私は絶対間違った

Asagi

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4.慣れて2

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部活も決まり、学校生活にもリズムが出来始めた。私は、朝、佳奈と登校し、授業を受け、放課後は図書室で本を読んだ。居場所と言うものが出来た事で気持も落着く。
佳奈は、少しずつ明るいキャラクターが周囲に認知されて、また水泳の為に小学校以来のショートカットにした為か、活発な女子と言うイメージが定着し、所謂一軍女子になって行った。友達も出来、佳奈をいじるような男子もその後見たことがない。私は、佳奈の友達と言うことが幸いし、大人しい読書部の眼鏡女子(偽物)でありながら、友達も増え、孤独になる事は無かった。
真面目な優等生扱いをされる傾向だ。
季節も、梅雨の終わりになる頃、雨の予報の週末、雨だから映画でも行こうと言う約束をクラスの4人とした。私と佳奈、その他2名はモールのなかにある映画館で、前から10列目位の席に陣取りポップコーンを食べながら始まるのを待っていた。部屋が暗くなり映画予告が始まると、隣の佳奈が、
「さとみ、あの字幕霞んでない?」
と聞いてきた。
「そう?あれはバケモノめって書いてあったよ。」
佳奈は、眼鏡を外すと目をこすり眼鏡をかけ直した。そして、顔にぎゅっと押し当てながら目を細めて画面を見た。
「さとみ、私見えてないかも。」
と泣きそうな声で言った。
「ウソ、じゃあ私の上からかけて見る?」
と本来の持ち主にかけていた眼鏡を渡す。佳奈は、二重に眼鏡をかけスクリーンを見て
「超見える!ヤバい」
と言う。私は、ここ最近眼鏡をかけ続けていても眼精疲労を感じない程にレンズに慣れていたのだが、眼鏡を外した直後は少しピントがぼやけるが、しばらくすると裸眼でも依然見えると言う眼の状態だった。なので、見えないのであれば
「佳奈、つけてて良いよ」
と佳奈にしか聞こえないように言った。映画の内容は、ほとんど覚えてない。佳奈の二重眼鏡姿を横目でずっと見てドキドキしていた。映画が終わると他の2人も
「佳奈ちゃん、さとみの眼鏡ダブルで掛けてどうしたの?」
と笑いながら言った。佳奈は、もう意にも介さずに、
「眼鏡の限界突破だよ」
とうまくいなす。私には出来ない芸当。佳奈は、眼鏡を私に返すと、
「ごめんね。」
と小さく言った。その帰り、佳奈は、深刻そうな顔をしてほとんど話をしてくれなかった。
映画館での出来事の後、2、3週間たって、何時もの様に佳奈との待ち合わせ場所に向かうと、
「じゃじゃ~ん。さとみ見て!」
佳奈の顔には見慣れない眼鏡がかかっていた。紫のグラデーションが綺麗なセルフレームの眼鏡だ。何より前にもまして光の反射がギラギラしている。
「佳奈新しくしたんだ良かったね」
と素直に嬉しい。
「またお母さんに、お金がかかるって言われたよ。」
そうだ、佳奈は、半年弱で眼鏡を新調したことになる。
「佳奈めっちゃ可愛い。」
「ありがとう。それにしてもよく見えるよ~」「へえ、度数とか変わったの?」
「度数?ちょっと覚えて無いな。そうだ!家にあるかも。帰り寄って」
という会話をしながら学校に着く。その日はドキドキして、放課後が待ち遠しかった。授業中も身が入らない。放課後は、佳奈について、佳奈の家に向かった。いつも通り親御さんは仕事、年の離れたお兄さんは、独り暮らしで留守だ。早速レンズの保証書を出してきてくれた。
「さとみ分かる?」
と渡してくれた。度数は、右-3.75左-3.50Dだ。「視力は、0.1で変わらないんだけどね。3段階進んだらしいよ。」
と言うことは、以前の黒縁は-3.00位だろうか。私は、意を決して切り出す。
「佳奈、掛けさせて!」
「はいよ」
佳奈はあっそんな事と言わんばかりに、ポイっと外し貸してくれた。紫の眼鏡は手に取ると本当に綺麗だ。私には、アクセサリー以外の何物でもない。そしてかけて目をあける、
「おっー視界がぎゅ~となる。」
「そうだよね。ははは」
と笑う佳奈。私に顔を近づけて目を細め
「うん似合うね。」
と言ってくれた。佳奈の姿に伊藤先生がモールで見せたその姿がフラッシュバックしてドキッ!とした。ちょっと時間が経つと少しピントが合いやすくなってくる。
「じゃ見えないから返して。」
と手を伸ばしてくる佳奈にふざけて私の借りている初代眼鏡を渡した。佳奈はかけて
「見えん!これじゃ無いでしょうが。」
とのってくれた。1年前迄は佳奈はこれで見えていたはずなのだ…
「返す返す。」
と佳奈に紫のグラデーション眼鏡を返した、佳奈は手にとるとさっとかけ、視界の戻った目つきでこちらを見る。
「ねえ黒い方はどうするの?」
私が聞いた。
「まあ、机にしまっておくかな」
「私にしばらく貸してくれない。」
「えっ、別に良いけど。かけれる?度強くない?」
「あ~、眺めるだけ。普段はかけない。」
と借りる事に成功した。
佳奈にお礼を言うと、私は急いで家に帰り、部屋でかけていた眼鏡を外し、新しく2代目黒縁を手に取る。憧れのギラギラした反射がその手の中にある。鏡の前に行きそれをかける。「思った程強くない?でも歪みは感じる。」家の中を見回す。時計の針も、本の字も見ることが出来た。窓の外の景色も見える。でも、遠くの看板の文字を凝視出来ない。スマホカメラのピント合わせが合わなくて焦点が行ったり来たりしている感覚だ。そして鏡の中の私は、憧れの佳奈みたいだ。輪郭のズレもある。映画館での佳奈の様に二重がけもしてみる。「うっこれは強いな。」と外す。佳奈は、これで良く見えるのだ。
こうして家に居る時は、自室に閉じこもり、黒縁眼鏡姿を堪能する日々が始まった。
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