その迸る剣で貫いて

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次の街へ運ぶ風

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 街を訪れてから、6日目の夜。
「セルギー」
 セミダブルのベッドの上で、裸のまま彼の名前を呼ぶ。相手は背中を向けて横になっていた。
「どうした」
 男が『お前』、『馬鹿』、あるいは『クソ野郎』などと呼ばずに愛称で呼ぶ時は、大抵セックスに夢中になっているか、何か深刻な悩みを抱えているかのどちらかであった。
「これは俺の勘で、根拠はないけれど、」
 彼の大きな背中に、男は顔を当てる。さらりとした素肌が気持ちいい。
「なんか、いつもと違う。やべぇ戦いが始まりそうな気がする」
 戦いの中で察した雰囲気に、声は少し震えていた。彼は寝返りをうつと、男と向かい合うように横たわった。
「怖気づくな、ドラミス」
 そして、抱きしめる。不安がる男を、彼は手繰り寄せるように。
「……そうだよな、稼ぎ時だと思うぐらいじゃねえとな」
 シーツの擦れる音が、僅かに聞こえる。
「幾千の敵が立ちはだかろうとも、私がお前を守ってみせる」
「けっ、歯の浮くような台詞吐きやがって」
 言葉とは裏腹に、安堵した様子で抱き返す男。
「第一、そんなくらいでくたばる訳にはいかねぇよ」
 俺を救ってくれたお前のためにはな、と言おうとして……やめる。柄にもない、と自分を笑いながら。
「……何がおかしい」
 彼は、少し困惑した顔で尋ねる。
「別に。お前はいつだっておかしなやつだけどな」
 男は笑みを止めなかった。ゆっくりと夜空の雲が流れる。
「いつだって、か。……なら、よかった」
 彼の言葉と共に降ってきた唇を、男は拒まずに受け止めた。瞼を閉じ、共に眠りに落ちる。

 朝日が綺麗な目覚めであった。時の経過は早い。戦って、喰って、遊んで、ヤって、寝てを繰り返すうちに結んだ契約の期間が迫っていたのだ。あっという間に最終日だな、と窓を見るドラゴミール。王都からやってきた軍隊が辺りを見張っていた。
「しばらくは壁として機能するか」
 王都の軍事力で持つかどうかはわからないが、少なくとも民は安心するだろう。彼は黒いシャツに着替えながらその兵士の動きを眺めていた。
「嗚呼。だが元を叩かねば」
「行くのか」
 セルギウスの決心は固かった。
「本気で暴れたくてな、お前も楽しみたいだろう?」
 口元は笑顔を見せているが、目には闘志が宿っていた。
「……お前の正義感には負けるよ」
 荷物を整えながら、宿を出る準備をするドラゴミール。どこか、懐かしむような表情をしていた。
「何か勘違いをしていないか?私の正義は未来永劫お前の尻をモノにすることだ」
 それに対しセルギウスは平然と言ってのける。こいつ馬鹿か、と悪態をつく相方の尻を掴んでから、先に扉に手をかける。
「行先はヴォルティでいいんだよな?」
「嗚呼。ここから南下して敵の出処を突き止める。稼ぎは今より出ないだろうから、財布とケツの穴はしっかり締めとけよ」
 相変わらず下品な言い回しだな、とドラゴミールが笑いベッドから立ち上がると、セルギウスの後に続いた。

「英雄の旅立ちだよ!皆見送ってやりな!」
 宿の女将が二人を見送ると、照れるなとドラゴミールが笑った。
「短い間だったが、貴公らの世話になったことに感謝したい。王都の兵士に任せるのは気が引けるが、我々もやることがあるからな」
「大丈夫だよ、この街の人間は決して弱くはないっ!……あんたらもデート楽しんできな!」
「おい、女将!」
 ドラゴミールが自身に満ちた顔で言い放つ彼女にツッコミを入れると、どっと笑いが起きる。ロビーにいた周りの戦士や魔道士達も、彼らの凱旋を注目していた。――厳密にはセルギウスが相方の臀部を撫でていたことに。

 街を後にした二人は、再び草原の広がる大地を歩いていた。風が軽く吹いている。晴れていたので、見晴らしのいい高台に登ると目的地のヴォルティの全貌が見える。ファラディスよりも小さな町だが、遠くに牧場が見えた。畜産が盛んな地域として有名なそこは、一見穏やかな場所に見えた。
「……モンスターの匂いがするな、それもここじゃあ結構強いヤツの」
 それの気配がなければ。鼻が利くドラゴミールは、周りを見回した。
「道草をあまり食いたくないが……」
 セルギウスも剣を構え、戦闘態勢に移る。
「よくも俺様の可愛い部下達を殺してくれたな、成敗してくれよう!」
 獣の低い声。聞くや否や歪で大きな人形の影に向かって、ドラゴミールは一矢を放った。
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