天才と呼ばれた彼女は無理矢理入れられた後宮で、怠惰な生活を極めようとする

カエデネコ

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女王陛下の能力

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「すまぬな。エイルシア王妃よ、不自由はさせてないかの?」

 女王陛下への謁見が通った。私はにっこり微笑む。

「はい。とても快適です。三食昼寝付き!おやつタイムあり!そんな生活をさせてもらって良いのでしょうか?」

「殺人容疑をかけられたわりに余裕の態度ではないか?不安ではないのかの?」

 氷のように無機質に煌めくアイスブルーの美しい瞳でみつめられる。男ならドキッとしてしまうかもしれない妖艶さもそこに加わっている。

「私にやましい事など1つもありません。オドオドするほうが怪しいですもの」

「開きなおりではないのかのぉ?」

 とんでもありませんと私が真っすぐに女王陛下と向き合って対峙していると、少し苛立った表情をした。

「妾のことをどう思う?」

「好きですわ。女王陛下とお会いすることができ、こうして話せること、とても光栄に感じております」

 その私の一言に眉をひそめる。どうしてそんな顔をしているのか予想がつくが、私はそれを口にしない。

「……エイルシア王妃は掴めぬ。それが本心なのかどうか」

 ぼそっとつぶやく声が聞こえた。私はにっこりと優しく微笑む。ゲームをしている時は相手に感情や思っていることを言葉にすることは自分の不利になる。こうして対話する分には私にまだ分があるようだった。女王陛下がとまどっている。

 しかしここは女王陛下のホームである。やっと五分五分ってところかしら。私の勝ちにはならない。私もまだ女王の本意がわからないからだ。

「悪いようにはしない。今しばらく、ここに滞在してくれると助かるのじゃ」

「ええ。私は逃げませんわ」

「すまぬ」

 謝る?謝ったの?

 ……その顔が一瞬辛そうでもあった。

 私が部屋に帰ると、ずっと黙っていたエリックが口を開く。

「リアン様には女王陛下の『魅了の力』効いていないのですか?」

「あら?エリックはさすがにここの出身だけあって、女王陛下の力を知ってるのね。どうやら、女王陛下は私に 『魅了の力』が効いているかどうか探っていたようだったわね」

「魅了されるのですか?」

 アナベルが私とエリックの会話に首を傾げる。

「そうよ。それほど強い魅了の力ではないけれど、傍にいる者を自分の虜にしちゃうのよ。魔法に耐性の無い人ほど魅了されやすいの」

「あっ!だからエリック様に確認していたんですね!?わたし、エリック様が美しい女王陛下のことを好きになってしまうからだと思っていました」

 そうよと私は笑う。エリックが単なる女好きだからという理由だけではない。

 そう思われていたんだ……とエリックが不本意そうにアナベルを見る。すいませんと肩をすくめている。

「でもなぜエリック様やリアン様、わたしは魅了されないんでしょう?わたしは正直話ますと、会った瞬間、女王陛下はおきれいで素敵だとは思ってしまい、胸がどきどきとしましたけれど、慣れてきたのか、今ではきれいなお方とは思いますが大丈夫です」

「もともとエイルシア王国は魔法が存在する国だから、エイルシア王国の民はかかりにくいと思うわ。ただ、エリックは傭兵だったからエイルシアの民ではないでしょう?だからどうかしら?かかってしまうかもしれないわねと思ったのよ。この国の民は女王陛下の魅了に少なからずかかってるわ」

 エリックがそれでしたらご安心を!と得意げになる。

「この国にも魔法耐性があるものがいると思いますよ。実は僕が騎士団を辞めた理由もそこにあります。皆が盲目的に『女王陛下は素晴らしい』『美しい女王陛下に仕えることは幸せだ』『女王陛下ために死にたい』などと言うのがおかしいと感じて不気味で、城から出たんですよ。皆がうつろな目をして言っている状況を想像してください。ある意味ホラーでしょ?そういう周囲と反りがあわなかったんですよ」

 確かにこの国の騎士たちは、冷たい表情をしていると思っていたが……魔法耐性が低い者が女王の傍にいすぎるとそうなるのかもしれない。気を付けなければならない。

「エリックの場合、この国の騎士団を辞めた理由はそれだけじゃないと私は推測しちゃうわ。まだ話していないことあるんじゃないの?」

「リアン様~。いろいろ探らないでくださいよ。はあ……やっぱり早くウィルバート様の方に仕えたいよ。王妃様はやっかいすぎる」

 溜息をついて、ぼやくエリックだが、おっと!そろそろ行かないと!と慌てだす。

「メイドとしての仕事の時間なんです。護衛と内偵の両方って地味に辛いんですけど?」

「エリック、がんばって!頼りにしてるわよ!報酬は弾むわ!」

「……過労死するまえに終わらせたいよ」

 泣き言を言いつつも、行ってしまうエリック。

「リアン様は女王陛下の魅了の力にウィルバート様や他の王様達がかからないようにご自身が来たんですね?お優しいです」

「アナベル、それは良いようにとりすぎよ」

 私の腹心のメイドはうっとりとした目で私を見た。

「わたしはリアン様に魅了されてるのかもしれませんね。わたしは昔から変わらずリアン様が一番大好きですから!もちろんこれからも一番大好きです!」

「うれしいけど……セオドアが聞いたらやきもちをやくから、彼の前では言わない方がいいわよ」

 えっ!?と口を抑えるアナベル。

 それにしてもと私はソファーに腰かけて考える。

 私を魅了の力で縛りつけようとしたり、殺人の罪を無理やりきせて、ここに留まらせておこうとしたりし、いったい何をしたいのかしら?自分たちに不利になるだけではないかしら?ユクドール王国を怒らせることを狙ってる?しかし力の優勢は歴然。戦う前からわかっている。私たちを憎んでるわけでもなさそうだ。あの申し訳なさそうな態度にその線も消えた。

 それでも私たち4ヶ国を相手にしなければならない理由がシェザル王国にある?

 それを探ることが解決になるだろう。女王陛下の魅了の力に囲まれたこの城の中で、どこまでできるか?

 ……案外と助けは外からくる賑やかな来客かもしれないわねと私は思うのだった。
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