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屋敷探索
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しばらくは大事をとって休んでいたものの、数時間もするうちに恵菜の調子は戻ってきた。あれに似ている、突然標高の高いところに行くと、酸素の薄さに体調が悪くなる、あの感じ。思えば体は昔から割と丈夫だったので、もうすっかり大丈夫そうだ。そう言えば薫瑛は「それは良きことです、きっと健やかな御子が生まれることでしょう」と臆面もなく笑いかけてきたため、また場が妙な気まずさに襲われた。隣にいたヨミまで戸惑った様子で、その涼しげな美貌を羞恥に染めている。むしろその可愛らしい反応はこっちがするべきなのでは?という気持ちにまでなってきた。
「夕餉の時間までまだありますので、よければ屋敷の中をご案内いたしましょう。」
特にやることもなく暇だからと、恵菜は薫瑛の誘いに乗ることにした。てっきりヨミは仕事に戻るのかと思ったが、屋敷探索に同行したいと言い張ったため、結局三人で巡ることになる。ヨミはぴったりと恵菜に寄り添い、歩くペースも合わせてくれた。あんまり距離が近いものだから、なんだかそわそわとしてしまう恵菜を見て、やんわりと主人を諌めつつ薫瑛が説明を始めた。
「先ほどと重複しますが、エナ様が儀式で召喚された部屋がある建物、あれは冥綰殿(めいわんでん)。儀式や祭礼、執務の際に使われる、いわゆる王の仕事場です。そして今いらっしゃるここが冥燐殿(めいりんでん)。王やその身内、そして僕のような近しい部下の生活空間と言うと分かりやすいでしょうか。王や王妃の寝室に、食事をとる大広間、衣装部屋……そして厨や湯殿もあります。順に回っていきましょう」
恵菜が寝かされていた部屋は、どうやら王妃のために用意されている寝室だったらしい。今日からエナ様のお部屋ですと言われたものの、なんだか少し落ち着かない。部屋のセンスはよく、色味は抑えてあるものの、漆塗りの箪笥や立てられた屏風に、ところどころ施されている装飾は可愛らしかった。部屋の片隅には可憐な花も活けられている。そして、恵菜にあてがわれた部屋の隣には、障子を隔ててヨミの寝室があるらしかった。
「ねえ、ヨミの部屋って、どんな感じになってるの?間取りとかはこの部屋と一緒?」
「え?ご興味ありますか?よければ中をご覧になってもよいですが」
何の気なく放った言葉だったが、その言葉を聞いた途端に薫瑛の目が嬉しそうに細められ、部屋の主はヨミだというのに勝手にそんなことを言い出した。ヨミはなぜだかその白い頬を上気させて、珍しく早口で畳み掛けるように言った。
「なっ……何を言うのだ突然!その……まだ婚礼の儀も終えていないと言うに……いや、その、エナが良いというなら余はいっこうに構わぬ。だがその、あまりに性急というか、いや、大胆なのはそなたの魅力でもあるが……」
「なに、よいではありませんか。エナ様がお望みとあらば男冥利に尽きると言うものでしょう。夕餉の前に呼びにきますので、それまでお部屋でおくつろぎいただいても構いませんが」
「いや、あの、は!?何の話!?」
「奥方が夫の寝室に入る意を示すのは、床入りの合図。夜のお誘いと同義なのです」
「いや知らないし!そんなつもりじゃないから!」
澄ました顔でとんでもないことを言った薫瑛に、恵菜は慌てて否定した。確信犯であったろう薫瑛は「おや……てっきりエナ様も分かっておいでかと」とかのたまうと、心底残念そうにため息をついた。そして、ものすごい勢いで否定されたヨミは安堵したような、だが少し落胆したような顔で小さく吐息を漏らした。
「夕餉の時間までまだありますので、よければ屋敷の中をご案内いたしましょう。」
特にやることもなく暇だからと、恵菜は薫瑛の誘いに乗ることにした。てっきりヨミは仕事に戻るのかと思ったが、屋敷探索に同行したいと言い張ったため、結局三人で巡ることになる。ヨミはぴったりと恵菜に寄り添い、歩くペースも合わせてくれた。あんまり距離が近いものだから、なんだかそわそわとしてしまう恵菜を見て、やんわりと主人を諌めつつ薫瑛が説明を始めた。
「先ほどと重複しますが、エナ様が儀式で召喚された部屋がある建物、あれは冥綰殿(めいわんでん)。儀式や祭礼、執務の際に使われる、いわゆる王の仕事場です。そして今いらっしゃるここが冥燐殿(めいりんでん)。王やその身内、そして僕のような近しい部下の生活空間と言うと分かりやすいでしょうか。王や王妃の寝室に、食事をとる大広間、衣装部屋……そして厨や湯殿もあります。順に回っていきましょう」
恵菜が寝かされていた部屋は、どうやら王妃のために用意されている寝室だったらしい。今日からエナ様のお部屋ですと言われたものの、なんだか少し落ち着かない。部屋のセンスはよく、色味は抑えてあるものの、漆塗りの箪笥や立てられた屏風に、ところどころ施されている装飾は可愛らしかった。部屋の片隅には可憐な花も活けられている。そして、恵菜にあてがわれた部屋の隣には、障子を隔ててヨミの寝室があるらしかった。
「ねえ、ヨミの部屋って、どんな感じになってるの?間取りとかはこの部屋と一緒?」
「え?ご興味ありますか?よければ中をご覧になってもよいですが」
何の気なく放った言葉だったが、その言葉を聞いた途端に薫瑛の目が嬉しそうに細められ、部屋の主はヨミだというのに勝手にそんなことを言い出した。ヨミはなぜだかその白い頬を上気させて、珍しく早口で畳み掛けるように言った。
「なっ……何を言うのだ突然!その……まだ婚礼の儀も終えていないと言うに……いや、その、エナが良いというなら余はいっこうに構わぬ。だがその、あまりに性急というか、いや、大胆なのはそなたの魅力でもあるが……」
「なに、よいではありませんか。エナ様がお望みとあらば男冥利に尽きると言うものでしょう。夕餉の前に呼びにきますので、それまでお部屋でおくつろぎいただいても構いませんが」
「いや、あの、は!?何の話!?」
「奥方が夫の寝室に入る意を示すのは、床入りの合図。夜のお誘いと同義なのです」
「いや知らないし!そんなつもりじゃないから!」
澄ました顔でとんでもないことを言った薫瑛に、恵菜は慌てて否定した。確信犯であったろう薫瑛は「おや……てっきりエナ様も分かっておいでかと」とかのたまうと、心底残念そうにため息をついた。そして、ものすごい勢いで否定されたヨミは安堵したような、だが少し落胆したような顔で小さく吐息を漏らした。
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