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第一章 花嫁試験編

アレいつ講座 トレーノス戦記

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※ アレいつ講座は本作品の世界設定を紹介するコーナーです。読み飛ばして頂いても本編には影響しませんが、目を通して頂くとより本編の理解が深まるかと思います。

「アレいつ講座、第二回ですわ~!」

「前回に引き続いて講師はわたくしアレクサンドラ、生徒はカヴァスとキャスですわよ」
「今日はトレーノス戦記について解説します」
「お嬢様が大好きな本ですね!」
 
「トレーノス戦記の前に、王国の歴史について説明するわね。魔族の歴史は創世記、戦乱期、王国期の3つに分けられます」
「創世記は魔神がこの世を作り、魔族を生み出したと言われる、言わば神話の時代。
 戦乱期は魔神が去った後、魔族たちが勢力争いを行った時代。
 王国期は初代魔王が魔族を平定し、フォルトリア王国を設立して以降の時代よ」
 
「現在、暦は王国暦が使用されているのは知っているわね」
「はい、今は王国暦2951年ですよね」
「初代魔王による魔族統一をゼロ年プリモダルとし、ゼロ年より前を元始前、以降を元始後と呼びます」
 
「トレーノス戦記は、歴史家コラント・バロニエがこの魔族統一の歴史を描いた軍記物語よ。
 初代魔王が立志する元始前500年から、二代魔王がフォルトリア王国の礎を築く元始後200年辺りまでを対象とした、長大な小説なの。魔族なら、トレーノス戦記の名を知らないものはいないでしょうね」
「確か、三十巻あるのですよね。僕なら読むだけで半年はかかってしまいそうです」
「それは時間がかかりすぎじゃないかしら……」

 


「その後、トレーノス戦記を原典として、様々な派生作品が生まれたわ。それぞれ作者の名前を取って〇〇版、と呼ばれています。全部は説明しきれないので代表的なものだけ挙げるわね」
 
「ディディエ版。小説家ディディエ・クルナンが王国暦1100年前後に執筆したもので、初版を分かりやすい文体で書き直してあるの。この版のおかげで、魔族中にトレーノス戦記が広まったと言われているわ」

「リュディガー版。歴史家リュディガー・クラッセが王国暦1500年前後に執筆したもの。歴史研究の成果を反映し、より史実に則った内容になっているため研究者の間では評価が高いわ。でも、一般人には少し敷居が高いかもしれないわね」
 
「サミュエル版。小説家サミュエル・アルノーが王国暦2000年頃に執筆したもの。架空の人物や出来事が多数含まれていて、一番創作色が強い作品よ。その高い抒情性から最も人気が高く、劇や絵画の題材になることも多いわ。現代の魔族が初めて接するトレーノス戦記は、ほとんどこの版なのじゃないかしらね」
 
「キアーラ版。女性歴史家、キアーラ・トレッティが王国暦2400年頃に執筆したもの。初代王妃を主軸とし、女性視点で書かれている異色作よ。女性人気が高い版ね」
 
「ヴァレリー版。現代の人気作家、ヴァレリー・オドランの作品。現在執筆中で十巻まで出ているわ」

「……このくらいかしらね」
「私は、カンペも見ずにこの内容を話せるお嬢様に驚きました」
トレーノス戦記マニアトレノサ―ならこのくらい余裕ですわよ。長くなりましたわね。今日の解説はこれくらいにしましょうか」

「ありがとうございました」
「それでは、また次回のアレいつ講座でお会いしましょう~」
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