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第一章 花嫁試験編

15. ローブ・コンクール(girl's side)(2)

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「それにしても、何なんだろうなこの試験」

 フェリーチェがサンドイッチをほおばりながら喋った。食べながら話すなんてはしたない、とヴァネッサが小言を言うが、フェリーチェは気にせず話し続ける。

「女官長はセンスを問う試験だから、衣装の豪華さは関係ないとか言ってたけどさ。結局実家が金持ちだと有利じゃないか?」
「そうでしょうか。私のように自前で準備できない家は論外としても、皆様はご自分でドレスを選ばれたのでしょう?」
「センスってさ、小さい頃からどんだけ良質な美に触れてきたかによると思うんだよ。勿論生まれ持った才能もあるだろうけどさ。それにアレクくらいの金持ちなら、デザイナーにアクセサリーから何から一式揃えさせることも可能だろ?」

 フェリーチェの経験に基づく持論には、アレクサンドラも同意する。

「正論ですわね。私は幼い頃から高位の貴族に嫁ぐべく、教育を受けています。美術や音楽、衣装についても常にハイレベルなものに触れて眼を肥やしてきた……。高位貴族の令嬢は大抵そうでしょうね」
「そもそもスタートラインから違ってるってわけだ。こんなの、出来レースみたいなもんじゃねえか」

 確かにそうだ。美的感覚に限らず座学や魔術、剣術についても同じこと。家の金と権力をフルに生かして幼い頃から優秀な家庭教師をつけられた娘が、花嫁試験で高得点を取るのは当然なのだ。
 それならば最初から試験など行わず、公爵家や侯爵家の令嬢を幾人か選び、見合いをすれば済む話である。そもそもこの試験の意味は何なのか……。

「ハナから王妃になるつもりのないアタシには関係ないけどな」
「フェリ様はデザイナーになるご予定ですもんねえ」
「そういうディアはどうなんですの?」
「私が王妃なんておこがましいです。それより、この機会に城勤めが出来れば良いと思ってるんです」
「城勤め?女官とか、官僚とかですの?」

 意外過ぎて、アレクサンドラは思わず聞き返してしまった。
 
「城勤めは給料が高いと聞きます。実家はいつも資金繰りが苦しいので、少しは足しになるかと」
「ご苦労なさっているのですね」
「ディアは座学の成績がいいから、なれるんじゃないか?」
 
 ディアナがそんな事情を抱えているとは思わなかった。しかし、座学が優秀とは言え、この弱気な娘に女官や官僚が務まるのかは謎である。

「アレクは王妃を目指しているんだよな?」
「ええ、勿論」
「アタシから見たら、王様の嫁なんて面倒なだけだと思うけど」
「貴族女性の最高位ですもの。侯爵家の娘として、目指すのは当然ですわ」
「……領主様くらいの家柄になると大変だな」

 そうだ。この試験の意味など関係ない。自分は、完璧な淑女となって王妃を目指すだけだ。
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