ワーカーホリックのメイドと騎士は恋に落ちることが難しい!

カエデネコ

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進みゆくストーリー

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 観劇の場所は、わたしには相応しくない貴賓席だった。高いけれど見やすい。周りは貴族の方々ばかり。でも壁やカーテンで仕切られていて、外からは見えない。

 でもなんだかわたし、浮いてる気がします。ソワソワして、ここにいてもいいのかしら?と汗が出そうになる。

「何をしている?椅子に座ろう」
  
 セオドア様が手を差し出してくれる。彼は貴族らしい身なりだし、雰囲気も気品があると思う……でもわたしなんて……。

 どうしようと迷っていると、痺れを切らしたのか、セオドア様が私の手を取って、ここに座れと寄せる。大人しく席に座る。隣のセオドア様はジッと舞台を眺めていた。

 そのうち、暗くなり、舞台にスポットライトが当たる。音楽が流れてゆく。

 主人公の女性は王女役で、異国の男性と恋に落ちる。許されぬ恋だが、どんどん惹かれていき、揺れる想いが描かれていく。

 異国の男性が帰国することになり、泣きながら歌うシーンに思わず涙を流してしまう。ハンカチで涙をそっと拭く。

 そこでハッ!とする。セオドア様がいるのに、こんな感情移入して涙まで!

 横を見ると……なんとも言えない……優しい顔でわたしを見ていた。な、なぜです!?思わず目を逸らして、慌てて舞台に集中する。

 こんなに柔らかな表情をする彼を今まで、見たことあったでしょうか?横目でちらりと見ると、いつもどおりのあまり表情がない顔で舞台の方を向いていた。これは無意識だったのでしょう。あんな表情もできるのですね……。

 あっ!いけません。これは仕事です。しっかり内容を覚えて、リアン様にお伝えしなければ!

 異国の男性は王女を攫うと宣言した。キャーとどこからともなく観客たちが歓声をあげた。

 愛の言葉が雰囲気を盛り上げていく。

 でも王女は婚約者がいて、政略結婚であるものの、王家のために婚約者を選ぶ。

 異国の男性は悲しみ、未練があるものの、船に乗り込み、帰国する。せつない歌声が響く。

 しかし自分の想いに素直になって好きな男性と共に行きたいと、追いかけようとする王女。だが、見つかってしまい、間に合わなかった。

 二人の想いは叶わないまま終わる。異国の男性は空を飛ぶ鳥に王女の自由を願う歌を歌う。王女は深い愛の歌を歌う。そして終劇。

「こ、こんな悲恋ものだったなんて……うっ……聞いてませ…んっ」

 ポロポロとわたしの目から涙がこぼれていく。我慢できませんでした。

 セオドア様がそっと泣いてるわたしにそっとハンカチを渡す。

「大丈夫か?」

「あっ!すいません。泣きすぎですよね」

 自分のハンカチが濡れすぎている。それに気付いたセオドア様が気を遣ってくれたらしい。恥ずかしくなってしまう。

「アナベルが泣くと……なんだか俺まで悲しくなる。もう泣くな」

 え?それはどういう意味なのでしょうか?わたしは自分の頬が赤くなっている気がして、慌ててハンカチで隠す。

 セオドア様は時々、物事をストレートに言うのでびっくりします。

 ……たとえば、わたしが王女でセオドア様が異国の男性ならきっとその手をとっているでしょうか?そのくらい強い気持ちで人を想うことはできるのかしら?何もかも捨てれる?
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