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第二章 人魚の宴
9 寝ぼけた頭は使い物にならない
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「………………」
ふと目が覚める。
まず視界に飛び込んできたのは蒼い空。どうやら俺は寝転んでいるらしい。けど何故こんなところで。
そよそよと頬に当たる風がくすぐったく、ちらちらと緑色の草花が見える。
俺が今いるのはマリテのはずで、しかし海の上にあるマリテではこんな草原はお目にかかれない。
ぼうっとする頭でそんなことを考えていると遠くの方から誰かの声がした。
聞き覚えのあるその声に身体を起こそうとするが、なかなかどうしてかピクリとも動かない。だが不思議と焦るような気持ちもなく、動かないのならばそれでいいと動こうとするのを諦めた。
声はどんどん近付いてくる。草を踏みしめる足音までもが聞こえる距離になって、急に眺めていた空が翳った。
「私が呼んでいるのに寝こけているなんて、随分なご身分だね?」
近付いてきた人物が俺を覗き込んでいるのだ。逆光になって顔はよく見えず、空を切り取ったかのような蒼い瞳だけが輝いている。
けど、俺はこの人を知っている。その名を呼ぼうとした時、勝手に俺の口が動いた。
「空を、見てたんです」
出た声は俺の声だが、その言葉は俺のものではない。ここで初めてこの身体の支配権が俺ではないことに気付いた。だが何故か違和感はない。
覗き込んでいる彼女は「空?」と首を傾げる。
「この空は、今戦争をしている国々にも続いているのだと考えていました」
ぐい、と身体が起こされて、長座の体勢で隣に立つ少女を見上げた。
彼女は淡い桜色の着物を着ており、手には何かの包が提げられている。俺の記憶ではいつもサイズの合っていない大きなコートを身に纏っていたはずで、このような女性らしい姿は見たことがない。
また口が動く。
「団子、ですか」
なるほどその包の中身は団子らしい。伸ばしている太腿の上にそれがポンと置かれ、笑った気配がした。
「好きでしょ、みたらし」
それにふぅ、と息を吐き、包を持って立ち上がる。そのままそれを開けて団子の串を口に運んだ。
甘い、気がする。
「まったく。お行儀わるいなぁ」
そんなふうに育てた覚えはないけど、と言いながら彼女は歩き出す。それを追いかけるように歩を進める。
歩きながら彼女はぽつりと言った。
「最近、ウラノスが参戦したんだって」
団子を飲み込んでから答える。実際に答えているのは俺ではないが。
「そうですね」
彼女はさらに続けた。
「戦況は一変して、帝国は劣勢なんだって」
「ええ」
「食料も人も、何もかも足りてないんだって」
「そう聞きますね」
「……大陸の、この国と近い所に兵を集めてるんだって」
「はい」
ふと立ち止まった。その細い肩が小さく震えている。
「……来ない、よね」
その痛ましい様子に、口を開いた。
「たとえ来たとて、俺がなんとかします。できます」
ざあ、と風が吹く。結っている髪が靡いた。どうやらこの身体は長髪らしい。髪色は俺と同じ、暗い紺だ。
「ふふ、頼もしいこと」
先程までの弱々しさは何処へやら、彼女__師匠は振り返り、黒髪を揺らして笑った。
_______________
「ん……」
目を開く。見えるのは木の梁。
さっきまで草原にいたはずなのに、とこの状況を理解出来ず脳が混乱する。
それが収まる間もなく横から声がした。
「目が覚めたかい?」
柔く微笑んでいたのはランで、心配そうな様子に何か言葉を返さねばと頭を回す。
しかし、回り切る前に口が先に動いてしまった。
「だんご……」
「だんご?」
……これはひどい。団子を食っていた感覚が残っていたとは言えこれは無い。
首を傾げる彼に何でもない、と言う。ならよかった、と安心したように息をついて、彼はここがノーツの酒場の宿であることを教えてくれた。
「スズメさんは下の協会で状況説明をしてるよ。マリテ軍も動くって話だからそういうのは全部彼女に任せたけど、いいね?」
「……ああ」
窓にはカーテンが掛けられているが、その明るさから今は真昼らしいことが分かる。こりゃまぁ随分と寝こけていたものだ。
自分で自分に呆れているとふと温かさに気づく。シーツの中を見ると、ざくろが丸まって寝息をたてていた。あどけないその顔に強張った心が少し解れる気がする。
「メイちゃんは人魚だと思われて連れ去られたから、傷つけられてはいないだろうって協会の人が言ってた。人魚の人身売買の場では子供は傷が無い方が高く売れるから」
ざくろを抱いてそれを静かに聞く。
普通に考えて、一介の旅人という立場である俺は竜の巣の時のように直接的に関わることは出来ない。それに歯噛みして、シーツを握りしめた。
怒りとやるせなさの黒い感情がこみ上げてくる。
多分、こんな精神状態だからあんなおかしな夢だって見たのだろう。だって今ウラノスは何の戦争にも参戦していないし、師匠もあんなに弱々しくてたまるか。解釈違いで憤死しそうだわ。
静かな時間が流れる。ランは手元の本をパラパラと捲り、部屋の隅に置かれた彼の荷物の上ではルリが眠っている。
俺はどうにも起き上がる気力が湧かず、ただざくろを抱いて横になっていた。
暫くそのようにして過ごしていると、ふと戸が叩かれた。
「一段落したぞ……ってアカリ、起きてたのか」
そう言いながら入ってきたのはスズメさんで、俺を見ると気分はどうだ、と微笑む。快活なその顔に心が落ち付く。
「身体の方は大丈夫。ありがとう」
彼女はベッドまで来て俺の頭をワシワシと撫でる。
「明日からアタシは協会からの指名で海賊連中のアジト調査に行くことが決まった。一応クエスト扱いで、Aランクだからお前たちは連れて行けない」
「そっ、かぁ……」
「………………」
空気が沈む。
分かってはいたが何も出来ないのはもどかしい。悔しい。俺は兄なのに。
しかしスズメさんは「けどな」と不敵にニヤリ笑った。
「“正式なパーティー”の一員として連れては行けないってだけだぜ?」
海の王国マリテの朝は早い。
日がまだ顔を合わせる出しきらぬうちから人々は漁に出掛け、連絡船が出航の準備をする。
そんな船のうちの一隻、冒険者協会が所有する、冒険者達がクエストへ向かうためのそれの前で、スズメは船の管理人と話をしていた。
「と、言う訳でこいつらも乗せて行っていいだろ?」
「と言う訳でと言われましても……」
年若い管理人は眉を八の字にしてスズメの後ろにいる二人を見やった。
二人のうちの片方、一級医療魔術師のランはクエストの危険度を考えたらいた方が心強いのは分かる。
しかし、もう片方。
「ランさんならともかく、女の子の方は……」
スズメ曰く、金髪を背中まで垂らした少女は北の集落の村娘で、物売りの帰りだと言う。
しかし故郷からここまで来た時は運良く大勢が乗り合わせる比較的安全な航路の連絡船に乗ることが出来たが、帰りは最近海賊の影響で危険だと言われる航路のものしかなく、一人で帰るのが不安らしい。
たしかにこのうら若い少女を昨今のこのアーヴェン海域で一人にするのはいささか可哀想だ。
だがスズメがこれから行くのはそんなもの比べものにならないほど危険だと思われる場所である訳で。
「行く道中に村があるんだよ。だから、な?」
この通り! と彼女が手を合わせる。それにもう一度少女をまじまじと見た。
少女は片手に布で中が見えないようにしているバスケットを持ち、もう片方の手は首の詰まったワンピースの上から羽織っているショールを胸のところで合わせて握りしめている。不安そうに潤んだ瞳はいかにもか弱く、その顔立ちは幼気で愛らしい。
こんな娘を一人にしたら海賊のいいカモだ、と若い正義心に備えられた良識が囁く。
はぁ、とため息をついて管理人は決心した。
「……ランさんはともかく、彼女に関しては上には黙っておきますので、ちゃんと送り届けてあげてくださいね」
「ありがとう!」
よかったな、とスズメは少女に言い、彼女は嬉しそうに頭を下げた。
管理人は船に繋がれたロープを解いていく。
この船は冒険者が自分で運転するタイプの小さなものなので、三人を見送れば彼の仕事はそれで終わりだ。
ランが差し伸べた手を取って船に乗り込んだ少女は、行儀よく脚を揃えてちょこんと座席に腰を下ろした。きちんとバスケットは膝の上だ。そんな仕草の一つ一つまでもが可愛らしい。
「では、いってらっしゃい」
管理人は纏めたロープを投げ入れて、出航して行く船に手を振る。すると少女がこちらを向いて、微笑んでもう一度頭を下げた。
「…………!」
男心というのは可愛い娘に微笑まれただけで舞い上がる、実に単純なものである。
港から少し離れ、管理人の姿が米粒のようになった頃。少女ははぁぁ、と息を吐き、くしゃりと髪を握るようにした。
「づがれだ……」
そして発された見事な低音ボイス、ハスキーとかそういうのでは言い訳できないものである。ぐでりと行儀が良かった脚を投げ出した少女__いや、青年、アカリにスズメが笑いかける。
「な、うまくいくって言ったろ?」
「我ながら完璧な美少女過ぎてびっくりしたわ」
言いながら彼はバスケットの布を捲る。するとそこにはざくろがおり、抱き上げた腕にぴゃあぴゃあと甘えた。
「ざくろぉ。お母さん疲れたぁ」
紅の身体に頬ずりするその姿はまさに美少女で、彼を彼女へとメタモルフォーゼさせた張本人のランは口角を上げる。さながら己が創り上げた自信作を見る芸術家のようだ。
彼の胸ポケットから顔を覗かせるルリも何故か満足げである。別にルリが何をしたという訳ではないが。
「アカリ君、これ使えるよ。僕の技術と君の猫被りがあれば可能性が広がりまくりだ」
「猫被りじゃなくて演技と言え、演技と」
「次は胸も入れてみよう」
「聞けよ」
桜色のグロスが塗られた唇を歪めてアカリは言う。
その遣り取りに笑いながら、スズメは船のスピードを上げたのだった。
ふと目が覚める。
まず視界に飛び込んできたのは蒼い空。どうやら俺は寝転んでいるらしい。けど何故こんなところで。
そよそよと頬に当たる風がくすぐったく、ちらちらと緑色の草花が見える。
俺が今いるのはマリテのはずで、しかし海の上にあるマリテではこんな草原はお目にかかれない。
ぼうっとする頭でそんなことを考えていると遠くの方から誰かの声がした。
聞き覚えのあるその声に身体を起こそうとするが、なかなかどうしてかピクリとも動かない。だが不思議と焦るような気持ちもなく、動かないのならばそれでいいと動こうとするのを諦めた。
声はどんどん近付いてくる。草を踏みしめる足音までもが聞こえる距離になって、急に眺めていた空が翳った。
「私が呼んでいるのに寝こけているなんて、随分なご身分だね?」
近付いてきた人物が俺を覗き込んでいるのだ。逆光になって顔はよく見えず、空を切り取ったかのような蒼い瞳だけが輝いている。
けど、俺はこの人を知っている。その名を呼ぼうとした時、勝手に俺の口が動いた。
「空を、見てたんです」
出た声は俺の声だが、その言葉は俺のものではない。ここで初めてこの身体の支配権が俺ではないことに気付いた。だが何故か違和感はない。
覗き込んでいる彼女は「空?」と首を傾げる。
「この空は、今戦争をしている国々にも続いているのだと考えていました」
ぐい、と身体が起こされて、長座の体勢で隣に立つ少女を見上げた。
彼女は淡い桜色の着物を着ており、手には何かの包が提げられている。俺の記憶ではいつもサイズの合っていない大きなコートを身に纏っていたはずで、このような女性らしい姿は見たことがない。
また口が動く。
「団子、ですか」
なるほどその包の中身は団子らしい。伸ばしている太腿の上にそれがポンと置かれ、笑った気配がした。
「好きでしょ、みたらし」
それにふぅ、と息を吐き、包を持って立ち上がる。そのままそれを開けて団子の串を口に運んだ。
甘い、気がする。
「まったく。お行儀わるいなぁ」
そんなふうに育てた覚えはないけど、と言いながら彼女は歩き出す。それを追いかけるように歩を進める。
歩きながら彼女はぽつりと言った。
「最近、ウラノスが参戦したんだって」
団子を飲み込んでから答える。実際に答えているのは俺ではないが。
「そうですね」
彼女はさらに続けた。
「戦況は一変して、帝国は劣勢なんだって」
「ええ」
「食料も人も、何もかも足りてないんだって」
「そう聞きますね」
「……大陸の、この国と近い所に兵を集めてるんだって」
「はい」
ふと立ち止まった。その細い肩が小さく震えている。
「……来ない、よね」
その痛ましい様子に、口を開いた。
「たとえ来たとて、俺がなんとかします。できます」
ざあ、と風が吹く。結っている髪が靡いた。どうやらこの身体は長髪らしい。髪色は俺と同じ、暗い紺だ。
「ふふ、頼もしいこと」
先程までの弱々しさは何処へやら、彼女__師匠は振り返り、黒髪を揺らして笑った。
_______________
「ん……」
目を開く。見えるのは木の梁。
さっきまで草原にいたはずなのに、とこの状況を理解出来ず脳が混乱する。
それが収まる間もなく横から声がした。
「目が覚めたかい?」
柔く微笑んでいたのはランで、心配そうな様子に何か言葉を返さねばと頭を回す。
しかし、回り切る前に口が先に動いてしまった。
「だんご……」
「だんご?」
……これはひどい。団子を食っていた感覚が残っていたとは言えこれは無い。
首を傾げる彼に何でもない、と言う。ならよかった、と安心したように息をついて、彼はここがノーツの酒場の宿であることを教えてくれた。
「スズメさんは下の協会で状況説明をしてるよ。マリテ軍も動くって話だからそういうのは全部彼女に任せたけど、いいね?」
「……ああ」
窓にはカーテンが掛けられているが、その明るさから今は真昼らしいことが分かる。こりゃまぁ随分と寝こけていたものだ。
自分で自分に呆れているとふと温かさに気づく。シーツの中を見ると、ざくろが丸まって寝息をたてていた。あどけないその顔に強張った心が少し解れる気がする。
「メイちゃんは人魚だと思われて連れ去られたから、傷つけられてはいないだろうって協会の人が言ってた。人魚の人身売買の場では子供は傷が無い方が高く売れるから」
ざくろを抱いてそれを静かに聞く。
普通に考えて、一介の旅人という立場である俺は竜の巣の時のように直接的に関わることは出来ない。それに歯噛みして、シーツを握りしめた。
怒りとやるせなさの黒い感情がこみ上げてくる。
多分、こんな精神状態だからあんなおかしな夢だって見たのだろう。だって今ウラノスは何の戦争にも参戦していないし、師匠もあんなに弱々しくてたまるか。解釈違いで憤死しそうだわ。
静かな時間が流れる。ランは手元の本をパラパラと捲り、部屋の隅に置かれた彼の荷物の上ではルリが眠っている。
俺はどうにも起き上がる気力が湧かず、ただざくろを抱いて横になっていた。
暫くそのようにして過ごしていると、ふと戸が叩かれた。
「一段落したぞ……ってアカリ、起きてたのか」
そう言いながら入ってきたのはスズメさんで、俺を見ると気分はどうだ、と微笑む。快活なその顔に心が落ち付く。
「身体の方は大丈夫。ありがとう」
彼女はベッドまで来て俺の頭をワシワシと撫でる。
「明日からアタシは協会からの指名で海賊連中のアジト調査に行くことが決まった。一応クエスト扱いで、Aランクだからお前たちは連れて行けない」
「そっ、かぁ……」
「………………」
空気が沈む。
分かってはいたが何も出来ないのはもどかしい。悔しい。俺は兄なのに。
しかしスズメさんは「けどな」と不敵にニヤリ笑った。
「“正式なパーティー”の一員として連れては行けないってだけだぜ?」
海の王国マリテの朝は早い。
日がまだ顔を合わせる出しきらぬうちから人々は漁に出掛け、連絡船が出航の準備をする。
そんな船のうちの一隻、冒険者協会が所有する、冒険者達がクエストへ向かうためのそれの前で、スズメは船の管理人と話をしていた。
「と、言う訳でこいつらも乗せて行っていいだろ?」
「と言う訳でと言われましても……」
年若い管理人は眉を八の字にしてスズメの後ろにいる二人を見やった。
二人のうちの片方、一級医療魔術師のランはクエストの危険度を考えたらいた方が心強いのは分かる。
しかし、もう片方。
「ランさんならともかく、女の子の方は……」
スズメ曰く、金髪を背中まで垂らした少女は北の集落の村娘で、物売りの帰りだと言う。
しかし故郷からここまで来た時は運良く大勢が乗り合わせる比較的安全な航路の連絡船に乗ることが出来たが、帰りは最近海賊の影響で危険だと言われる航路のものしかなく、一人で帰るのが不安らしい。
たしかにこのうら若い少女を昨今のこのアーヴェン海域で一人にするのはいささか可哀想だ。
だがスズメがこれから行くのはそんなもの比べものにならないほど危険だと思われる場所である訳で。
「行く道中に村があるんだよ。だから、な?」
この通り! と彼女が手を合わせる。それにもう一度少女をまじまじと見た。
少女は片手に布で中が見えないようにしているバスケットを持ち、もう片方の手は首の詰まったワンピースの上から羽織っているショールを胸のところで合わせて握りしめている。不安そうに潤んだ瞳はいかにもか弱く、その顔立ちは幼気で愛らしい。
こんな娘を一人にしたら海賊のいいカモだ、と若い正義心に備えられた良識が囁く。
はぁ、とため息をついて管理人は決心した。
「……ランさんはともかく、彼女に関しては上には黙っておきますので、ちゃんと送り届けてあげてくださいね」
「ありがとう!」
よかったな、とスズメは少女に言い、彼女は嬉しそうに頭を下げた。
管理人は船に繋がれたロープを解いていく。
この船は冒険者が自分で運転するタイプの小さなものなので、三人を見送れば彼の仕事はそれで終わりだ。
ランが差し伸べた手を取って船に乗り込んだ少女は、行儀よく脚を揃えてちょこんと座席に腰を下ろした。きちんとバスケットは膝の上だ。そんな仕草の一つ一つまでもが可愛らしい。
「では、いってらっしゃい」
管理人は纏めたロープを投げ入れて、出航して行く船に手を振る。すると少女がこちらを向いて、微笑んでもう一度頭を下げた。
「…………!」
男心というのは可愛い娘に微笑まれただけで舞い上がる、実に単純なものである。
港から少し離れ、管理人の姿が米粒のようになった頃。少女ははぁぁ、と息を吐き、くしゃりと髪を握るようにした。
「づがれだ……」
そして発された見事な低音ボイス、ハスキーとかそういうのでは言い訳できないものである。ぐでりと行儀が良かった脚を投げ出した少女__いや、青年、アカリにスズメが笑いかける。
「な、うまくいくって言ったろ?」
「我ながら完璧な美少女過ぎてびっくりしたわ」
言いながら彼はバスケットの布を捲る。するとそこにはざくろがおり、抱き上げた腕にぴゃあぴゃあと甘えた。
「ざくろぉ。お母さん疲れたぁ」
紅の身体に頬ずりするその姿はまさに美少女で、彼を彼女へとメタモルフォーゼさせた張本人のランは口角を上げる。さながら己が創り上げた自信作を見る芸術家のようだ。
彼の胸ポケットから顔を覗かせるルリも何故か満足げである。別にルリが何をしたという訳ではないが。
「アカリ君、これ使えるよ。僕の技術と君の猫被りがあれば可能性が広がりまくりだ」
「猫被りじゃなくて演技と言え、演技と」
「次は胸も入れてみよう」
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その遣り取りに笑いながら、スズメは船のスピードを上げたのだった。
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