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ウィルとウィルバート
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記憶の中に泣き叫んでいる子どもがいる。
「お母様!死なないで!嫌だー!」
どんどん冷たくなる母の体をオレはずっと抱きしめた。目を閉じた美しい母はそのまま目を開けることはなかった。泣いている子どもはオレだ。
母はオレが幼い頃、後宮で亡くなった。毒殺された。平民でありながらも後宮に入り、寵愛されていたせいで、嫉妬に狂った女がいた。
危うくリアンまで母と同じように失いかけた。誰にも言えなかったが、リアンの倒れた姿を見た時、失うことの怖さで、震えが止まらなかった。
母を亡くしたオレは無我夢中で、王を目指す。弱くて甘い自分は封じ、隙を見せず、常に強くあるように振舞った。
その道を行くしか自分は生き残れないという恐怖の中で、勉学と訓練を必死にして誰よりも強くなろうとしてきた。どれだけ傷だらけになっても、どれだけ苦しくても生きてく道は一つしかない。母のように冷たい体になりたくなければ。
幸い、男児はオレしか産まれなかった。そして王は病気を患っていたから、かろうじて殺されることがなかった。これだけは運が良かったと言える。
「ウィルバート殿下、息抜きにわたしの私塾へ遊びに来ませんか?同年代の者と会話をかわすのも勉強になりますよ。面白い才能のある者たちが集っております」
高名な先生を王宮に招いて、勉学全般を見てもらっていたが、そう誘ってくれたことがあった。オレは気まぐれに一度だけ行ってみようと思った。
そこで幼いリアンに出会った。
まぁ、最初の出会いはそんな良いものではなく、強烈だった。
「キャー!ごめんなさい」
先生の私塾の扉を開けると、いきなり水爆弾の魔法の洗礼を食らった。頭からびしょ濡れ。慌てて、タオルを持ってきて拭こうとする少女を怒鳴りつけたくなった。
「今、魔力値によって、変わる水の量とそれに空気中の水分の干渉があるかどうかの………」
なんだか言い訳というか、魔法のうんちくを語りだす幼いリアンに驚く。そして一生懸命拭いてくれているのが、なんだか……可愛かった。
「あなた!傷だらけじゃない!」
服をいつの間にめくられていた。おい……勝手にやめろ!と言う前に彼女は手を当てて癒やしの魔法を使う。温かくその力は淡い光を放つ。こんな幼い子が治癒の魔法を!?と再び驚いて顔を見ると、ニコッと笑ったリアンの顔に見惚れる。目が離せなくなった。
「これで大丈夫よ!他は痛くない?」
「あ……うん……」
我ながら間抜けな返事しかできなかった。
オレはたぶん、もうその時には恋に落ちていたんだと思う。城では強いウィルバートを演じ、彼女の前だけは、幼い頃の自分と同じようにのんびりで少し弱気なウィルでいた。
ウィルとウィルバート。二人の自分がいたからこそ、苦しい暗い闇だけにとらわれず、正しさを持ちながら、光が指す方へ真っ直ぐに生きて来れた。
わざと、訓練の傷を残していって、彼女に治癒の魔法を施してもらうことも幸せだった。一度砕けてしまったオレの心まで癒やされる気がした。できるなら、このままずっとリアンと永遠にいれたら良いのにと……それは叶わないことだと何度も思いながら、王宮へと帰っていった。
だが、もう逃げれないタイムリミットの時がきたんだ。終わりの時が来た。ウィルバートの姿を見せてしまった。自分がすべきことはわかってる。彼女を解放して、自由にするべきだ。そう優しいウィルがずっと自分の中で言っている。
……拳を作り、グッと握る。痛いほどに。
「お母様!死なないで!嫌だー!」
どんどん冷たくなる母の体をオレはずっと抱きしめた。目を閉じた美しい母はそのまま目を開けることはなかった。泣いている子どもはオレだ。
母はオレが幼い頃、後宮で亡くなった。毒殺された。平民でありながらも後宮に入り、寵愛されていたせいで、嫉妬に狂った女がいた。
危うくリアンまで母と同じように失いかけた。誰にも言えなかったが、リアンの倒れた姿を見た時、失うことの怖さで、震えが止まらなかった。
母を亡くしたオレは無我夢中で、王を目指す。弱くて甘い自分は封じ、隙を見せず、常に強くあるように振舞った。
その道を行くしか自分は生き残れないという恐怖の中で、勉学と訓練を必死にして誰よりも強くなろうとしてきた。どれだけ傷だらけになっても、どれだけ苦しくても生きてく道は一つしかない。母のように冷たい体になりたくなければ。
幸い、男児はオレしか産まれなかった。そして王は病気を患っていたから、かろうじて殺されることがなかった。これだけは運が良かったと言える。
「ウィルバート殿下、息抜きにわたしの私塾へ遊びに来ませんか?同年代の者と会話をかわすのも勉強になりますよ。面白い才能のある者たちが集っております」
高名な先生を王宮に招いて、勉学全般を見てもらっていたが、そう誘ってくれたことがあった。オレは気まぐれに一度だけ行ってみようと思った。
そこで幼いリアンに出会った。
まぁ、最初の出会いはそんな良いものではなく、強烈だった。
「キャー!ごめんなさい」
先生の私塾の扉を開けると、いきなり水爆弾の魔法の洗礼を食らった。頭からびしょ濡れ。慌てて、タオルを持ってきて拭こうとする少女を怒鳴りつけたくなった。
「今、魔力値によって、変わる水の量とそれに空気中の水分の干渉があるかどうかの………」
なんだか言い訳というか、魔法のうんちくを語りだす幼いリアンに驚く。そして一生懸命拭いてくれているのが、なんだか……可愛かった。
「あなた!傷だらけじゃない!」
服をいつの間にめくられていた。おい……勝手にやめろ!と言う前に彼女は手を当てて癒やしの魔法を使う。温かくその力は淡い光を放つ。こんな幼い子が治癒の魔法を!?と再び驚いて顔を見ると、ニコッと笑ったリアンの顔に見惚れる。目が離せなくなった。
「これで大丈夫よ!他は痛くない?」
「あ……うん……」
我ながら間抜けな返事しかできなかった。
オレはたぶん、もうその時には恋に落ちていたんだと思う。城では強いウィルバートを演じ、彼女の前だけは、幼い頃の自分と同じようにのんびりで少し弱気なウィルでいた。
ウィルとウィルバート。二人の自分がいたからこそ、苦しい暗い闇だけにとらわれず、正しさを持ちながら、光が指す方へ真っ直ぐに生きて来れた。
わざと、訓練の傷を残していって、彼女に治癒の魔法を施してもらうことも幸せだった。一度砕けてしまったオレの心まで癒やされる気がした。できるなら、このままずっとリアンと永遠にいれたら良いのにと……それは叶わないことだと何度も思いながら、王宮へと帰っていった。
だが、もう逃げれないタイムリミットの時がきたんだ。終わりの時が来た。ウィルバートの姿を見せてしまった。自分がすべきことはわかってる。彼女を解放して、自由にするべきだ。そう優しいウィルがずっと自分の中で言っている。
……拳を作り、グッと握る。痛いほどに。
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