異世界転生もの

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穏やかな森での採取依頼、のはず

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大公家邸宅『冬の精霊宮』がある小高い丘の下にフーディという街がある。

フーディは大公領でも北端にあるが大公家本宅と避暑地としても名高い事から貴族たちの別邸や夏の避暑地としても名高い。
その街の西側に『暗い森』と呼ばれる森がある。
小さな湖があり清涼な雪解け水が流れる川に季節ごとの花畑などもある。
珍しい動植物も多く場所によっては気楽にピクニックすら出来るよう穏やかな場所でも知られている。
ただ奥地はその名の通り暗く、陽の光が落ちない森林が広がっている。


森へと入る道筋に森番小屋がある。
入る者は全て氏名と目的を申告しなくてはならない。
当番制で受け持つ者は狩人としても腕が立ち、時には同行してくれたりもした。
休憩所を兼ねているが外から声を掛けれるようカウンターが玄関先にある。
閉じた戸を叩くと、中から無精ひげの男が顔を出した。
ギルドから受け取った木札を差し出す

「おはよう、これから森に入るけどいいかな」
「おはようさん、朝からご苦労さん、ギルド案件か、何しに入るんだ?」
「朝露の採取依頼、頼まれてさ」
「相変わらず面倒な依頼受けてんなぁ――、ほらよ」

木の実や干し果物を蜂蜜や木の蜜で絡めた一口サイズの甘味を幾つかカウンターに置かれる。「…俺もう子供じゃねぇんだけど」と言いながらも遠慮なく貰っておく

「最近どーも大物が奥から出てきてるみてぇだから採取中でも気は抜くなよ。」
「大物?」
「鹿とか、大ぶりのウサギとかだが猪もでけぇのが数匹昨日も捕れてたなぁ」
「朝露と幾つか薬草を採ったら出てくるよ」
「おう、そうしとけ。命大事だ」

この世界でのウサギは可愛いのも居れば凶悪なのもいる。
鹿も猪も前世と変わらぬような姿だが、角があったり牙があったり色がおかしかったり。
たまに魔法か?と思うほどに気配を消していたり見目より俊敏だったりするので侮れない。

森の採取依頼は初心者には難しく中堅どころには報酬が今一つでどうしても残りがちの案件だった。
リゼル的にはたまに恩でも売っとくかという気持ちで受付嬢の進められるまま受けていた。



森の中の奥へ進めば道は徐々に細くなり、細い獣道へと変わる。
目指す場所はある程度辺りを付けていたので、奥へと進みながら周辺を探索する。

朝露は、ある特定の木の葉に溜まる滴のことで様々な用途で使われる。
まず浅いところで採取して幾つか回り30本分は確保し終える。

透明な滴でしかないが、じっと見つめるとオーラのようなものが視える。
魔法が扱える者は大体こうやって魔力があるかないか判別できる。
とても綺麗な色をしているので、淀んでいない魔力だ。
魔法鞄に全て納め、序に周辺にある薬草など、後食べれる草っぽいやつやキノコも採取していく。

「よし、こんなものか。」

採取用の手袋を取り鞄へと放り込む。
陽も高く上がり、温かさで寒さが和らいでいる。



西は奥に進むと更に木々が密集してくる。
その前には清涼な川が流れているので、そこまで足を延ばして、休憩を取ることにした。
途中水分補給と甘味を口に放り込む。岩場が多く、木の根も大きく這っているなかを身軽に移動する。
川のせせらぎが聞こえてくる、もう少しだな木々の葉を避けていると

不意に頭上から不吉な音が響いた
木々の葉や枝を折って、丁度自分が立っていた場所より少し先に黒い物体が落下してきたのだ。

咄嗟に後方へ下がったリゼルはその生き物を見て慄いた。
大鷲だ、しかも巨大――――。その体には落ちた時のだろう枝やら葉っぱが絡みついている。
加えて、黒く淀んな靄も張り付いていた、それが淀んだ魔力―――瘴気と呼ばれるモノであるのがわかる。
アレは、矢か…?矢が一本大鷲の羽根の根っこに深く突き刺さっていた。
大鷲は苦し気にのたうち回り、羽根が飛び散り小石や土を巻き上げていた。


「……っ、何だっていうだ……これ」

「イーライ!!!!!」

ふいに自分のもう一つの名を呼ぶ声……いや叫びが空から響いた、リゼルは振り仰ぐと白い何かが降ってくる。
ドンっと勢いおく、暴れる大鷲の頭を矢が貫いた。
白い髪が靡く、その隙間から除く双眸は赤くルビーのような色をしている。

「―――!!シ……」
「右から来るぞ!」

何がと問う前に察しリゼルは、瘴気まみれの瀕死の大鷲を踏みつけ白髪赤目に体当たりする勢いで肩に担ぎ上げれば駆け出した。
大鷲の場所に何かが突っ込んで来ていた。
ぶわりと更に黒い靄が背中側から漂うが振り返らない。いや振り返れなかった。

低く唸るような咆哮を立てる新たな何かがが背後で大鷲に食らいついている隙に一目散にその場を離れた。


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