紀元7000年の冒険譚

胡桃幸子

文字の大きさ
18 / 52
第一章 大いなる海竜種

15 穢された竜玉

しおりを挟む
 手が離せないランの代わりにドアを開けて一声。

「……王子って暇なのか?」
「ああ暇だな、俺は‼」

思わず溢れた悪態にベネディクトは輝かんばかりの笑顔で答える。
なんでお前がこんなとこに来てるんだよ明日の出発の準備がどうたらって言ってただろという俺の眼差しに後ろに控えていたワーナーさんが申し訳無さそうに視線を下に落とした。
ワーナーさん、貴方は何も悪くない。だからそんな顔しないで。

「今朝調査隊が帰ってきてさ。お前達に知らせなきゃと思って準備アンディーに押し付けて出て来たんだ」
「暇じゃねーじゃねーか他にもっと方法あったろ⁉」

反射的にツッコミを入れた俺をメイがどうどう、と宥めた。
てかどうどうって牛とか馬相手に使うやつだろ⁉ 俺は暴れ牛かっ‼ それとも馬かっ‼

「落ち着いて、兄ちゃん」
「落ち着いていらいでか‼」
「そうです、もっとこの猪突猛進王子に言ってやってください」
「レニー酷い‼」

ギャーギャーと騒ぎ立てる俺たちのうちの誰かの身体がガン、と何かにぶつかる。


「「「「あ」」」」


見ると、床に広げられていた器具のうちの一つが固定している金具から外れ、真っ直ぐに自由落下中だった。

やっべ、落ちる‼

と思うのも束の間、ぱしりと横から伸びた手がそれを受け止めていた。
勿論、言わずもがな彼である。

「……あのさぁ」

地を這うようなその声にピシリと固まった俺たちはさっとベネディクトを盾にするように姿勢を正す。
俺一人を犠牲にしないでとか何とか聞こえた気もするが無視だ無視。
てか一番の原因お前だろ。

「騒ぐのはさ、いちんだよ別に」
「「「「うぃっす」」」」
「でもね、暴れていいなんて、誰も言ってないよね……?」
「「「「すいまっせんっでしたーっ‼」」」」

ランの後ろにドラゴンが見えた。いやマジで本気で。



 「で、知らせたいことって?」

ちゃんと座ってベネディクトを見やる。ランは話を聞きながらも精油を作る為の器具を片付け、今度はなにやら薬を煎じているようだ。
話を聞きながらそんな細かい作業をするなんて、けっこうランって器用なんだな。
ベネディクトはそうそれ、と言うと話し始める。

「ほら、海竜種の巣に何かあるみたいだって話したろ? それの詳しい事がわかったんだが、どうやら巣の一番奥にある竜玉が異常をきたしているらしい」
「竜玉って……あれか、確か竜の魔力の源ってやつか」
「ああ。それが何故か穢されて、それで竜たちは苦しんでいるとの事だ。港を襲ったのもおそらく、苦し紛れだな」
「そうか……」

それを聞いて、あの竜たちには悪いことをしたな、と少し後悔する。
彼は仕方がない、と困ったような顔で肩を竦めた。

「あそこで何とかしなきゃ、今頃街は瓦礫の山だ」


 竜玉とは、竜の魔力、いわば力の源であり命だ。それぞれの巣に必ず一つはあると言われ、その巣の竜たちは魔力でその竜玉と繋がっている。
竜の卵はその魔力によって生み出され、そしてその生まれた竜は竜玉の力によって魔法を操る。ブレスなどがその代表だ。
竜玉は常に竜たちに影響を及ぼし、それが穢されれば当然その魔力も穢される。本来清らかな生物である竜からしてみれば強力な毒だ。
しかし、魔力の繋がりを断ってしまえば竜玉によって生かされている彼らは死んでしまう。
それくらい、竜玉と竜の繋がりは強いのだ。


 「どうして穢されたのか、何か原因っぽいのはあったのかい?」

ランが動かす手と視線はそのままに、実に冷静な質問をする。
やはり医者なだけあって、かなり頭の良さが見てとれる。……俺の頭? 聞いてくれるな。

「うーん……。生まれて間もない子供の竜はあまり竜玉の影響を受けていないから比較的友好的だったって聞いたが……。
竜たちも何が起こったのかよく分からないらしい。訳が分からないままに突然竜玉が穢れて、近付く事すら出来なくなってしまったって言っていた、と」
「……その巣の竜は、子供でも人間と念話が出来るのですか?」

メイが問を投げる。

竜は知能が高く、人間の言葉を理解する。しかし、人間と直接言葉を交わすとなるとある程度大きく成長し、なおかつ魔力も強いものによる念話しか手段は無い。
子供の竜とでもそれが出来たのなら、図鑑を書き換えなくてはならなくなるだろう。
……俺でもこれくらい分かるぞ一般常識だからな‼

いや、とベネディクトが首を振った。

「かつて群れの長だった老竜がほとんど竜玉との繋がりが切れていて無事だったから事情を聞くことが出来た、と報告にはあった。
その竜は俺たちがしようとしていることを歓迎して、協力もしてくれるそうだ。
マリテ王室の名を出したら一発だったと。ネームバリューってデカイな、ご先祖様に感謝だ」


 竜は生まれた時は竜玉との繋がりは弱い。そこから大人になるにつれてそれはどんどん強くなり、老いると共にまた弱くなる。その分魔力は弱くなるが、そこまで生き残ってきたということはかなりの手練だ。
人望、いやこの場合は竜望か? とにかくそういうものもある。そんな竜の協力が得られたという野はかなり心強い。
ベネディクトが言っていた正気に戻った竜も、他の竜に比べて老いていたか幼かったのだろう。


 「とは言っても竜玉の近くまでの案内しかできないらしいけどな。まあ竜の巣は複雑だから、それだけでも十分ありがたい」

そりゃそうだろう。案内さえいれば危険なルートを回避しやすくなる分、竜玉にも辿り着きやすくなる。
そこまで言うと、今度はワーナーさんが口を開く。

「巣の中及びその周辺はその竜玉の影響かかなり瘴気が強いそうです。休めるうちにしっかり休んで、大事な時にブッ倒れないようにしてくださいよォ。運ぶのとか面倒なんで」
「こら、レニー」
「いや、事実だからなぁ。わかりました、気を付けます」

彼の言葉をベネディクトが咎めるが、実際倒れたりとかしたら面倒だし足手まといになるので素直に頷く。
それに満足したらしいワーナーさんは目を細めた。
それを見て小さくため息をついたベネディクトはよしっ、と立ち上がる。

 「この事を伝えたかっただけだからな、そろそろ帰らないとアンディーにキレられる」
「飛び出した時点で半ギレでしたけどねェ」

もう手遅れデショ。と言うワーナーさんにベネディクトは希望を持とう‼ と返してニッと笑った。
彼のポジティブさは素直に称賛にあたると思う。取り敢えず心の中で拍手喝采を贈ろう。

「明日の出発は日の出と同時だ。それまでに東の港の一番北の桟橋に来てほしい」
「了解、何かいる物は?」
「そうだなぁ、お前たちの身一つと得物」

それ以外は自由‼ と言うなりじゃあ明日な、と彼は部屋から出て行く。ワーナーさんもよろしくお願いしますよォ、と言ってその後を追っていった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

お飾りの妻として嫁いだけど、不要な妻は出ていきます

菻莅❝りんり❞
ファンタジー
貴族らしい貴族の両親に、売られるように愛人を本邸に住まわせている其なりの爵位のある貴族に嫁いだ。 嫁ぎ先で私は、お飾りの妻として別棟に押し込まれ、使用人も付けてもらえず、初夜もなし。 「居なくていいなら、出ていこう」 この先結婚はできなくなるけど、このまま一生涯過ごすよりまし

「がっかりです」——その一言で終わる夫婦が、王宮にはある

柴田はつみ
恋愛
妃の席を踏みにじったのは令嬢——けれど妃の心を折ったのは、夫のたった一言だった 王太子妃リディアの唯一の安らぎは、王太子アーヴィンと交わす午後の茶会。だが新しく王宮に出入りする伯爵令嬢ミレーユは、妃の席に先に座り、殿下を私的に呼び、距離感のない振る舞いを重ねる。 リディアは王宮の礼節としてその場で正す——正しいはずだった。けれど夫は「リディア、そこまで言わなくても……」と、妃を止めた。 「わかりました。あなたには、がっかりです」 微笑んで去ったその日から、夫婦の茶会は終わる。沈黙の王宮で、言葉を失った王太子は、初めて“追う”ことを選ぶが——遅すぎた。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

どうぞ添い遂げてください

あんど もあ
ファンタジー
スカーレット・クリムゾン侯爵令嬢は、王立学園の卒業パーティーで婚約もしていない王子から婚約破棄を宣言される。さらには、火山の噴火の生贄になるように命じられ……。 ちょっと残酷な要素があるのでR 15です。

「お前を愛する事はない」を信じたので

あんど もあ
ファンタジー
「お前を愛することは無い。お前も私を愛するな。私からの愛を求めるな」 お互いの利益のために三年間の契約結婚をしたアヴェリンとロデリック。楽しく三年を過ごしたアヴェリンは屋敷を出ていこうとするのだが……。

転生したら世界一の御曹司だった〜巨乳エルフメイド10人と美少女騎士に溺愛されています〜

まさき
青春
異世界転生した最強の金持ち嫡男、 専属エルフメイドと美少女騎士に囲まれて至福のハーレム生活   現代日本で「地味だが実は超大富豪」という特殊な人生を送っていた青年は、ある日事故で命を落とす。   しかし目を覚ますと、そこは魔法と様々な種族が存在する異世界だった。   彼は大陸一の富を誇る名門貴族―― ヴァン・バレンティン家の嫡男カイルとして転生していたのだ。   カイルに与えられたのは ・世界一とも言える圧倒的な財力 ・財力に比例して増大する規格外の魔力   そして何より彼を驚かせたのは――   彼に仕える十人の専属メイド全員が、巨乳美少女だったことである。   献身的なエルフのメイド長リリア。 護衛騎士でありながら隙あらば誘惑してくる女騎士シルヴィア。   さらに個性豊かな巨乳メイドたち。   カイルは持ち前の財力で彼女たちの願いを叶え、最高級の装備や生活を与えていく。   すると彼女たちの忠誠心と愛情はどんどん加速していき――   「カイル様……今日は私が、お世話をさせてください」   領地を狙う貴族を金と魔力で圧倒し、 時にはメイドたちの愛が暴走して甘すぎる時間に巻き込まれながらも、   最強の御曹司カイルは 世界一幸せなハーレムを築いていく。 最後までお読みいただきありがとうございました。よろしければ応援をお願いいたします。

ため息ひとつ――王宮に散る花びらのように

柴田はつみ
恋愛
「離縁を、お願いしたいのです」 笑顔で、震えずに、エレナはそう言った。 夫は言葉を失った。泣いてくれれば、怒ってくれれば、まだ受け止め方があった。しかしあの静けさは、エレナがもう十分に泣き終わった後の顔だと、ヴィクトルにはわかった。 幼なじみと結ばれた三年間。すれ違いは静かに始まり、深紅のドレスの令嬢によって加速した。ため息を飲み込み、完璧な微笑みを保ち続けた公爵夫人が、最後に選んだのは――。 王宮に散る花びらのような、夫婦の崩壊と再生の物語。

【完結】捨て去られた王妃は王宮で働く

ここ
ファンタジー
たしかに私は王妃になった。 5歳の頃に婚約が決まり、逃げようがなかった。完全なる政略結婚。 夫である国王陛下は、ハーレムで浮かれている。政務は王妃が行っていいらしい。私は仕事は得意だ。家臣たちが追いつけないほど、理解が早く、正確らしい。家臣たちは、王妃がいないと困るようになった。何とかしなければ…

処理中です...