シロクロボット・リプレイス

幽斎

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22 実機訓練③

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「これより実機訓練を行う。操縦士は機鎧に乗り訓練場に移動。各々、試合相手を見繕い試合を行え。整備士は担当機鎧の戦闘データを摂り改善点を洗うように。訓練終了後、レポートに纏めて提出してもらう」

 さっきまでは気持ちの緩んでいた生徒達が、アイザの言葉を真剣な面持ちで聞き取っているが、殆どの生徒が委縮してしまっている。
 この男は日頃から生徒達より恐れられているみたいで、肉食動物を思わせる目つきと、厳しくも重苦しい言動ばかりをしているのだからそれも当然の事である。

「それから、エスファ。貴様はキビサカと試合をするようにしろ。以上だ。各自取り掛かれ」

 忌々しそうにダリウスに一瞥をくれてやり、アイザは吐き捨てるように言った。
 態度に思う所は在るが、この男なりにダリウスに気を使ってはくれている。

「教諭、よろしいでしょうか?」

 教官からの説明事項も終わり、各々、機鎧に乗り込もうとした折に、ドナルペインが発言を求めた。

「なんだ、ビガロ?」

 ジロリとねめつけられ、他の生徒であれば縮こまっていた事だろう。
 しかし、ドナルペインは一切物怖じせずに二の句を継いだ。

「私は対戦相手にダリウス・エスファを所望しており、先程、両人の間で試合の約定を済ませたところでした」

 そんな約束をした覚えはない。
 まだダリウスは返事をしていなかったのだが、ドナルペインの中では既にダリウスと戦う事になっていたらしい。

「そうか、だがそんな事は私の知ったことではない。残念だが他の者と試合をしろ」

「何故、エスファとキビサカだけが教諭に定められて試合をするのでしょうか? 私は教諭のお言葉通り、自分で対戦相手を見繕ったのですが」

「それでは、何故貴様はエスファとの対戦を希望するのだ?」

「騎士としてより高みを目指す為に、強者と刃を交えたいと考えるのは、男として当然の事でありましょう」

 何と言われてもドナルペインは食い下がり、アイザは機嫌悪そうに「ふん」と鼻を鳴らした。
 それを見ている生徒達はハラハラと肝を冷やしている。

「強者か……しかし、今のエスファは怪我から立ち直ったばかりで、しかも記憶を失っている。とても強者とは呼べん。そんな者と戦っても、貴様の言う高みは目指せんだろう」

 ダリウスを上から見下し、まるで貶めるような言葉であった。

「それに、エスファにとっては本日の訓練もリハビリの一環である。キビサカは謂わば補助役だ。貴様の出る幕はない」
 言われてドナルペインは考え込む仕草をとったが、まだ承服しかねるようだ。

「それならば、私が引き受けます」

「駄目だ」

「何故でしょうか?」

「貴様がエスファに抱いている感情は私も弁えている。ならばこそ貴様は適任ではない。エスファが快復したならば存分に刃を交えるが良い」

「それでは何故ビサカなのでしょう? 彼女は今年度から当学園に転入して来たばかりでは無いですか?」

 いい加減にクラスメイト達は気が気ではない。
 口に出さずとも、これ以上クラネル教諭の機嫌を損ねるな、と表情で猛抗議をしている。
 しかしドナルペインはそんな事お構いなしである。

 アイザがダリウスの試合相手にモモをあてがっているのは、彼の正体を知る唯一の生徒である事が一点と、彼の者を他の生徒と対戦させるのは危険だと判断しての事だった。
 まさかそれを説明する訳にもいかないので、予め用意しておいた理由を述べる。

「だからだ。どうせ私も今日はエスファに掛かりっきりだ。しかし、転入したばかりのキビサカの実力も測らねばならん。一緒に居てくれた方がこちらとしては好都合であるし、両人は例の件で縁を結ぶことになり、お互い気兼ねもないだろう」

 もっともらしい事を言い並べ、ドナルペインを言いくるめる。
 しかし言葉通りの考えもあった。

「これ以上の反論は許さん。時間は限られているのだ」

 そうしてぴしゃりと云いつけ、アイザはドナルペインを黙らせた。
 それでもドナルペインはまだ釈然としていない様子である。

「それでは、各自準備に掛かり、訓練場に向え」

 号令と共に、生徒達は各々のフラッゼレイの元まで駆けていく。

 ついにシャムシールに機乗する時が来た。
 別段待ちわびていた訳でもないのだが、パイロットとしては異世界のロボットに乗るというのはやはり気持ちが昂るものがある。

「行くぞ、シャムシール」

 ついカンビュセスに指示を出す時の要領で声掛けしてしまったが、こちらの世界のロボットにAIは搭載されてないので返答は無い。

 しまったと頭を掻いて、格納庫の隅で佇む純白のシャムシールの背後へと回り、背部のコクピットハッチから垂れ下がったワイヤーを掴んだ、これが昇降装置なのだろう。

 足掛けに足を乗せるが、一向にワイヤーが巻き取られてダリウスを持ち上げてくれることは無く、その形のまましばらく硬直していた。

「何やってんだよ?」

 固まっているダリウスにエドガーが呆れ声を掛けて、シャムシールの脚部に触れた。
 すると、ワイヤーが巻き上げられ、ダリウスの身体が上昇しコクピットへと誘う。

(いま、どうやって機体を操作したんだ……?)

 マシンナーズデビルであればAIが自動で操作して操縦士を内部に入れてくれる。

 ところがフラッゼレイにはAIはおろかコントローラーの類も無い。
 エドガーが機鎧に触れはしたが、それだけで昇降装置が作動した。

 不思議に思いながらも、昇りきったので内部に飛び込む。
 シャムシールのコクピット内は狭く、窮屈だ。
 完全に一人乗りようで、人が二人入りきる程の余裕は無い。
 この辺はカンビュセスと同じくらいだろうか。

 シートに座した所で、不可思議なことに気付いた。
 操縦桿が無い。
 その他にも、計器類、タッチパネル、スイッチなど、操縦に必要である筈の部品が何もないのである。
 あるのはスクリーンモニターと、シートだけだ。
 起動前である為スクリーンには何も映し出されていない。

 そしてシートの両脇にはひじ掛けが付いており、その先端部分に半球形の水晶と思しきものが産み込まれている。
 内部構造がカンビュセスとは全く違い、これで一体どうやって動かすのだろうか?

「ダリウスー、どうだー?」

 エドガーから声が掛かるが、どうだも何も、一対何をどうすれば良いのだろう?

「こいつはどうすれば起動するんだ?」

「座席の両側に魔力感知装置が付いてるだろ? そこに両手を置いて魔力を込めろ」

「魔力を、込める……?」

 思えば、その魔力というものについて、きちんとした説明をまだ受けていない。
 授業によると、魔力とは人間には誰しも例外なく宿っているもので、それにフラッゼレイの魔力感知装置が反応し、機鎧が動くことになるらしい。
 とにかくエドガーの言う通りに水晶のような、魔力感知装置に手を置く。
 だがシャムシールはうんともすんとも動かない。
 魔力を込めるという動作が、分からないでいた。

「おーい、まだか~?」

 こちらの気も知らないで、間延びした声で催促してくるエドガーに若干の苛立ちを覚えた。

「起動しないぞ!」

「なに? お前魔力流してるか?」

「魔力感知装置というものには手を置いている!」

「だったらそこに魔力を込めるんだよ。動けって念じるようにな」

 もはや説明にすらなっていない気がするが、言葉通りに動けと念じた。

(……動け!)

 だが、シャムシールはピクリとも動こうとしない。

「おい、ダリウス早くしろよ」

 そう言われても説明が雑すぎる。
 これから精密機械を動かすというのに、魔力を込めろだの、念じろだの、あんないい加減な説明があるか。

「やっている。しかし魔力を込めるの意味が分からない!」

「は……?」

 何故こちらが驚かれなければならないんだと、ダリウスは苛立つ。
 が、対してエドガーは、ダリウスの言っていることが信じられないと云うような様子だった。

「記憶が無いからって、流石にそんな事はねえだろ!」

 苛立ちの込められた言葉に、ダリウスは反論しようと口を開きかけたが、何かがおかしい、いまいち会話が噛み合っていない。
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