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ささやかなお礼
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朝になり、戦闘用の騎士服を身に着けて、行こうとするアデル様が目に入った。
「待ってください!まだ本調子じゃないでしょう!?」
白い肌がいつもより青白い気がした。まだ無理よ。思わずぎゅっと服の裾を掴んで、止めてしまった。
「今日、一日くらい、休んでください!」
「一日くらい?魔物にそれは通用しない。一日討伐しなければ、ここに到達するくらいの魔物が来るかもしれないんだ。以前より数は減っているが、油断はできない」
「だけど心配なんです……」
スッと服の裾を掴んでいる私の手を手袋をした手で触れた。それは壊れ物を扱うような優しさだった。しばらくじっと手をみつめていた。
えっ?私はそんなアデル様の仕草に意表をつかれてしまい、言葉が出なくなった。
アデル様はハッ!として、触れた手を慌てて離して引っ込めた。
「い、行ってくる!大丈夫だ。部下で事足りそうなら帰ってくる……」
「えっ!?は、はいっ!気をつけて……」
い、今の……な、なななななんだったの!?私は自分の荒れた手を少し恥ずかしく感じた。でも1日もすれば回復するのよね。毎日仕事してるから回復する間がないだけで、皮膚も丈夫だし……と言い訳じみたことを考えつつ、呟く。
「お手入れしておけばよかった……」
その日、アデル様の帰りはいつもより早かった。意外と素直だった。おかえりなさいと挨拶をしつつ、顔色を見ると元気そうで、ホッとする。暖炉に火を灯し、お茶の用意をする。
「メイドが足りないせいで、苦労をかけているな」
ハッとして私は顔をあげた。薪を足している暖炉のそばに来ていた。赤やオレンジ色の炎の明かりがアデル様の白い頬を染めている。
なぜか紫の目に吸い込まれるようなそんな感覚で、私を見る目から逸らすことができなかった。
「い、いえ……こういう仕事は慣れてますから……体を動かすのも好きなんです」
「手を出せ」
手?私は手のひらを出す。アデル様が小さな入れ物の蓋を開けて、中のものを私の手に優しい手付きで塗りだす。
「えっ……ア、アデル様!?」
無言で、きちっと指先まで塗ってくれる。ハーブの良い香りがする。
「カサカサしてました?」
私がしっとりした手を見ていると、アデル様が首を縦に振り頷く。
「これをやる。昨日の礼だ。一日、数回塗ると良いらしいと聞いた」
「ありがとうございます……私、皮膚もわりと丈夫なので、多少の……っ!」
アデル様がジロッと睨むように私を見た。え!?怒ってる!?
「自分を大事にしろ。しないなら治癒魔法かけてやろう」
「や、やめてください!こんなことに魔力は使わないでください!疲労回復を先にしてほしいんです!私の手なんて……あ、えーと、……そう!クリームをちゃんと塗りますから!」
そこでハッとした。嵌められた!?
「と、いうわけで、ちゃんと塗ってくれ」
もう、私はハイ。ありがとうございますとしか言えなかった。最初から素直にお礼を言えば良かったのだ。アデル様はなかなかの策士だわ。
笑わないアデル様が微かにクスッと笑った気がした。その表情に……私は鼓動が早くなる。なんて人なんだろう。心を持っていかれそうになる。
笑顔を見てみたい……そう思い、私はキュッともらったクリームの小さな入れ物を手の中で握りしめた。
「待ってください!まだ本調子じゃないでしょう!?」
白い肌がいつもより青白い気がした。まだ無理よ。思わずぎゅっと服の裾を掴んで、止めてしまった。
「今日、一日くらい、休んでください!」
「一日くらい?魔物にそれは通用しない。一日討伐しなければ、ここに到達するくらいの魔物が来るかもしれないんだ。以前より数は減っているが、油断はできない」
「だけど心配なんです……」
スッと服の裾を掴んでいる私の手を手袋をした手で触れた。それは壊れ物を扱うような優しさだった。しばらくじっと手をみつめていた。
えっ?私はそんなアデル様の仕草に意表をつかれてしまい、言葉が出なくなった。
アデル様はハッ!として、触れた手を慌てて離して引っ込めた。
「い、行ってくる!大丈夫だ。部下で事足りそうなら帰ってくる……」
「えっ!?は、はいっ!気をつけて……」
い、今の……な、なななななんだったの!?私は自分の荒れた手を少し恥ずかしく感じた。でも1日もすれば回復するのよね。毎日仕事してるから回復する間がないだけで、皮膚も丈夫だし……と言い訳じみたことを考えつつ、呟く。
「お手入れしておけばよかった……」
その日、アデル様の帰りはいつもより早かった。意外と素直だった。おかえりなさいと挨拶をしつつ、顔色を見ると元気そうで、ホッとする。暖炉に火を灯し、お茶の用意をする。
「メイドが足りないせいで、苦労をかけているな」
ハッとして私は顔をあげた。薪を足している暖炉のそばに来ていた。赤やオレンジ色の炎の明かりがアデル様の白い頬を染めている。
なぜか紫の目に吸い込まれるようなそんな感覚で、私を見る目から逸らすことができなかった。
「い、いえ……こういう仕事は慣れてますから……体を動かすのも好きなんです」
「手を出せ」
手?私は手のひらを出す。アデル様が小さな入れ物の蓋を開けて、中のものを私の手に優しい手付きで塗りだす。
「えっ……ア、アデル様!?」
無言で、きちっと指先まで塗ってくれる。ハーブの良い香りがする。
「カサカサしてました?」
私がしっとりした手を見ていると、アデル様が首を縦に振り頷く。
「これをやる。昨日の礼だ。一日、数回塗ると良いらしいと聞いた」
「ありがとうございます……私、皮膚もわりと丈夫なので、多少の……っ!」
アデル様がジロッと睨むように私を見た。え!?怒ってる!?
「自分を大事にしろ。しないなら治癒魔法かけてやろう」
「や、やめてください!こんなことに魔力は使わないでください!疲労回復を先にしてほしいんです!私の手なんて……あ、えーと、……そう!クリームをちゃんと塗りますから!」
そこでハッとした。嵌められた!?
「と、いうわけで、ちゃんと塗ってくれ」
もう、私はハイ。ありがとうございますとしか言えなかった。最初から素直にお礼を言えば良かったのだ。アデル様はなかなかの策士だわ。
笑わないアデル様が微かにクスッと笑った気がした。その表情に……私は鼓動が早くなる。なんて人なんだろう。心を持っていかれそうになる。
笑顔を見てみたい……そう思い、私はキュッともらったクリームの小さな入れ物を手の中で握りしめた。
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