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第1章
第12話 雑草会の代表
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「誰かそこに居るの!?」
突然、カレンが叫んだ。
その視線の先を追い、目を凝らす。木々の間からゆっくりとした足取りで現れたのはペドローだった。いつも一緒に居るハッサンとゴルトバの姿は無い。
特に話を盗み聞きしていたというワケでは無さそう。だとすれば、ジンは気付いていた。今ちょうどこの場に現れたのだろう。
それはペドローの様子からも明らかだった。
「なんで、ブラックが居るんだよ……!」
「居たらいけないかしら……?」
「いいや……なんだよ、そういうことかよ……!」
何かを理解したのか、それとも誤解したのか。
ともあれペドローは得心がいったという感じだ。夕刻、ジンに返り討ちにあい、その痣が顔に残っているが、なぜか晴れ晴れとした表情だった。
「おい、ジン……」
「なんだ……?」
仕返しに来た。というところだろう。しかし、一人で来たという点が理解に苦しむ。ハッサンとゴルトバの二人が逃げ出し、仕方なく一人でやって来たのか……どちらにしろ、ジンが打ち負かされるという事はあり得ない。
ペドローは使い魔を持っていないし、単純な喧嘩にしたってジンの方が強いことは証明されていた。
すると、ジンの予想とは裏腹にペドローは凄まじい勢いで地面に膝と手とおでこをくっ付けたのだった。
「俺を舎弟にしてくれ!」
そして、思いもよらない事を大声で宣言する。
「……は?」
全くの予想外だった。図らず素っ頓狂な声が漏れる。
「それと、兄貴って呼ばせてほしい……今まであんたをさんざん痛めつけておいて、何バカな事を言ってやがると思われても仕方がねえ……でも、今日、俺達はエンリに仲の良いダチを人質に取られて奴らの言いなりになるしか無かった……! それで兄貴に襲い掛かったは良いがあっさり返り討ち。俺は、恥ずかしい話、仕返しをと考えて兄貴の後を追い駆けていた……そして見たんだ……兄貴が、王級使い魔を従えてあっさりとラグナを倒し、上流階級の連中の目を恐怖に染め上げる姿を……! 俺達が出来なかった事を、それだけじゃない、雑草会にも出来ないような事を兄貴はしれっとやり遂げやがったんだ!」
酷い興奮のしようで、随分な速さで言葉を捲し立てている。その所為で口を挟むことも出来ない。
「その時、俺は、あんたに惚れていた! まずは、今までの事を心から詫びたい! 本当にすまない事をしていた! どうか許して欲しい、兄貴の本当の強さを知らなかったんだ!」
地面を割る勢いで頭を打ちつける。いつもは雄弁に語るジンの口から何も言葉が出てこなかった。
「どうか、この俺も兄貴がこれから起こす革命に一枚噛ませてほしい! 俺は使い魔だって持ってねえし、頭も良くねえ、ただの喧嘩っ早い不良だ! でも、何だってやる! 俺は自分を変えたい。この学校を、社会を、国を変えたい! 身分の高い連中に踏みにじられるのはもうごめんだ! やり返してやりたい、復讐してやりたい! 頼む、お願いだ!」
やっとペドローの言い分が一通り出尽くしたようだ。
なんと答えてやるべきか悩んで言いよどむ。
ちらりとカレンとミノアに目線を送ると、彼女達も呆気に取られてポカンとしていた。
分かったことは、ペドローが意外と熱い人間だったという事。
それは普段から虐げられ続けて鬱憤が溜まって吐き出す場所を求めていたり、人質を取られて血相変えてやって来たり、とまあ何となく予想はついた。不良生徒というのは大方、直情的だし。
しかしジンの行動が、良くも悪くもこの男の闘志を燃え上がらせてしまった。
面倒くさそうに頬をかく。
「とりあえず、兄貴は止めろ……」
「いいや、頼む、呼ばせてくれ」
正直なところ、戦力としてペドローは全く必要ではない。
話が通じない人間というのはむしろ足手まといになりかねない。
「ところで、人質になっていた生徒は大丈夫だったのか?」
「ああ、兄貴のお陰で。竜門会の、ラグナの取り巻きだった奴は勝負のあと、血相を変えて人質を解放した」
「そうか。まあ、良かったんじゃねえの?」
「ああ、兄貴には感謝の言葉しかねえ。もう一度頼む。俺を舎弟にしてくれ」
誰が人質になっていたのか、ジンは知らない。ペドロー達の交友関係を考えるに、大体のめぼしはつくがそこまでの興味は無かった。
しかし、不当に虐げられていた者が解放されたのならばそれも悪い気はしない。
だからと云ってそれとこれとは話が別だ。
「生憎と俺はお前を迎え入れるつもりは無い。帰れ」
「いいや、帰らねえ。兄貴が首を縦に振るまでは帰れねえ」
ジンは頭を抱えそうになるのを努めて我慢した。
この手のタイプは思い通りにいくまでこちらの言う事を聞きはしない。
こちらも意地を張って帰れの一点張りでも良いのだが、その戦いは長引きそうだ。そもそも考える力のない男は、一度決めたら自分の考えをなかなか曲げない。そこまで頭が働かないからだ。扱いづらいバカというものはつくづく手に負えない。
「分かった分かった。舎弟にでも何でもしてやるから、今日は帰れ」
ならば、相手にしない方がいい。真面目にとり合えばこちらが疲れるだけだ。
「本当か? 舎弟にしてくれるか?」
「本当だ。だから帰れ」
「恩に着るぜ兄貴!」
もちろんそんなつもりは無い。こうでも言っておかなければペドローは帰らないだろうし、この場から立ち去らせる為の方便だ。
そうとは露知らず、ペドローは大いに喜んだ。
「それじゃあ、明日から頼むぜ、兄貴!」
「ああ、それじゃあな」
満足した様子でペドローは暗い夜道を歩き、寮舎へと帰っていく。ひどく疲れてしまった。
「本当に舎弟にするつもりなんてあるの?」
「あるワケ無いだろ。邪魔にしかならないのは目に見えている」
「まあ、そうね……」
聞いたカレンも同意見のようで、呆れの溜息を吐いた。
かくして、必要のない協力者がまた増えた。
◇
次の日からジンを取り巻く環境は大幅に変わった、彼の予想通りに。
数日ぶりに教室に姿を現すと、上流階級から下流階級までの全生徒が、ジンに向ける眼差しは今までとは別の物となっていた。
侮蔑や軽蔑は今までと変わらずに込められているが、更に恐怖や畏怖の念を抱いている様子だ。昨日の見せしめの効果がしっかりと表れている。
相変わらずジンに声を掛けようとする生徒は居ないが、裏ではしっかりと警戒されており、ひそひそ話が聞こえるが特に気にせず真面目に授業に取り組む。
と云っても、内情を知っているミノアの授業しか受けずに、そのほかの授業は全てさぼった。そのお陰で教師から何かを言われることもなかった。
ラグナとの件で学園側が関与してくる可能性もあったが、特にアクションが起きるワケでも無く、計画完遂までは大丈夫そうだ。
それでも面倒ごとは極力避けたい。
もちろん、カレンが接触してくることも無い。
ジンが登校をしたのは、昨日の勝負がどれだけの影響を及ぼしたのかの確認が第一。そして、計画を最終段階へ進めるためだ。
予定時刻までは特に何もすることが無く、校舎見学を兼ねてぷらぷらと校舎中を歩き回る。
まるで各階級の生徒達を挑発するように。
別館への渡り廊下に差し掛かったところで見知った顔に出くわした。
「あ、ジン君……」
キヤルだった。
いつもなら明るい笑顔を咲かせてくれるのに、今日は違った。少し怯えた表情。それも無理はない。
「よう、キヤル」
対してジンはいつもと変わらぬ様子で口元を緩め、軽く手を上げ挨拶を送った。
「うん、こんにちは……」
ぎこちなく返される。
キヤルは伏し目がちで、こちらに目を合わせようともしない。
嫌な沈黙が続いた。それを破るべく、ジンは口を開く。
「何やっているんだ? こんな所で、授業中だろ?」
自分の事を棚に上げて質問をした。
「えっと……ここ、部室棟なんだ……雑草会の部室がここにあって……授業は、ちょっと、怖くて……」
ラグナの動きを抑えたからと言って、今までの上流生と下流生のいざこざが直ぐに消滅するような事は無い。
キヤルはずっと根深い怯えを抱えている。
「そっか、まあ無理しない方が良い。授業なんか出たくなけりゃ出なければ良いんだ。俺だって現にサボってるし」
「ふふ、うん……そうだね」
ようやくキヤルが少しだけだが笑ってくれた。
再び沈黙が訪れるが、今度はキヤルが打ち破った。
「でも、凄いね……ジン君は……まさか、ラグナ君を倒しちゃうなんて……しかも、王級の魔物を使い魔にしているんだね……」
「見てたのか?」
「ううん……話を聞いただけ……」
ならば、ジンがヴィクトリアに何をやらせたかも聞いているだろう。
「俺が怖いか? キヤル……?」
キヤルの肩がピクリと跳ねた。
口を動かして言葉を発しようとしていたが、上手く出てこなかった。
少女は一度気持ちを落ち着かせ、静かに、決心したように喋る。
「ごめん、ジン君……ちょっとだけ……」
申し訳なさそうに謝られた。
「あんたに危害を加える気は無いんだ」
「うん、分かってる……これは、多分、私の問題だから……」
今日初めて、キヤルとしっかりと視線を交わせることが出来た。
少しずつ今までの通りの喋り方に戻りつつあるが、まだ時間は掛かりそうだ。
そろそろ行こうかと踵を返そうとした所、キヤルの後方、別館の入り口から一人の男が出てきた。
「キヤル」
そして、彼女の名前を呼ぶと、彼女は後ろを振り返った。
「あっ……」
この男と待ち合わせをしていたようだ。
部室棟の前で、一人で立っていたのだから、そんなところだろうと予想はついていた。そして、中から現れたという事はおそらく同じ雑草会のメンバー。そして、1年生には見ない顔。上級生だ。
「悪い、待たせた……」
男はキヤルに謝罪の言葉を述べた後で、ジンの姿を見つけ、表情を険しいものに変えた。
「いや、手間が省けたのか」
小柄な男だった。だが胴や手足は太く、良く鍛えられているのが伺える。顔の彫りが深く整っており、だからと云って上品な感じではない。いくつもの修羅場をくぐってきただろう、野武士のような顔つきだった。
「ちょうど、お前さんのところへ伺おうかと思っていたんだ。授業には参加してないって情報が入って、キヤルに案内と紹介をお願いしてな……」
「ジン君、その……」
「そんな申し訳なさそうな顔すんなよ。ここで会った瞬間にそうだろう思ったし、こうなるだろう事は予め予想していた」
キヤルを安心させる為にも穏やかに言う。
小柄な男は「ほ~」と感心しながら、ジンを見定めるように全身を隈なく嘗め回して見る。
「状況の飲み込みが早いんだな。うん、中々いいな……話が早そうで助かる」
遅かれ早かれ接触は間逃れなかったし、何も問題はない。
「お前さんが、アンタッチャブルのジンで良いんだな?」
「ああ。そういうあんたは……?」
「ラヴィッチだ。3年で、雑草会代表の」
そう言ってラヴィッチは自身の胸をドンと叩いた。
十中八九そうだろうと思ったし、名前なんかはミノアから聞かされていた。
下流階級の生徒達をまとめ上げるカリスマ的存在。下流階級の生徒が集まり団結するクラブを結成し、弱きものを守り、上流階級の生徒達の虐げに屈せず戦う。そんな男だと聞かされていた。
もっと大柄な男なのかと勝手に予想していたが、ジンが見下ろす程、キヤルより少しだけ高い位の身長しかない。
「あんたが……お噂は兼ねがね聞いているよ」
「そいつはどうも……案外、背が低いだろ?」
「まあ、そうだな」
「ははは……はっきり答える奴だな。気に入った。俺と初めて会った奴は大体同じ感想を覚えるそうだ。俺も特に気にして無いがな」
そう言いながらも初対面の人間に自虐ネタをぶっこんで来るあたり、内心ではかなり気にしていると思えて仕方が無い。むしろ、言われる、思われる前に自ら言ってしまえという感じだ。
第一印象としてラヴィッチがどのような人間なのかが見えてきた。
「で、俺に用があるとか……?」
先輩に対してだというのに、ジンは敬語も使わず不遜な態度だ。しかも不可触民の分際で。
この男の人間性を深く探る為にあえてそうしたが、それを気にした様子はラヴィッチには無かった。
「ああ。先ずは昨日の件について、素直に礼を言いたい。ありがとう。かなりの人数がエンリの野郎に痛い目に遭わされていたからな」
「礼を言われるような事じゃない。俺はただ降りかかる火の粉を払っただけだ」
「だとしてもだ。あわや上流生たちとの全面戦争も覚悟していた……そうなれば、さらに多くの怪我人が出る所だったよ」
「雑草会は打倒上流階級を掲げているんだろう?」
「まあな。でも、タイミングと過程があるだろうに……。竜門会なんてのは最悪だ」
竜門会の名を口に出すと、ラヴィッチは顔をしかめ腕を組む。相当まいっていたようだ。
毎日のように仲間が痛い目に遭わされるのを見ながら、会員たちの嘆きを聞き、更に生徒会や学園側の動きをけん制しながらだっただろうから痛み入る。
「昨日の勝負、見させてもらったよ。胸が躍る気分だった。エンリが地べたを這いつくばる姿を見るのは痛快だったな~……欲を言うと、俺が野郎をぶん殴ってやりたかったがな」
「そいつはどうも」
「それにしても、レヴィアタンか……凄かったな……純粋に凄い、としか言葉が出てこない」
徐々に興奮して来たのか、先程からラヴィッチの言葉が止まらなくなってきた。
ちらりとキヤルへ目線を向けると彼女は俯いていた。
「なあ、ジン、雑草会に入る気は無いか?」
そう言われて再びラヴィッチに視線を戻すと、雑草会の代表は真剣な眼差しでジンの事を射貫いていた。
「ない」
歯に衣着せず、きっぱりと断る。
「そうか。分かった」
すると、ラヴィッチは潔く引き下がった。
「随分とあっさり引くんだな」
「駄目で元々の勧誘だったからな。上流生の一人をぶったおして、革命を起こすなんて宣言した人間が誰かの下に付くなんて思えなかったし。それに俺の話に微塵も興味無さそうだったしな」
「お見通しってワケだ」
ジンがラヴィッチを品定めしていたように、彼は彼でジンをよく観察していたみたいだ。
「キヤルに説得を頼むって手もあったけどな」
「そうしたらお前さんは入ってくれるのか?」
「いいや」
「だろ?」
キヤルは少し落胆したような、それでも安心したように肩を落とした。
「キヤルはお前さんと比較的仲が良いみたいだったから、仲介役をお願いしただけだ。それに、後輩が嫌がるような事を俺は頼みたくない。こいつはお前さんの雑草会に誘うのが嫌みたいだったからな」
「ふーん」
後輩思いの良い先輩だ。
「ち、ちがうのジン君、そういうことじゃなくて……!」
「大丈夫だ。ちゃんと分かっている」
急に慌てふためくキヤルを優しく宥めた。ジンを一緒のクラブに入れる事が、では無く、無理に勧誘する事が嫌。という意味だろう。
だが、ラヴィッチがジンの勧誘をすんなり諦めたのは他にも理由がありそうだ。
「というか、どうしてもクラブに入って欲しいって感じでも無いな。この話自体は、あんたの独断だろ?」
「……勘が良いな、ちょっと惜しくなってきた」
「勘なんて程の事じゃない。俺自身、下流階級の人間に暴力を振るわれていたからな。仮に俺が雑草会に入ったとして、全員が快く迎えるとは思えない」
「それなら、俺が説得するさ」
「後輩の嫌がる事はしないんだろう?」
「……はは、一本取られたか?」
ジンの鋭い指摘にも、ラヴィッチは屈託なく爽やかに笑う。
「正直、雑草会の中にもお前さんを危険視する声は多く上がっている。昨日は上流階級のエンリを倒したが、今後お前さんが誰に牙を向くか分からないからだ。実際、俺もそう感じる」
「別に誰彼構わず襲おうなんて考えていない。そっちが危害を加えなければ何もしないさ。俺の事はほっとけ」
「ああ、でも、その実力はやっぱり頼もしい。現状、お前さんが1年生の中では一番強いんだからな。そいつを仲間に引き入れる事が出来たなら、上流生共に勝つことが出来るかも知れない」
ジンの能力を最大限利用するための勧誘だった。本来、勧誘なんてものはそんなものだが……。
「……あっそ」
ジンはいよいよラヴィッチに対する興味が失せて来ていた。
「残念だ」
「ま、打倒上流生はあんたらだけで頑張ってくれ」
「違う。お前さんがいずれ潰されるであろうことが残念だっていう意味だ」
ラヴィッチはジンを気遣うように、それでいて厳しく告げた。
「ジン。お前さん一人じゃこの学園をひっくり返す事なんか出来ない。いずれ、生徒会に潰される」
「へー、そうかい」
「レヴィアタンを従えているのは純粋に凄い。並の2、3年じゃ太刀打ちできないだろうさ。でも、生徒会は違う……とくに、会長のリタ・ヒプノス、彼女には絶対に勝てない。お前さん一人の力じゃな。革命を起こすってことは、生徒会を倒すって事だ」
「その生徒会に潰されないようにも、協力しろって事か?」
「そういう事だったんだけど、そんなつもりは無いんだろ? それじゃ、忠告はしたぜ」
そう言うと、ラヴィッチはひらひらと手を振り別館の中へと帰って行った。
今更だが、彼も授業をさぼっているようだ。
彼の姿が完全に消えると、ずっと黙していたキヤルが申し訳なさそう重い口を開く。
「ごめんね。ジン君……」
「あんたが謝る事じゃないだろう」
「でも……」
ラヴィッチに対しても、もちろんキヤルに対しても憤りなど感じていない。
雑草会の代表はジンの事を本当に心配してくれて忠告してくれただけだ。
それを素直に聞くつもりは無いが、その心意気には感謝の念を送るべきだろう。
「でも、私も、その……ジン君が、ここから出て行くこととかに、なったら……いやだな……」
キヤルは歯切れ悪く、口ごもりながら言った。
「心配すんな。そんな事にはならんよ」
「うん……ねえ、ジン君、雑草会なら、ジン君を守る事も出来るよ?」
最初はジンの勧誘を嫌がっていただろうキヤルが、自ら雑草会に招き入れた。
それだけジンの身を案じてくれている。実際、今のジンは四方を敵に囲まれているも同然。
しかし、それは今までと何か違っているだろうか。彼の周りにはいつも敵だらけだった。
「ありがとう、キヤル。だが、丁重にお断りするよ……雑草会じゃ、俺を守る事は出来ない」
突然、カレンが叫んだ。
その視線の先を追い、目を凝らす。木々の間からゆっくりとした足取りで現れたのはペドローだった。いつも一緒に居るハッサンとゴルトバの姿は無い。
特に話を盗み聞きしていたというワケでは無さそう。だとすれば、ジンは気付いていた。今ちょうどこの場に現れたのだろう。
それはペドローの様子からも明らかだった。
「なんで、ブラックが居るんだよ……!」
「居たらいけないかしら……?」
「いいや……なんだよ、そういうことかよ……!」
何かを理解したのか、それとも誤解したのか。
ともあれペドローは得心がいったという感じだ。夕刻、ジンに返り討ちにあい、その痣が顔に残っているが、なぜか晴れ晴れとした表情だった。
「おい、ジン……」
「なんだ……?」
仕返しに来た。というところだろう。しかし、一人で来たという点が理解に苦しむ。ハッサンとゴルトバの二人が逃げ出し、仕方なく一人でやって来たのか……どちらにしろ、ジンが打ち負かされるという事はあり得ない。
ペドローは使い魔を持っていないし、単純な喧嘩にしたってジンの方が強いことは証明されていた。
すると、ジンの予想とは裏腹にペドローは凄まじい勢いで地面に膝と手とおでこをくっ付けたのだった。
「俺を舎弟にしてくれ!」
そして、思いもよらない事を大声で宣言する。
「……は?」
全くの予想外だった。図らず素っ頓狂な声が漏れる。
「それと、兄貴って呼ばせてほしい……今まであんたをさんざん痛めつけておいて、何バカな事を言ってやがると思われても仕方がねえ……でも、今日、俺達はエンリに仲の良いダチを人質に取られて奴らの言いなりになるしか無かった……! それで兄貴に襲い掛かったは良いがあっさり返り討ち。俺は、恥ずかしい話、仕返しをと考えて兄貴の後を追い駆けていた……そして見たんだ……兄貴が、王級使い魔を従えてあっさりとラグナを倒し、上流階級の連中の目を恐怖に染め上げる姿を……! 俺達が出来なかった事を、それだけじゃない、雑草会にも出来ないような事を兄貴はしれっとやり遂げやがったんだ!」
酷い興奮のしようで、随分な速さで言葉を捲し立てている。その所為で口を挟むことも出来ない。
「その時、俺は、あんたに惚れていた! まずは、今までの事を心から詫びたい! 本当にすまない事をしていた! どうか許して欲しい、兄貴の本当の強さを知らなかったんだ!」
地面を割る勢いで頭を打ちつける。いつもは雄弁に語るジンの口から何も言葉が出てこなかった。
「どうか、この俺も兄貴がこれから起こす革命に一枚噛ませてほしい! 俺は使い魔だって持ってねえし、頭も良くねえ、ただの喧嘩っ早い不良だ! でも、何だってやる! 俺は自分を変えたい。この学校を、社会を、国を変えたい! 身分の高い連中に踏みにじられるのはもうごめんだ! やり返してやりたい、復讐してやりたい! 頼む、お願いだ!」
やっとペドローの言い分が一通り出尽くしたようだ。
なんと答えてやるべきか悩んで言いよどむ。
ちらりとカレンとミノアに目線を送ると、彼女達も呆気に取られてポカンとしていた。
分かったことは、ペドローが意外と熱い人間だったという事。
それは普段から虐げられ続けて鬱憤が溜まって吐き出す場所を求めていたり、人質を取られて血相変えてやって来たり、とまあ何となく予想はついた。不良生徒というのは大方、直情的だし。
しかしジンの行動が、良くも悪くもこの男の闘志を燃え上がらせてしまった。
面倒くさそうに頬をかく。
「とりあえず、兄貴は止めろ……」
「いいや、頼む、呼ばせてくれ」
正直なところ、戦力としてペドローは全く必要ではない。
話が通じない人間というのはむしろ足手まといになりかねない。
「ところで、人質になっていた生徒は大丈夫だったのか?」
「ああ、兄貴のお陰で。竜門会の、ラグナの取り巻きだった奴は勝負のあと、血相を変えて人質を解放した」
「そうか。まあ、良かったんじゃねえの?」
「ああ、兄貴には感謝の言葉しかねえ。もう一度頼む。俺を舎弟にしてくれ」
誰が人質になっていたのか、ジンは知らない。ペドロー達の交友関係を考えるに、大体のめぼしはつくがそこまでの興味は無かった。
しかし、不当に虐げられていた者が解放されたのならばそれも悪い気はしない。
だからと云ってそれとこれとは話が別だ。
「生憎と俺はお前を迎え入れるつもりは無い。帰れ」
「いいや、帰らねえ。兄貴が首を縦に振るまでは帰れねえ」
ジンは頭を抱えそうになるのを努めて我慢した。
この手のタイプは思い通りにいくまでこちらの言う事を聞きはしない。
こちらも意地を張って帰れの一点張りでも良いのだが、その戦いは長引きそうだ。そもそも考える力のない男は、一度決めたら自分の考えをなかなか曲げない。そこまで頭が働かないからだ。扱いづらいバカというものはつくづく手に負えない。
「分かった分かった。舎弟にでも何でもしてやるから、今日は帰れ」
ならば、相手にしない方がいい。真面目にとり合えばこちらが疲れるだけだ。
「本当か? 舎弟にしてくれるか?」
「本当だ。だから帰れ」
「恩に着るぜ兄貴!」
もちろんそんなつもりは無い。こうでも言っておかなければペドローは帰らないだろうし、この場から立ち去らせる為の方便だ。
そうとは露知らず、ペドローは大いに喜んだ。
「それじゃあ、明日から頼むぜ、兄貴!」
「ああ、それじゃあな」
満足した様子でペドローは暗い夜道を歩き、寮舎へと帰っていく。ひどく疲れてしまった。
「本当に舎弟にするつもりなんてあるの?」
「あるワケ無いだろ。邪魔にしかならないのは目に見えている」
「まあ、そうね……」
聞いたカレンも同意見のようで、呆れの溜息を吐いた。
かくして、必要のない協力者がまた増えた。
◇
次の日からジンを取り巻く環境は大幅に変わった、彼の予想通りに。
数日ぶりに教室に姿を現すと、上流階級から下流階級までの全生徒が、ジンに向ける眼差しは今までとは別の物となっていた。
侮蔑や軽蔑は今までと変わらずに込められているが、更に恐怖や畏怖の念を抱いている様子だ。昨日の見せしめの効果がしっかりと表れている。
相変わらずジンに声を掛けようとする生徒は居ないが、裏ではしっかりと警戒されており、ひそひそ話が聞こえるが特に気にせず真面目に授業に取り組む。
と云っても、内情を知っているミノアの授業しか受けずに、そのほかの授業は全てさぼった。そのお陰で教師から何かを言われることもなかった。
ラグナとの件で学園側が関与してくる可能性もあったが、特にアクションが起きるワケでも無く、計画完遂までは大丈夫そうだ。
それでも面倒ごとは極力避けたい。
もちろん、カレンが接触してくることも無い。
ジンが登校をしたのは、昨日の勝負がどれだけの影響を及ぼしたのかの確認が第一。そして、計画を最終段階へ進めるためだ。
予定時刻までは特に何もすることが無く、校舎見学を兼ねてぷらぷらと校舎中を歩き回る。
まるで各階級の生徒達を挑発するように。
別館への渡り廊下に差し掛かったところで見知った顔に出くわした。
「あ、ジン君……」
キヤルだった。
いつもなら明るい笑顔を咲かせてくれるのに、今日は違った。少し怯えた表情。それも無理はない。
「よう、キヤル」
対してジンはいつもと変わらぬ様子で口元を緩め、軽く手を上げ挨拶を送った。
「うん、こんにちは……」
ぎこちなく返される。
キヤルは伏し目がちで、こちらに目を合わせようともしない。
嫌な沈黙が続いた。それを破るべく、ジンは口を開く。
「何やっているんだ? こんな所で、授業中だろ?」
自分の事を棚に上げて質問をした。
「えっと……ここ、部室棟なんだ……雑草会の部室がここにあって……授業は、ちょっと、怖くて……」
ラグナの動きを抑えたからと言って、今までの上流生と下流生のいざこざが直ぐに消滅するような事は無い。
キヤルはずっと根深い怯えを抱えている。
「そっか、まあ無理しない方が良い。授業なんか出たくなけりゃ出なければ良いんだ。俺だって現にサボってるし」
「ふふ、うん……そうだね」
ようやくキヤルが少しだけだが笑ってくれた。
再び沈黙が訪れるが、今度はキヤルが打ち破った。
「でも、凄いね……ジン君は……まさか、ラグナ君を倒しちゃうなんて……しかも、王級の魔物を使い魔にしているんだね……」
「見てたのか?」
「ううん……話を聞いただけ……」
ならば、ジンがヴィクトリアに何をやらせたかも聞いているだろう。
「俺が怖いか? キヤル……?」
キヤルの肩がピクリと跳ねた。
口を動かして言葉を発しようとしていたが、上手く出てこなかった。
少女は一度気持ちを落ち着かせ、静かに、決心したように喋る。
「ごめん、ジン君……ちょっとだけ……」
申し訳なさそうに謝られた。
「あんたに危害を加える気は無いんだ」
「うん、分かってる……これは、多分、私の問題だから……」
今日初めて、キヤルとしっかりと視線を交わせることが出来た。
少しずつ今までの通りの喋り方に戻りつつあるが、まだ時間は掛かりそうだ。
そろそろ行こうかと踵を返そうとした所、キヤルの後方、別館の入り口から一人の男が出てきた。
「キヤル」
そして、彼女の名前を呼ぶと、彼女は後ろを振り返った。
「あっ……」
この男と待ち合わせをしていたようだ。
部室棟の前で、一人で立っていたのだから、そんなところだろうと予想はついていた。そして、中から現れたという事はおそらく同じ雑草会のメンバー。そして、1年生には見ない顔。上級生だ。
「悪い、待たせた……」
男はキヤルに謝罪の言葉を述べた後で、ジンの姿を見つけ、表情を険しいものに変えた。
「いや、手間が省けたのか」
小柄な男だった。だが胴や手足は太く、良く鍛えられているのが伺える。顔の彫りが深く整っており、だからと云って上品な感じではない。いくつもの修羅場をくぐってきただろう、野武士のような顔つきだった。
「ちょうど、お前さんのところへ伺おうかと思っていたんだ。授業には参加してないって情報が入って、キヤルに案内と紹介をお願いしてな……」
「ジン君、その……」
「そんな申し訳なさそうな顔すんなよ。ここで会った瞬間にそうだろう思ったし、こうなるだろう事は予め予想していた」
キヤルを安心させる為にも穏やかに言う。
小柄な男は「ほ~」と感心しながら、ジンを見定めるように全身を隈なく嘗め回して見る。
「状況の飲み込みが早いんだな。うん、中々いいな……話が早そうで助かる」
遅かれ早かれ接触は間逃れなかったし、何も問題はない。
「お前さんが、アンタッチャブルのジンで良いんだな?」
「ああ。そういうあんたは……?」
「ラヴィッチだ。3年で、雑草会代表の」
そう言ってラヴィッチは自身の胸をドンと叩いた。
十中八九そうだろうと思ったし、名前なんかはミノアから聞かされていた。
下流階級の生徒達をまとめ上げるカリスマ的存在。下流階級の生徒が集まり団結するクラブを結成し、弱きものを守り、上流階級の生徒達の虐げに屈せず戦う。そんな男だと聞かされていた。
もっと大柄な男なのかと勝手に予想していたが、ジンが見下ろす程、キヤルより少しだけ高い位の身長しかない。
「あんたが……お噂は兼ねがね聞いているよ」
「そいつはどうも……案外、背が低いだろ?」
「まあ、そうだな」
「ははは……はっきり答える奴だな。気に入った。俺と初めて会った奴は大体同じ感想を覚えるそうだ。俺も特に気にして無いがな」
そう言いながらも初対面の人間に自虐ネタをぶっこんで来るあたり、内心ではかなり気にしていると思えて仕方が無い。むしろ、言われる、思われる前に自ら言ってしまえという感じだ。
第一印象としてラヴィッチがどのような人間なのかが見えてきた。
「で、俺に用があるとか……?」
先輩に対してだというのに、ジンは敬語も使わず不遜な態度だ。しかも不可触民の分際で。
この男の人間性を深く探る為にあえてそうしたが、それを気にした様子はラヴィッチには無かった。
「ああ。先ずは昨日の件について、素直に礼を言いたい。ありがとう。かなりの人数がエンリの野郎に痛い目に遭わされていたからな」
「礼を言われるような事じゃない。俺はただ降りかかる火の粉を払っただけだ」
「だとしてもだ。あわや上流生たちとの全面戦争も覚悟していた……そうなれば、さらに多くの怪我人が出る所だったよ」
「雑草会は打倒上流階級を掲げているんだろう?」
「まあな。でも、タイミングと過程があるだろうに……。竜門会なんてのは最悪だ」
竜門会の名を口に出すと、ラヴィッチは顔をしかめ腕を組む。相当まいっていたようだ。
毎日のように仲間が痛い目に遭わされるのを見ながら、会員たちの嘆きを聞き、更に生徒会や学園側の動きをけん制しながらだっただろうから痛み入る。
「昨日の勝負、見させてもらったよ。胸が躍る気分だった。エンリが地べたを這いつくばる姿を見るのは痛快だったな~……欲を言うと、俺が野郎をぶん殴ってやりたかったがな」
「そいつはどうも」
「それにしても、レヴィアタンか……凄かったな……純粋に凄い、としか言葉が出てこない」
徐々に興奮して来たのか、先程からラヴィッチの言葉が止まらなくなってきた。
ちらりとキヤルへ目線を向けると彼女は俯いていた。
「なあ、ジン、雑草会に入る気は無いか?」
そう言われて再びラヴィッチに視線を戻すと、雑草会の代表は真剣な眼差しでジンの事を射貫いていた。
「ない」
歯に衣着せず、きっぱりと断る。
「そうか。分かった」
すると、ラヴィッチは潔く引き下がった。
「随分とあっさり引くんだな」
「駄目で元々の勧誘だったからな。上流生の一人をぶったおして、革命を起こすなんて宣言した人間が誰かの下に付くなんて思えなかったし。それに俺の話に微塵も興味無さそうだったしな」
「お見通しってワケだ」
ジンがラヴィッチを品定めしていたように、彼は彼でジンをよく観察していたみたいだ。
「キヤルに説得を頼むって手もあったけどな」
「そうしたらお前さんは入ってくれるのか?」
「いいや」
「だろ?」
キヤルは少し落胆したような、それでも安心したように肩を落とした。
「キヤルはお前さんと比較的仲が良いみたいだったから、仲介役をお願いしただけだ。それに、後輩が嫌がるような事を俺は頼みたくない。こいつはお前さんの雑草会に誘うのが嫌みたいだったからな」
「ふーん」
後輩思いの良い先輩だ。
「ち、ちがうのジン君、そういうことじゃなくて……!」
「大丈夫だ。ちゃんと分かっている」
急に慌てふためくキヤルを優しく宥めた。ジンを一緒のクラブに入れる事が、では無く、無理に勧誘する事が嫌。という意味だろう。
だが、ラヴィッチがジンの勧誘をすんなり諦めたのは他にも理由がありそうだ。
「というか、どうしてもクラブに入って欲しいって感じでも無いな。この話自体は、あんたの独断だろ?」
「……勘が良いな、ちょっと惜しくなってきた」
「勘なんて程の事じゃない。俺自身、下流階級の人間に暴力を振るわれていたからな。仮に俺が雑草会に入ったとして、全員が快く迎えるとは思えない」
「それなら、俺が説得するさ」
「後輩の嫌がる事はしないんだろう?」
「……はは、一本取られたか?」
ジンの鋭い指摘にも、ラヴィッチは屈託なく爽やかに笑う。
「正直、雑草会の中にもお前さんを危険視する声は多く上がっている。昨日は上流階級のエンリを倒したが、今後お前さんが誰に牙を向くか分からないからだ。実際、俺もそう感じる」
「別に誰彼構わず襲おうなんて考えていない。そっちが危害を加えなければ何もしないさ。俺の事はほっとけ」
「ああ、でも、その実力はやっぱり頼もしい。現状、お前さんが1年生の中では一番強いんだからな。そいつを仲間に引き入れる事が出来たなら、上流生共に勝つことが出来るかも知れない」
ジンの能力を最大限利用するための勧誘だった。本来、勧誘なんてものはそんなものだが……。
「……あっそ」
ジンはいよいよラヴィッチに対する興味が失せて来ていた。
「残念だ」
「ま、打倒上流生はあんたらだけで頑張ってくれ」
「違う。お前さんがいずれ潰されるであろうことが残念だっていう意味だ」
ラヴィッチはジンを気遣うように、それでいて厳しく告げた。
「ジン。お前さん一人じゃこの学園をひっくり返す事なんか出来ない。いずれ、生徒会に潰される」
「へー、そうかい」
「レヴィアタンを従えているのは純粋に凄い。並の2、3年じゃ太刀打ちできないだろうさ。でも、生徒会は違う……とくに、会長のリタ・ヒプノス、彼女には絶対に勝てない。お前さん一人の力じゃな。革命を起こすってことは、生徒会を倒すって事だ」
「その生徒会に潰されないようにも、協力しろって事か?」
「そういう事だったんだけど、そんなつもりは無いんだろ? それじゃ、忠告はしたぜ」
そう言うと、ラヴィッチはひらひらと手を振り別館の中へと帰って行った。
今更だが、彼も授業をさぼっているようだ。
彼の姿が完全に消えると、ずっと黙していたキヤルが申し訳なさそう重い口を開く。
「ごめんね。ジン君……」
「あんたが謝る事じゃないだろう」
「でも……」
ラヴィッチに対しても、もちろんキヤルに対しても憤りなど感じていない。
雑草会の代表はジンの事を本当に心配してくれて忠告してくれただけだ。
それを素直に聞くつもりは無いが、その心意気には感謝の念を送るべきだろう。
「でも、私も、その……ジン君が、ここから出て行くこととかに、なったら……いやだな……」
キヤルは歯切れ悪く、口ごもりながら言った。
「心配すんな。そんな事にはならんよ」
「うん……ねえ、ジン君、雑草会なら、ジン君を守る事も出来るよ?」
最初はジンの勧誘を嫌がっていただろうキヤルが、自ら雑草会に招き入れた。
それだけジンの身を案じてくれている。実際、今のジンは四方を敵に囲まれているも同然。
しかし、それは今までと何か違っているだろうか。彼の周りにはいつも敵だらけだった。
「ありがとう、キヤル。だが、丁重にお断りするよ……雑草会じゃ、俺を守る事は出来ない」
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