転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ

文字の大きさ
56 / 319

相続問題そこに愛はあるのか?

しおりを挟む
 私は頭を抱えた。

「なんだ?なんか問題か?」

 リヴィオが尋ねる。彼になら話してもいいだろう。冬に来た手紙……母の実家のベッカー家から連絡をとってきたことだった。

「……で、後継者がいないから、なんと私にベッカー家を継いでほしいという内容だったのよ。もちろん、断りの手紙を返したけど……」

「しつこく、また連絡が来たってわけか?」

「あんなにバシュレ家を恨んでいたのに変な話だし、裏がありそうなのよね」

「別にセイラはお金も土地もいらねーしな」

 正直いらない。商売繁盛しているおかげでお金はあるし、領地経営もこれ以上増やしたくない。

「それなのに!旅館に泊まりがてら私の顔を見たいっていうのよ」

 ジーニーにベッカー家の現在を調べて貰えばよかったわ。こんなにしつこいと思わなかったのだ。手紙を返して終わりだと思った。

 エスマブル学園の諜報部があることを知っているのは一部の生徒だけだろう。もちろん優秀だ。……そう思うと。学園と言いつつも『コロンブス』のように一組織だよね。

「旅館に泊まってもらって、すみやかに帰ってもらえばいいんじゃね?嫌なら俺が対応する」

「そうね……お客様の一人として……うん……」

 こうして、ベッカー家を迎えることとなったのだった。

「いらっしゃいませー!」

 馬車から降りてきたのはバシュレ家の父より少し上の年齢と思われるコルネリス=ベッカー子爵だ。背が高い格好いいオジサマだ。
 写真の母とよく似た優しい茶色の目を私に向けた。

「そんな他人行儀な挨拶やめてくれ。セイラ!会いたかったよ!」

 ギュッと抱きしめられる。
 えええええ!?会ったことのなかった伯父様にいきなりの愛情表現に固まる私。
 リヴィオがとまどう私を察して、すっと間に入る。

「ようこそ。はじめまして。婚約者のリヴィオ=カムパネルラです」

 自然な貴族の礼をサラリとして、リヴィオはお坊ちゃん風を装う。

「ああ!君が!!……いや、失礼した。公爵家の方にご挨拶が遅れて申し訳ない。わたしはコルネリス=ベッカー。社交界で君を見たことがあるよ。小さい頃から知っている。相当強いという噂も聞いている。セイラの婚約者として心強いよ!」

 握手を求められ、リヴィオはニコニコと笑顔で応じる。

「そうでしたか。ボクは小さい頃より寄宿学校で過ごしていたので、あまり社交の場に出れず、存ぜず申し訳ありません。今日はごゆっくりお過ごしください。お部屋まで案内しますよ」

 ボクうううう!?普段は俺がと言っているリヴィオが大人の挨拶をしている。どういうことなの!?

 他のスタッフもリヴィオの変わりように目を丸くしている。顔を赤くして格好いいと言ってるスタッフさえいる。

 私がお茶を出そうとするとリヴィオが『近づくな』とポソッと言いながらお茶とお菓子を出す。私は程よい距離感を保って座る。

「公爵家のお坊ちゃんにお茶を淹れていただくなんて恐れ多いな」

「セイラの考えるおもてなしの心に賛同しているまでですよ」

 キラキラオーラを消さずに言うリヴィオ。ベッカー子爵はそうか……と言いながら私の方に視線を向けた。
 
「セイラ、なぜベッカー家に来てくれなかったんだい?何通も手紙を出しただろう?」

「それは……私は仕事がありますし、母が亡くなって大分経ちますのに、私などに気をかけてくださらなくとも良いかと思いまして。ましてや大事な家を継ぐなどどいう大役はつとまりません!」

 私の言葉にバッ!と立ち上がると私の両手をとり、握りしめた。

「いやいや!何を言ってるんだい?君しかベッカー家を継げるものはいないんだ!……わたしと妻には子供ができなくてね。私は妹以外の他に身内もいないんでね」

「ご、ごめんなさい。そう言ってくれるのは嬉しいのですが……」

 手が伸び、私の黒髪を撫で始める。ゾワッと鳥肌が立つ。

 リヴィオが私の体を引いて離した。

「子爵、とりあえずゆっくりとこの旅館、自慢の温泉と料理をいかがですか?話は後にして……」

「良いだろう。とりあえずゆっくりと過ごすよ」

 部屋から出た瞬間に私は気持ち悪くなり、うずくまる。なんだ?さっきからこの違和感の正体は?

「おい、大丈夫か?あいつヤバいな。オレが対応する。おまえは近づくなよ。もし会うなら俺が同席する」

「ありがとう……苦手だわ。ああいうタイプは……」

 溺愛されたことのない私はあんなオープンな表現はすごく苦手だった。

「子爵家に跡継ぎがいないとしても、その親族の中にはいるだろう?なぜセイラなんだろうか?」

「そこなのよね。小さい頃のうっすーーらとした記憶ではバシュレ家の父のことをすごく怒ってたし、こっちに矛先が向かうなんてありえないわ」

 何か思惑があるとしか!

「そんな風に思われるなんて悲しいねぇ」

 ギクリッとして、私とリヴィオは振り返る。ベッカー子爵は手にタオルを持ち、大浴場のお風呂へ行こうとしていたらしい。

「君はバシュレ家の祖父に似ていると言われていたが、笑った顔や声は妹にそっくりだよ」

「そ、そうですか……?」

 初めて言われた言葉だ。優しくて儚げな母に似てるなど一度も言われたことはない。

「さて、お風呂に行ってくるよ。またあとでね!」

 フンフーンと鼻歌を歌って、ご機嫌で子爵は去っていく。その背中を私とリヴィオは見守った。

「あいつ……なかなかだぞ。何者だ!?油断していたが、オレらの背中をとったぞ。セイラ、気配を読めたか?」

 私は首を横に振る。学園で戦闘術を学んでいて、その中でもトップクラスと言われた私とリヴィオの背後をとれる人はなかなかいない。顔を見合わせた。

 食事になり、私は子爵のお部屋へ運ぶ。リヴィオは久しぶりの護衛としての役目を持ち、部屋の外で待機している。

「本日のメインはナシュレでとれたお肉と野菜の蒸し料理です。この小さい火が消えたら食べごろです。手前にあるタレをつけてお召し上がりください」

 蓋を開けると嬉しそうに料理を口にする子爵。

「へえ!素材の味がして美味しいよ!このタレも絶妙だ……良いね。温泉旅館がこんなにくつろげるなんて思わなかったよ。お風呂も気持ちよかったしね」

 お肉を食べて、お酒を口にする。うっとりとした表情で料理を味わっている。

「セイラ、単刀直入に言う……ベッカー家の養女にならないか?」

「よ、養女!?」

 いきなりの言葉に私は危うく、持ってきた天ぷらを落としかける。テーブルにそーーっと置く。び、びっくりした。

「私と妻の娘にならないかい?」

 この上ない優しい声と茶色の目を向けて言う子爵。

「いえ……でも……」

 とまどい、言葉がうまく出せない。

「失礼かと思ったんだが、バシュレ家での君の扱いも調べさせてもらったよ」

 子爵は急に顔が険しくなった。

「それならわたし達の養女にもっと早くするべきだったと後悔したよ!可哀そうだったね」

 可哀そう……?私はその一言で顔をあげ、ニッコリほほえむ。

「私は祖父には幸い可愛がられておりましたから……子爵、天ぷらが冷めますから召し上がってくださいな」

「……気を悪くしたかな?」

「いいえ。お言葉は嬉しいです。私はあまりそういったことを言ってもらったことはないので……でも今となれば、こうして私がナシュレの人々達と共にいれるのは、そんな過去があったからだとも言えますし、バシュレ家に特に未練はありませんが、祖父が残してくれた私の居場所を大切にしたいのです……なので……」
 
「その先、結論は早いよ。まだゆっくりと考えてみておくれ。今回は君に会いにきただけなのだから……でも気は長い方ではないからね。早く良い答えをほしいな」

 子爵の方が大人で何かと一枚上手だ。私の言動、考えが読まれている。リヴィオが感じた通り、何者なのかと思う。
 
 そうして、温泉旅館を味わい、また来るねー!とニコニコ嬉しそうに手を振り、子爵は帰って行った。

 ジーニーとカムパネルラ家へすぐに連絡をとる。ベッカー子爵について調べたほうが良いという判断した。

 思いがけない返事をジーニーは持ってきた。執務室で3人で難しい顔をした。

「調べるもなにも……ベッカー子爵はエスマブル学園の卒業生であり、諜報部の元所長だ。今は辞めて領地でゆっくり暮らしてる。あまり大きい声では言えないことだ」

「ええええ!?じゃあ……私が学園にいたことも知ってるんじゃないの?」

「諜報部の行動まではわからないが、学園にいることは少ない。各地を飛び回っている。知らなかったことはないだろうが興味がなかったんだろう」

 そうなるわねと頷く。今になって自分の子供がいなくて、私に白羽の矢が立ったのだろう。

 まさかベッカー子爵家と繋がりがあるとはねぇとジーニーが苦笑している。

「優秀な諜報部員なのか?身のこなしが良かった。俺とセイラの背後を簡単にとってきたぞ」

「ベッカー家の一族は昔から諜報に長けている。王家の諜報部にも入っていたはずだ。……こう言ってはなんたが、バシュレ家へセイラの母が嫁いだのも偶然ではないんじゃないか?と思う」 

「シン=バシュレのお目付け役ってことか?」

 リヴィオが察する。ジーニーは頷いた。

「だろうな。王家からの諜報部員かもしれない。シン=バシュレの作り出した組織『コロンブス』は他国に行ったり、彼自身の力も強かったり……味方でいれば心強いが、ずっと忠誠を誓うという確証はどこにもないだろうから王家からの見張りはついていただろうな」
 
 そうか……と頷く私とリヴィオ。

「……にしても、エスマブル学園長、大変だな。よくよく考えたらデカい組織だよなー」

 リヴィオがしみじみと若き学園長を見て、労う。

「だから、こうやって息抜きするのは大事だ……わかるだろ!?変人ばっかだよ!!」

 ジーニーは珍しく、やや声を荒げる。なにがあった??と私は聞きたくなったが、やめておいた。

 カムパネルラ家の返答はアーサーが在宅していたらしく、社交界でのベッカー子爵は『腹黒狸親父』と評していたそうだ。
 アーサーに言われたくないよなーと3人で爆笑したのだった。

 
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

規格外で転生した私の誤魔化しライフ 〜旅行マニアの異世界無双旅〜

ケイソウ
ファンタジー
チビで陰キャラでモブ子の桜井紅子は、楽しみにしていたバス旅行へ向かう途中、突然の事故で命を絶たれた。 死後の世界で女神に異世界へ転生されたが、女神の趣向で変装する羽目になり、渡されたアイテムと備わったスキルをもとに、異世界を満喫しようと冒険者の資格を取る。生活にも慣れて各地を巡る旅を計画するも、国の要請で冒険者が遠征に駆り出される事態に……。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

侯爵家の愛されない娘でしたが、前世の記憶を思い出したらお父様がバリ好みのイケメン過ぎて毎日が楽しくなりました

下菊みこと
ファンタジー
前世の記憶を思い出したらなにもかも上手くいったお話。 ご都合主義のSS。 お父様、キャラチェンジが激しくないですか。 小説家になろう様でも投稿しています。 突然ですが長編化します!ごめんなさい!ぜひ見てください!

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

処理中です...