天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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静かに蠢く者

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 アナベルが一部始終を聞き、心配そうな顔をしながらも、私が落ち着けるように温かいお茶を淹れてくれる。

「その方たちは、なぜリアン様を追いかけて来たんでしょう?」

「わからないわ。王族としての壁が私にはあまり感じられないのかしら?……でもそうじゃないわね。異様な雰囲気だったの」

 バンッと扉が勢いよく開いた。ウィルだった。駆けつけてきたという言葉が似合うくらい息を切らせている。猛ダッシュしてきたらしい。

 さらにその後ろには、追いついた!とばかりにセオドアが滑り込む。

「リアン!怪我はないよな?何かされなかったか?」

「特になにも……セオドアが異様な雰囲気を察していち早く対応してくれたもの」

 そうかとホッとするウィル。だけど、すぐに表情を険しくさせた。

「いったい……何が起こっているんだ?」

 私は温かいお茶を一口飲んだ。アナベルはウィルにも湯気のたつお茶を注いだ。

「ウィル、私はジワジワとヘビが私たちを囲んで絞め殺そうとしているように感じるのよ。きっとこれは……」

 はぁ……とウィルはため息をついた。

「オレたちはきっと同じ人物が頭に浮かんでいる」

 私とウィルは手のひらをお互いに出す。そして人差し指で、その人物の名を声に出さずにスペルを書いた。

 一瞬の沈黙。視線が重なり合う。

 同じ名を私とウィルは書いていた。

「やっぱりな……」

「そうでしょうね」

 ウィルが額に手を当て、私は顎に手をやる。

「昔からオレの存在を面白く思ってはいなかったのは知っていた。さらに自分の息子が断罪されたことで恨みを抱いたんだろうが……ジワジワと攻めてくる感じがたまらなく嫌だな」

「それもいつから始めていたのか、民を巻き込んで私たちにダメージを与えようとしている。これは厄介だわ。今回、あなたではなく狙っているのはきっと……」

 ガタッと席を立ったウィルの顔色は良くない。私は落ち着きなさいよと座るように促すが、彼は叫ぶように言った。

「頼むから後宮で、怠惰に過ごしていてくれ!」
  
「怠惰に過ごすのは好きよ。でもウィル……私、今、学校の……」

「それは今すぐじゃなくてもいいだろう!?オレはリアンの身が一番大事だ。セオドア!絶対きリアンを後宮から出すなよ」

 セオドアが命じられて、ハイと忠実に返事をする。

「セオドアとあなたを離す策かもしれないじゃないの!セオドアはいつもどおりウィルのそばにしてよ。私は後宮にいるから大丈夫よ」

 まったく……私のこととなると頭に血が上りやすくなるんだからと半ば呆れつつも少し嬉しい。でも冷静な判断をするべきよ。

 わかってるさと不安な顔をするウィルを見て、私は微笑む。自分が狙われている時より私の時のほうが不安そうって本当に彼は……。

「そろそろお戻りになりませんと、謁見の予定があります」

 セオドアに促されて、渋々部屋から出ていく。後から、トラスを寄越すとだけ言い残して行った。
  
 私は椅子によりかかる。

「だけど民への情報操作が行われてるのが気になるわ。手を打ちたいわね」
 
「お嬢様!あのように陛下が必死になる姿はめったにあることではないんです。とても心配していらっしゃるのに……まさか……」

「大丈夫よ。大人しくしてるわよ」
 
 アナベルが慌てる。私は肩をすくめた。

 ネチネチとした攻撃に対抗してこっちも性格の悪い……じゃなくて、ちょっと癖のある男に手伝ってもらうしかないわね。そう思うのだった。
 
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