唐紅の華びら

桜樹璃音

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を 認め合うことができない

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時代に抱えられた破滅の時計は、俺の事を揶揄うように、その針を進めていく。

そして、ついに。その時計は、鐘の音を鳴らす。


昼餉の後に、一服しようと思って、椅子から立ち上がった時だった。
伊藤が俺に向かって、凄い形相で俺に向かって走ってきた。


俺の姿を見たら、泣きそうな表情になって。
俺の胸倉をぐっと握りしめるように掴む。その手が、小刻みに震えていた。


何があったのかと、緊張が走る。
幕府軍か?長州内部か?派閥の均衡が壊れたのか?


いろんな起こってほしくない出来事が、脳裏に浮かんでは消えていく。
だけど、伊藤の口からは――俺の頭に浮かぶ予想を、遥かに超えた言葉が、聞こえた。



「高杉さん……瑠衣さんが、間者、だと」

「は?」


伊藤の言葉に、耳を疑った。


「も一回」

「瑠衣さんは、間者です」

「嘘、だろ?」


瑠衣が?間者?
あの純真無垢なやろうが、間者だと………!?


「これを」


伊藤から手渡されたのは、幕府側の間者の情報。

それに載っている、風貌は―――蒼瞳、長い金髪の、白人女性。


「る、い………?」

「そうみたいです」


冷静を装って頷く伊藤俊輔に、堪忍袋の緒が切れた。
その紙をビリビリに破り捨て、だんっ、と力任せに伊藤の胸元を掴みあげる。


「―――――んなわけ、ねぇだろうが!!!!!!」

「たかす、」

「撤回しろ!!!!!」


怒鳴り散らす。
委縮している伊藤など、目にも入らないほどに。


そうでもしていなければ。


心が、壊れてしまう。

何処かで、そうかもしれないと―――そう思っていた自分がいたこと。


瑠衣が来たタイミングで話したことが、幕府側に筒抜けになっていることくらい。
この俺が、分からないはずがないだろう?


だけど、信じきれていない自分が、嫌すぎて。
その事実から、目を背けていた。


裏切られていたなんて、思いたくない。
約束したじゃないか。

俺と、一緒に。
一緒に、世を創るって。


なのに―――如何して。

如何してお前は、この腕から摺り抜けていく?
この手のひらから、零れ落ちていく?


伊藤に縋りつく腕から力が抜けて、その場に崩れ落ちた。



ごほ、ごほごほ。
咳が、溢れて止まらない。


「高杉さん!! 晋作さん!!」


伊藤の声が、遠くなる。

そのまま闇に、落ちていった。





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