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(番外編)絵に描いた花を贈る
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昔、郷里に置いてきた幼馴染の恋人に『元気にしているか?』と花の絵の絵葉書を送った。その花畑の絵は郷里によく似ていて、懐かしくなって選んだものだった気がする。
すると彼女は一度、帰郷した時に言ったんだ。
『それが恋人に贈る物なの?騎士様になったって聞いたから、花の絵じゃなくて、もっと素敵なものをもらえると思ったのに……』
もっと高価なものを欲しているのか?そんな彼女にどこか幻滅したものを感じた。僕はせっかく帰った郷里での出来事にがっかりし、さっさと我が主のウィルバート様のもとへ帰っていった。あれから一度も帰っていない。
僕は人気者だ。はっきり言ってモテる。王城の廊下を通るだけで女性の視線が自然とこちらへ向くのがわかる。
キャー!エリック様よ!今日も素敵ね。
今度パーティーで、一緒に踊ってもらえないかしら?
ずるい!わたしだって踊ってもらいたいわ!
女性の声が耳に届く。ふふん。気分が良いなぁ。
しかし最近、気に入らないことがある。
我が主が変な女性にひっかかってしまったことだ。その女とは……。
「リアン様、今日もご機嫌麗しく……」
「あ、今日の護衛はエリックなの?よろしくね~」
挨拶が途中なのに、サラッと切られて、軽く返事をされる。この反応がおかしいと思う。普通の女性ならば、僕が護衛すると言うと、とても喜んでくれるんだけどな。
「リアン様?」
「なに?」
顔を本から上げすに聞き返される。そっけなさすぎる。
いえ、なんでもありません。と小さく呟くと、あっそう。とまたもや軽く流された。手元の本に夢中のようだった。部屋で大人しくしてくれているから、護衛は楽だが、やりがいがない。
もしかして自分に魅力がなくなってきたのか?廊下を歩いていると三騎士の一人のフルトンに出会った。
「なあ。最近、美しさや魅力がなくなってきてるかな?僕の姿を見て、どう思う?」
「はあ!?エリック、何いってんだよ!男がならそんなこと気にすんな!男なら強さだろ!強さが男の基準だ!外見ばっか気にしてんなよな。ワッハハッハー!」
聞く相手を間違えた。何事も大雑把なフルトンに聞いてもしかたなかった!
いやいや!そもそも、リアン様が変わってるんだ。
しかし長年『王妃はいらない』そう言っていた、我が主のウィルバート様が、たった一人、この人が良いと言ったのが、リアン様だった。どこがいいのかサッパリわからないが。
「エリック様。今日はお相手してくれる時間ありますの?」
そっと柱の影からでてきたのは伯爵家の娘だった。そう。貴族の娘すら僕に夢中になる。
「あるよ。君のためならいつだって時間があるんだよ」
にっこり微笑んで、そう言ってあげると、嬉しい顔になる。そうそう。これが普通の反応だろう?
それに一人の女性に縛られるなんてまっぴらごめんだ。明日は非番で、男爵家の娘と予定がある。美人揃いの城のメイド達も僕にいつだって誘われるのを待っている。
郷里の幼馴染の恋人の顔がチラリと浮かんだが、すぐに消した。
ウィルバート様が、綺麗な布に花の図柄が刺繍されたブックカバーを手にしている。
「まさか……それは……」
「あ、これか?リアンへの贈り物だよ」
「贈り物ならば、宝石や靴、ドレスとかが良いんじゃないですか?女性はそんなブックカバーなんてもの、喜ばないと思いますよ」
そう言って止めたが、ウィルバート様はフッと笑って答えなかった。ウィルバート様はどうやら花の絵のブックカバーをリアン様に贈ったようだった。
その数日後、リアン様がお気に入りらしい本に花のブックカバーをかけていることに気付いた。
宝石より、どんな高価なものより、花の絵を喜ぶ女性がいるのか?思わず試すように声をあげていた。
「そんな花の絵の布切れ1枚で嬉しい物ですかね?王妃様でしょう?もっと高価なものを陛下におねだりすればいいじゃないですか」
怠惰な王妃と自称するリアン様はゴロンと寝転んで、こちらを見もせず、当然のように言い出す。
「誰に貰ったのか、私に合うものを考えてくれたのか?っていうのが重要でしょ。贈り物って、相手の気持ちが嬉しいの」
心が優しく綺麗事を言う王妃だなと皮肉げに思った……と、油断していたら、戦になったとたんに相手を翻弄する汚い手をためらいなく使っていった。まるでボードゲームを楽しむかのように、それは見事なまでに作戦が進んでいった。
この王妃の心が優しく綺麗な部分があって良かったと心底思った。もし人の命をなんとも思わない人間だったらためらいなく人の命を奪う策を立てていくだろう。その結果、戦で相手の血がどれほど流れるだろうか?そう思い、ゾッとした。味方で良かった。
絵に書いた花か……。郷里の彼女が欲しかったものはなんだったんだ?本当に欲しかったものは、もしかしたら違ったのかもしれない。
『贈り物って、相手の気持ちが嬉しいの」
そうリアン様は言った。
もしかすると、彼女は花が描かれた絵葉書が不満だったわけじゃない。高価な贈り物が欲しいなんてこと、一言も言ってはいなかった。僕が勝手に解釈したんだ。騎士になったと知った時だって、スゴイ!がんばってね!と喜び、励ましてくれた。
郷里を離れる時、彼女は目に涙を溜めて手を振って見送ってくれた。あの涙は本物で、帰ってくるのをずっと待っていてくれた。嬉しそうに家のドアから飛び出してきた笑顔を思い出す。
彼女の欲しかった僕の想いを言葉にして伝えていなかったんじゃないか?
もう一度、花の絵葉書を送ってみよう。もう手遅れかもしれないけれど、こんなふうに、思い出を引きずっているよりマシだ。
やらずに後悔するよりやって後悔だ。
――――とりあえず、絵に書いた花をもう一度、贈ろう。
そこに彼女への想いをしたためて。
すると彼女は一度、帰郷した時に言ったんだ。
『それが恋人に贈る物なの?騎士様になったって聞いたから、花の絵じゃなくて、もっと素敵なものをもらえると思ったのに……』
もっと高価なものを欲しているのか?そんな彼女にどこか幻滅したものを感じた。僕はせっかく帰った郷里での出来事にがっかりし、さっさと我が主のウィルバート様のもとへ帰っていった。あれから一度も帰っていない。
僕は人気者だ。はっきり言ってモテる。王城の廊下を通るだけで女性の視線が自然とこちらへ向くのがわかる。
キャー!エリック様よ!今日も素敵ね。
今度パーティーで、一緒に踊ってもらえないかしら?
ずるい!わたしだって踊ってもらいたいわ!
女性の声が耳に届く。ふふん。気分が良いなぁ。
しかし最近、気に入らないことがある。
我が主が変な女性にひっかかってしまったことだ。その女とは……。
「リアン様、今日もご機嫌麗しく……」
「あ、今日の護衛はエリックなの?よろしくね~」
挨拶が途中なのに、サラッと切られて、軽く返事をされる。この反応がおかしいと思う。普通の女性ならば、僕が護衛すると言うと、とても喜んでくれるんだけどな。
「リアン様?」
「なに?」
顔を本から上げすに聞き返される。そっけなさすぎる。
いえ、なんでもありません。と小さく呟くと、あっそう。とまたもや軽く流された。手元の本に夢中のようだった。部屋で大人しくしてくれているから、護衛は楽だが、やりがいがない。
もしかして自分に魅力がなくなってきたのか?廊下を歩いていると三騎士の一人のフルトンに出会った。
「なあ。最近、美しさや魅力がなくなってきてるかな?僕の姿を見て、どう思う?」
「はあ!?エリック、何いってんだよ!男がならそんなこと気にすんな!男なら強さだろ!強さが男の基準だ!外見ばっか気にしてんなよな。ワッハハッハー!」
聞く相手を間違えた。何事も大雑把なフルトンに聞いてもしかたなかった!
いやいや!そもそも、リアン様が変わってるんだ。
しかし長年『王妃はいらない』そう言っていた、我が主のウィルバート様が、たった一人、この人が良いと言ったのが、リアン様だった。どこがいいのかサッパリわからないが。
「エリック様。今日はお相手してくれる時間ありますの?」
そっと柱の影からでてきたのは伯爵家の娘だった。そう。貴族の娘すら僕に夢中になる。
「あるよ。君のためならいつだって時間があるんだよ」
にっこり微笑んで、そう言ってあげると、嬉しい顔になる。そうそう。これが普通の反応だろう?
それに一人の女性に縛られるなんてまっぴらごめんだ。明日は非番で、男爵家の娘と予定がある。美人揃いの城のメイド達も僕にいつだって誘われるのを待っている。
郷里の幼馴染の恋人の顔がチラリと浮かんだが、すぐに消した。
ウィルバート様が、綺麗な布に花の図柄が刺繍されたブックカバーを手にしている。
「まさか……それは……」
「あ、これか?リアンへの贈り物だよ」
「贈り物ならば、宝石や靴、ドレスとかが良いんじゃないですか?女性はそんなブックカバーなんてもの、喜ばないと思いますよ」
そう言って止めたが、ウィルバート様はフッと笑って答えなかった。ウィルバート様はどうやら花の絵のブックカバーをリアン様に贈ったようだった。
その数日後、リアン様がお気に入りらしい本に花のブックカバーをかけていることに気付いた。
宝石より、どんな高価なものより、花の絵を喜ぶ女性がいるのか?思わず試すように声をあげていた。
「そんな花の絵の布切れ1枚で嬉しい物ですかね?王妃様でしょう?もっと高価なものを陛下におねだりすればいいじゃないですか」
怠惰な王妃と自称するリアン様はゴロンと寝転んで、こちらを見もせず、当然のように言い出す。
「誰に貰ったのか、私に合うものを考えてくれたのか?っていうのが重要でしょ。贈り物って、相手の気持ちが嬉しいの」
心が優しく綺麗事を言う王妃だなと皮肉げに思った……と、油断していたら、戦になったとたんに相手を翻弄する汚い手をためらいなく使っていった。まるでボードゲームを楽しむかのように、それは見事なまでに作戦が進んでいった。
この王妃の心が優しく綺麗な部分があって良かったと心底思った。もし人の命をなんとも思わない人間だったらためらいなく人の命を奪う策を立てていくだろう。その結果、戦で相手の血がどれほど流れるだろうか?そう思い、ゾッとした。味方で良かった。
絵に書いた花か……。郷里の彼女が欲しかったものはなんだったんだ?本当に欲しかったものは、もしかしたら違ったのかもしれない。
『贈り物って、相手の気持ちが嬉しいの」
そうリアン様は言った。
もしかすると、彼女は花が描かれた絵葉書が不満だったわけじゃない。高価な贈り物が欲しいなんてこと、一言も言ってはいなかった。僕が勝手に解釈したんだ。騎士になったと知った時だって、スゴイ!がんばってね!と喜び、励ましてくれた。
郷里を離れる時、彼女は目に涙を溜めて手を振って見送ってくれた。あの涙は本物で、帰ってくるのをずっと待っていてくれた。嬉しそうに家のドアから飛び出してきた笑顔を思い出す。
彼女の欲しかった僕の想いを言葉にして伝えていなかったんじゃないか?
もう一度、花の絵葉書を送ってみよう。もう手遅れかもしれないけれど、こんなふうに、思い出を引きずっているよりマシだ。
やらずに後悔するよりやって後悔だ。
――――とりあえず、絵に書いた花をもう一度、贈ろう。
そこに彼女への想いをしたためて。
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