ただ儚く君を想う 壱

桜樹璃音

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第7章 居場所

第11話

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「っ……あの…り、璃桜……? そろそろ、ちょ、…俺、やばい………」

「…………え?」


思いもよらない言葉に、ようやく平ちゃんの顔をしっかりと見れば。


「………見んじゃねーよ………」


その頬は、真っ赤に染まっていて。


「……ゆでだこ?」

「……だああああああ! うっせー!!」


恥ずかしそうに、頬を染める平ちゃんの様子を見たら、今までの湿った空気などどこかへ飛ばしてしまうように、思わず口から笑いが零れた。


「璃桜! 絶対誰にも言うんじゃないぞ!!!」

「………っ、ふ」

「おい璃桜!! まじで言うなよ!?」

「言わない言わない」


笑い声が、弾ける。


「そうだよ、璃桜」

「?」


疑問を感じて首を傾げれば、にまーっと口角を上げて。


「いいこと教えてやるよ」

「……え?」

「いいから、そのまま聞けよ? あのな、」


そう言って、彼は言葉を落とす。


「世の中には、逃げたいことも、やりたくないことも、沢山ある。俺なんかは馬鹿だから、いつも真正面からぶつかって、失敗することだってたくさんある。けどな?」

「うん……?」

「人間、みんなそうやって生きてる。近藤さんも、土方さんも、総司も。誰だって、今ある段階に応じた壁を乗り越えて、大きくなるんじゃねーのかな?」


だから。
焦るよりも。


「毎日を、笑って過ごしていこうぜ?」


満面の笑みで、澄んだ瞳で。
私に、勇気をくれた。

そう。
何もかも、忘れたわけじゃない。

問題は、たくさん残ってる。

そうちゃんの事、未来の事、この先の私の立ち位置、歴史との関連、
………………歳三への想い。


けれど。
平ちゃんの言葉で、漸く気付いたの。


見ないふりをしていたって、いつかは直面しなきゃいけないこと。

逃げていたって、完全に消えてなくなるわけじゃないってこと。

だったら、ゆっくり一つずつ解決していけばいい。

楽しく、笑って毎日過ごして。
そんな風にしていれば、おのずと解決されることだってあるはず。

そう、思うことが出来た。


「平ちゃん」

「ん?」


ごめんなさい、なんて後ろ向きの言葉ではなく。


「ありがとう!」


感謝の気持ちを届けたい。

やさしい貴方と出会うことが出来て本当に良かった。

恋心ではないけれど、この言葉を使うことは許されるだろうか。


「平ちゃん、………………だいすき!!」


その台詞に、大きく頷いた貴方は。


「おう! いつでも俺のとこきていいからな!!」


ぐっと拳を前にだし、歯を見せて笑いあったとき。


「………………うっひょ~平助のやつが鼻血だしてたおれるぜ~」

「……!!!!」


その声に、後ろを振り返れば、にやにやと此方を見つめる左之さんと新八さん。


「…………!」


吃驚しすぎて声すら出ないようで、平ちゃんはぱくぱくと口を開け閉めしている。


「いやー。これで平助も卒業だわー」

「そつ、ぎょう……?」

「あー、璃桜さんは気にすんなよ」

「ばっ………ばかやろぉぉぉぉ!!!」


瞬間再度ゆでだこになって左之さんを追いかけまわす平ちゃん。

楽しい毎日を、精一杯。
生きて生きて生きて。

生きて、みせる。
縁側から覗く青い空に、そう、誓った。



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