天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

文字の大きさ
90 / 304

待ち人来たりて

しおりを挟む
 少し国を離れていただけなのに、懐かしく感じるのはなぜだろう?街や城を見るとそう感じた。そしてオレは馬車から降りて久しぶりに会うリアンをみつけた。

「ただいま」

 おかえりなさいとリアンが微笑むと思ったが、思ってもいない行動に出た。いきなりオレの体に飛び込んできた。子どものようにぎゅっと抱きしめてきて、オレは驚いた。

「遅い!遅いわよ!」

「そんなに……心配かけたかなぁ?」

「私の計算より2日も遅いのよっ!怪我してないわよね!?どこも悪くないわよね!?」

 いつも平気な顔しているリアン。だけど今回は戦からずっと心配をかけていた。オレだってリアンのこと心配していたけれどなとそっと頭を撫でた。互いに互いのことを気に掛ける存在がいるという嬉しい気持ちをどう表現したらいいんだろう。リアンに会うと心が満たされていく。最近ずっと殺伐としていたから。

「悪かった。帰ろうと思ったら、コンラッドに引き止められてさ」

 帰る日を計算しているのがリアンらしいけど、余計に不安になるだろうと笑いたくなるが、それが彼女の性分なのだろう。

「概ね、うまくいっただろう?」

 そのオレの言葉にリアンは顔をあげて体を離す。眠れなかったのか、彼女の目が赤い。

「リアンこそ襲撃は大丈夫だったか?……いや、一応報告は受けてるけど」

「えーと、腕のいい大工さんを頼んでおいたわ」

 あ……やっぱり……後から損害を受けた場所を見てこよう。

「申し訳ありません。リアン様の力を使わずに済ませたいところでしたが……」

 トラスが謝る。

「トラス、気にするな。リアンの力を示す機会にしただけだ」

 どういうことですか?と聞き返すトラス。リアンがニッコリ微笑む。先ほど一瞬見せた弱気で不安な顔はどこかへ消えて、自信に満ち溢れている。得意分野にはとことん強気だ。

「王妃は魔法が使えるし、暗殺者なんて返り討ちよ!と、力を示しておけば、今後狙われることも減るでしょう?」

「そういうことだ。でも宰相に想定していたことは、内緒にしといてくれ。修繕費のことで怒られる」

 この修繕費ってなんの予算ですか?と不審に思っていたからな……想定通りなんだと言ったら怒られる。

「……呆れます。二人共、いたずら後の子どものような顔をしています」

 トラスが苦々しく笑った。

「しかし、だいぶ陛下はお優しい方法をとったなぁ。その分、こっちが猛烈に働きましたけどね!」

 エリックがそう言って笑う。

「わざわざダレン副将軍の像を作るなんてね。壊しても良かったのでは?」

 三騎士の中で一番可愛い顔をしていて、一番過激なんだよな。確かにエリックに、かなり暗躍してもらった。

「それはダメよ。ダレン副将軍はあちらの兵にとても人気がある方だし、殺してしまえば私たちの国に反発心を与えることになるわ。せっかくウィルバートと中の良いコンラッド殿下が即位するのに……長く友好を保っていきたいのよ」

「50年、100年単位でリアンは物事を見ているからな。優しいというより、そういうことだな」

 リアンの説明にオレが付け足すとなるほど、とエリックが納得したようだった。

「以前なら壊していたの?」

 リアンがふとオレに尋ねる。

「かもしれないな。でもこれからも必要ならば……オレはするだろうな」

 悲しい顔をするかと思いきや、リアンはそうなのねと言って、嘆息する。

「王様は大変ね」

「大変だよ。と、いうわけで、リアン、オレ達、ちょっと夏休みをもらわないか?」

 え!?と周囲が驚く。リアンも目を丸くした。

「1日だけだけど、近くの避暑地の離宮を用意させた。戦からずっと二人の時間がなかったからな」

「ウィル!意外だわ。想定外だわ!」

 なに言ってるの!仕事しなさいよと怒るかと思ったら、こっちも想定外だったよと思ったが、口にしない。彼女がとてもうれしい顔をしていて、オレもすごくうれしくなる。

 離れていた分だけ、お互いに素直になれるようだった。

 一日だけの夏休みをオレとリアンはとることにした。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

そんなに義妹が大事なら、番は解消してあげます。さようなら。

雪葉
恋愛
貧しい子爵家の娘であるセルマは、ある日突然王国の使者から「あなたは我が国の竜人の番だ」と宣言され、竜人族の住まう国、ズーグへと連れて行かれることになる。しかし、連れて行かれた先でのセルマの扱いは散々なものだった。番であるはずのウィルフレッドには既に好きな相手がおり、終始冷たい態度を取られるのだ。セルマはそれでも頑張って彼と仲良くなろうとしたが、何もかもを否定されて終わってしまった。 その内、セルマはウィルフレッドとの番解消を考えるようになる。しかし、「竜人族からしか番関係は解消できない」と言われ、また絶望の中に叩き落とされそうになったその時──、セルマの前に、一人の手が差し伸べられるのであった。 *相手を大事にしなければ、そりゃあ見捨てられてもしょうがないよね。っていう当然の話。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

夫が愛人を離れに囲っているようなので、私も念願の猫様をお迎えいたします

葉柚
恋愛
ユフィリア・マーマレード伯爵令嬢は、婚約者であるルードヴィッヒ・コンフィチュール辺境伯と無事に結婚式を挙げ、コンフィチュール伯爵夫人となったはずであった。 しかし、ユフィリアの夫となったルードヴィッヒはユフィリアと結婚する前から離れの屋敷に愛人を住まわせていたことが使用人たちの口から知らされた。 ルードヴィッヒはユフィリアには目もくれず、離れの屋敷で毎日過ごすばかり。結婚したというのにユフィリアはルードヴィッヒと簡単な挨拶は交わしてもちゃんとした言葉を交わすことはなかった。 ユフィリアは決意するのであった。 ルードヴィッヒが愛人を離れに囲うなら、自分は前々からお迎えしたかった猫様を自室に迎えて愛でると。 だが、ユフィリアの決意をルードヴィッヒに伝えると思いもよらぬ事態に……。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

公爵家の秘密の愛娘 

ゆきむらさり
恋愛
〔あらすじ〕📝グラント公爵家は王家に仕える名門の家柄。 過去の事情により、今だに独身の当主ダリウス。国王から懇願され、ようやく伯爵未亡人との婚姻を決める。 そんな時、グラント公爵ダリウスの元へと現れたのは1人の少女アンジェラ。 「パパ……私はあなたの娘です」 名乗り出るアンジェラ。 ◇ アンジェラが現れたことにより、グラント公爵家は一変。伯爵未亡人との再婚もあやふや。しかも、アンジェラが道中に出逢った人物はまさかの王族。 この時からアンジェラの世界も一変。華やかに色付き出す。 初めはよそよそしいグラント公爵ダリウス(パパ)だが、次第に娘アンジェラを気に掛けるように……。 母娘2代のハッピーライフ&淑女達と貴公子達の恋模様💞  🔶設定などは独自の世界観でご都合主義となります。ハピエン💞 🔶稚拙ながらもHOTランキング(最高20位)に入れて頂き(2025.5.9)、ありがとうございます🙇‍♀️

目覚めたら公爵夫人でしたが夫に冷遇されているようです

MIRICO
恋愛
フィオナは没落寸前のブルイエ家の長女。体調が悪く早めに眠ったら、目が覚めた時、夫のいる公爵夫人セレスティーヌになっていた。 しかし、夫のクラウディオは、妻に冷たく視線を合わせようともしない。 フィオナはセレスティーヌの体を乗っ取ったことをクラウディオに気付かれまいと会う回数を減らし、セレスティーヌの体に入ってしまった原因を探そうとするが、原因が分からぬままセレスティーヌの姉の子がやってきて世話をすることに。 クラウディオはいつもと違う様子のセレスティーヌが気になり始めて……。 ざまあ系ではありません。恋愛中心でもないです。事件中心軽く恋愛くらいです。 番外編は暗い話がありますので、苦手な方はお気を付けください。 ご感想ありがとうございます!! 誤字脱字等もお知らせくださりありがとうございます。順次修正させていただきます。 小説家になろう様に掲載済みです。

処理中です...