天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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怠惰を布教する

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「まあ!この本の良さがわかる方と会えるなんて!」

 私は魔法理論についての本を読んでいたのだが、ソフィーが覗き、本に興味を持ったのだった。

「ウフフ。わたくしも実は多少魔法が使えます!」

「そうなんですね。近年、魔法を使える者が減ってきて、大きな術を使える者もいなくなっている。その原因も不明だけれど、そのあたりの話がこの本に書かれているので、面白いです」

「魔法を使えなくなることを憂いる必要はないと思いません?無くても人々は幸せに暮らしてますし……でもその本に書かれているように原因の究明は必要かもしれませんね」

 私は確かにと頷く。久しぶりに語れる相手をみつけたかもしれない。でも……。

「とりあえず本のことはおいておき、お茶にしましょうか?」

 お茶の時間が来てしまった。怠惰に過ごすには守りたい時間だ。

「話が盛り上がっているのにいきなり休憩!?」

「まずは何事も休憩からです」

「怠惰ねぇ……でも悪くないわ」

 呆れるかと思ったけれど、ソフィーは怠惰が気に入ってるようだ。怠惰の布教が成功してると言える。

 アナベルがお茶を注ぐ。温度も色も完璧なお茶を一口飲む。相変わらず美味しい。

「リアン、わたくしが国から出てきた理由を聞かないのね?」

「お話されたいのでしたら、聞きますけれど……」

 フッとソフィーはウィルに少し似ている笑い方をした。

「もしかして、もう理由を掴んでいたりする?知ってるの?」

「どうでしょう?」

 ニッコリと私は笑ってはぐらかす。

「やっぱりあなたって侮れないわね!ここに来て、のんびりする時間を持ったけど、それはわたくしに考える時間を与えるためね?こうしていると嫌でもじっくりと考えてしまうもの……」

「そういうつもりではありません」

「または、わたくしが何かに傷ついていた場合、心を癒してくれるため?……答えなくてもいいの。ありがとうとお礼を言いたいの」

「お礼……ですか?」

「本来なら、すぐに追い出されてもおかしくなかったのに、リアンがわたくしを受け入れてくれたから、ここでゆっくり過ごせ、幼い頃の思い出にも浸れた。……正直言って、嬉しかったわ。これ、親愛の証として受け取ってほしいの」

 ソフィーは古い紋様の入った指輪を私の手のひらにのせた。

「これは?」

「あなた、魔法を使えるんでしょ?いずれ役に立つわ」

 古びているけれど、なんだかずいぶんと……。

「要らないなら捨ててもいいわ」

「え!?いえ……そんなことしませんが、いいんですか?貴重な物のような気が……」

「その指輪の価値、わかる?あなたって洞察力も見事よね。ウィルバートは良いお嫁さんをもらったわね。どこからどこまでがあなたの手の中なのかわからないわね。まぁ、わたくしは踊らされているとしても、良いわ。こんなに穏やかに過ごせたのは久しぶりだった」

 遠い目をソフィーはした。私のことを買いかぶりすぎなところもあるけれど、当たっている部分もある。確かに、怠惰な時間を布教したのは狙ってのことだった。人はあまりにも忙しすぎると考える余裕が無くなる。他人のことはもちろん、自分のことすら見失う。

……と、そこへ入ってきた人物がいて、のんびりとした場の空気が一変した。

「リアンとやけに楽しそうにしてるが、邪魔したか?」

 ウィルの機嫌がすっごく悪いわ。目つきが悪い。鋭い眼光でソフィーを見ている。

「シザリア王国から使者がきた」

「もう来たの?早いわね。迷惑かけてるとは思ってるの」

「夫婦喧嘩が原因だと使者は言っていたが?」

 夫婦喧嘩!?私は目を丸くして両方の顔を交互に見ると、姉と弟は火花が飛びそうなくらいの視線を交わしていたのだった。
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