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七話 海と恋人
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邦史郎は靴とTシャツを脱ぎ捨て、海へと入って行く。
太陽は出ていたが、きっともう夕方なのだろうーー海から上がる人間は何人もいたが、反対に入ろうとする人間は彼以外には一人もいなかった。
服には水が染み込んで、身体が重く感じる。
自殺したいわけじゃない。ただ単純に、頭を少し冷やしたかったのだ。
「冷たい…」
少し落ち着くと、家での会話や先程の車内での会話が、頭の中をリピートし続け始める。
時間が経てば経つほど、自分の落ち度が鮮明に現れ、邦史郎は悔しさと怒りで涙が止まらなかった。
波が邦史郎の背中を押す。
もう、ある程度の理性は戻っていた。
(結構深い所まで来ちゃったな…。)
足はまだまだ届くが、海水はすでに肩の所まで来ている。
浅い所でしか泳いだ経験がない邦史郎には、これ以上は危険だった。それに泳ぎだって、あまり得意な方ではない。
波が次第に、邦史郎を引き込むように高くなってくる。
(あれ…さっきより深くなった? )
海に慣れていない邦史郎は、気付く反面、戸惑いを隠せない。
「おい馬鹿!」
その時、浅瀬の方から必死に京馬が走って来るのが見えた。
「京馬…」と、邦史郎は驚いた様子で目を見開く。
「早くこっち来い!」と怒鳴りながらある程度の深さの所までくると、今度はクロールで泳ぎ始めた。
あまりの必死さに邦史郎は勢いを呑まれそうになる。
そして邦史郎は、小さく一歩、必死な彼の方へ足を進めた。
二人は出会う。
「死ぬ気か、馬鹿!!」
京馬は怒鳴った。
邦史郎を叩こうとした右手が、今度は寸前で止まる。
京馬の顔を見ると、怒る反面、今度はどこか呆れているようにも見えた。
「ごめん」
先にそう言ったのは、邦史郎ではなく京馬だった。ぶっきら棒に、しかし視線はちゃんと邦史郎に向いていた。
「寂しい思いさせて、ごめんね」
京馬は邦史郎の頭を撫でる。
(なんだこれ…。何変わっちゃってんの。何だよもう、都合良すぎだろ…。この自分勝手野郎)
邦史郎は頭の中で怒った。
自分の気分次第で、人を振り回す。
怒り出したら人の話を全く聞かない。
そんな京馬といると、自分達って俗に言う悪い方のカップルなんじゃ?と邦史郎は思う時がある。
「謝るなら、最初から謝れよ。」
邦史郎はそう呟いた。まだどこか怒りが残っている口調だ。
「言ったろ。頭一回冷やさないとダメなんだ」
「それで、海の中まで追いかけて、頭が冷えたって? 」
「自殺するかと思ったんだよ」
「するわけないだろ」
「でも、波にのまれて死ぬかもしれない」
「お前は保護者か! 」
(京馬がノンケだったら、相手の女の子はちょっと大変だったかも。)
邦史郎は心の中で少し笑った。
安堵した気持ちがあったからだ。
「クニ、ごめん」
「うん…」
と邦史郎は小さく答え、「こっちこそ、ごめん」と視線を逸らして謝った。
京馬は子どもだ。保護者のように邦史郎を心配するけれど、こうして真っ向からぶつからないと自分の間違いを認めない。
かといって頑固者で、口論になれば必死に相手を負かそうとする。
「別れるのは嫌だ。お前がどうしてもって言うなら止めはしないけど」
京馬が寂しそうな顔をしてそう言う。邦史郎がすぐに「もう、その話はやめよう」と返すと、ホッとしたように彼は微笑んだ。
太陽は出ていたが、きっともう夕方なのだろうーー海から上がる人間は何人もいたが、反対に入ろうとする人間は彼以外には一人もいなかった。
服には水が染み込んで、身体が重く感じる。
自殺したいわけじゃない。ただ単純に、頭を少し冷やしたかったのだ。
「冷たい…」
少し落ち着くと、家での会話や先程の車内での会話が、頭の中をリピートし続け始める。
時間が経てば経つほど、自分の落ち度が鮮明に現れ、邦史郎は悔しさと怒りで涙が止まらなかった。
波が邦史郎の背中を押す。
もう、ある程度の理性は戻っていた。
(結構深い所まで来ちゃったな…。)
足はまだまだ届くが、海水はすでに肩の所まで来ている。
浅い所でしか泳いだ経験がない邦史郎には、これ以上は危険だった。それに泳ぎだって、あまり得意な方ではない。
波が次第に、邦史郎を引き込むように高くなってくる。
(あれ…さっきより深くなった? )
海に慣れていない邦史郎は、気付く反面、戸惑いを隠せない。
「おい馬鹿!」
その時、浅瀬の方から必死に京馬が走って来るのが見えた。
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「早くこっち来い!」と怒鳴りながらある程度の深さの所までくると、今度はクロールで泳ぎ始めた。
あまりの必死さに邦史郎は勢いを呑まれそうになる。
そして邦史郎は、小さく一歩、必死な彼の方へ足を進めた。
二人は出会う。
「死ぬ気か、馬鹿!!」
京馬は怒鳴った。
邦史郎を叩こうとした右手が、今度は寸前で止まる。
京馬の顔を見ると、怒る反面、今度はどこか呆れているようにも見えた。
「ごめん」
先にそう言ったのは、邦史郎ではなく京馬だった。ぶっきら棒に、しかし視線はちゃんと邦史郎に向いていた。
「寂しい思いさせて、ごめんね」
京馬は邦史郎の頭を撫でる。
(なんだこれ…。何変わっちゃってんの。何だよもう、都合良すぎだろ…。この自分勝手野郎)
邦史郎は頭の中で怒った。
自分の気分次第で、人を振り回す。
怒り出したら人の話を全く聞かない。
そんな京馬といると、自分達って俗に言う悪い方のカップルなんじゃ?と邦史郎は思う時がある。
「謝るなら、最初から謝れよ。」
邦史郎はそう呟いた。まだどこか怒りが残っている口調だ。
「言ったろ。頭一回冷やさないとダメなんだ」
「それで、海の中まで追いかけて、頭が冷えたって? 」
「自殺するかと思ったんだよ」
「するわけないだろ」
「でも、波にのまれて死ぬかもしれない」
「お前は保護者か! 」
(京馬がノンケだったら、相手の女の子はちょっと大変だったかも。)
邦史郎は心の中で少し笑った。
安堵した気持ちがあったからだ。
「クニ、ごめん」
「うん…」
と邦史郎は小さく答え、「こっちこそ、ごめん」と視線を逸らして謝った。
京馬は子どもだ。保護者のように邦史郎を心配するけれど、こうして真っ向からぶつからないと自分の間違いを認めない。
かといって頑固者で、口論になれば必死に相手を負かそうとする。
「別れるのは嫌だ。お前がどうしてもって言うなら止めはしないけど」
京馬が寂しそうな顔をしてそう言う。邦史郎がすぐに「もう、その話はやめよう」と返すと、ホッとしたように彼は微笑んだ。
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