女嫌いの旦那様、その愛本物ですか?

カエデネコ

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第42話

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 オースティン殿下とイザベラを見ると、思わずアルの背中に隠れたくなる。

「隠れるな」

 私の弱気な気持ちに気付いて、アルが言う。

「自信を持っていい。顔をあげていろ」

 そうは言っても……。

「ここにいる、どの女性よりも一番シアがきれいだ。輝く金の髪もサファイヤのよううな青い目も。今日の青いドレスも似合っている」

「ほ、褒めすぎです!」

 私のうろたえた様子にアルは真顔で言った。

「オレの言葉がシアの自信になるなら、何度でも言ってやれる」

 それは頑張れ!とアルが応援してくれているということなのだと気づく。私はぎゅっとこぶしを作り、後ろには行かず、アルの横へ並ぶ。そう。それでいいとアルが頷いた。

「あら?こんなところにいらしたの?」

 イザベラが私とアルの姿に気付いて、声をかけてきた。そしてオースティン殿下も私に気付いた。

「シア……か?え?その恰好はなんだ?」

 そう言って、オースティン殿下は私の姿を上から下までジロジロと品定めするように見る。

「お久しぶりです。オースティン殿下もお元気そうでなによりですわ」

 私は思いだす。アルに言われた言葉を忘れないようにする。『幸せを皆に伝えるように笑顔でいるといい。幸せな顔をしていると満ち足りた光が、その人から出るものだ』そうよ。笑顔でいるわ。だって私、今、不幸じゃないもの。

 ニコリと笑顔を向けるとオースティン殿下が一瞬怯んだ。いつも私に横柄で馬鹿にした態度を取っていた彼。

「シアも元気そうで何よりだ……なんだか雰囲気が変わったか?」

「いいえ。私は今も昔も変わってません。そうですわね。変わったと思われるなら、それはクラウゼ公爵、アルのおかげかもしれません」

「アルバートの……」

 そう苦々しく呟く表情はなぜか悔し気で、視線を私ではなく、横にいるアルに移す。アルは私以上のキラキラした笑顔を見せている。笑顔の見本を見せてくれているかのような輝き。周囲の令嬢たちが『きゃあ!クラウゼ公爵の笑顔を見ちゃいましたわ』『見逃しちゃったわ!もう一回みたいですわ!』とざわめく。……笑顔のプロね。無敵の笑顔だ。

 後ろに行くな!と言ったはずのアルがなぜかグイッと前に出て私を隠すようにした。

「オースティン殿下、呼び捨てはやめてもらっても?クラウゼ公爵夫人と呼んでもらいたい」

「は!?おまえ本気でシアを好きなのか!?」

「クラウゼ公爵夫人だ。礼儀としてそう言ってもらえるかな?」

「なんだと?そんな女、大事にする価値あるか?そりゃ。多少……着飾ってきれいになってるが、大した女じゃないし、こっちの言うことも聞かない生意気なやつだ。どうせアルはバツイチの人妻だった女が珍しいんだろう?そのうち飽きるだろ!」

「オレの大事な妻です。侮辱しないでもらいたい。オースティン殿下にはシアやフランの可愛さや良さがわからなかったようで、残念です。まぁ、そのおかげで、オレにもチャンスが巡ってきて、ありがたいことでしたけどね」

「ありがたい……だと?」

 二人がバチバチしていると、空気を読まないイザベラがオースティンの服の袖を引っ張る。

「この素敵な男性は誰なの?紹介してくださる?オースティン殿下?」

「黙ってろ!」

 イザベラが会話に混ざろうとすると怒鳴りつけるオースティン。私は目を見開く。以前は、私に怒鳴ってもイザベラにはしなかったのに……。

「シア、フランは元気なのか?」

 は!?フラン!?唐突に何をオースティンは聞き出したの!?フランのことなんて。今まで気にしたこともなかったじゃないの!?私は動揺しかけるが、落ち着いて返すようにする。

「ええ……元気です。きちんとした教育の機会も与えてもらえて、楽しそうに日々過ごしています」

「それはよかった。俺の子だからな!」

「違います。もうアルと私の子です」

 私がすぐに言い返すと、パクパクと金魚のようにオースティン殿下が口を動かした。アルがハハッと笑った。

「そのとおりだな。もはやオースティン殿下とはなんの関係もない」

「オースティン殿下、今宵は陛下の誕生パーティーでお祝いする場ですわ。これで失礼させていただきます。お祝いの場に言い合いなんてしたくありませんもの」

 私とアルの言葉に一つも言い返せず、何か言いたいが、言えず、その場に立ち尽くすオースティン殿下。そしてその横にいて『わたくしがいますわ!』と一生懸命オースティン殿下をなだめるイザベラがいたのだった。

 アルが愉快そう口元を抑えている。

「シアもなかなかやるなぁ」

「アルのおかげです」

 私とアルは楽しい気分のままパーティーに参加する。

 ただ、その後『アルバート!身の程を思い知らせてやる!』『なによ!あのさえなくて色気もない女のシアのくせに!』と二人が憎々しげに言っていたのを聞いた招待客が、私に気をつけてと同情するように言ってくれたのだった。
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