ワーカーホリックのメイドと騎士は恋に落ちることが難しい!

カエデネコ

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三騎士エリックVSセオドア

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 戦は俺達の剣を奮う出番がなく、終わってしまった。大国との戦いに皆が緊張していたのに、いざとなると呆気なく終わり、少し気が緩んだ雰囲気がエイルシア王国の陣地に漂う。

 リアン様の変わった策によって、相手を追い詰め、降伏させた。それはまるでチェスゲームのように逃げ道をなくしていくようなものだった。

 両国が血を逃さずに終えれたことは大きいが……。

「あーあー、つまんないなぁ。意外と平穏にユクドールとのいざこざは終わっちゃったな」

 女顔をした三騎士の一人、エリックが退屈そうにそう言う。可愛い顔をしているのに、実は一番血の気が多いし、大胆なやつだ。だから陛下もなにか仕掛ける時はこいつを重用する。

「セオドアは早く戦が終わってうれしいだろ?アナベルに会えるしね」

「余計なことを言うな」

 俺の低い声に怖い怖いと笑うエリックはまったく怖くなさそうだ。野営しながらの昼ご飯を終えたところで、辺りには兵たちがたくさんいる。

「アナベルさんとどこまでいってるんだ?食事して、あれからどうなった?」

「エリックに関係ないだろう」

「ふふん。その反応、何にもないんだね!やっぱりなぁ」

 完全におもしろがっている。

「じゃあさ、僕もアナベルさんを狙っていい?」

「は!?」

 唐突に何を言い出す!?

「大人しそうで、控えめで優しそうな女性はタイプなんだよな」

 大人しくないと思うけどな。彼女は強い方じゃないかなと思うが……。いや、それよりエリックの真意はなんだ?

「スタイルもいいよな。リアン様の後ろに控えてるから、あまり気付いてないやつらもいるけど顔もいい!」

「ジロジロとアナベルを見るな」

「セオドアの物じゃないだろ?」

 その煽るような言い方にムッとしたが、その通りだ。

「エリックの好きにしろ」

「え!?ほんとにいいの?もらっちゃうよ?」

「俺がとやかく言うものではない。アナベルがエリックを好きになるならそれでいい」

「本気で言ってるのかい?」
 
 女性にモテるエリックだから、あっという間にアナベルも好きになるだろう。それにこいつはふざけているやつだが、一人の女性を好きになれば以外と浮気はしない。一人だけだ。ただし、なぜかすぐ別れてしまうが……なぜかは知らない。

「セオドア、ほんとにつまらない男だなぁ。そうだ!剣で勝負して僕が勝ったら、今後、アナベルさんに近寄らないっていうのはどうだろう?」

「なんだその勝負っていうのは?ただ、剣を振るいたいだけだろう?」

「ご明察!ほんとにつまらないんだ!」

 俺の返事を待つより先に剣が抜かれる。周囲の兵たちがざわめく。

「本気でやる気があるなら、手合わせくらいならしよう」

 挑発に乗るのはおもしろくないが、なんだかさっきからモヤモヤしているから手合わせして気分を変えるのもいいだろう。俺も剣を抜いた。

 戦場にいて、さらに無傷で勝利し、高揚している兵たちが集まってきて、やれー!いけ!と煽ってくる。エリックがニコニコしながら銀色の刃を構えた。

 ハッ!と息を吐いて地面を蹴る。素早い動きが小柄なエリックの剣さばきの特徴。その動きの速さについていくことができるか……。剣をまっすぐに突いてくる。それを右から薙ぎ払う。クルッとその反動を利用して回ってエリックが下段からヒュッと繰り出してきた。後ろへ跳んでかわす。しかし、それを追いかけるように鋭い斬撃で切り込んできた。このまま受け身ではやられる。俺も負けずに剣先を滑らせてエリックの体に届かせようとした時だった。

「そこまでだ!」

 ピタリとエリックと俺が止まった。

「なにをしてる?」

 低く、怒気の籠った声。兵達がその人物を避けている。むしろ恐れておののいていた。久しぶりにこんな怒った顔を見た。

「陛下……ええっと……」

 ふざけていたエリックまでもが膝をついて頭を下げて言い訳を考える。俺も隣で膝をつく。完全に怒らせた。

「おまえたちが羽目を外しすぎるとはどういうことだ?」

「これは、その……」

 お調子者のエリックが言えないので、俺が立ちあがって言う。

「陛下、申し訳ありません。腕がなまりそうだったので、二人で訓練をしてました」

 ドカッと蹴りを入れられる。エリックも殴られて吹っ飛ばされる。俺とエリックはその場に伏せた。ゲホッゲホッと嘔吐しそうになり、呼吸ができなくなった。

「一発ずつで許しておく。兵を率いるもの、王の傍で腹心と呼ばれるものが、次に同じことをすれば許さない」

 すいませんでしたと苦悶の表情でエリックが謝る。ウィルバート様が怒るのもわかる。俺とエリックは規律を乱した。それは戦場の中では命とりになることもある。しかも兵を統率する身分でありながら……。

 なにやってるんだ。俺はと地面に寝転がりながら目を閉じた。自分らしさが少しずつ失われてる気がした。
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