魔王様に恋する料理人

カエデネコ

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腹ペコの焼きそば

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 どうも敵視されている。あたしはみんなに食堂で月に一度のカレーを振る舞った後、自室に帰ろうとし、一瞬、ルドルフと離れたのだ。

 ……なぜこんなことに?暗い森の中の壊れかけた神殿?のような建物にいる。しかも一人でだ。これでは捨て猫だ。

 アナベルがしたことであるのは間違いない。『人間ごときがなぜ魔王様のお傍にいつまでもいる』と憎々しげに言って……その後の記憶がない。

 キィキィという何かの鳴声。失敗した。アナベルがあたしの存在を面白く思っていないことに気づいていたのに油断していた。

 ガサガサという音にビクッとなった。

「匂いがするぞ」

「何もんだ??」

 角の生えた二人の魔族!?あたしを見て目を細める。

「珍しいところにいるな」

「喰らうか?力がありそうに見えないが……惹かれる匂いがしねぇか?」

「弱そうな女なのにな……おまえ、何者だ?」

 怖くて返事ができない。バッとあたしは走る。おい!と呼ばれるが振り返ることは危険だと本能がそう言う。魔王様たちは怖くないのに……明らかな敵意を向けてくる魔族は怖い。殺意や敵意はわかりやすい禍々しさがある。

 足がもつれる。何度か転び、膝から血がでている。呼吸も苦しい。限界で茂みに隠れた。

「どこ行ったー!?」

 遠くから声。
 ここは何処なのか……わからない。どうやって魔王様たちに居場所を知らせることができるのかもわからない。

 角の魔族二人が叫び声をあげる。

「やべええええ!あいつが来たぞ!逃げろ!」

 あいつ?
 バキバキと木が倒れる。あたしは木陰にいたが、そこから一歩も動けなくなった。
 尻尾が蛇、顔は3頭のライオン、背中に黒い羽がある。尻尾の一振りで木が倒れた。かっ!と口を開けると火が吹き出し、周辺が燃える。

 熱い……すでに茂みは役が立たなくなっている。怪物がこちらを見た。

 あたし死ぬのかな?口を大きく開けた。中から吐き出す炎が見えた。

 かっ!と炎があたしを包む。死にたくない……せっかく!ここで居場所を見つけたのに!

 ふと気づいてみると体が護られている。ハッ!と気づくとネックレスが淡く輝いている。……これは!?魔法?あたしが使っているの?

 怪物は前脚を振り上げた。料理をするときと同じ?そうだイメージし、力を込める!
 落ちていた手近な棒きれをすばやく持ち弓道の弓をひくようにしイメージする。ぎりぎりまで引く。

 放て!!足があたしに届く前に漆黒の矢が具現化し、怪物に向かった。足に命中し、体の半分が消えた。咆哮をあげて逃げていく。

 う、うまくいったの?まさか……そんな……あたしが魔法を使えるなんて……しかも今の凄い威力じゃなかった?手が震える。料理に力を込めることはわかったけど攻撃的な魔法まで使えるなんて……。

「こりゃ、喰う価値あるなぁ」

「偶然といえど、幸運だな」

 人食い鬼!?先ほどの二人が戻ってきていた。

「あ、あたしを食べても美味しくないわよ!」

「味じゃねーな。その力を貰う」

 ガッと肩を捕まれる。ま、魔王様と叫ぼうとしたが怖くて声が出ない、口を大きく開けた鬼に噛みつかれ………。

「ぎゃあああ!!」

「ひいいいいい!」

 その悲鳴はあたしではなく……鬼のほうだった。
 あたしの手から伸びた黒い蔓が二人の鬼を捕らえて、巻き付き、花が咲いていく。漆黒の薔薇の花が綺麗に咲き誇ったと思った瞬間、鬼が動かなくなっていた。

 な、なんで?あたしは何もしていない。何もイメージしていない。ただ……魔王様に助けてほしいと叫ぼうとしただけだった。

 怖くて怖くて……その場から走って逃げた。

 シンとした静けさのある川辺に出た。膝の血が出たところはすでに治りかけていた。
 
 シクシクと涙が溢れてきた。子どものように泣いてしまう。川にうつる自分の姿はなんとなく惨めに見える。

「助けにきなさいよ……」

 そう言うと次の名がでた。

「アルキティスーーーっ!」

 川の水が揺らいだと思ったら、ザバッと中から魔王様が現れた。

「遅いっ!早く名前を呼べ!」

 え!?えええっ!?

「水鏡でずっと調べていた。オレの名を呼ぶことで呼応するようになっている」

「し、知らなかったんだもの!」

「言ってなかったからな!」

 それ無茶苦茶じゃないの!?帰るぞと黒いマントの中へあたしを引き込み抱える。

 瞬時に城のいつもの部屋にいた。いつもと違うのは部屋の中央に置かれた水の入ったツボ。サシャとルドルフもいる。

「マナー!無事でよかった!」

 ルドルフが駆け寄ってきた。

「無事じゃなかったら、ルドルフを抹殺するところだったぞ」

 その言葉が嘘では無いと……ルドルフの表情てわかる。ブルブルしながら、あたしの腕の中に隠れるようにいる。

「悪いのはルドルフじゃないわ!魔王様の婚約者が……しつこすぎるのよっ!」

「アナベルか?またか……」

 めんどくさそうに魔王様は顔を歪めた。サシャが肩をすくめて言う。

「魔王様、そろそろいいのではありませんか?フフフッ。マナがいなくなって、発狂するばかりの魔王様を見せてあげたかったです」

 サシャは笑ったが、魔王様に黙れと言われて静かになる。

 私はお腹が空いていたことを思い出した。

「とりあえず、ご飯にするわ。私……どのくらい食べてなかったんだろー?」

「え!?今、そこ大事なのか!?」

 魔王様が言う。

「もちろんよ。どんなときもお腹が空いていたら食べないとだめよ。お腹空くと暗くてマイナスの気持ちになるもの!」

 簡単な物を作るからとシャッシャッとあたしはフライパンを振る。ジュワッとソースのいい香りがする。

 焼きそばを人数分盛り付ける。作り置きの冷えた麦茶を置く。ついでにフルーツを切って、フルーツヨーグルトを出す。

「うん。うまい!」

 今か!?と批判していた魔王様はすぐに懐柔されて、ソースのいい香りの焼きそばを食べる。ルドルフもホッとしたようで、モリモリ食べている。サシャは上品に食べているが、美味しかったようで、完食。

 ソースの香りが食欲をそそられる。時々野菜が入るのもくどくなりすぎなくて良い。ヨーグルトとフルーツの甘さが疲れた体に染みる。

 眠くなってきた。コテンとあたしはお腹いっぱいになって、テーブルに突っ伏してしまった。さすがに疲労が蓄積されていて、動けなくなった。

「やれやれ……初めて名前を呼んでくれたというのに……もっと感動的な場面が良かったな」

 そう言いつつ、優しくあたしを抱きかかえてベットまで運んでくれた魔王様の声を朦朧とした意識の中で聞いていた。
 
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