その迸る剣で貫いて

文字の大きさ
4 / 10

ナイト・ナイト

しおりを挟む
 着いたのはファラディス郊外。辺りはモンスターの襲撃により騒然としていた。
「剣士様、射手様……!」
 先に鎧を纏って剣を握っていた若き戦士が、彼らの登場を待ち望んでいたかのように名前を呼ぶ。
「状況を教えな」
 ドラゴミールが建物の柱に隠れて短弓を構え、戦士に尋ねる。彼は少なくとも5体のモンスターを見たと答えた。
「随分豪華に来たじゃねえか」
 『燐光』する矢を一本矢筒から引き抜くと、男は狩人の目で敵を探した。
「食事後の運動といこうか。今夜は眠れない夜になりそうだ。」
 セルギウスも鎧こそ纏っていなかったが、長剣を構え辺りを伺う。
「……2時の方角、3体。」
 ドラゴミールが呟く。若い戦士が気づかなかった気配を彼は察していたのだ。はっ、と戦士が気づくより前に、セルギウスは駆けていた。
「あ、剣士様!」
「お前はあいつのケツを追うなよ、別方向からもう一体来ている!」
 戦士はドラゴミールの言葉の通り、異なった場所にモンスターがいることに気づいた。剣を構え直すが、かかってこいという声には威勢がなかった。
「……お前、そんな声じゃネズミも倒せねえぞ」
 若造が攻撃する前に彼は矢を放っていた。戦士達を避けて突進する獣の頭と脚に命中させる。そして、
「Bang!」
 挑発するような掛け声と共に、光る矢が『爆発』した。驚く若造の戦士。モンスターの頭と腕が無残に飛び散った。石畳に、赤黒い血が滴る。
「おい、ぼけっとするな」
 放心する戦士の頭を小突き、ドラゴミールは次の獲物を探し始めた。

 一方、セルギウスはいくら鎧がないとはいえ、長剣を持っている男とは思えないほどの速さで敵目掛けて走っていた。助走をつけて飛び上がると、必要最低限の動きで空中にいた一体目のモンスターを薙ぎ払う。けたましい鳴き声を聞く暇もなく、二体目に移ろうとした時だ。他の場所にいた化物が、仲間を呼んでいたらしかった。
「剣士様が危ない!」
 近くにいた別の戦士が思わず声を出す。そこには、いつの間にか数体の敵に囲まれたセルギウスがいたのだ。だが彼の顔に焦りは見られない。今にも襲おうとするモンスターの威嚇にも応じず、彼は目を閉じる。剣が青白く光る。
「……なるほど、彼は魔法を使えるのか!」
 自身の周りの敵を仕留めた後、戦士はその様子を見守った。セルギウスの長い青髪がふわりと舞い、光る剣へと水が溢れていく。水が光を反射し輝く美しい光景であった。
「ケツ穴おっ広げて待ってな! 今からこの我のデカい剣で貫いてやる!」
 ――その呪文さえ聞かなければ。下品な言葉の羅列にしか見えないが、これが彼の詠唱なのである。彼が目を開くと、取り囲んでいたモンスターたちは各々の下部から勢いよく突き上げる水の柱に吹き飛ばされていた。
「凄い……」
「眺めてばかりではいけませんよ、戦士殿」
 普通の口調に戻ったセルギウスに混乱しつつも、その戦士は彼と共に残る敵を探し始めた。

「片付いたか?」
 気づけば戦闘が終わっていた。モンスターの死骸を蹴飛ばしながら、ドラゴミールは敵の気配を感じなくなった街を見渡す。
「ええ、貴方方の奮闘のおかげで我々の勝利となりました」
 二人を褒め称える街の戦士たち。だがセルギウスの表情は晴れない。
「喜ぶのはまだ早い。私達がいなくなってから襲撃がおきたらどうする」
「それは、」
 若い戦士が俯く。自分が全く力になれなかったことを悔いていたのだ。
「我々は、王都に緊急事態の通達をいたしました。王都からの軍が到着するまで、貴方方に此処を守っていただければ幸いです」
「……そうか」
 それを気にしたのか、熟練の戦士がフォローするように今後の予定を説明した。
「じゃ、しばらく用になるぜ。」
 ドラゴミールは彼らの心境など興味もなく、弓を抱えて宿へと足を進めた。
「それはこちらの台詞、よろしく頼みます、お二方」
 空を見ると、闇が以前より深くなっていた。それは夜が深まったからなのか、それとも。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

強制悪役劣等生、レベル99の超人達の激重愛に逃げられない

砂糖犬
BL
悪名高い乙女ゲームの悪役令息に生まれ変わった主人公。 自分の未来は自分で変えると強制力に抗う事に。 ただ平穏に暮らしたい、それだけだった。 とあるきっかけフラグのせいで、友情ルートは崩れ去っていく。 恋愛ルートを認めない弱々キャラにわからせ愛を仕掛ける攻略キャラクター達。 ヒロインは?悪役令嬢は?それどころではない。 落第が掛かっている大事な時に、主人公は及第点を取れるのか!? 最強の力を内に憑依する時、その力は目覚める。 12人の攻略キャラクター×強制力に苦しむ悪役劣等生

やっと退場できるはずだったβの悪役令息。ワンナイトしたらΩになりました。

毒島醜女
BL
目が覚めると、妻であるヒロインを虐げた挙句に彼女の運命の番である皇帝に断罪される最低最低なモラハラDV常習犯の悪役夫、イライ・ロザリンドに転生した。 そんな最期は絶対に避けたいイライはヒーローとヒロインの仲を結ばせつつ、ヒロインと円満に別れる為に策を練った。 彼の努力は実り、主人公たちは結ばれ、イライはお役御免となった。 「これでやっと安心して退場できる」 これまでの自分の努力を労うように酒場で飲んでいたイライは、いい薫りを漂わせる男と意気投合し、彼と一夜を共にしてしまう。 目が覚めると罪悪感に襲われ、すぐさま宿を去っていく。 「これじゃあ原作のイライと変わらないじゃん!」 その後体調不良を訴え、医師に診てもらうととんでもない事を言われたのだった。 「あなた……Ωになっていますよ」 「へ?」 そしてワンナイトをした男がまさかの国の英雄で、まさかまさか求愛し公開プロポーズまでして来て―― オメガバースの世界で運命に導かれる、強引な俺様α×頑張り屋な元悪役令息の元βのΩのラブストーリー。

巻き戻りした悪役令息は最愛の人から離れて生きていく

藍沢真啓/庚あき
BL
11月にアンダルシュノベルズ様から出版されます! 婚約者ユリウスから断罪をされたアリステルは、ボロボロになった状態で廃教会で命を終えた……はずだった。 目覚めた時はユリウスと婚約したばかりの頃で、それならばとアリステルは自らユリウスと距離を置くことに決める。だが、なぜかユリウスはアリステルに構うようになり…… 巻き戻りから人生をやり直す悪役令息の物語。 【感想のお返事について】 感想をくださりありがとうございます。 執筆を最優先させていただきますので、お返事についてはご容赦願います。 大切に読ませていただいてます。執筆の活力になっていますので、今後も感想いただければ幸いです。 他サイトでも公開中

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

執着

紅林
BL
聖緋帝国の華族、瀬川凛は引っ込み思案で特に目立つこともない平凡な伯爵家の三男坊。だが、彼の婚約者は違った。帝室の血を引く高貴な公爵家の生まれであり帝国陸軍の将校として目覚しい活躍をしている男だった。

処理中です...