしいワーナーさんは目を細めた。
それを見て小さくため息をついたベネディクトはよしっ、と立ち上がる。
「この事を伝えたかっただけだからな、そろそろ帰らないとアンディーにキレられる」
「飛び出した時点で半ギレでしたけどねェ」
もう手遅れデショ。と言うワーナーさんにベネディクトは希望を持とう‼ と返してニッと笑った。
彼のポジティブさは素直に称賛にあたると思う。取り敢えず心の中で拍手喝采を贈ろう。
「明日の出発は日の出と同時だ。それまでに東の港の一番北の桟橋に来てほしい」
「了解、何かいる物は?」
「そうだなぁ、お前たちの身一つと得物」
それ以外は自由‼ と言うなりじゃあ明日な、と彼は部屋から出て行く。ワーナーさんもよろしくお願いしますよォ、と言ってその後を追っていった。
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