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知識の塔
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エスマブル学園に来ている。
監視者たるフリッツはリヴィオの方へ行っている。私のことはわりと日頃から、監視が緩い。
無茶したり、なにかしでかしたりするのはリヴィオだと思われてるらしいが、間違いではないと思う。
しかし私は、その機会を逃すものではない。やりたいことをやる。
「ジーニーにお願いがあるのよ。無理かもしれないけど……」
学園長室にいる。革張りのソファーは座り心地が良い。
「なんだ?」
「『知識の塔』三賢者に会えないかしら?」
ウッと怯むジーニー。え!?そんなに!?
「えーっと、だめだった?そうよね。三賢者に会えるなんて、そうそうないわよね。無茶なこと言ってしまって、ごめんね」
「い、いや、違う。不可能ではない。三賢者の一人で、すぐ会えるやつはいる」
え?と私はキョトンとした。ものすごーく苦いものを食べた後のような顔をした。
『知識の塔』とはエスマブル学園の研究室である。選び抜かれた天才達が3つの塔に所属して多方面の研究をしている。
その所長的な存在が3つの塔に一人ずついる三賢者。
「なんのために会いたいのか聞いていいかな?僕も覚悟がいるからね」
なんの覚悟だろう?
「魔物の存在がいつ頃からなのかわからないかしら?この国だけの研究をしているわけじゃないでしょう?」
「なるほどね……」
黒龍の守護者として役目を果たそうとする私をジッと見て、しかたないと呟いた。
ジーニーは『知識の塔』の誰かと連絡をとっていた。すぐ会えると言った人物は誰なのか?
知識の塔の1つへ私とジーニーは入っていく。らせん階段が続く。一つずつの部屋にはそれぞれの研究室がある。
エスマブル学園の卒業生で、優秀な者しか塔には入れず、立ち入りを許されない場所であるため、入ったことが無かった。
「ホントはね……王宮勤めより、私は『知識の塔』に憧れていたのよ」
それを父は許さないてあろうことはわかっていたが……憧れていた。口には出さず、心の中で憧れるくらいなら勝手だろうと思っていた。
階段を上がる足が止まり、ジーニーが振り返った。
「セイラは確かに『知識の塔』で研究してるほうが合うと思うな」
「そうでしょ」
先生方から打診はあったのだが……諦めていた。諦めることに慣れすぎていたのかもしれない。
「今から叶えてもいいんじゃないのか?だがセイラが研究に没頭し、塔にひきこもると、一人、泣くやついるけどな」
アハハハとジーニーと笑い合う。
『知識の塔』に入るには宣誓する必要がある。『この身を一生、研究に捧げる』と。
一生、好きなことを考え、外の辛いことは忘れて、ここで研究に没頭するのもいいかもしれないと思っていた。
今の私は……そんな考え方ではないけれど。
あのトトとテテも研究室にどうだ?と誘われていたが、自由奔放な二人は『自由な発想は自由な環境じゃないと生まれないのだ』と断っていた。
ジーニーは扉をノックした。中からどうぞと声がした。
「久しぶりだね。セイラ=バシュレ」
砂色の髪を1つに束ね、メガネをかけた人物に私は驚いた。
「学園長っ!?」
正しくは前学園長だ。三賢者の一人が、まさか前学園長なんて知らなかった!
「僕の父だ。知識の塔に入りたくて、僕の卒業と同時に学園長の椅子を放り出した」
呆れた口調でジーニーが説明してくれた。ジーニーによく似ている茶色の優しい目をした前学園長は肩をすくめる。
「おまえを育てたのは学園長になってほしかったからだからな」
冷たい視線を送るジーニー。
「こういう人なんだよ!勝手に押し付けて!生まれ変わったら、僕は絶対に自分の好きなことをする!」
「学園長って大変な仕事だものね……」
ジーニーがなぜ息抜きだと言い、ナシュレヘ来ているのかわかった気がした。苦労人なのね。
「あの人はどうしてる?」
「いつも通り遊び歩いているよ」
ふーんと尋ねたわりに、どうでも良い返事を返すジーニーの父。
「あの人って?」
「僕の母だよ。社交界で見たことないかな?けっこうパーティ好きだから、会っているかもしれない。あの人もあの人で好きなことをしている」
「そ、そうなのね」
なんとなくジーニーを労りたくなる。
ふと、リヴィオはこのことを知っていたのだと今さら気づく。だから休暇になるとジーニーを自分の家に行こうと誘っていたのね。ジーニーのことも私のこともよく見ていたのかな。
「さて、本題にいこう。何が知りたい?」
前学園長が時間を惜しむように言う。研究に戻りたいのだろう。
「魔物の発生の時期や原理など、何かわかることありませんか?」
「魔物についてか……それは隣の大陸に鍵があると思うがね。こちらには出ない。それは歴史をみてもらっても明らかだ」
確かに、この大陸での長い歴史を学んだときも魔物の存在はまったくない。
「魔物は人為的に作られたのではないかと仮定している」
私は目を見開いた。
「人が!?自らですか!?」
さすがにそれは乱暴すぎる仮定じゃないかしら……己を滅ぼすものを作るかしら?
三賢者の一人は言う。
「手に入れている隣国の歴史書を照らし合わせ、3つの大陸をそれぞれに守る神たちのことを踏まえるとそう仮定できた。まあ、まだ議論中だけどな」
ジーニーは顎に手を置く。彼も納得できていないようで首を傾げている。そうよね。
「……この件について、もっと調べてほしいなら『知識の塔』が引き受けよう」
「え!?いいんですか!?」
自分の研究以外に興味を示さないし、時間を他のことに費やすことはしない人達だと思っているので、私は驚いた。
「ジーニーが君らにお世話になってるから、せめてものお返しだ」
「冗談を言うな。鳥肌が立つ!いきなり恩着せがましすぎる」
冗談!?冗談だったの!?
私には……この二人のやりとりについていくスキルがない。
「ええっと……よろしくお願いします」
任せておきなさいと笑った顔はジーニーにそっくりだった。ジーニーが嫌がりそうなので、それは口にしなかった。
『知識の塔』から出た私は三つの塔を眺めていた。入ってみたいと憧れた学生時代だった。
夢は夢のうちのほうが良いのかもしれない。
監視者たるフリッツはリヴィオの方へ行っている。私のことはわりと日頃から、監視が緩い。
無茶したり、なにかしでかしたりするのはリヴィオだと思われてるらしいが、間違いではないと思う。
しかし私は、その機会を逃すものではない。やりたいことをやる。
「ジーニーにお願いがあるのよ。無理かもしれないけど……」
学園長室にいる。革張りのソファーは座り心地が良い。
「なんだ?」
「『知識の塔』三賢者に会えないかしら?」
ウッと怯むジーニー。え!?そんなに!?
「えーっと、だめだった?そうよね。三賢者に会えるなんて、そうそうないわよね。無茶なこと言ってしまって、ごめんね」
「い、いや、違う。不可能ではない。三賢者の一人で、すぐ会えるやつはいる」
え?と私はキョトンとした。ものすごーく苦いものを食べた後のような顔をした。
『知識の塔』とはエスマブル学園の研究室である。選び抜かれた天才達が3つの塔に所属して多方面の研究をしている。
その所長的な存在が3つの塔に一人ずついる三賢者。
「なんのために会いたいのか聞いていいかな?僕も覚悟がいるからね」
なんの覚悟だろう?
「魔物の存在がいつ頃からなのかわからないかしら?この国だけの研究をしているわけじゃないでしょう?」
「なるほどね……」
黒龍の守護者として役目を果たそうとする私をジッと見て、しかたないと呟いた。
ジーニーは『知識の塔』の誰かと連絡をとっていた。すぐ会えると言った人物は誰なのか?
知識の塔の1つへ私とジーニーは入っていく。らせん階段が続く。一つずつの部屋にはそれぞれの研究室がある。
エスマブル学園の卒業生で、優秀な者しか塔には入れず、立ち入りを許されない場所であるため、入ったことが無かった。
「ホントはね……王宮勤めより、私は『知識の塔』に憧れていたのよ」
それを父は許さないてあろうことはわかっていたが……憧れていた。口には出さず、心の中で憧れるくらいなら勝手だろうと思っていた。
階段を上がる足が止まり、ジーニーが振り返った。
「セイラは確かに『知識の塔』で研究してるほうが合うと思うな」
「そうでしょ」
先生方から打診はあったのだが……諦めていた。諦めることに慣れすぎていたのかもしれない。
「今から叶えてもいいんじゃないのか?だがセイラが研究に没頭し、塔にひきこもると、一人、泣くやついるけどな」
アハハハとジーニーと笑い合う。
『知識の塔』に入るには宣誓する必要がある。『この身を一生、研究に捧げる』と。
一生、好きなことを考え、外の辛いことは忘れて、ここで研究に没頭するのもいいかもしれないと思っていた。
今の私は……そんな考え方ではないけれど。
あのトトとテテも研究室にどうだ?と誘われていたが、自由奔放な二人は『自由な発想は自由な環境じゃないと生まれないのだ』と断っていた。
ジーニーは扉をノックした。中からどうぞと声がした。
「久しぶりだね。セイラ=バシュレ」
砂色の髪を1つに束ね、メガネをかけた人物に私は驚いた。
「学園長っ!?」
正しくは前学園長だ。三賢者の一人が、まさか前学園長なんて知らなかった!
「僕の父だ。知識の塔に入りたくて、僕の卒業と同時に学園長の椅子を放り出した」
呆れた口調でジーニーが説明してくれた。ジーニーによく似ている茶色の優しい目をした前学園長は肩をすくめる。
「おまえを育てたのは学園長になってほしかったからだからな」
冷たい視線を送るジーニー。
「こういう人なんだよ!勝手に押し付けて!生まれ変わったら、僕は絶対に自分の好きなことをする!」
「学園長って大変な仕事だものね……」
ジーニーがなぜ息抜きだと言い、ナシュレヘ来ているのかわかった気がした。苦労人なのね。
「あの人はどうしてる?」
「いつも通り遊び歩いているよ」
ふーんと尋ねたわりに、どうでも良い返事を返すジーニーの父。
「あの人って?」
「僕の母だよ。社交界で見たことないかな?けっこうパーティ好きだから、会っているかもしれない。あの人もあの人で好きなことをしている」
「そ、そうなのね」
なんとなくジーニーを労りたくなる。
ふと、リヴィオはこのことを知っていたのだと今さら気づく。だから休暇になるとジーニーを自分の家に行こうと誘っていたのね。ジーニーのことも私のこともよく見ていたのかな。
「さて、本題にいこう。何が知りたい?」
前学園長が時間を惜しむように言う。研究に戻りたいのだろう。
「魔物の発生の時期や原理など、何かわかることありませんか?」
「魔物についてか……それは隣の大陸に鍵があると思うがね。こちらには出ない。それは歴史をみてもらっても明らかだ」
確かに、この大陸での長い歴史を学んだときも魔物の存在はまったくない。
「魔物は人為的に作られたのではないかと仮定している」
私は目を見開いた。
「人が!?自らですか!?」
さすがにそれは乱暴すぎる仮定じゃないかしら……己を滅ぼすものを作るかしら?
三賢者の一人は言う。
「手に入れている隣国の歴史書を照らし合わせ、3つの大陸をそれぞれに守る神たちのことを踏まえるとそう仮定できた。まあ、まだ議論中だけどな」
ジーニーは顎に手を置く。彼も納得できていないようで首を傾げている。そうよね。
「……この件について、もっと調べてほしいなら『知識の塔』が引き受けよう」
「え!?いいんですか!?」
自分の研究以外に興味を示さないし、時間を他のことに費やすことはしない人達だと思っているので、私は驚いた。
「ジーニーが君らにお世話になってるから、せめてものお返しだ」
「冗談を言うな。鳥肌が立つ!いきなり恩着せがましすぎる」
冗談!?冗談だったの!?
私には……この二人のやりとりについていくスキルがない。
「ええっと……よろしくお願いします」
任せておきなさいと笑った顔はジーニーにそっくりだった。ジーニーが嫌がりそうなので、それは口にしなかった。
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