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第59話
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「何度もいらして、大変ではありませんか?」
オレに優しく微笑む修道院長だが、笑顔とは裏腹に頑固な人物だというのはわかったから油断はしない。
「いえ。大変ではありません。オレはオレの大事なものを取り戻すまでは何度でも来ます」
「そうですか。それでもあなたが大丈夫だと思えるまでは引き渡すことはできませんよ。それがこのワギュレス修道院の役目だと思っているのです」
「確かに修道院としての役目は果たしています。だけど神に問うてみてほしい。オレが本当にシアにひどいことをしていたのかどうか?」
「少し、尋ねてもいいですか?あなたはかの有名な若き、公爵様でしょう?優秀で容姿も悪くなく、評判も良いと聞きます。慕ってくる女性は数知れずいらっしゃるのではありませんか?なぜシアを選んだのです?シアでなくとも良いのでは?」
『女嫌いで、女アレルギーで、女に触れなくて、ちょうどいいところに王家の血をもった公爵家に相応しい者がいたから』
これが真実でシアにも信頼できる周囲にも話していたことだった。
だけど、オレは違うことを口にしていた。
「シアが元この国の王子の妃だったこと、ご存じですか?」
「……そのようですね」
人の噂、口は早いものだなとオレは関心してしまう。世の中と隔絶された修道院でも知ってるとはな。
「オレはシアとオースティン殿下の結婚式に参列していました。クラウゼ公爵として。あの場にいたんですよ」
初めて口にする事実。ここが神に近い場所だからだろうか?偽りなく、語ろうと思った。
「あの日、シアを見た瞬間に、なんて美しい人だろうと思ったんです。だけど、目が悲しそうで、口元は笑っているのに……だけどその切ない表情すらきれいだと惹かれてしまった」
花が飾られ、風が強い日で、その花びらがヒラヒラと式の間に舞う。白いドレスの上にも色とりどりの花びらが。だけど、オレが惹かれた人はその日、他の男の妻になる人だった。だから無理だと思っていた。何を考えているのだと自分自身に忘れろと言い聞かせた。
花びらの向こう側でシアがこちらを一瞬見たが、それはオレにむけての視線じゃない。それなのに、ドキリとした。女性に触れることは許されないのに、それなのにシアに惹かれるなんておかしいだろう?どうしてしまったんだ?と自問自答した。
「オースティン殿下がシアと婚姻関係を解消したと聞いて、すぐにオレはシアを手に入れられないか考えたんです。修道院長、こんなあさましいオレを神は許しますか?」
オレの問いに修道院長が母親のように優しいほほ笑みを見せた。正直に話した自分に笑いかける修道院長は何もかもわかっていそうで怖い。これじゃ、まるで懺悔の場じゃないか。
オレは服のポケットから薬瓶を取り出した。
「これをシアに飲ませてほしい。解毒剤を手に入れてきた。これで喉が治ると思います」
修道院長が首を横に振る。
「この薬が毒ではないという証拠はありますか?」
オレはためらうことなく、錠剤を自分の口に入れた。そして飲み込む。
「どうだ?これで納得するか?」
「まぁ……!クラウゼ公爵。その薬を自分で飲むなんて……」
渡しなさいと修道院長が言う前にバンッと扉が開いた。修道女かと思ったら、シアだった。
「シア!?」
目を潤ませてこちらを見ている。話を聞いていた!?今のを聞いていたのか!?
声がでないため、何を言っているのかわからないが、オレの名は確実に呼んだのはわかった。空気を震わせる音がなくても、その唇の動きだけでわかった。それだけのことなのに、とてもうれしい。
ああ……抱きしめたい。そんな無謀なことを考えてしまった。
この距離がもどかしい。
「シア、薬を……」
オレが手渡すと、シアは迷うことなく薬を口に含む。まるで呪いがとける瞬間を見ているような気分になった。
すぐに効果がないかもしれない。見守っているとシアが喉を抑える。
「あ……ア……ア……ル」
オレの名を枯れた声音で呼んだ。聞こえた。ちゃんと聞こえてるよ。
「シア。迎えにきた」
微笑むオレと目があってフフッと嬉しそうに笑う君は本当に綺麗だと思った。目を奪われたあの日よりも、今、笑うシアが一番綺麗だ。
オレに優しく微笑む修道院長だが、笑顔とは裏腹に頑固な人物だというのはわかったから油断はしない。
「いえ。大変ではありません。オレはオレの大事なものを取り戻すまでは何度でも来ます」
「そうですか。それでもあなたが大丈夫だと思えるまでは引き渡すことはできませんよ。それがこのワギュレス修道院の役目だと思っているのです」
「確かに修道院としての役目は果たしています。だけど神に問うてみてほしい。オレが本当にシアにひどいことをしていたのかどうか?」
「少し、尋ねてもいいですか?あなたはかの有名な若き、公爵様でしょう?優秀で容姿も悪くなく、評判も良いと聞きます。慕ってくる女性は数知れずいらっしゃるのではありませんか?なぜシアを選んだのです?シアでなくとも良いのでは?」
『女嫌いで、女アレルギーで、女に触れなくて、ちょうどいいところに王家の血をもった公爵家に相応しい者がいたから』
これが真実でシアにも信頼できる周囲にも話していたことだった。
だけど、オレは違うことを口にしていた。
「シアが元この国の王子の妃だったこと、ご存じですか?」
「……そのようですね」
人の噂、口は早いものだなとオレは関心してしまう。世の中と隔絶された修道院でも知ってるとはな。
「オレはシアとオースティン殿下の結婚式に参列していました。クラウゼ公爵として。あの場にいたんですよ」
初めて口にする事実。ここが神に近い場所だからだろうか?偽りなく、語ろうと思った。
「あの日、シアを見た瞬間に、なんて美しい人だろうと思ったんです。だけど、目が悲しそうで、口元は笑っているのに……だけどその切ない表情すらきれいだと惹かれてしまった」
花が飾られ、風が強い日で、その花びらがヒラヒラと式の間に舞う。白いドレスの上にも色とりどりの花びらが。だけど、オレが惹かれた人はその日、他の男の妻になる人だった。だから無理だと思っていた。何を考えているのだと自分自身に忘れろと言い聞かせた。
花びらの向こう側でシアがこちらを一瞬見たが、それはオレにむけての視線じゃない。それなのに、ドキリとした。女性に触れることは許されないのに、それなのにシアに惹かれるなんておかしいだろう?どうしてしまったんだ?と自問自答した。
「オースティン殿下がシアと婚姻関係を解消したと聞いて、すぐにオレはシアを手に入れられないか考えたんです。修道院長、こんなあさましいオレを神は許しますか?」
オレの問いに修道院長が母親のように優しいほほ笑みを見せた。正直に話した自分に笑いかける修道院長は何もかもわかっていそうで怖い。これじゃ、まるで懺悔の場じゃないか。
オレは服のポケットから薬瓶を取り出した。
「これをシアに飲ませてほしい。解毒剤を手に入れてきた。これで喉が治ると思います」
修道院長が首を横に振る。
「この薬が毒ではないという証拠はありますか?」
オレはためらうことなく、錠剤を自分の口に入れた。そして飲み込む。
「どうだ?これで納得するか?」
「まぁ……!クラウゼ公爵。その薬を自分で飲むなんて……」
渡しなさいと修道院長が言う前にバンッと扉が開いた。修道女かと思ったら、シアだった。
「シア!?」
目を潤ませてこちらを見ている。話を聞いていた!?今のを聞いていたのか!?
声がでないため、何を言っているのかわからないが、オレの名は確実に呼んだのはわかった。空気を震わせる音がなくても、その唇の動きだけでわかった。それだけのことなのに、とてもうれしい。
ああ……抱きしめたい。そんな無謀なことを考えてしまった。
この距離がもどかしい。
「シア、薬を……」
オレが手渡すと、シアは迷うことなく薬を口に含む。まるで呪いがとける瞬間を見ているような気分になった。
すぐに効果がないかもしれない。見守っているとシアが喉を抑える。
「あ……ア……ア……ル」
オレの名を枯れた声音で呼んだ。聞こえた。ちゃんと聞こえてるよ。
「シア。迎えにきた」
微笑むオレと目があってフフッと嬉しそうに笑う君は本当に綺麗だと思った。目を奪われたあの日よりも、今、笑うシアが一番綺麗だ。
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