魔王様に恋する料理人

カエデネコ

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試練のキャラメル

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 ゴーシュ家は暗い森の中にあった。蔓の絡み合う屋敷はまるで護りの魔法がかけられているようだ。

 室内はどこぞの貴族の家のように豪華絢爛だ。赤い絨毯、煌めくシャンデリア。高価そうな絵画に鎧や大きな時計。広すぎて迷子になりそうで、どの部屋に通されたのか、もはや覚えてない。

 机で対面しているのは赤毛のザカリアスとその横にゴーシュ家の当主という黒髪に青味を帯びた髪をした……少年の姿をした者がいた。顔は端正でキリッとしている。どこか神秘的でありながらも侮れない雰囲気をし、魔王様に負けないくらい堂々としている

「僕の父だよ」

「ち、父ー!?」

 あたしか驚くと魔王様がルドルフだってそうだろ?見た目で魔族はわからんぞと説明してくれる。
 
「クーザイン家が馬鹿なことをしたそうだな」

「代償は払わせた」

 口を開いた少年と話し出す魔王様。クッと皮肉げな笑みをゴーシュ家の当主は口の端に浮かべた。

「それで、その少女は我が娘と関わりがあると聞いたが?」

「だから、そんな証拠はないとザカリアスには言ったぞ」 

「では、なぜ傍に置いている?人の娘など魔界に長く居座らせるべきではない」

 空気が重い。珍しく魔王様は言葉を選んで話しているように感じる。それだけ6家門の一つであるゴーシュ家の力が強いことがわかる。

「あ、あのっ!あたしが傍にいさせてほしいと言ったんです!魔王様のこと好きなんですっ!」

 魔王様へ援護の助け舟を出そうとして……当主とザカリアスの鋭い視線を浴びてビクッとなる。

「こいつに心を操られているんじゃないのか?」

「こいつ呼ばわりすんな。オレはもう魔王だぞ!魔王様と呼べ。そんなことするわけないだろ」

 ゴーシュ家の当主は肩をすくめる。

「マナがゴーシュ家の者と繋がりがあるということがわかる、手っ取り早い方法がある」

 ………なぜ、こんな話になっているのか、わからないが、いきなり偉そうな家の魔族の家系の一人とか言われても、訳がわからない。

 パチンとゴーシュ家の当主が指を鳴らすとドアから数名の魔族が入ってきた。

「『鑑定』の部屋へいれろ」

 魔王様が立ち上がる。

「待て!それは許さないぞ!」

 ゴーシュ家の当主は余裕の顔で言い放つ。

「魔王様、あなたもはっきりさせたほうがスッキリとするのでは?それに、なんの力もないものであれば『鑑定』の部屋に入っても、試練は始まらない」

 あたしの腕をがしっと掴み、両方から引きずるように連れて行かれる。怖くなり、魔王様の方を振り向くとなんとも言えない顔をしていた。

「ま、魔王様?」

「マナ、もし……もしヤバイと思ったらオレの名を呼べ。すぐに駆けつける」

 あたしは頷いた。魔王様が行けと言うなら行くまでである。

「検討を祈る」

 ニッコリとあたしの方を見てわらったゴーシュ家の当主はその笑みに何の意味を込めたのかわからなかった。

 『鑑定』の部屋のドアは大きい。
 
「入れ。どう見ても人間風情なのに、ゴーシュ家のこの部屋に入るのか?」

 不満の色をにじませている案内係たち。ドアを開けられて突き飛ばされるように入れられた。

 中に足を…………!?えええええ!?

 空!?空から落ちていく。自分の体がゆっくりと地上に近づいていく。ここは魔界?

 驚くべきなのに、意外と冷静な自分に気づく。

 下へたどり着く前に視界が変わる。神殿のような場所で恐ろしい顔をした悪魔の像が二体立っている。その間に巨大な鏡があった。

 鏡を覗いたが、ただこちら側と同じ風景が映し出されるだけだった。

 ……ほら、あたしはやっぱり普通の人間だ。魔王様の血が混ざったから、多少料理にこめることができる力があるだけなのだろう。

 ホッとしたような、ちょっと残念なような?複雑さを抱きつつ鏡の前の階段に腰掛けた。
 しかし、これからどうしたら?何も起こらないなら起こらないで、どうやって帰るわけ?途方に暮れる。

「こんにちは。こんなところで、なにしてるの?」

「キャッ!?」

 トントンっと後ろから声をかけられて、驚いて振り返る。
 そこには見たことないほどの美女がいた。長いウェーブの黒髪、金と碧色のオッドアイ。白い肌。魔族とわかるが親しみやすい雰囲気で怖くない。

「あなたは誰なんですか!?」

「私のことは皆『黒薔薇姫』と呼ぶわね。はじめましてよね?なかなか可愛らしい子狸のような子ね」

 また言われた!彼女はくすっと笑って、褒めてるのよと言う。どこが!?

「アルは元気?」

 アル?……あ!魔王様のことね!とザカリアスがアルと呼んていたので気づく。知り合い?恋人?なんとなく気になる。だって、美女だし。

「元気ですよ!時々、お仕事忙しかったり寝込んだりはしますけど……」
 
「そう……魔王って職はけっこう大変だものね。私はゴメンだわ」

 そう言いつつ、笑った顔は寂しげだった。こちらまで寂しい気持ちになるくらいだ。
 
「あ!そういえば……よかったら、どうぞ」

「なに??」
 
 あたしはポケットから手作りのキャラメルを取り出した。彼女もヒョイッとつまむ。

「一つ頂くわね」

 あたしも口に一つ入れた。甘さが広がって、どこかホッとする。『黒薔薇姫』の様子を見ると寂しい表情が消えている。

「お願いがあるの。アルに伝えてちょうだい。私はあなたの傍にいるわ。そして私は私の選択を後悔してないと……」

「わかりました」

 彼女は涙で潤んだ目で言うので、あたしもすぐに伝言役になることに疑問を感じず、返事をした。

「美味しいキャラメルをありがとう。マナ、アルティキスを頼んだわよ」

「そんな……あたしはなんの力もないし……」

「あるわよ!私はあなたから貰ったキャラメル1つで元気が出てきたもの。マナの料理を食べる顔のアルはいつも幸せそうよ」

 そう言われると嬉しい気持ちになる。でもいつも守られてばかりなのに、魔王様を頼まれるとは思わなかった。しかし『黒薔薇姫』は力強く言った。

 手をふった彼女の姿が消えたと思ったら……あたしは扉の前にいた。中に入ったはずなのに?なぜ?

 扉を触ったが、もう開くことはなかった。
 
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