女嫌いの旦那様、その愛本物ですか?

カエデネコ

文字の大きさ
59 / 79

第59話

しおりを挟む
「何度もいらして、大変ではありませんか?」

 オレに優しく微笑む修道院長だが、笑顔とは裏腹に頑固な人物だというのはわかったから油断はしない。

「いえ。大変ではありません。オレはオレの大事なものを取り戻すまでは何度でも来ます」

「そうですか。それでもあなたが大丈夫だと思えるまでは引き渡すことはできませんよ。それがこのワギュレス修道院の役目だと思っているのです」

「確かに修道院としての役目は果たしています。だけど神に問うてみてほしい。オレが本当にシアにひどいことをしていたのかどうか?」

「少し、尋ねてもいいですか?あなたはかの有名な若き、公爵様でしょう?優秀で容姿も悪くなく、評判も良いと聞きます。慕ってくる女性は数知れずいらっしゃるのではありませんか?なぜシアを選んだのです?シアでなくとも良いのでは?」

 『女嫌いで、女アレルギーで、女に触れなくて、ちょうどいいところに王家の血をもった公爵家に相応しい者がいたから』

 これが真実でシアにも信頼できる周囲にも話していたことだった。
 だけど、オレは違うことを口にしていた。

「シアが元この国の王子の妃だったこと、ご存じですか?」

「……そのようですね」

 人の噂、口は早いものだなとオレは関心してしまう。世の中と隔絶された修道院でも知ってるとはな。

「オレはシアとオースティン殿下の結婚式に参列していました。クラウゼ公爵として。あの場にいたんですよ」

 初めて口にする事実。ここが神に近い場所だからだろうか?偽りなく、語ろうと思った。

「あの日、シアを見た瞬間に、なんて美しい人だろうと思ったんです。だけど、目が悲しそうで、口元は笑っているのに……だけどその切ない表情すらきれいだと惹かれてしまった」

 花が飾られ、風が強い日で、その花びらがヒラヒラと式の間に舞う。白いドレスの上にも色とりどりの花びらが。だけど、オレが惹かれた人はその日、他の男の妻になる人だった。だから無理だと思っていた。何を考えているのだと自分自身に忘れろと言い聞かせた。

 花びらの向こう側でシアがこちらを一瞬見たが、それはオレにむけての視線じゃない。それなのに、ドキリとした。女性に触れることは許されないのに、それなのにシアに惹かれるなんておかしいだろう?どうしてしまったんだ?と自問自答した。

「オースティン殿下がシアと婚姻関係を解消したと聞いて、すぐにオレはシアを手に入れられないか考えたんです。修道院長、こんなあさましいオレを神は許しますか?」

 オレの問いに修道院長が母親のように優しいほほ笑みを見せた。正直に話した自分に笑いかける修道院長は何もかもわかっていそうで怖い。これじゃ、まるで懺悔の場じゃないか。

 オレは服のポケットから薬瓶を取り出した。

「これをシアに飲ませてほしい。解毒剤を手に入れてきた。これで喉が治ると思います」

 修道院長が首を横に振る。

「この薬が毒ではないという証拠はありますか?」

 オレはためらうことなく、錠剤を自分の口に入れた。そして飲み込む。

「どうだ?これで納得するか?」

「まぁ……!クラウゼ公爵。その薬を自分で飲むなんて……」

 渡しなさいと修道院長が言う前にバンッと扉が開いた。修道女かと思ったら、シアだった。

「シア!?」

 目を潤ませてこちらを見ている。話を聞いていた!?今のを聞いていたのか!?

 声がでないため、何を言っているのかわからないが、オレの名は確実に呼んだのはわかった。空気を震わせる音がなくても、その唇の動きだけでわかった。それだけのことなのに、とてもうれしい。

 ああ……抱きしめたい。そんな無謀なことを考えてしまった。

 この距離がもどかしい。

「シア、薬を……」

 オレが手渡すと、シアは迷うことなく薬を口に含む。まるで呪いがとける瞬間を見ているような気分になった。

 すぐに効果がないかもしれない。見守っているとシアが喉を抑える。

「あ……ア……ア……ル」

 オレの名を枯れた声音で呼んだ。聞こえた。ちゃんと聞こえてるよ。

「シア。迎えにきた」

 微笑むオレと目があってフフッと嬉しそうに笑う君は本当に綺麗だと思った。目を奪われたあの日よりも、今、笑うシアが一番綺麗だ。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

冷徹宰相様の嫁探し

菱沼あゆ
ファンタジー
あまり裕福でない公爵家の次女、マレーヌは、ある日突然、第一王子エヴァンの正妃となるよう、申し渡される。 その知らせを持って来たのは、若き宰相アルベルトだったが。 マレーヌは思う。 いやいやいやっ。 私が好きなのは、王子様じゃなくてあなたの方なんですけど~っ!? 実家が無害そう、という理由で王子の妃に選ばれたマレーヌと、冷徹宰相の恋物語。 (「小説家になろう」でも公開しています)

【完結】以上をもちまして、終了とさせていただきます

楽歩
恋愛
異世界から王宮に現れたという“女神の使徒”サラ。公爵令嬢のルシアーナの婚約者である王太子は、簡単に心奪われた。 伝承に語られる“女神の使徒”は時代ごとに現れ、国に奇跡をもたらす存在と言われている。婚約解消を告げる王、口々にルシアーナの処遇を言い合う重臣。 そんな混乱の中、ルシアーナは冷静に状況を見据えていた。 「王妃教育には、国の内部機密が含まれている。君がそれを知ったまま他家に嫁ぐことは……困難だ。女神アウレリア様を祀る神殿にて、王家の監視のもと、一生を女神に仕えて過ごすことになる」 神殿に閉じ込められて一生を過ごす? 冗談じゃないわ。 「お話はもうよろしいかしら?」 王族や重臣たち、誰もが自分の思惑通りに動くと考えている中で、ルシアーナは静かに、己の存在感を突きつける。 ※39話、約9万字で完結予定です。最後までお付き合いいただけると嬉しいですm(__)m

【12話完結】私はイジメられた側ですが。国のため、貴方のために王妃修行に努めていたら、婚約破棄を告げられ、友人に裏切られました。

西東友一
恋愛
国のため、貴方のため。 私は厳しい王妃修行に努めてまいりました。 それなのに第一王子である貴方が開いた舞踏会で、「この俺、次期国王である第一王子エドワード・ヴィクトールは伯爵令嬢のメリー・アナラシアと婚約破棄する」 と宣言されるなんて・・・

《完結》当て馬悪役令息のツッコミ属性が強すぎて、物語の仕事を全くしないんですが?!

犬丸大福
ファンタジー
ユーディリア・エアトルは母親からの折檻を受け、そのまま意識を失った。 そして夢をみた。 日本で暮らし、平々凡々な日々の中、友人が命を捧げるんじゃないかと思うほどハマっている漫画の推しの顔。 その顔を見て目が覚めた。 なんと自分はこのまま行けば破滅まっしぐらな友人の最推し、当て馬悪役令息であるエミリオ・エアトルの双子の妹ユーディリア・エアトルである事に気がついたのだった。 数ある作品の中から、読んでいただきありがとうございます。 幼少期、最初はツラい状況が続きます。 作者都合のゆるふわご都合設定です。 日曜日以外、1日1話更新目指してます。 エール、お気に入り登録、いいね、コメント、しおり、とても励みになります。 お楽しみ頂けたら幸いです。 *************** 2024年6月25日 お気に入り登録100人達成 ありがとうございます! 100人になるまで見捨てずに居て下さった99人の皆様にも感謝を!! 2024年9月9日  お気に入り登録200人達成 感謝感謝でございます! 200人になるまで見捨てずに居て下さった皆様にもこれからも見守っていただける物語を!! 2025年1月6日  お気に入り登録300人達成 感涙に咽び泣いております! ここまで見捨てずに読んで下さった皆様、頑張って書ききる所存でございます!これからもどうぞよろしくお願いいたします! 2025年3月17日 お気に入り登録400人達成 驚愕し若干焦っております! こんなにも多くの方に呼んでいただけるとか、本当に感謝感謝でございます。こんなにも長くなった物語でも、ここまで見捨てずに居てくださる皆様、ありがとうございます!! 2025年6月10日 お気に入り登録500人達成 ひょえぇぇ?! なんですと?!完結してからも登録してくださる方が?!ありがとうございます、ありがとうございます!! こんなに多くの方にお読み頂けて幸せでございます。 どうしよう、欲が出て来た? …ショートショートとか書いてみようかな? 2025年7月8日 お気に入り登録600人達成?! うそぉん?! 欲が…欲が…ック!……うん。減った…皆様ごめんなさい、欲は出しちゃいけないらしい… 2025年9月21日 お気に入り登録700人達成?! どうしよう、どうしよう、何をどう感謝してお返ししたら良いのだろう…

処理中です...