天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

文字の大きさ
28 / 304

努力は見えないものだから

しおりを挟む
 ウィルは超多忙な王様だった。図書室へ来ていたのも、睡眠時間を削って、会う時間を作っていたらしいとクロードから聞いた。

「なんだか、私だけが、まったりと怠惰に過ごしてて、申し訳ないわね~」

「そう言っていられるのも、そろそろ終わりでしょう?お嬢様、王妃様になられるのなら、その教育が始まります」

「な、なると決めてないわよ!」

 アナベルが諦めてくださいと動揺を隠せない私を見て、笑った。

「小さい頃からお嬢様にお仕えしてますが、本当はウィル様のこと、嫌じゃないでしょう?むしろウィル様が陛下で良かったじゃないですか」

 うっ……と言葉に詰まる。

「失礼いたします。本日の昼食を陛下が共にどうか?と言っておられますが、どうしますか?」
  
 護衛騎士のセオドアがやってきた。無口で表情をあまり出さず、銀髪でグレイの目は少し冷たさを感じさせる。

「えーと……」

 怠惰に過ごしたい私が断りかけるとピクリとセオドアの頬が動く。

「まさかお断りになりませんよね?」

 私が言いかけた言葉を飲み込むと、セオドアは、ハァ……と重々しいため息をついた。

「リアン様。陛下は後宮外もわたしと共にならば見て良いと言っておられます。どうぞ行ってみませんか?この時間、陛下は騎士団で訓練されているはずです」

 無口な彼がここまで喋ったのは初めてだ。私は驚いて、ええ……と頷くしかなかった。

 王宮内はとても広かった。ちらりと見えた中庭は花が咲き誇り、後宮の庭と同じくらい素晴らしい。噴水の水がキラキラと光を反射していた。似たようなドアがいくつも並び、細い廊下を通る。私は帰り道に困らないようにと王宮内の地図を頭の中に描いていく。
 
「なるべく人目につかない道を行っています。陛下はあなたをあまり他の男の目に触れさせたくない!と言っていましたので……」

 複雑な道を通っていくわねと考えていた私の思考に気づいたのか、セオドアはそうボソッと言う。

 ……ウィル、どんな命令出してるのよ!?と、私の顔がひきつる。

しばらく歩いていくと騎士団の区域内へきたようで、賑やかになった。

 金属音や掛け声が聞こえてくる。騎士たちが真剣に剣や槍を持ち、訓練中だ。その中にウィルがいた。構える姿は気迫があり鋭い目をしている。

 四人がウィルを囲んでいる。手には演習用の木刀。

「まさか陛下相手に複数で勝負をするの!?」

「陛下はなかなかの剣の使い手です。手を抜けるほど楽な相手ではありません。蛮族平定した時も自ら剣を振るってます。とりあえず見てください。素晴らしいですよ」
  
 表情を動かさず、淡々とセオドアは言った。ウィルの訓練が始まった。一斉に飛びかかってくるのを無駄な動作なく、軽やかに避けると剣で相手の刃を受ける。弾いて素早く次の動作へとうつる。鋭い突きを繰り出した。

 ウィルの攻撃で一人がうめき声をあげて倒れる。クルリと反転し、上段から剣を振り下ろす。滑らかな動きに力強さのある戦い方に私は目を奪われる。

 強い……素人の私でもわかる。私はウィルが使う魔法ならば私塾で、見たことがあった。剣まで扱えたなんて知らなかった。

 相手が残り一人になった瞬間、ウィルの右後ろから刃を振り下ろされる。思わず私は叫んだ。

「危ない!ウィル!」

 私の声にハッとしたウィル。それが隙になるかと思いきや……スッと避けてガシッと相手の腕を掴み、蹴りを入れた!

 強い……私は息を呑む。

 全員、地面に伏した……そして先程の鋭い雰囲気のウィルはスッと消えて、にーーっこりと輝くような笑顔を私に向けた。

「リアーーーン!一緒にお昼食べよう!」

 ハイと頷くしかない私をクスクスとアナベルは笑い、セオドアはいつも無表情なのにプッと吹き出して肩を震わせている。

 私にウィルが強い王であるために、努力する姿をセオドアは見せたかったのかもしれない。陛下想いの良い臣下だわと思ったのだった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...