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怠惰な王妃は冤罪を晴らす
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ユグドールの軍はコンラッドと共にこちらへ向かっているという。女王陛下は落ち着かないのか、私を度々、呼び出して自分のそばに置こうとする。
美しい女王陛下は意外と気が弱いのかもしれない。魅了の力も自分を守るための壁なのだろうと思う。
「女王陛下、私もそろそろお暇することとなりそうですが、その前に私の冤罪は晴らして帰りたいのです」
「冤罪?ああ……殺人事件のか……あれはもう良いのじゃ」
女王陛下の心はもうここにあらずという感じだ。しかし、不本意な罪をかぶっていたのだから、ハッキリさせておきたい。
エリックが私の顔を見たので、頷く。
「入れ!」
そうエリックが呼ぶと、ドアから死んだはずのメイドが出てきた。女王陛下が目を丸くする。ゾンビでもなんでもない生きた女性だ。
「す、すいませんっ!女王陛下!許してください。国境を越えようとしたらつかまりました!」
メイドが泣き声で訴えた。もう自分は終わりだといわんばかりの悲痛な声。
「どうやって……!?」
女王陛下が驚く。エリックの方をちらりとメイドは見た。エリックは素知らぬ顔をしているが、女王陛下は気付いて眉をひそめる。
「そこの男、何者だ?」
「ウィルバート様に仕える三騎士の一人です。どうぞお気になさらず」
通りすがりのモブですくらいのアッサリさでエリックが言う。しかしそんなわけなかろうと女王陛下が尋ねる。
「妾の魅了の力が効かないとなるとエイルシア王国の出身か?罰を与えることは考えておらぬ。たんなる興味じゃ。答えてもらおう。どうやってメイドを探し出したのじゃ?」
「僕はこの国出身ですし、女王陛下が幼い頃より存じてます。会ったこともあります。覚えていらっしゃらないとは思いますがね。メイドを特定するなんて簡単なことですよ」
エリックは柔らかく微笑む。その微笑みで何人の女性を虜にしてきたのか。うちの娘のクロエなんて『真面目なトラスより笑ってかわして本心を見せないエリックの方が苦手よ』と言っていた。
「女性というのは噂話が大好きなんですよ。ちょっと仲良くなれば同僚やその友人、はたまた家族に近寄れる。そこのメイドのことはメイド仲間の中で噂になっていたので、簡単にわかりました。『女王陛下から特別の給金をもらった。国外でしばらく遊んでくる』そんなことを他のメイドに言ってジャラジャラと金をみせびらかせば、ねたまれるのは間違いないですよ」
女装して他のメイドに近寄り、殺されたふりしたメイドのメイド仲間たちから話を聞き出して……そして居所を突き止めたということね。
嫌がっていた割に女装が役だっているじゃないの。
「その人ひどいんです!愛を囁き、彼氏になってくれて将来も約束してくれたと思ったら、人の弱味をにぎって脅し、女王陛下の前に連れて来られたんです!詐欺師で悪魔のようです!」
エリック……と私とアナベルに半眼になった視線を送られるが、そんなもんですよと飄々としている。
「こういうのは僕向きだってわかってて、リアン様も頼んでるでしょう?同罪ですよ。女装しろってネタじゃないんですよね?」
「半分はネタよ」
ええっ!そんなっ!とエリックが非難の声をあげる。
「この国出身ならば、妾の力になぜ魅了されない?シェザル王国の者には、妾の力がよく効く」
「なぜでしょうねぇ?」
ニコニコと笑うエリック。そこにはなにかありそうだが、話さない。
「……まぁ、よいわ。たまにおるのじゃ。そういう体質の者が。それで?リアン王妃は暴いてどうしたいのじゃ?」
「私が無実だと証明されれば、それで十分です」
女王陛下はなにが言いたいか、わかっておるわと苦笑した。私の意図を理解したらしい。
「こちらの都合で、罪を被せることになり申し訳なかったと謝ろう。それでよいか?」
「ありがとうございます。これからの私の外交にもかかわりますもの。エイルシア王妃が『他国で殺人をした王妃』なんて警戒されます。私は『怠惰な王妃』で十分なのです」
ずっと暗い顔をしていた女王陛下は私の冗談にフフフと初めて心から笑った。春に初めて咲く花のような瑞々しく、可憐な笑顔。それは一瞬ではあったが、私は無意識にじっと見つめていた。危うく魅了されかけた。『女王陛下』という役目がなければそれが本当の姿だったのかもしれない。
隣を見るとエリックが驚いた顔をしていた。
「リアン様のおかげで、この国で一番見たいと思っていたものを見れましたよ。二度と見れないものだと思っていました。ありがとうございます」
彼はそう言ったのだった。
美しい女王陛下は意外と気が弱いのかもしれない。魅了の力も自分を守るための壁なのだろうと思う。
「女王陛下、私もそろそろお暇することとなりそうですが、その前に私の冤罪は晴らして帰りたいのです」
「冤罪?ああ……殺人事件のか……あれはもう良いのじゃ」
女王陛下の心はもうここにあらずという感じだ。しかし、不本意な罪をかぶっていたのだから、ハッキリさせておきたい。
エリックが私の顔を見たので、頷く。
「入れ!」
そうエリックが呼ぶと、ドアから死んだはずのメイドが出てきた。女王陛下が目を丸くする。ゾンビでもなんでもない生きた女性だ。
「す、すいませんっ!女王陛下!許してください。国境を越えようとしたらつかまりました!」
メイドが泣き声で訴えた。もう自分は終わりだといわんばかりの悲痛な声。
「どうやって……!?」
女王陛下が驚く。エリックの方をちらりとメイドは見た。エリックは素知らぬ顔をしているが、女王陛下は気付いて眉をひそめる。
「そこの男、何者だ?」
「ウィルバート様に仕える三騎士の一人です。どうぞお気になさらず」
通りすがりのモブですくらいのアッサリさでエリックが言う。しかしそんなわけなかろうと女王陛下が尋ねる。
「妾の魅了の力が効かないとなるとエイルシア王国の出身か?罰を与えることは考えておらぬ。たんなる興味じゃ。答えてもらおう。どうやってメイドを探し出したのじゃ?」
「僕はこの国出身ですし、女王陛下が幼い頃より存じてます。会ったこともあります。覚えていらっしゃらないとは思いますがね。メイドを特定するなんて簡単なことですよ」
エリックは柔らかく微笑む。その微笑みで何人の女性を虜にしてきたのか。うちの娘のクロエなんて『真面目なトラスより笑ってかわして本心を見せないエリックの方が苦手よ』と言っていた。
「女性というのは噂話が大好きなんですよ。ちょっと仲良くなれば同僚やその友人、はたまた家族に近寄れる。そこのメイドのことはメイド仲間の中で噂になっていたので、簡単にわかりました。『女王陛下から特別の給金をもらった。国外でしばらく遊んでくる』そんなことを他のメイドに言ってジャラジャラと金をみせびらかせば、ねたまれるのは間違いないですよ」
女装して他のメイドに近寄り、殺されたふりしたメイドのメイド仲間たちから話を聞き出して……そして居所を突き止めたということね。
嫌がっていた割に女装が役だっているじゃないの。
「その人ひどいんです!愛を囁き、彼氏になってくれて将来も約束してくれたと思ったら、人の弱味をにぎって脅し、女王陛下の前に連れて来られたんです!詐欺師で悪魔のようです!」
エリック……と私とアナベルに半眼になった視線を送られるが、そんなもんですよと飄々としている。
「こういうのは僕向きだってわかってて、リアン様も頼んでるでしょう?同罪ですよ。女装しろってネタじゃないんですよね?」
「半分はネタよ」
ええっ!そんなっ!とエリックが非難の声をあげる。
「この国出身ならば、妾の力になぜ魅了されない?シェザル王国の者には、妾の力がよく効く」
「なぜでしょうねぇ?」
ニコニコと笑うエリック。そこにはなにかありそうだが、話さない。
「……まぁ、よいわ。たまにおるのじゃ。そういう体質の者が。それで?リアン王妃は暴いてどうしたいのじゃ?」
「私が無実だと証明されれば、それで十分です」
女王陛下はなにが言いたいか、わかっておるわと苦笑した。私の意図を理解したらしい。
「こちらの都合で、罪を被せることになり申し訳なかったと謝ろう。それでよいか?」
「ありがとうございます。これからの私の外交にもかかわりますもの。エイルシア王妃が『他国で殺人をした王妃』なんて警戒されます。私は『怠惰な王妃』で十分なのです」
ずっと暗い顔をしていた女王陛下は私の冗談にフフフと初めて心から笑った。春に初めて咲く花のような瑞々しく、可憐な笑顔。それは一瞬ではあったが、私は無意識にじっと見つめていた。危うく魅了されかけた。『女王陛下』という役目がなければそれが本当の姿だったのかもしれない。
隣を見るとエリックが驚いた顔をしていた。
「リアン様のおかげで、この国で一番見たいと思っていたものを見れましたよ。二度と見れないものだと思っていました。ありがとうございます」
彼はそう言ったのだった。
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