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荷造りは早く

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 バタバタと部屋の中が騒がしい。荷を纏めている人たちが慌ただしく動いている。

「本当にもう帰るの?」

 滞在予定は残り3日あったが、あの後、唐突にウィルは「帰る」と言った。

「自国に帰りたくなっただろ?」

 ウィルの射貫くような青い目と言葉にギクッとした。私の心の中を見透かしている。どうもこの国にきてからの私は調子が悪い。いつもならかわせるものも、笑って流せなくなっている。

「やれやれ……オレの気持ちまで疑い出すなんて、先を見越す力も考えものだ。国に帰ったら、オレの愛をじーーーっくり伝えるよ。どんな未来を描こうが、先を読もうが、安心してもらえるくらいに!」

 ガシャンッと私はテーブルに躓いてコケかけた。

「ちょ、ちょっと!?ウィル、どうしたのよ!?」

「リアンが変なことを言うからだよ。覚悟しておくことだね」

「えええ!?変なことって私、何、言ったかしら?」

「オレによくも他の女性を勧めるとはね」

 本気で怒ってない?ウィルは真顔だ。私は落ち着いて話さなきゃと自分に言い聞かせる。

「後宮の姿は本来、王のためにあるものでしょ?ちゃんと私、帰ったら頑張るし……それに……」

「それに?」

 何人かの王妃を本当にウィルバートに見つけてほしいのかしら?私は?言葉がどうしても出てこない。言わなきゃいけないのに……いけないのに……ポロッと一粒涙が出た。ウィルバートの顔色が変わった。

 無言で手首を掴まれて抱き寄せられ、顔を隠される。セオドアとアナベルが『ハイハイ、部屋から出ますよ』と、理解してますとばかりに……周囲の使用人たちを遠ざけて、部屋の外へ出してくれる。忙しい最中に申し訳ない。

「私、残酷な女なのよね」

「リアンは国やオレのために必死になってくれている。守りたい気持ち、ちゃんとわかってる……それにオレは今のままのリアンが好きなんだ。絶対に一生好きだ。喧嘩しても、振り回されてもリアンのことは変わらず好きでいる自信がある」

「でも、王の義務は?」

 涙声になり、あまりウィルバートに泣いてる姿を見せたことがないので、恥ずかしくて、胸に顔を埋めたまま尋ねると、ハハッと笑われる。

「王の義務ってなんだ?きっとリアンがいなかったら、国は滅びてたよ。どの時点でかはわからないけど、国ごと沈めてしまっていたと思う。オレはリアンがいるから良き王になるよう努力してる。そうだなぁ……後、リアンが気にするとしたら……もしかして世継ぎとかか?」

「……もしできなかったら?」

「養子でも貰うさ。そのへんは心配しなくてもオレより血の濃い王族なんてたくさんいるんだ。……って、本気で子作りするの?」
  
 カアアアアと自分でもわかるくらい頬が赤くなる。

「し、しないわよっ!なんでそんな話になるのよっ!」

「え!?今、そんな話になってただろ!?……オレは別にいつでも来い!だけど?」

「ウィルのバカーーっ!」

 ドンッと私に突き飛ばされて、後ろへよろけるウィル。

「えええええ!?なんで怒るんだよ!?」

 もう知らないわ!とそっぽを向いてみせると、ウィルがアハハと声をあげて笑う。

「やっぱりこれだよな。元気なリアンが一番リアンらしい。さて……オレはコンラッドに挨拶をしてくる」

 目が鋭くなる。怒って……ないのよね?
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