天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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多忙な王宮政務官は提案する

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「調印式まで後、少しです!!陛下、この書類と手続きの段取りと……ああああ!そうだった。申し訳ありません!スケジュールを組んでいましたが、急遽陛下とお会いしたいとハイロン王からの申し出がっ!!」

 ラッセルがバタバタと手に大量の書類と手帳を抱えて執務室へやってきた。

「ちょっと落ち着け」

 ハアハアと肩で息をしている。ここ数週間でラッセルが痩せた気がするのは気のせいだろうか。

「陛下。本日の予定……で……す」

 オレに紙を渡したと思ったら、ガクッと膝をつくラッセル。

「お、おーいっ!大丈夫か!?」

 オレの呼び声に青い顔をしながら、見苦しい姿を見せて申し訳ありませんと謝る。

「ここ最近、仕事の多さに忙殺されてますね。だから手伝いましょうか?と聞いたんですけど」

 セオドアがラッセルを見下ろして、淡々とした口調でそう言う。

「くっ……武官に手伝ってもらうわけには……これはこっちの仕事です」

「素直じゃありませんね。陛下の仕事を影として、ささやかながら、ずっとお手伝いしてきてるので、大丈夫だと言っているのに……」

 オレは確かに負担が大きいかもなぁと腕を組んで考える。

「仕事は増えてきている。それは間違いない。四カ国で取り組もうとしていることが、日ごろの仕事もある中で、負担になってるんだな。人員を増やしたいが、ただ増やせば良いというものでもないしな。どこかに良い人材がいないか?」

 ラッセルが横を向き、そして苦い顔をしながら何かを決心したかのように言った。

「陛下!あまり推薦したくない相手ではありますが、能力は確かかと思います……ミンツ先輩はどうでしょうか?」

「ミンツ先輩か。確かに能力は高いのは間違いないが、まさか、その人を推薦してくると思わなかったな」

 やっぱり嫌ですよねーとラッセルが言う。嫌ではないが、間違いなく能力はあることは知ってる……けどなぁ。

「どんな方なんですか?」

 知らないセオドアが尋ねる。

『変人』

 オレとラッセルの声がハモった。

「リアン様よりもですか?」

「おい……リアンが聞いたら、怒るぞ?言うなよ!?」

「セオドア様、それは命知らずすぎますよ!絶対にリアン様にはそのようなこと聞かないほうがいいです!」

 必死にオレとラッセルがセオドアに絶対リアンには言わないように止めておく。同じ私塾出身のため、ミンツ先輩のことはリアンもよく知っている。

「ラッセルはミンツ先輩と交流があるのか?オレが王宮に招きたいと頼んだら来てくれそうか?紹介状書いてくれるか?」

「交流は年に2、3回手紙のやりとりをしているだけです。紹介状は書きますが……こんなことを言うのは恐れ多いのですが、陛下自らが家へ行って誘わねば来てくれないと思います」

「それはわかってる。ミンツ先輩はそういう人だ。むしろ誘ったところで来てくれる可能性も低くないか?」

「ミンツ先輩に陛下がウィルだったということは言ってありません。同じ私塾の仲間ならばと助けてくれるかもしれませんよ。なによりも王様がウィルだと知っても、唯一動じない人じゃないでしょうか?」

 どうだろうなぁ?あの先輩は読みにくいし絡みにくい。唐突に『欲しい文献があるから、ちょっと行ってくる!』そう言って、飛び出していったと思ったら半年帰ってこなかった。海の魚と川の魚はどちらが長生きか?といきなり言い出して、フラッといなくなったと思ったら、バケツを二つ持ち、私塾の入り口に置いて、皆で見よう!とかいう事件もあったな。

 それでも学問や議論は素晴らしかったのを覚えている。リアンすら『ミンツ先輩との議論はワクワクするわ』と言っていた。ちょっと嫉妬し……いや、それは私情だから置いておくとしよう。

「陛下がわざわざ足を運ぶ必要があるのですか?」

 セオドアは納得いかないと眉を顰める。

「良い人材は待っていても来ない。こちらから頭を下げるに足る人だと……たぶん足る人だと思うんだ」

「陛下がそうしたいとおっしゃるならば、俺はいつも通り影としてついていくまでです」

 仕事がこれで楽になるかもしれないー!夜、6時間は寝れるかなー!!とラッセルが半泣きで嬉々として紹介状を書いている。その様子を見て、ちょっと負担をかけすぎたかなと反省したのだった。
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