転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ

文字の大きさ
102 / 319

新しい料理人

しおりを挟む
 『花葉亭』の料理長は少し緊張していた。

「その人物、知っていますよ!王都で変わったものを!新しいものを!食べたいなら、そのレストランへ行け!と言われるくらい有名な料理人です」

 献立会議中に私は宿泊客に新しい海辺の旅館『海鳴亭』の料理長にスカウトした……というより、以前からの知り合いで『新しい料理人を探している』と相談したところ、自ら名乗りをあげてくれたのだ。

 祖父御用達の料理人で、ゼキ=バルカンに紹介されて以来、私も味噌、醤油の仕入れや作り方などでずっとお世話になっていた。

 自分のレストランを持っていたのに悪い気がしたが、来てくれるなら、とても心強い。

 しかも『花葉亭』の味を大切にしたい言ってくれ、旅館に宿泊兼こっちの料理長とメニューや味付けについて話をしたいとのことだった。

 馬車が着いた。

 とりあえずお客様として、くつろぎ、楽しんでもらう。

「ようこそ!いらっしゃいませ」

 馬車から降りてきたのは、恰幅の良い中年女性。ドーンと貫禄のある人だ。もう見るからに美味しいもの好き!作ることも好き!という雰囲気がでている。

「セイラ悪いわね!旅館に泊りたいなんて言って!」

 アハハと楽しげに笑う彼女はレイチェル=ベイカーという。

「いえいえ、こちらこそ、いつもお世話になっています。荷物お預かりします」

 ありがとうと少ない荷物を渡す。
 
「これ、なんて言ったっけ」

「提灯ですか?」

「そう!それそれ!」

 インテリアにも興味があるらしい。祖父に少し見せて貰ったことがあると言う。

「シンはどこか不思議なやつだったね。見たことない調味料に食べたことのない料理を頼まれて……でもそのおかけであたしも王都で有名料理人になったんだけどねぇ」

 歩きながら、私の造る旅館も不思議な雰囲気で似ていると言う。なかなか鋭い人だ。

「どうぞ季節のお茶菓子です」

 柏の葉を巻いたお餅……ミニかしわ餅をお茶と共に出す。

「うん!葉の香りともちもちとした食感がいいね」

 美味しそうに食べている。おかわりもらえる!?と言われて2個ほど追加で持ってくる。ゆっくりまったりとは程遠い人らしく、味わって食べ終わるとすぐ立ち上がり、お風呂!とバタバタ用意し始めた。

「働き者なのが、わかりますわ。じゃあ、お風呂を楽しんでくださいね。また何かあったらお呼びください」

「ん!オッケー。温泉もめちゃくちゃ楽しみだったのよ!」

 明るくそう言うと私に手を振る。

 ホカホカな彼女と出会ったのは夕食の席でだった。

「最高ね!長年の職業病だった腰痛が、なんだか和らいでるのよ。すごいわ。後、ハーブのお風呂の香りがいいわ。少し温めにお湯を設定してあるでしょ?うたた寝を一瞬しちゃったわよ!」

 スタッフに溺れますよーと起こされたらしい。

「あたしったらイヤね、つい気持ち良すぎて」

 アハハッと笑う。私もしてしまうことありますと同意するとやっぱり!?と嬉しそうだ。

「こちらが本日のお品書きです」

 手元の紙に目を通すレイチェルはいきなり真顔になった。料理人の顔つきだ。

「ふぅん……なるほど。楽しみね!」

「食前酒はさくらんぼ酒です」

 小さなグラスに入ったピンクのお酒を飲んで、美味しいわと頷く。

「豆腐をサーモンで巻いたもの、チーズを味噌で漬けたもの、新タマネギと甘エビの揚げたもの、卵の小さなお寿司、……前菜となってます」

 へぇ!小さなお皿に少しずつ盛り付けてあって可愛いと頷く。

「ナシュレ風のポトフです」

「地元の料理もいれてるのね」

 フムフムとメモもしっかりとっている。

「とても熱心ですね……レイチェルさんのオリジナルでいくのかと思ってました。それに引き受けてくれたことに驚きました」

「あたし、男に負けない料理人になりたかったのよ。でも料理人の世界は男性社会でしょう。若い時、貴族の家で料理人として雇われはしたけど、メニューを考えさせてもらうことなんてなかったわ」

 私は静かに話を聞く。

「そんな時、シン=バシュレに出会って、作ってみないか?と声をかけられたのよ。ニホン料理をね」
 
「なるほど!」

 祖父は自分が食べたい気持ちもあっただろうが……夢を追いかけているレイチェルを応援するつもりもあったのかもしれない。

「そこから少しずつ周りが女でも認めてくれるようになったわ。女でもなかなかやるな!ってね……だからシンに恩返しするつもりで、あなたの案にのったのよ。でもね、本音はこの歳にだけど、挑戦したい気持ちもあるの」
 
「何歳になっても挑戦したい気持ちは大事だと思います」

「そうでしょ?それが若く生きるコツよね!」

 いつも未来を向いて、自分の成長の可能性を信じる彼女だからこそ、他の料理人の意見を聞き、創意工夫し、努力し、挑戦するモチベーションを保てるのだろう。良い生き方で見本にしたいなと思った。

「あ!これが有名な茶碗蒸しね。うん!ツルトロでおいしー!」

 料理の一つ一つに感動をしている。
 
 一区切りついた料理長が、少し緊張してレイチェルのテーブルに顔を出した。

「ど、どうですか!?」

 料理長の緊張はどこへやら、ニンマリとレイチェルが笑う。

「最高ね!良い腕してるわ」

「本当ですか!?」

 レイチェルが続けて料理長に言った。

「レストランはとりあえず閉店して、お得意様には『海鳴亭』へ行くことは言ったのよ。本格的な旅館の開店までの1ヶ月!ここで修行するわ!」

「ええええええ!?」

 料理長が驚愕の声を上げるとレイチェルはお世話になりますと返事を聞かずに言う。

「ま、まぁ……料理長、よろしく頼むわね。確かに旅館で提供する料理に関しては料理長のほうか先輩なんだし……ねっ?」

 ポンッと肩を叩くと手に持っていたコック帽をモシャモシャして、動揺を隠せずにいる。

「お互い良い刺激となって、美味しいもの頼むわね」 

 レイチェルが任せて!とはりきっている。

「よろしくお願いします!」

「こっちこそよ!よろしくお願いします」

 頭を下げないでくださいよっ!というようなやり取りを見つつ、私は『海鳴亭』オープンがますます楽しみになった。

 しばらくして、試作品を食べてみてと言われ、ふくよかな手から生み出されるとは思えない繊細な料理を目にして私は驚く。

 味噌ベースに作られたソースが白いお皿に模様の様に書かれて牛肉をつけて食べる。

「これは『海鳴亭』そばの放牧場で育った牛です」

「うん。柔らかいわ」

「『地産地消』が女将の要望と聞いたので、なるべく使うようにしたいと思うのだけど……ナシュレの農家の生産能力は素晴らしい!あれも女将の領主をしていたときの指示と聞いて……」

「けっこう大規模になってきたから、大変よ。今はリヴィオがそっちを担当してくれてるから楽だけど……あ!リヴィオー!」

 ちょうど帰ってきたリヴィオに声をかける。
 
「なんだ?美味そうなの食べてるなー」

「これ『海鳴亭』で提供しようとしてる試作メニューなのよ」

 ヒョイッと私のフォークでつまみ食いする。

「へー!うまい!味噌ソースか。いいな。味噌ってなんか懐かしい味だよなぁ。ホ。かさッとするというか……何か思い出すような……そう!『記憶に残る味』だな」

 マドレーヌで言うプルースト効果ね……ってリヴィオは何を思い出すの?と聞こうとしたが、レイチェルが先にリヴィオに声をかけた。

「セイラがシンに似てると思ったけれど……どちらかと言えばリヴィオさんの方が似てる気がするねぇ。シンもよく記憶に残る味だよなと言っていたわ!」

 本当は私と血が繋がっていないと言いにくくなってしまった。お祖父様とリヴィオが似てると……そういえば以前にアオも言っていたことを思い出す。

「はあ?オレは間違いなく……」

「あ!そんな意味ではなく、あなたが公爵家三男というのは有名で知ってるけど、性格的というか雰囲気的なものというか……」

 なにで有名なんだよ?とリヴィオは半眼になっている。

「娘って父親に似た人と結婚すると言うけど、私はどちらかと言えば祖父が父役だったから、ジジコンプレックスかもしれないわね」

 アハハッと私は笑い飛ばした。

 もしかしたらお祖父様はクラスメイトのシンヤ君かもしれないが、お互いに喋ったこともなく、存在もあまり知らなかった私にとってはどちらかといえばシンヤ君というより祖父という認識のほうが強い。

「喜ぶべきか嫌がるべきか……なんか反応に困るな」

 リヴィオがそう呟く。

 レイチェルが少し寂しい笑顏で言った。

「シンがいなくなって寂しいね。問題も起こすやつだったけど、なんだかいると心強くて楽しくてね。会えるものならまた会いたいと思うよ」

 また……料理を食べて、うまいって言ってほしかったねぇと彼女は遠くをみつめるのだった。



しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...