転生先の異世界で温泉ブームを巻き起こせ!

カエデネコ

文字の大きさ
182 / 319

ブラックキャット

しおりを挟む
「王都に、行きたいお店があるの」

「セイラがそう言うのは、珍しいな。別に良いけど……なんの店だ?しかも夜?」

 リヴィオはカフェだと思っていたらしい。王都の路地裏の2階にある小さなお店だ。

 カランッとベルの音を立ててドアをくぐる。あちらの世界の音楽で言うと渋いジャズ風の音楽が流れている。

「いらっしゃい~。おや?前に来たことありましたね」

 明るい口調で声をかけてくれる小柄な男のバーテンダーさん。好きな席へどうぞと勧められ、カウンターに座る。

「はい。2度目です」

「1度目は誰と来てるんだよ……」

 リヴィオが半眼になった。

「父と来たのよ。そのときに雰囲気が良いお店だなぁと思ったのよ」

「おまえ、プレッシャー感じつつも、冷静に店を見てたのかよ!?タダでは転ばねーな!?」

 意外と図太いかもと私は笑った。父は王都で遊び歩いていたから、色んなお店を知っているようだった。

 薄暗い照明の店内に静かな夜の雰囲気が落ちてくる。音楽も心地良い。

「どんなお酒を作りましょうか?」

「チョコレートのお酒を2つお願いできる?」

 私のお願いにバーテンダーさんは承りましたと言い、数多くあるお酒の瓶から数本、選び出す。リヴィオがなるほど……と呟く。

「バレンタインの時期でしょう?ここではあまり関係ないかもしれないけど……なんとなくしたくなってしまって、今回は大人風にしてみました」

 前回は不格好なきの○の山とたけ○この里風だったから、格好良く今年はしてみた……つもり。

「いや、別に何を貰っても良いんだ。そうやってセイラがオレのために何かしようと考えてくれるのが、オレは嬉しいよ」

 リヴィオが優しげに笑う。サラリとした黒髪に金色の目をした彼は、時々大人になってしまうのでドキドキする。いつものヤンチャな子供っぽいところがあるリヴィオのほうが落ち着く。私の顔が赤面していないだろうか、内心焦ってしまう。

「何か召し上がりますか?お腹は減ってませんか?」

 バーテンダーともう一人、料理人がいる。

「うちの料理人は王都の有名レストランにも勤めていたことがあるので、味は保証しますよ」

 そうバーテンダーが料理人を紹介すると奥のキッチンスペースにいた髭の中年男がペコッと会釈した。無口らしい。

「じゃあ、スティック野菜のバーニャカウダ。それにじゃが芋のニョッキお願いします」

 リヴィオが適当に注文してくれる。
 
 ニョッキは手作りなんですよとニコニコしながらバーテンダーが言う。

「今日はガトーショコラも作ってあります。いつもはあまりデザート作らないのですが……」

 そうボソッと顔をのぞかせた料理人が言う。

「じゃあ、それもお願いします」

 それは食べてみたいと思い、私は頼む。

 バーテンダーが銀色のシェイカーにお酒を混ぜていく。その手付きは滑らかに動いて、魅せられる。

 静かに私とリヴィオはそれを眺めて待つ。シャカシャカと混ぜ合う。 
 
 綺麗に注がれていく液体。ミルク色とチョコレート色が混ざり合い、可愛くもあり、大人っぽくもある。

「どうぞ。カカオを使ったカクテルです」

 リヴィオと私は受け取り、口をつけた。

「思ったより甘くないな。美味い」

「大人味だけど、ちゃんとチョコレートっぽい!」

 カカオの香りとお酒の味が混ざり合い、良いバランスだ。美味しいと私が飲んでいると、料理も出てきた。

「へぇ……料理も美味いな。気に入った!」

 クリームソースのからんだニョッキを一口食べたリヴィオがそう言う。手作りのニョッキはモチモチしながらもツルンとした口当たりで美味しい。

「ありがとうございます。当店、もうすぐこの場所を離れるので、またどこかでお会いできると良いんですが……」

 バーテンダーがやや寂しげな笑みをしながらそう言った。確かに、いいお店だが、目立ちにくい場所にある、この小さなお店ではあまりお客さんも来ないだろう。

「残念だな」

 リヴィオはカクテルの追加をしつつ、そう言う。私はそうだわと両手をたたく。

「『海鳴亭』に来ない?バーのスペースを作ろうかな。そしたら、私達もいつでも美味しいお酒と料理が楽しめるもの」
 
「それいいな」

 リヴィオも賛成する。私はガトーショコラを小さく切って、口に入れた。しっとりどっしりとした生地に濃厚な味。うん……腕がいいわとニッコリとした。

 バーテンダーと料理人は顔を見合わせていた。考えさせてくださいと言われた数日後、『海鳴亭』に来ることになったのだった。

 最上階にお酒と軽食を出すバーは大人のお客様やそのためだけに夜に訪れる人もおり、人気のスポットとなった。

 リヴィオもバーが気に入り、私が仕事が終えるまで、時々バーで飲みつつ待っていることがあった。

『ブラックキャット』と名付けたバーに似合う彼だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~

放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」 大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。 生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。 しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。 「すまない。私は父としての責任を果たす」 かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。 だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。 これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。

貴族令嬢、転生十秒で家出します。目指せ、おひとり様スローライフ

ファンタジー
第18回ファンタジー小説大賞にて奨励賞を頂きました。ありがとうございます! 貴族令嬢に転生したリルは、前世の記憶に混乱しつつも今世で恵まれていない環境なことに気が付き、突発で家出してしまう。 前世の社畜生活で疲れていたため、山奥で魔法の才能を生かしスローライフを目指すことにした。しかししょっぱなから魔物に襲われ、元王宮魔法士と出会ったり、はては皇子までやってきてと、なんだかスローライフとは違う毎日で……?

無魔力の令嬢、婚約者に裏切られた瞬間、契約竜が激怒して王宮を吹き飛ばしたんですが……

タマ マコト
ファンタジー
王宮の祝賀会で、無魔力と蔑まれてきた伯爵令嬢エリーナは、王太子アレクシオンから突然「婚約破棄」を宣告される。侍女上がりの聖女セレスが“新たな妃”として選ばれ、貴族たちの嘲笑がエリーナを包む。絶望に胸が沈んだ瞬間、彼女の奥底で眠っていた“竜との契約”が目を覚まし、空から白銀竜アークヴァンが降臨。彼はエリーナの涙に激怒し、王宮を半壊させるほどの力で彼女を守る。王国は震え、エリーナは自分が竜の真の主であるという運命に巻き込まれていく。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

転生令嬢の食いしん坊万罪!

ねこたま本店
ファンタジー
   訳も分からないまま命を落とし、訳の分からない神様の手によって、別の世界の公爵令嬢・プリムローズとして転生した、美味しい物好きな元ヤンアラサー女は、自分に無関心なバカ父が後妻に迎えた、典型的なシンデレラ系継母と、我が儘で性格の悪い妹にイビられたり、事故物件王太子の中継ぎ婚約者にされたりつつも、しぶとく図太く生きていた。  そんなある日、プリムローズは王侯貴族の子女が6~10歳の間に受ける『スキル鑑定の儀』の際、邪悪とされる大罪系スキルの所有者であると判定されてしまう。  プリムローズはその日のうちに、同じ判定を受けた唯一の友人、美少女と見まごうばかりの気弱な第二王子・リトス共々捕えられた挙句、国境近くの山中に捨てられてしまうのだった。  しかし、中身が元ヤンアラサー女の図太い少女は諦めない。  プリムローズは時に気弱な友の手を引き、時に引いたその手を勢い余ってブン回しながらも、邪悪と断じられたスキルを駆使して生き残りを図っていく。  これは、図太くて口の悪い、ちょっと(?)食いしん坊な転生令嬢が、自分なりの幸せを自分の力で掴み取るまでの物語。  こちらの作品は、2023年12月28日から、カクヨム様でも掲載を開始しました。  今後、カクヨム様掲載用にほんのちょっとだけ内容を手直しし、1話ごとの文章量を増やす事でトータルの話数を減らした改訂版を、1日に2回のペースで投稿していく予定です。多量の加筆修正はしておりませんが、もしよろしければ、カクヨム版の方もご笑覧下さい。 ※作者が適当にでっち上げた、完全ご都合主義的世界です。細かいツッコミはご遠慮頂ければ幸いです。もし、目に余るような誤字脱字を発見された際には、コメント欄などで優しく教えてやって下さい。 ※検討の結果、「ざまぁ要素あり」タグを追加しました。

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

処理中です...