27 / 79
第27話
しおりを挟む
オレがシアに好きとか愛していると言うのは無責任だ。本物の夫婦ではないのに、言えるわけがない。
良い旦那とはこんな感じだろうか?ちゃんとオレは演じられているだろうか?せめて良き父や良き旦那になれるように努力したい。
それに……あんな頑張っている彼女にオレはなにをしてやれるだろう?
オースティン殿下の狙いもよくわからない現在……そうだ二人を守りきる。それがきっと今、オレがしなきゃいけないことだよな。
よしっ!と執務室の椅子から立ち上がる。
「シリル!」
「旦那様、なにか?」
優秀な執事が返事をする。
「シアを少しずつ社交界に出していく。結婚式前だが、すでに紙面では夫婦だ。」
「本当に前へお出しになるんですか?」
「ああ」
「……僭越ながら、口を出してもよろしいでしょうか?」
なんとなく、シリルの言いたいことはわかってる気がした。なんだ?と聞き返す。
「旦那様とシア様との婚姻は、オースティン殿下の妃だったと皆が興味本位で見ています。色々な憶測まで飛び交ってます。そんな中、シア様を社交界に出してもよろしいのですか?良い話の種になりはしませんか?」
「『若き公爵に取り入った尻軽女』『品のない貧乏伯爵家の娘』『バツイチ子連れなのに公爵夫人など図々しい』……まだ他にも言われてるよな」
知ってましたかと苦い顔のシリル。
「さしずめオレは騙されてる間抜けな公爵ってところか?」
「いえ、旦那様は性格的にも行動的にも騙されるより騙すタイプですから、逆に怪しまれてます。『なぜ結婚相手があのようなものなのか?』『本当に結婚してるのか?』『なにかクラウゼ公爵には思惑があるんじゃなきのか?』と噂されてます」
「なんでだよ!?」
「ご自分の胸に手を当てて考えてみたらよいかと……」
………。
……………。
……………………。
「いや、わからない」
「本気ですか!?……いえ、失礼しました」
シリルはいいんですよ。気づかないならそれはそれでいいんですよ。とブツブツ言っている。
「とにかく、シアに対するマイナスイメージを払拭させたいんだ。オレの嘘の結婚疑惑もだ!」
「そのほうがよろしいかとは思いますが……」
「よし!作戦をたてる!根回しを始めるぞ!」
「こういったことになると、何故かイキイキとしますね」
オレはフフンと不敵に笑った。いずれオースティンにはシアとフランにしたことを後悔させてやろう。
その夜のことだった。激しい雨が降ってきて、仕事に出ていたオレが帰ってきた。馬車から降りて傘を差したが、傘が役に立たないほどだった。
濡れてしまった。やれやれ……と思いながらも門兵が扉を開けてくれる。
「おかえりなさい!」
扉の向こうには、フランが立っていた。もう夕飯が終わり、いつもなら寝る時間じゃなかったか?
「フラン、どうした?」
「これをどうぞ」
オレにタオルを渡す。受け取って、濡れた髪や顔を拭いた。シリルがなぜかニコニコしながらこちらを見ていた。
「ありがとう。まだ休まないのか?」
「もうそろそろ休みます。……あの……お父様」
え?今、なんて!?
「……そう呼んでくれるのか?」
フランはニコッとして、その後、少し照れながら言った。
「お父様は母様を馬に落ちたときには助けてくれたし、陛下に呼ばれて王宮へ行った時も僕や母様が帰らなくて良いようにしてくれたんでしょう?そうやって守ってくれる大人は初めてです。あの……だから……おやすみなさい。お父様」
信頼してくれたってことか?オレはフランの変化に驚いて目をずっと丸くしている。
「あ……えっと……おやすみ。フラン」
フランにオレは夜の挨拶をとまどいながらも、返した。フランは頰を少し赤くしつつパッと駆け出していった。オレはしばらく嬉しい気持ちを噛み締めてしまった。なんか嬉しい。なんとも言えない嬉しさがあった。
「フフフ。良かったですね。旦那様」
オレの様子がおかしかったのか、シリルが笑っていた。他の見ていた使用人たちまで、なぜか幸せそうに笑っていたのだった。
良い旦那とはこんな感じだろうか?ちゃんとオレは演じられているだろうか?せめて良き父や良き旦那になれるように努力したい。
それに……あんな頑張っている彼女にオレはなにをしてやれるだろう?
オースティン殿下の狙いもよくわからない現在……そうだ二人を守りきる。それがきっと今、オレがしなきゃいけないことだよな。
よしっ!と執務室の椅子から立ち上がる。
「シリル!」
「旦那様、なにか?」
優秀な執事が返事をする。
「シアを少しずつ社交界に出していく。結婚式前だが、すでに紙面では夫婦だ。」
「本当に前へお出しになるんですか?」
「ああ」
「……僭越ながら、口を出してもよろしいでしょうか?」
なんとなく、シリルの言いたいことはわかってる気がした。なんだ?と聞き返す。
「旦那様とシア様との婚姻は、オースティン殿下の妃だったと皆が興味本位で見ています。色々な憶測まで飛び交ってます。そんな中、シア様を社交界に出してもよろしいのですか?良い話の種になりはしませんか?」
「『若き公爵に取り入った尻軽女』『品のない貧乏伯爵家の娘』『バツイチ子連れなのに公爵夫人など図々しい』……まだ他にも言われてるよな」
知ってましたかと苦い顔のシリル。
「さしずめオレは騙されてる間抜けな公爵ってところか?」
「いえ、旦那様は性格的にも行動的にも騙されるより騙すタイプですから、逆に怪しまれてます。『なぜ結婚相手があのようなものなのか?』『本当に結婚してるのか?』『なにかクラウゼ公爵には思惑があるんじゃなきのか?』と噂されてます」
「なんでだよ!?」
「ご自分の胸に手を当てて考えてみたらよいかと……」
………。
……………。
……………………。
「いや、わからない」
「本気ですか!?……いえ、失礼しました」
シリルはいいんですよ。気づかないならそれはそれでいいんですよ。とブツブツ言っている。
「とにかく、シアに対するマイナスイメージを払拭させたいんだ。オレの嘘の結婚疑惑もだ!」
「そのほうがよろしいかとは思いますが……」
「よし!作戦をたてる!根回しを始めるぞ!」
「こういったことになると、何故かイキイキとしますね」
オレはフフンと不敵に笑った。いずれオースティンにはシアとフランにしたことを後悔させてやろう。
その夜のことだった。激しい雨が降ってきて、仕事に出ていたオレが帰ってきた。馬車から降りて傘を差したが、傘が役に立たないほどだった。
濡れてしまった。やれやれ……と思いながらも門兵が扉を開けてくれる。
「おかえりなさい!」
扉の向こうには、フランが立っていた。もう夕飯が終わり、いつもなら寝る時間じゃなかったか?
「フラン、どうした?」
「これをどうぞ」
オレにタオルを渡す。受け取って、濡れた髪や顔を拭いた。シリルがなぜかニコニコしながらこちらを見ていた。
「ありがとう。まだ休まないのか?」
「もうそろそろ休みます。……あの……お父様」
え?今、なんて!?
「……そう呼んでくれるのか?」
フランはニコッとして、その後、少し照れながら言った。
「お父様は母様を馬に落ちたときには助けてくれたし、陛下に呼ばれて王宮へ行った時も僕や母様が帰らなくて良いようにしてくれたんでしょう?そうやって守ってくれる大人は初めてです。あの……だから……おやすみなさい。お父様」
信頼してくれたってことか?オレはフランの変化に驚いて目をずっと丸くしている。
「あ……えっと……おやすみ。フラン」
フランにオレは夜の挨拶をとまどいながらも、返した。フランは頰を少し赤くしつつパッと駆け出していった。オレはしばらく嬉しい気持ちを噛み締めてしまった。なんか嬉しい。なんとも言えない嬉しさがあった。
「フフフ。良かったですね。旦那様」
オレの様子がおかしかったのか、シリルが笑っていた。他の見ていた使用人たちまで、なぜか幸せそうに笑っていたのだった。
11
あなたにおすすめの小説
一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました
しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、
「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。
――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。
試験会場を間違え、隣の建物で行われていた
特級厨師試験に合格してしまったのだ。
気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの
“超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。
一方、学院首席で一級魔法使いとなった
ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに――
「なんで料理で一番になってるのよ!?
あの女、魔法より料理の方が強くない!?」
すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、
天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。
そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、
少しずつ距離を縮めていく。
魔法で国を守る最強魔術師。
料理で国を救う特級厨師。
――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、
ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。
すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚!
笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。
【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領
たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26)
ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。
そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。
そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。
だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。
仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!?
そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく……
※お待たせしました。
※他サイト様にも掲載中
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます
楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。
伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。
そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。
「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」
神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。
「お話はもうよろしいかしら?」
王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。
※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m
冷徹宰相様の嫁探し
菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。
その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。
マレーヌは思う。
いやいやいやっ。
私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!?
実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。
(「小説家になろう」でも公開しています)
龍王の番〜双子の運命の分かれ道・人生が狂った者たちの結末〜
クラゲ散歩
ファンタジー
ある小さな村に、双子の女の子が生まれた。
生まれて間もない時に、いきなり家に誰かが入ってきた。高貴なオーラを身にまとった、龍国の王ザナが側近二人を連れ現れた。
母親の横で、お湯に入りスヤスヤと眠っている子に「この娘は、私の○○の番だ。名をアリサと名付けよ。
そして18歳になったら、私の妻として迎えよう。それまでは、不自由のないようにこちらで準備をする。」と言い残し去って行った。
それから〜18年後
約束通り。贈られてきた豪華な花嫁衣装に身を包み。
アリサと両親は、龍の背中に乗りこみ。
いざ〜龍国へ出発した。
あれれ?アリサと両親だけだと数が合わないよね??
確か双子だったよね?
もう一人の女の子は〜どうしたのよ〜!
物語に登場する人物達の視点です。
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる